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Betray

 会議室の中は、酷く粘っこい空気に満たされていた。

 僕達に寝返った飛天グループの役員達、そして会議室のモニター越しにいる、ここに集まった飛天グループの社員達が、ギラついた目で皆、目の前の主君――ボンボン3人組を睨んでいたからだ。

 彼等の目は、もう既に勝利を確信している目――積年の恨みの篭った相手に対し、惨たらしい死を望んでいる目だった。

「……」

 そして、その期待を一身に集めているのは、僕だ。

 飛天グループの存在が、僕にとっても色々と目障りだったのは確かだ。特に目の前の連中は、ことあるごとに僕を『人殺し』『犬将軍』と呼んで、色々と絡んできた連中だ。はっきり言って、いちいち鬱陶しい連中だった。

おまけにこいつらは、弱いものを虐げ、私腹を肥やすようなことばかりを繰り返してきている。そんな連中から馬鹿にされ、それをまだ力ない故に黙って見ているしかないこの2年間は、実に腸の煮えくり返るような時間だった。

 それが今はどうだ。僕の目の前で、3人とも唇を青ざめさせて、震えている。

 僕はこの数年で、権力者がこうして全てを失って、ただみっともなく狼狽する姿を、数え切れないほど見てきた。

 そして――最後にそんな連中が取る行動も、もう分かっている。

「――お前達、本当にグランローズマリーに付く気か?」

 小太りのボンボンが、モニターを見上げた。

「グランローズマリーは、綺麗事をばら撒く企業だ。宝石で儲けた金を事業に投資して、会社をでかくしてる。だから、こいつらは金なんか持ってないんだ。お前達がグランローズマリーに付いたって、大した金はもらえないことくらい、目に見えてる」

 声が若干震えているが、何とか平静を保とうと無理をしているのが、イントネーションから伝わる。人の上に立つ以上、弱みを見せない姿勢は正解だが、それを貫き通す器量のなさが露呈している。

「お前達、今ここで考えを改めるなら、一度迷った罪は帳消しにしよう――それに、今戻ってきた者には、先着で給料を2倍にする権利を与えてやる。幹部にだって推薦してやる! それでどうだ!」

 必死に社員達をアジテーションしようと、ちょっとオーバーな口調で、社員達を誘惑する。

 だけど。

「……」

 モニターに映っている社員達は、誰一人その場を動こうとはしない。誰もが自分達を扇動しようとした、小太りの男を、汚物でも見るような目で見ているか、嘲笑を浮かべているだけだ。

「無駄だよ」

 僕が言った。

「お前達が喉元過ぎれば熱さを忘れる人間だってことは、僕やエイジも今回の件で、お前達の関係者から話を聞いて、大体理解した。僕でもそれを推し量れるんだから、あそこにいる人達は当然知っている。今は聞こえのいいことを言っていても、この危機を脱したら、その約束なんて、お前達は簡単に反故にする。お前達のところへ戻って、いい思いが出来るのは、いいとこ2~3年――皆それがわかっているんだよ」

「……」

「サクライさんがお前達を潰すって言ってるんだ。お前達みたいな家柄だけの坊ちゃんが、サクライさんに勝てるわけねぇ。この状況でいくら金詰まれたって、未来のないお前達に付くわけないだろバカ!」

 モニター越しからそんな野次も飛んでいる。

「――だそうだ」

 僕はモニターを一瞥してから、視線を3人に戻した。

「……」

 こういう連中は追い詰められたら、間違いなく金をばら撒いてでも、自分の味方を増やそうとする。

 だが、その決断をして、初めてその人間は知る。自分の人望のなさを。

 最後の手である金をちらつかせての凋落策も破れ、もう万策尽きたのか、3人とも俯いて、黙ってしまっていた。

 僕はふっと息をつく。

「可哀想に……」

「あ?」

「人の上に立つ器も、人望も、この状況を打開できる頭も力もない。家柄だけで不相応な立場に立たされて、プライドだけは一人前に高い。そんな奴等が丸裸にされると、最後の悪あがきもとんだ見当違い」

