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夜鬼伝  作者: Lam123
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都の光と影、紫紺の追跡者

トラン・フォンは深き影の洞窟を後にし、再び都へと向かった。山中の修行を終えた彼の体は、以前よりも軽く、力に満ち溢れている。何よりも、血の気が制御できるという安心感が、彼の心を穏やかにしていた。

都の城下町は、以前にも増して活気に満ちていたが、フォンにとって風景は全く違って見えた。彼は堂々と日中に、雑踏の中を歩く。全身に展開した**日傘の結界ひがさのけっかい**が、陽の光の刺激を和らげ、彼の血の気を安定させている。紫紺色に変化したオーラは、肉眼では捉えられないほど微細だった。

「日の光の下で歩くというのは、悪くないな」フォンは呟いた。

「当然だ。太陽に怯える必要がなくなったのだから」黒舌クロベロも満足げだ。「しかし、この新しい血の気…落ち着きすぎていて、以前のような狂気がなくてつまらんな」

「狂気は不要だ。必要なのは、目標を確実に仕留める力だ」

フォンが都に戻った目的は一つ。**黒縄会こくせんかい**の残党の掃討と、彼らの背後に隠された真の黒幕の特定だ。光悦卿こうえつ月影つきかげは幹部だったに過ぎない。組織はまだ生きている。

彼は以前、光悦卿の私邸で手に入れた帳簿と、巻物の知識を応用した。安定した紫紺色の血の気は、まるで敏感な探知機のように、都中に残る黒縄会の邪気じゃきの残滓を追うことを可能にした。

フォンは、都の西側、裕福な商人の屋敷が並ぶ地区で、特に濃い邪気の反応を捉えた。一見、平和な邸宅だが、その地下からは微かな呪術の波動が漏れ出ている。

「ここか。奴らは、商人の隠れ蓑を使って、まだ何かを企んでいる」

夜になるのを待ち、フォンは屋敷に潜入した。地下室には、二人の黒縄会の術者と、数人の用心棒がいた。彼らは、王城での儀式の失敗に関する機密文書を焼却しようとしている最中だった。

「まさか、貴様が生きているとはな、血剣!」術者の一人がフォンに気づき、慌てて呪文を唱えようとする。

「無駄だ」

フォンはもはや、無駄な動きはしなかった。彼の動きは、精密な機械のように正確だ。彼は、紫紺色の安定した血の気を剣に集中させ、まるで水の流れのように滑らかな**血剣の型・穏:清浄セイジョウ**を発動させた。

一閃。

それは、以前の爆発的な破壊力を持つ煉獄れんごくとは対照的だ。術者たちの詠唱の準備が整う前に、フォンは二人の首筋を正確に斬りつけ、用心棒たちの体勢を崩した。彼の剣筋は速く、そして無駄がない。

術者と用心棒たちは、一瞬で地に伏した。

「早い…早すぎる」黒舌さえも感嘆の声を漏らした。

フォンは倒れた術者の懐から、焼き切れずに残った一枚の羊皮紙を見つけ出した。それは、都を離れた最高幹部への報告書だった。

報告書には、こう記されていた。

*『儀式は失敗。月影総帥は死亡。しかし、**「影の君主かげのくんしゅ」は健在。我々は、都の南の港町、「波止場の隠しはとばのかくしとりで」*にて合流を待ち、新たな計画を開始する』

「影の君主…」フォンは目を細めた。これが、黒縄会の真の指導者か。

そして、波止場の隠し砦。都での掃討は終わった。フォンは再び旅に出る必要がある。海沿いの町、そこで彼は、この血の呪いの全ての元凶と、最終決着をつけることになるだろう。

フォンは、都の闇を抜け、南の海を目指して歩き始めた。彼の心は、以前の復讐心ではなく、使命感に満ちていた。彼の力は、もう狂気に怯えることはない。

夜は終わり、朝が始まる。フォンは、日傘の結界を纏い、太陽の光の中を、影を追う追跡者として歩み続けた。

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