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夜鬼伝  作者: Lam123
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深き影の制御と夜明けの結界

深き影の洞窟で、トラン・フォンは時を忘れ、血の制御術に没頭した。岩盤に刻まれた呪文と、巻物に残された先祖の思念だけが、彼の唯一の道標だった。一週間が過ぎ、二週間が過ぎた。フォンは外界の食欲さえ忘れ、ひたすら内なる戦いに身を投じた。

修行は、地獄だった。

インの気で力を安定させようと試みるたび、体内のヨウの気が制御を拒否し、彼の血管を内側から破裂させようとする。激しい頭痛と吐き気が続き、フォンは何度も意識を失いかけた。彼の肌は血の気の奔流によって、時折、赤く光り、洞窟の壁に血の汗を滲ませた。

「無駄だ!貴様には才能がない!俺の血の契約を破って、この力を捨てろ!」黒舌クロベロは絶叫した。黒舌もまた、フォンの苦痛と力の暴走に共鳴し、その刀身は常に熱を帯びていた。

フォンは、巻物の核心にある言葉を思い出した。「光に惑うことなかれ。全てを分け隔てず、己の器に納めよ」

彼は、力の暴走を止めようとするのではなく、受け入れることを決意した。光悦卿こうえつ月影つきかげが血の力を外部から制御しようとしたのに対し、フォンは自らの呪いと宿命を丸ごと飲み込もうとしたのだ。

フォンは、敢えて洞窟の奥から微かに漏れ入る陽の光に、微量の血の気を晒した。力が爆発する寸前、フォンは氏族の祖が鬼神と契約した際の**悲感ヒカン**を追体験した。それは、破壊ではなく、守護のための絶望的な愛だった。

その瞬間、フォンの体内で、陰と陽の気が共存した。暴走寸前だった赤い血の気が、青と黒の影を纏い、極めて安定した紫紺色のオーラへと変化した。

「…成功した…」黒舌が、信じられないというように呟いた。

フォンは立ち上がった。全身に満ちる力が、以前とは比べ物にならないほど静かで、そして深い。もはや、力を使うたびに狂気に引きずり込まれる恐怖はない。

彼は、巻物の最後の一節に記された、制御の完成形として伝わる術式を試みた。

影織りの術・壱:日傘ひがさの結界。

フォンが指を立てると、紫紺色の血の気が彼の周囲に薄い膜を形成した。それは、太陽の陽の気を完全に遮断し、陰の気だけを透過させる、目に見えない防御の結界だった。

フォンは洞窟から出た。外は晴天で、山脈の木々が陽光に輝いている。以前なら、この光に晒されただけで、彼の力は暴走しただろう。しかし、今、彼は結界の内側で、何の苦痛もなく立っている。

「これが…血の制御術の完成形か」

フォンは黒舌を鞘に収めた。彼は、呪いを克服し、新たな力を手に入れた。もはや、彼は光を避けて夜に生きる必要はない。この力があれば、日の当たる場所でも、彼は蒼血の継承者として行動できる。

「さて、クロベロ。腹が減ったな」フォンは言った。「都の喧騒に戻るぞ。あの都のどこかに、まだ、黒縄会の残党と、俺の力を狙う新たな野心が蠢いているはずだ」

フォンは、孤独な山脈を後にし、新たな使命を胸に、都へと続く道を踏み出した。彼の旅は、真の夜鬼行へと変わったのだ。

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