 僕はそのまま3人を睨んだ。

「お前達のために、どれだけ下に付いた者達が苦しんだと思っている。見えるか? お前達に向けられる、かつての部下のあの目を」

 僕は一度モニターを一瞥した。

「お前達が今この場に存在すること――それだけで罪に等しい」

「テメエぇっ!」

 そう僕が吐き捨てた瞬間。

 茶髪の男が発狂したように絶叫し、僕に向かって飛び掛ってきた。

 一足飛びに突進してきた男は、僕の顔に拳を打ち込んできた。僕の右頬にその拳が当たる。僕は拳を喰らって軽くよろけた。

「社長!」

 トモミが絶叫した。だけどその時には、茶髪の男の二発目の拳が、僕の左頬に入っていた。僕は腰を泳がせて、そのまま背中から後ろへと倒れた。

「社長!」「社長!」

 会議室にいる役員達も、がたがたと席を立つ。モニター越しに女性の悲鳴もいくつか飛んだ。

「ふ、ふざけんじゃねぇぞテメエ!」

 茶髪の男は、そんな騒然となった会議室で、構わず倒れた僕に向かって詰め寄り、僕の胸倉を掴んで起こさせると、そのままもう一度僕の顔面に拳を振り下ろした。

 しかし。

 茶髪の男の拳は、僕の顔面に触れるか触れないかの所で止まった。僕の右手が男の手首を掴んで、そのパンチを止めていたのだった。

「ぎゃああああああああっ!」

 そして次の瞬間、男は苦悶の表情を浮かべて絶叫した。そして絶叫の後に。

 ぐきっ、という鈍い音がして、男はそこで電撃に撃たれたように体を一瞬痙攣させると、僕の前で体中の力をだらりと消失させた。

 僕はそれを確認して、男の手首を離すと、口元を拭ってゆっくり立ち上がった。

「僕も少しは悪いと思っていたんだ。なんと言われても、僕がお前達の地位を簒奪したことに変わりないからな。だから殴りかかってきたら、何発かは落とし前代わりに喰らってやろうと思っていたんだが――だからって、調子に乗らないでくれよ」

 僕は顔を上げる。まだ頬がじんじんしてはいるけれど、体重100キロ超の親父のパンチを日常的に食らっていた僕にとって、こんなボンボンのパンチなんて、全然大したことはない。

 ふ――僕の体なんて、いつ壊れたっていいと思っているのに、長年の暮らしで酷く丈夫なんていうのは、因果なものだ。

「う……」

 茶髪の男は体を前かがみにさせて、関節を外されて、だらりと下がった自分の右手首を、左手で抑えていた。

「ふう」

 僕はため息をつく。

「しかし――随分躊躇いなく顔面を殴ってくれたな。いくら僕への怒りがあるとは言え、普通顔面なんて、人を殴り慣れてなかったら、ああも迷いなく殴れるものじゃないぞ」

 僕は自分の手で、殴られた頬を触る。少し口元を切ったみたいで、口の端から血が漏れていて、数滴の血が僕の指先についた。僕はその血をぺろりと舐める。

「お前達、今まで気に入らないことがあると、自分の社員達をこうして憂さ晴らしに殴っていたんだろう。抵抗も出来ないことを知っていて、お前達が何人こうしてあのモニターに映る人達を殴ってきたのか知らんが……」

 そう僕が言うと。

 僕は一足飛びに、目の前の茶髪の男との距離をつめながら、右足を軸として体を回転させ、腰を捻りつつ、男の鳩尾に回転蹴りを叩き込んだ。

「グハッ!」

 ドン、という激しい音が響いたと思うと、男はあまりの僕の動きの早さに防御も回避も間に合わず、蹴りをまともに腹に喰らった。男は咳き込みながら会議室の絨毯の上に膝を突いて、そのまま胃液を嘔吐した。

