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ハッピーエンドを迎えたら、溺愛王子から逃げたくなりました。  作者: 専業プウタ@コミカライズ準備中


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8/20

8.私を見ないで

唇が離れて彼の潤んだ琥珀色の瞳と目が合う。私は一瞬我を忘れて彼のキスに溺れた恥ずかしさに目を逸らした。


「ジスラン、無事で良かったです。もっと、事が起こる前に対処できれば良かったですが不幸中の幸い。死者はいないようですね」


周りを見渡すと煙を吸い込んだ騎士たちも、なんとか自力で立てるくらいに回復していた。


問題は全身火傷を負って細い息を吐くロイ・ベルモン。事情を聞く為にも彼を死なせてはいけない。


「とにかく、早いところドートリッシュ王城に戻るぞ」


「ジスラン、その件ですが来た道を戻るのではなく森を抜けましょう。これだけ騎士たちが疲弊している今。敵が待ち構えている可能性のある道のりを戻るのは危険過ぎます」


「森?」


「私、道には詳しいですよ。ついて来てください」


ジスランを安心させたくて口角を上げて笑顔を作った。裏切り者が他にも潜んでるかもしれない中、不安で気が狂いそうだ。それでも、私は今できる最善の道を探りジスランを守りたい。


私はいつか家から抜け出したい思いと、食料を探す目的でドートリッシュ王国の森については知り尽くしていた。


そして、ここはバルニエ王国領だが、オタム湖を渡ればドートリッシュ王国の森の中。


「フェリシアの言う通り来た道を戻るのは危険だ。しかし、君は一体何者なんだ?」


ジスランの問いかけの意味は理解している。


貧しいとはいえ男爵令嬢。


そんな私が木こりのように森の道に詳しいと言っている。


「貴方の妻ですよ」


私の言葉にジスランが頬を真っ赤にして照れた。


私は彼の期間限定の妻。期間限定でも家族の為なら私は命を投げ出せる。


母が死んだ三歳の時も、父が死んだ七歳の時も私は何もできなかった。


でも、十八歳の私には大切な人を守る力がある。私たちはオタム湖に浮かんでいた四隻のボートを拝借し、湖を渡った。


オタム湖を渡り切ったところの森の中で、ベルモン卿以外の九人の騎士とジスランと私で焚き火を囲む。


「フェリシア、何処かで馬を調達した方が良いんじゃないか?」


「いえ、必要ありません。森を抜ければ徒歩でも一週間足らずでドートリッシュ王城に到着します」


私の言葉に一瞬目を丸くしたジスランだが、ドートリッシュ王城の地理的な位置を思い出し納得したようだ。


ドートリッシュ王城は国境線沿いに位置するが、国境を越える税関は大きく迂回した大通りにある。オタム湖を渡ってしまうのが両国を行き来する最短距離。


「もしかして、この森は既にドートリッシュ王国領か?」


「勿論、既にここはドートリッシュ王国内ですわ」


ジスランは自国に入っていることに少し安心したようだ。すっと立ち上がると、周囲の騎士たちにテントを張るように命じた。最低限必要な物を持ち出させた上で避難させた彼はやはり用意周到で有事でも冷静沈着な男。


「今日は夜遅いです。もう、寝た方が良いですね」


私は周囲の騎士たちの反応を注意深く見た。他にも刺客がいてジスランを狙うなら今晩。皆が疲弊している上に、無事に炎の中を脱出し気が抜けている今が狙いやすい。


(用心した方が良いわね)


「ジスラン、私たちは一緒のテントを使いましょう」




テントを張るグループと、軽食を用意するグループに分かれる。テントという狭い空間でジスランと二人きりになった。先程、熱いキスを交わしてしまったせいか気まずい。


ほのかに良い香りがして来たので、天幕を捲って覗くとと食事を配っているようだった。


「軽食が配られているようですよ。とってきましょうか」


「いや、ここで食事が持って来られるのを待とう」


「ジスラン王子殿下、フェリシア王子妃殿下、軽食です。パンと玉ねぎのスープでございます」


ギル・ブトナが顔を出す。

彼はジスランにとって側近的立場なので、ジスランも気を許したような表情をしていた。


硬いパンと玉ねぎのスープが置かれる。


こんなもので腹が膨れる訳がない。


パンは非常食として持ち歩いているもので、恐らくスープは現地調達した食材で作ったもの。


(玉ねぎのスープ? 違う。これは!?)


「これは、毒です。このスープは捨ててください。飲んでしまった方は、指をこのように舌の奥まで突っ込み吐き出させてください!」


私の言葉を聞くなりジスランがスープをギル・ブトナに向かって投げつけたので、咄嗟に私は彼を庇ってスープを右肩にかぶった。


「熱っ」


「おい、フェリシア何やって」


「それは、こちらのセリフです。こんな熱いもの投げつけないでください。ブトナ卿、私は大丈夫なので至急皆さんにスープを吐き出すようお知らせください」


「⋯⋯了解しました。フェリシア様⋯⋯」


ギル・ブトナが険しい表情を浮かべながら去っていたのが少し気になった。

ジスランは慌てたように、私のまだ濡れているドレスを脱がそうとする。


「大丈夫です。ジスラン、心配しないでください。湖で肩を冷やして来ます」


「なんで、あんな裏切り者を庇ったんだ?」


私はジスランの言葉に自分の説明不足を後悔した。


「ジスラン、ブトナ卿は毒を盛っていません」


「なぜ分かる!」


「玉ねぎと似ていると思い、西洋水仙の球根を使ってしまっただけかと思います。私の説明不足でした。疑心暗鬼になっているかもしれませんが、味方を疑うと関係に亀裂が入りますわ」


玉ねぎと似ていると思い、西洋水仙の球根を使う失敗は私も経験済み。

西洋水仙は球根もその葉も毒性があり、食せば主に嘔吐や下痢の食中毒症状を起こす。

西洋水仙の葉もニラと間違われ、食中毒を起こしやすい。


今回スープに使われたのは、球根のようだ。

おそらく、毒と認識して混入したのではない。

食材を調達する者の、植物への知識が不足していると考える方が妥当。


「フェリシア、随分、物知りなんだな。とにかく湖に行こう。俺もついて行く」


「嫌です。覗かないでください」


「他の男に覗かれない為に見張りをしに行くんだよ! 妻を心配する夫を変態扱いするとは酷いぞ」


「そうでしたか。では、絶対に私の身体を見ないでくださいね」


「⋯⋯当然だ。でも、夫なのに妻の身体を見てはいけないのか⋯⋯可哀想なジスラン・ドートリッシュ。愛しい妻はなぜ彼を避けるのだろう」


ジスランは私をチラチラ見ながらフォローを希望したが、私は無視を決め込んだ。


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