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夜鬼伝  作者: Lam123
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南蛮船の潜入と異国の仕掛け

トラン・フォンは夜の闇に紛れ、港の最奥に停泊している巨大な南蛮船なんばんせんへと忍び込んだ。船体は、日本の木造船とは異なる分厚い木材と真鍮しんちゅうの装飾で覆われ、異国の香辛料と火薬の匂いが潮風に混じっている。船内は迷路のように複雑で、閉鎖的な空間はフォンの紫紺色の血の気をわずかに乱した。

フォンは、**日傘の結界ひがさのけっかい**の力を内側に集中させ、機械的な防御を潜り抜けた。黒縄会こくせんかいが呪符と術者で守っていたのに対し、白鷺衆しらさぎしゅうの船は、鋭い感知器と、巧妙なワイヤートラップが主だった。

船倉の最深部、異様な熱を発する機関室の手前で、フォンは待ち構えていた男と遭遇した。彼は筋骨隆々とした体躯で、分厚い革の作業着を纏い、片手に異国の大型拳銃を構えている。機関長、ゴウだ。

「まさか、ここまで来るとはな、夜鬼。お前のような野蛮な剣士に、我々の仕掛けは破れまい」ゴウは、低く唸るような声で言った。

ゴウは躊躇なく引き金を引いた。フォンは、銃声が響くコンマの瞬間に、**血剣の型・穏:清浄セイジョウ**の制御された力で、船体の鉄板を蹴り、弾丸の軌道を紙一重で避けた。船内の狭い通路では、銃器の威力は増すが、フォンの回避能力もまた、極限まで高まる。

フォンは機関室のパイプやバルブの陰を利用し、ゴウの視野から一瞬で消えた。ゴウが戸惑った瞬間、フォンはゴウの背後に回り込み、黒舌クロベロをゴウの右肩にある銃の照準を合わせた。

「…遅い」

一閃。

ゴウの肩の筋肉は斬り裂かれたが、骨には達していない。しかし、その痛みでゴウは銃を取り落とした。フォンは、命を奪う代わりに、敵の戦闘能力だけを奪う**「清浄」**の精度を維持した。

ゴウが倒れ込むのを確認し、フォンは機関室の奥へと進んだ。そこには、盗まれた霊石れいせきがあった。

霊石は、船室の中央に設置された、複雑な真鍮製の巨大な起動装置に、既に組み込まれていた。装置の表面には、異国の天文図のような模様が刻まれ、組み込まれた霊石は激しく光を放っている。

「これが…霊石の真の用途か」フォンは息を呑んだ。

装置の横には、羊皮紙で作られた、この国の地図が広げられていた。霊石の光は、その地図上の一点、都から遥か離れた、古来より**鬼門きもん**として恐れられる山脈の一角を、明確に示していた。

遺物の真の所在地:呪縛されし大地の心臓—鬼門の奥地。

「奴らの狙いは、霊石そのものではなく、霊石を使って見つけようとした、この国に隠された別の強大な遺物だったのか」

フォンが地図を回収しようとしたその時、背後から馴染み深い、金属の擦れる音が聞こえた。

「相変わらず、汚い真似をするな、夜鬼」

銀色の羽根の飾りをつけた、仮面の女が戻ってきた。彼女の手には、細身の双刃が構えられている。

「貴様!」フォンは地図を掴みながら、女に向き直った。

女は言葉で応じず、霊石が組み込まれた起動装置を、遠隔操作で激しく揺さぶり始めた。装置は安定を失い、船のエンジン室全体が異音を発し始める。

「霊石は諦めろ!貴様の目的は、その地図だろう!」

フォンは一瞬の判断を迫られた。地図(情報)と霊石(鍵)のどちらを選ぶか。

フォンは地図を懐に収めると、黒舌を機関室の要である蒸気パイプに叩きつけた。

**キンッ!**という鋭い音と共に、パイプが破裂し、高圧の蒸気が船室全体に噴き出した。機関室の機能は停止し、船は動けなくなる。

女は、霊石が組み込まれた装置に一瞥もくれず、蒸気と闇の中へと姿を消した。

フォンもまた、混乱する船員や警備員が駆けつける前に、船の側面を飛び降り、冷たい海の中へと潜った。

彼は、新たな遺物の所在地という、決定的な手がかりを手に入れた。彼の次の戦いの舞台は、海から遠く離れた、呪縛されし鬼門の山脈へと移る。

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