 しかし。

 その頃には僕は、茶髪の男の眼前に立っていて、男の頭をローファーで勢いよく踏みつけた。男の顔は、びちゃっと音を立てて、自分が吐いたばかりの胃液の池の中に埋没した。

 モニターから大歓声が上がる。

「どうだい? 初めて味わう胃酸――もとい、辛酸の味は」

 僕は茶髪の男を一通り見下ろすと、その後ろにいた二人の男に目をやる。

「お前達、自分で言っていた筈だぜ。僕のことを『人殺し』だと。そんな僕にこんな形で挑んだら、自分達がただでは済まない事くらい、推し量れよ」

「……」

 そう忠告した後、二人はしばらく押し黙っていたけれど。

「へ、へへへへ……」

 急に小太りの男が引きつった笑いを見せ始めた。

「へ、へへへ、ついに正義の味方気取りが本性を現しやがった。俺達のことを散々言っていたが、お前こそ、無防備な人間に向かってそんなことをして――それがお前の本性じゃねぇかよ」

「……」

「お前の今の姿、俺達もこれから色んなところへリークしてやる! そしたら俺達は善良な被害者だ。形勢逆転も夢じゃないぜ」

 へへへ、と、小太りの男はまだ笑っている。

「……」

 僕はふっと体の力を抜いて、茶髪の男を足蹴にする足をどけて、小太りの男の方を見た。

「――安心しろ。これでも手加減して蹴った。手首も間接を外しただけだから、すぐに治る」

「……」

「本当はこういう手は使いたくないんだが、この僕の足元で蹲る男に一発食らわせたのは、お前達への警告だよ」

「何?」

「僕は別に飛天グループなんか欲しくない。僕はお前達から奪うんじゃなく、お前達を叩き潰すために、今、ここにいる。だが、お前達は追い詰めれば、必ず最後自分を裏切った部下に報復する。僕はそれを見過ごしておけないんでな」

「う……」

 小太りの男は色を失う。さっき自分達も、裏切った部下達への報復を示唆する言葉を言ってしまったからだ。

「だからこの場で警告しておく。お前達、僕に不満があるなら、いくらでもかかって来い。やり方が腕っ節でも何でも、喧嘩を売ってくるなら、全て受けて立ってやる。だがな、その過程でお前達の元部下にお礼参りをしたり、今いるお前達の部下を盾にするような真似をしてみろ。その時はこんなものじゃ済まさない。本当の地獄を見せてやるぜ……」

「ひ……」

 小太りの男は、僕の睨みに、まるで小動物のように怯えた。

 そして、僕の今の言葉に、モニター越しの人間は大喜びだ。サクライ、サクライ、と、サクライコールが起こっている。グランローズマリーに移行にも、飛天グループからの報復を恐れて、なかなか決断できない人間も、これで安心して飛天グループをされるようになったのだから。

「分かったか? 分からないのであれば……」

「わ、分かった」

 小太りの男は、僕がすっと目を細めると、怯えきった様子で僕にそう返事をした。

「――お利口さん」

 僕はふっと笑顔を見せた。それから僕は、茶髪の男を足蹴にする足をどけると、その場にしゃがんで、茶髪の男の髪を掴んで、顔を上げさせた。胃液で汚れた男の顔は、僕の蹴りの威力でまだ虚ろなままだったけれど。

「ひ……」

 その虚ろな目の中、僕に顔を起こされて、茶髪の男は目の瞳孔を開かせて、僕を畏怖していた。

「次に僕に喧嘩売るなら、こういうやり方はお勧めしないぜ。僕の喧嘩は素人仕込だからな。上手く手加減してやれない」

「は、はい……」

「分かったら、さっさと帰れ」

「は、はい……」

 茶髪の男は震えるような声で僕に返事をすると、そのまま自分の足でいそいそと立ち上がって、踵を返した。

 その様子を見た後の二人も、茶髪の男が逃げ帰るような様を見て、所在無いようにすごすごと立ち去っていった。僕が『帰れ』と言った時から、会議室のドアを開けていたトモミの横を通って、3人は負け惜しみの台詞一つ吐かずに、会議室を出て行く。

