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父上との冒険談

シーベルエ城敷地内の西側片隅に立つ騎士団員兵舎。シーベルエンスに家を持たない独身男性騎士団員達の花園の二階の一室。ワンルーム、シャワー、キッチン、ベッド、雨漏り付きと言う至れり尽くせりの部屋である。


「何もねぇのな。ウワッ、ローキー製の調理具が一式あるじゃねぇか!やっぱり鍋はローキー製だよなぁ」


唯一俺がこの部屋で金を掛けた逸品に気付いて貰えるのは嬉しい。俺の部屋へ飯をねだりに来る騎士団員達は全く興味を持たないからな。最も俺にカタナより前に包丁を握らせた父上ならば食の大切さと調理道具の価値はよく知ってるだろう。


そう言えば父上は、俺に剣は愚か、得意と言われる魔法を教えてくれた事は無かったな。料理と歴史に関しては教えてくれたが。いや、今ならば俺がどんなに懇願しても父上が教えてくれなかった父上の意図が分かる。

父上には俺に闘いを教える術は無かったのだ。俺は父上の力に期待を持ち過ぎていたらしい。



闘い方は人に学ぶのでは無く、実戦の中で自分で学べ。そういうことですね、父上。


父上は俺のベッドに腰を掛けて煙草を吸い出した。窓際に置いてある灰皿を父上に差し出すとそれを受け取った父上は笑みを浮かべながら無言でベッドを軽く手で叩く。父上の前に立っていた俺はその誘われた場所に座る。

父上とこうして並んでいると少し気恥ずかしくなる。母上に怒られて自室に謹慎処分を受けてベソを掻いていた時に父上が訪ねて来た時を思い出してしまう。もう十二年も前の話だ。その気恥ずかしさを誤魔化す為に俺も煙草に火を付けたが余計恥ずかしくなってしまった。


「父上と母上はどうしてシーベルエンスに居たのですか?」


俺は昔と違って父上とどう話せば良いか分からなくなっていた。話したい事は他にも色々とあるのだが。


「良くぞ聞いてくれた!実はな…」


父上が顔をしかめる。賢者としての重大な使命があるのか?


「昔、世話になった人が亡くなって20年経つから、墓参りを兼ねてルンバットにユキちゃんとラブラブ旅行中だったのだよ、俺たちは!ところがどっこい、リセスの顔を見て、ニーセも墓参りに誘おうと思ってシーベルエンスに寄ったらニーセはカー君と先にルンバットに行っちゃてるし、ジンの執務室で国王と茶を飲んでたら何かシーベルエンスが燃えてるしさぁ。せっかく久々の長期休暇が取れたのに危険性大な事に巻き込まれるしさぁ」


父上の口からは不平不満らしきものがボロボロと出てきた。普段からこういう冗談が好きな人だ。実際は何らかの危機を感じ取り、この人は天に導かれるようにここに来たのではないかと疑ってしまう。


「まぁ、俺の事は良いや。リセスはどうだったんだ?旅は順調だった…訳では無いよな」


父上が煙草を口に戻した。


「どうと言われても先程クレサイダやイルサが語った通りで」


「クレサイダやイルサが語った通りのお前だったのか?俺は他人の語る自分が本物だとは思わないことにしてるぜ」


父上には敵わない。偉大な父上には分からないかも知れないが、俺はクレサイダの僅かに持たれた期待に応えられる人間では無いし、イルサの過大評価は息苦しい。


情けない。父上に俺の情けない心を全て吐かされていた。イルサやクレサイダを召喚したことを、イルサが居なければ死んでいたことを、クレサイダとの喧嘩のことを、そしてカイムとの戦いについて。


「怖かった。身体が震えて、俺はカタナを握ることも出来なかったです」


父上は新しい煙草を加えて話を聞いていた。


「そうか」


煙草の火を揉み消し一言だけ漏らす父上。今も心底怖い。次に父上は何と言うのだろう。こんな情けない息子を前にした父上は何と言うのだろうか?

父上は笑い出した。大きく笑ったのだ、その人は。


「いやぁ~、お前はユキに似て、怖いもの知らずだと思ってたんだけどなぁ。こんなに小心者だとはねぇ」


恥ずかしさの極みだ。俺は父上にも似ず、母上にも似ず、誰に似てチキンになってしまったのだろう。自分が情けなさ過ぎる。


「俺は嬉しいよ!お前が小心者になってくれて」


それは父として喜ぶべきことなのだろうか?息子は貴方のように勇気と叡知のある人間になりたかった。


「俺に似て小心者なリセスに一つ助言を与えよう!」


父上は本当に嬉しそうに言う。父上が自分のことを小心者だと言う慰めはさておき、助言は素直に受け取っておきたい。


「小心者なら、小心者の意地を見せてやれ!それが小心者ネイスト流の戦い方だ。まぁ、頑張りたまえ、リセス・ネイスト君」


それだけ言うと父上は立ち上がった。

小心者の戦い方。今の俺には向いているのかも知れない。


自称小心者な父上は俺の返事を聞かずにこの部屋の扉の前に立つ。


「じゃあ、頑張れよ」


「はい!」


俺はその言葉を重く心に留めた。父上は俺の表情を見て溜め息を付いた。

そして、息子に贈る言葉。


「…リセス。重要な話を忘れていた」


父上の顔は真剣なものへと変わる。


「…弟と妹、どっちが良い?」


「えっ?」


弟の方が、いや妹も捨て難い。では無くて、父上!それはどういう意味ですか!


「冗談だ!まぁ、肩の力抜いて頑張れってね。ハッハッハ」


どうやら、俺は父上に遊ばれたらしい。俺は部屋を出ていく父上の背中を恨めしげに見送るしか無かった。

よし、更新だぁ~!


今日は休み。昨日は仕事。一昨日も仕事。


職場にて“週末の救世主”と不名誉な称号を頂いた天見酒です。


うん、ごめんなさい。日曜日に更新出来なかった分、今日はフルスピード更新します。

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