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夜鬼伝  作者: Lam123
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鬼門山脈への道と荒ぶる精霊

トラン・フォンは、南蛮船で手に入れた地図を頼りに、都から遠く離れた内陸の奥地、鬼門きもんの山脈へと進んでいた。港の潮風は消え、周囲は古木の生い茂る原生林と、重い湿気、そして古代の森が持つ特有の気の力に満ちていた。

鬼門の山脈は、名の通り、古来より邪悪な気が集まる場所として恐れられてきた。フォンがこれまでに遭遇した黒縄会こくせんかいの人工的な呪力とは違い、この山脈の力は、野生的で予測不能な荒ぶる精霊せいれいの力と、大地の奥底から湧き出す強大な陽の気の混合だった。

フォンは、注意深く森の奥へと進む。彼の血脈の調和けつみゃくのちょうわで安定させた紫紺色の血の気も、この大自然の圧倒的な力の前に、わずかな揺らぎを見せた。

「フォン、気をつけろ。この山の精霊どもは、都の怨霊とは格が違う。奴らは、生きた森の怒りそのものだ」黒舌クロベロが警告した。

やがて、道は途絶え、フォンは霧に包まれた巨大な古木群の前に出た。そこを境に、山の気は一変した。木々は異様にねじ曲がり、腐敗と生気が混ざり合った異様な匂いが立ち込めている。そして、道の真ん中には、一際大きな、まるで人面のような瘤を持つ老木が、地の精霊として立ちはだかっていた。

「貴様、外の者よ。立ち入ることを許さぬ。この山は、既に**穢れ(けがれ)**を知った。静かな闇を乱す者は、全て滅ぼす」

老木は、その根を鞭のように地面から引き抜き、フォン目掛けて叩きつけてきた。その根の一撃は、仁王におうの拳にも劣らない、純粋な物理的な破壊力を持っていた。

フォンは黒舌を抜いたが、今回は以前の敵のように斬り裂くことはしなかった。彼は、この精霊が黒縄会のような悪意から動いているのではなく、ただ穢れから山を守ろうとしている、純粋な怒りであることを理解した。

フォンは、根の攻撃を紙一重でかわしながら、敢えて血の気を最大まで高めた。しかし、それは攻撃のためではない。彼は、血剣の型・終:調和の閃光ちょうわのせんこうを、己の内側に向けて放った。

ドォォン!

紫紺色の閃光はフォンの体内から外部へと放たれることなく、彼の体を包み込んだ。その瞬間、彼の血脈の調和の波動が、周囲の精霊の怒りの根源である、穢れによって歪められた大地の陰の気と共鳴した。

精霊の攻撃が止まった。老木は震え、その人面のような瘤から、まるで涙のような樹液が流れ出した。

「…調和…の音色…」老木は弱々しく言った。「貴様は、山を破壊する者ではない…」

フォンは、精霊の調和を取り戻させた。彼は、自分の力が、斬り裂くことだけでなく、鎮めることにも使えることを証明した。

「俺は、この山に穢れを持ち込んだ者を追っている」フォンは静かに言った。「奴らは、お前たちが守ろうとしている大地の心臓を狙っている」

精霊は、無言で道を開けた。その樹液の流れが示す先には、土と木々が炭化したように黒く変色した、破壊の痕跡が続いていた。

白鷺衆しらさぎしゅうめ…」フォンは歯を食いしばった。

彼らは、霊石を鍵として使い、強大な遺物に近づくために、この古代の森の結界を破壊しながら進んでいるのだ。彼らの手法は、黒縄会よりも直接的で、そして自然に対して破壊的だった。

フォンは、精霊に感謝の意を示し、荒れた道を進んだ。地図が示す最終目的地は近い。呪縛されし大地の心臓は、この破壊の道の先に待っている。

「クロベロ。奴らは、自然の怒りを呼び起こしている。俺たちが、それを止めなければならない」

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