精霊世界フィフレ 1
森と言って良いのだろうか?木が地から生えて、何も無い中空からも生えている光景を…、いや、生えているというか漂っている?木だけでは無い、花もそれこそ根こそぎで飛んでいる。
イルサやルクはこの不可思議な光景を早くも受け入れてはしゃいでいるが、植物がウジャウジャした根っこを露にして空に浮かんでいる事に、本当に美を感じられるのか?
「フィフレは主に僕らシャプトと同じの魔力構成体が住む世界だから、この植物も空気中の魔素を取り込み易く進化したのかも知れない」
「確かに魔力で一杯だぁ。生命体しか魔力を持たない私達の世界とは違うねぇ~?」
クレサイダの仮説をルクが賛同の意を示す。…待てよ、俺に嫌な予感がする。
「ルク、周囲が魔力に満ちていると言うことは」
「全然ダメだねぇ~。クレちゃんほどの魔力でも沢山在りすぎてカイムや欠片の場所なんて全然区別が付かないよぉ~」
「ルク君、クーレに帰れよ」
俺もクレサイダの意見に両手を上げて大賛成だ。
しかし、少しは頼りにしていたルクの能力が役に立たないとなるとこの広大であろう世界を闇雲に探索するしかない。強いて言えば、俺たちは迷子だ。
「イルちゃーん、クレちゃんが苛めるよ~」
「クレサイダ、ルクちゃんを苛めちゃダメだよ」
本当にこの二人は仲睦まじくなったな。少し羨ましい気がしないでは無いが、こちらは男同士仲良くやることにしよう。
「クレサイダ、どうするんだ?このまま立ち往生してても意味が無いぞ」
「人頼りじゃなくて少しは自分で考えなよ。僕は万能じゃないんだよ」
冷徹な言葉が俺に投げ掛けられた。俺はこいつと仲良くはなれないようだな。
「とにかく、この世界の住人を探すことにしよう。情報を集めねば動きようが無い」
俺の自分の頭で考えた結論にクレサイダは、まぁ妥当だねと生意気な返事を返した。…イルサとルクはしゃがみ込んで何をしてるんだ。イルサとルクの見つめる先には緑のシルクハットを被る栗鼠がいた。
その栗鼠に話し掛けている二人。クーレでは異様過ぎる光景だ。
「私はクーレから来たんだぁ。こっちのイルちゃんはヘブヘルだよ~」
「そうなのか、翼のお嬢ちゃんはヘブヘルから来て、そちらの翼無しのお嬢ちゃんはクーレから来たのかい。それはまた珍しい」
「うん、栗鼠さんが喋るのもヘブヘルでは珍しいよ!」
栗鼠と平然とお喋りしてるお前らは珍しいぞ。
「いや、おじさんはリスとか言う生物じゃないからね。樹を司る偉大なる精霊セルツテインだからね」
「ウワァ、凄いですね~!セルツさんって呼んで良いですかぁ?」
「あぁ、好きに呼んでくれたまえ!」
喋る栗鼠を不信を持たずにおだてるルクやイルサの順応力を素直に誉めるべきだろうか。まぁ、今回はお手柄だろうな。害は無さそうであるし、俺もお話に参加させて頂こう。
「セルツさん、一つお尋ねして宜しいでしょうか?」
「…チッ」
おい、この栗鼠、舌打ちしやがったぞ。俺はフィフレ流の礼儀でも違反したのか?
「何だ、小僧。馴れ馴れしいぞ」
栗鼠公め、誰が小僧だ!
いかんな、落ち着こう。栗鼠相手に怒ってどうする。
「リセ君、いきなり話に入ってきて質問は失礼だよー。セルツさん、私たちとぉ~っても困ってるんだぁ。いろいろと教えてくれないですかぁ?」
「あぁ、良いとも。おじさんに何でも聞きなさい」
俺とルクへのおじさんの対応が違うんじゃないのか。ルクに礼儀を問われることになるとは心外極まり無いが、この栗鼠公の相手はルクとイルサに任せた方が良さそうだな。ルクが俺たちの目的の概要を口を挟まないように堪えて待つ。ルクの話す曲がりに曲がった事情を訂正したくてしようが無い。クレサイダさえも耐えている。俺も耐えるんだ。
「なるほどね。ルク嬢とイルサ嬢は、その大悪党たちを倒すためにそこの下僕達と旅をしていると。いやぁ~、お二人は立派だなぁ」
「クレサイダは下僕じゃないよ。とっても優秀な配下だよ。リセスは私の友達なんだよ」
「姫、このクレサイダを…光栄の極みです」
イルサ、訂正ありがとよ。しかしクレサイダ、それで良いのか?俺には下僕も配下も同じに感じるぞ。
「それでぇセルツさん、フィフレの欠片が何処に在るか知ってますか。これと似ている筈なんですけどぉ?」
ルクがセルツにクーレの世界の欠片を見せる。栗鼠公はその赤い結晶片に興味を持ち小さき手で触れる。俺も少し触ってみたいと思った矢先だった。
「気軽に触るな!」
クレサイダが急に怒鳴ったことによりクレサイダの顔を見てしまう。俺の視界から外れたセルツに異変が起こっていた。
「セルツさん!」
イルサの悲鳴に近い声。
セルツは頭を押さえ込んで腹這いに横たわっていた。
フィフレ編スタート。
新たな登場栗鼠セルツテインはどうなってしまうやら。
また、色濃いキャラを書いてしまった。このキャラを生かせるかどうかは作者次第ですね。




