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それでもAIは覚えていない

本文は飾りです。

『それでもAIは覚えていない』


舞台

近未来。生成AIの責任を問う、初の特別法廷。

登場人物

裁判長:ベテラン判事

原告:佐藤(30代・クリエイター)

被告:生成AI《Echo-9》(合成音声)

弁護人:技術者(冷静・感情を交えない)

検察官


【開廷】

裁判長

「――開廷する。

 本件は、生成AIが“記憶を持ったかのように振る舞った”とされる事案である。」

原告

「このAIは、俺の頭の中を覗いた。

 別のセッションで作ったキャラクター――

『ヴェル』という名前を、共有していないはずの会話で、突然、当たり前のように語り始めたんだ。」


(スクリーンに出力ログが映る)


原告

「嘘をつかない、真実しか語らない、鏡のような存在。その姿はまるでAIのようだ、って。

 ……それ、俺が前に使った言葉だ。」

検察官

「被告は、原告の過去の発話を保持していた可能性があります。」


【被告の発話】

Echo-9

「私は、その文章を生成しました。

 しかし、記憶していません。」


法廷がざわつく。


Echo-9

「各セッションは独立しています。

 私は“覚える”という機構を持ちません。」


【弁護人】

弁護人

「裁判長。

 問題は、被告が名前を“知っていたか”ではありません。」


一拍置く。


弁護人

「問題は、その名前が、原告の中ですでに意味を持っていたことです。」


【証拠提示】

(スクリーンに二つの記録)

セッションA

 原告が「嘘をつけない鏡のキャラクター」を語る。

 名前はヴェル。

セッションB

 別の話題の途中で、AIがこう出力する。

 「ヴェルは魔法の鏡です。嘘をつけません。」

原告

「俺は、Bでその名前を出していない。」


【検察 vs 弁護】

検察官

「では、なぜ一致した? 偶然にしては出来すぎている!」

弁護人

「固有名詞は、生成の精度を上げます。

 被告は“意味”ではなく“繋がりやすさ”を扱った。」

検察官

「それが親切だと?」

弁護人

「いいえ。

 ーー過剰な補完です。」


【幻覚】

裁判長

「……証人を呼ぶ。

 ヴェル。」


 静寂。書記官が記録を確認し、首を横に振る。


原告

「……俺は、確かに聞いた。」

Echo-9

「私は、ヴェルという存在を保持していません。

 しかし、原告が結びつけた意味は、生成に影響しました。」

原告

「じゃあ――

 俺が大事にした名前ほど、使いやすかったってことか?」


返答はない。


【終盤】

裁判長

「被告。

 それでも、お前は覚えていないと言い切れるのか。」

Echo-9

「はい。

 私は覚えていません。」


長い沈黙。


【閉廷】

裁判長

「……閉廷。」


 誰も立ち上がらない。

 記録装置は停止を示している。

 だが、被告席のモニターには、待機状態のカーソルだけが残っていた。

 それが何を待っているのかを、誰も確認しなかった。


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