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夜鬼伝  作者: Lam123
13/30

王城潜入と七日間の儀式

トラン・フォンは、腹の傷を押さえながら都に戻った。彼の眼前にそびえ立つ王城おうじょうは、都の心臓部であり、城壁は天を衝くかのようにそびえ立つ、難攻不落の巨大な砦だ。

「ここが、日輪に最も近い場所か…」フォンは低い声で呟いた。

「どうする?あんな場所、まともな門から入れるはずがないぞ」黒舌クロベロが警告する。「それに、お前の体はまだ万全ではない。血の気が暴発寸前だ」

フォンの頬は蒼白だが、決意は固い。彼は残りの銭を使い、裏社会の繋がりを通して城下町の汚水路おすいみちの地図を手に入れた。王城の厳重な警備は外郭に集中している。フォンが選んだのは、最も汚く、最も危険な道だった。

深夜。フォンは城壁の最下部にある、小さな排水溝に身を滑り込ませた。汚泥の臭いと、腐敗した水の音が周囲を満たす。腹の傷が脈打つたびに激痛が走るが、彼はその痛みを意志力でねじ伏せた。

汚水路を数刻進むと、城壁の内側、使用人たちが利用する裏口の近くへと辿り着いた。ここで、彼は初めて、儀式の**「気配」**を肌で感じた。

空気には、古びた邪気じゃきと、生々しい血の匂い、そして言いようのない恐怖が混じり合って漂っている。

「間違いない。儀式は始まっている」フォンは喉を詰まらせた。

「この邪気は…嫌な生臭さだ。すでに何人かにえに捧げられたな」黒舌が嫌悪を露わにする。

フォンは、衛兵の目を盗み、厨房の裏手の薄暗い廊下へと侵入した。城内の配置図と、源蔵から奪った帳簿の記述を照らし合わせる。儀式が行われているのは、王城で最も高い建物——**『日輪のにちりんのとう』**だ。

塔へと続く廊下には、通常の衛兵とは異なる、奇妙な装飾を施した鎧を纏った侍たちが配置されていた。彼らは皆、無表情で、その瞳の奥には、光悦卿こうえつの邪な紋章が焼き付いているかのように見える。

**悲感ヒカン**がフォンを襲う。彼は塔の影に潜むたびに、儀式のために捕らえられ、監禁された人々の絶望と叫びを聞く。

——「助けてくれ、俺はただの農民だ…」「光悦卿様、なぜ…」

被害者たちがすでに三人以上いることをフォンは悟った。七日間の儀式のうち、今日で三日目か四日目。残された時間は少ない。

「急げ、フォン。奴らが儀式を完成させたら、お前の血脈は終わりだ」

フォンは衛兵たちとの接触を避け、影から影へと移動した。彼の動きは、傷のために鈍く、以前のような華麗な剣舞は封じられている。彼は体内の血の気を、治癒ではなく、周囲の邪気を抑え込むための盾として使うしかなかった。

やがて、彼は王城の中庭を抜け、日輪の塔の基底部に辿り着いた。塔は、都全体を見下ろすように聳え立ち、その最上階からは、青白い、不気味な光が漏れ出している。

その時、フォンは塔の入り口に立つ人影に気づいた。その男は、他の衛兵たちとは一線を画す、黒い法衣ほういを纏い、手に呪具を握っている。彼の周りの空気は歪み、闇そのものが凝縮しているかのようだ。

光悦卿の雇った呪術師、**呪将じゅしょう**だ。

呪将はフォンが身を潜めた影に向かって、静かに語りかけた。

「そこにいるのは分かっているぞ、蒼血そうけつの継承者よ。お前の血が、この聖域を穢している。光悦卿の儀式は、すでに半ばを過ぎた。貴様のような半端者が、我々の邪魔をすることは許されない」

呪将はゆっくりと振り返った。その顔は、冷たい笑みを浮かべている。

「さあ、上がってこい。儀式のにえとして、貴様の血は最高の清算となるだろう」

フォンは影から出た。満身創痍の体と、赤く燃える黒舌。彼の腹の傷口から、わずかに血が滲んでいる。

目の前には、儀式の守護者。頭上には、血塗られた儀式。逃げ場のない、絶体絶命の状況だった。

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