 トモミがドアを閉める。

「……」

 沈黙。

『うおおおおおおおお!』

 しかし、その後、まだオンになっているモニター越しから、耳を劈くような嬌声が会議室中に響いた。

『サクライ! サクライ!』

 飛天グループの社員達が、今まで自分たちを苦しめてきた創業者一族をぶちのめすシーンを見れたことに大きく溜飲を下げていたのだ。

 もう飛天グループの人間達は、完全に僕の味方だ。

「いやいや、CEO。まことに祝着至極ですなぁ」

 ふと、僕の背中越しに、甘ったるい声がした。僕は振り向く。

「胸がすきましたよ。あのバカ息子共に一発食らわせてくれて」

「でも、あの程度じゃあいつらは懲りないだろうから、もっと痛めつけてやればよかったのに」

 見ると、会議室の中に招き入れていた飛天グループの元役員達が、僕に祝いと労いの言葉をかけに来ていたのだった。

「しかし、CEOについてきてよかった」

「我々も、役員会議でCEOに協力した甲斐がありましたよ」

 どの連中も、皆ホクホク顔だ。

 皆、今回の功績の一端を担ったのだから、さぞかし豪勢な褒美が出るのだろうと確信している顔。

「……」

 僕はさっき殴られた頬を手で軽くさすりながら、息をつく。

「丁度いい。モニターがまだ生きているうちに、もう一つ決定事項を通達しようか」

 僕はトモミの方を見て、カメラをこちらに向けるように合図する。

「エイジ、通達してやれ」

 そう言って、僕は会議室の円卓に座るエイジを呼んだ。

「ああ」

 今の空気に不満そうな表情をして、エイジがその大きな体をのっそりと立ち上がらせた。

「飛天グループの元役員の皆さん。今回はあなた達の協力のおかげで、こちらの策も多大な戦果を上げることができました」

 エイジはまるで棒読みのように言う。

「今日ここに集まってくれた方々も、ありがとうございます。あなた達のおかげで、相手を威圧するのに十分な効果があった」

 エイジはそれを知らなかったが、何とか機転を利かせた物言いをした。

「さて、我が社が今後、あなた達に対してどのような処置をするのか――飛天グループの社員は全社員、グランローズマリーが出来る限り迎え入れることにします。我が社に来たくないという方にも、出来る限りのことはしましょう」

『おぉ』

 モニターから歓喜の声。

「ただし――この場にいる人間を除いてね」

 その歓喜の声の中、エイジは会議室にいる元役員達に冷たい視線を投げかけて、そう言った。

「え?」「え?」

 役員達は驚嘆の声を上げる。

「わからなかったか? 分かりやすく言えば、あんた達はもう用済み――必要ないって言ってるんだ」

「そんな!」

「それでは約束が違う!」

 元役員達は、エイジ達に詰め寄りそうな勢いでいきり立つ。

「我々が飛天グループを裏切り、あなたたちに協力する条件は、我々を保護してくれることだと、言ったはず!」

 そう文句を言った。

「俺達はあんた達をグランローズマリーに迎え入れるなんて、一言も言ってないぜ。ただ『あなた達の身の安全を保障する』って言ったんだ」

 エイジは言った。

「見ての通り、今の飛天グループは人材の流出の歯止めが効かない状態になった。今の飛天グループは、一人でも多くの協力者が欲しい――あんた達が謝って戻れば、一度裏切ったとは言え、もう手段を選り好みしていられない――飛天グループはあんた達を許すよ。それが俺達に裏切られて、俺達憎しで、俺達と戦いたくて戻ったって言えば、相手はちゃんと信用してくれる――な? あんた達の身の安全は保障されているだろう?」

 エイジはにっと笑った。

「それに、仮に飛天グループを裏切ったお前達に、あいつらが報復するようなことがあれば、さっきCEOが言ったとおり、俺達が飛天グループを叩き潰す。そうさっきCEOが脅しをかけたことで、お前達の身の安全はかなりの部分、保障されているじゃないか」

「う……」

 エイジの説明に、役員達は黙り込む。それはそうだ。僕達は本当に『身の安全を保障する』と言っただけなのだ。それを役員達は、勝手に『グランローズマリーに入れる』に脳内変換していただけ――中にはもう、自分達がグランローズマリーの幹部になれると思い込んでいた者もいるだろう。

「士道不覚悟!」

 エイジの凛とした、大きな声が、裂帛の気迫となって、会議室の空気を震わせた。

「お前達も、あの創業者一族と同じ――責任ある人の上に立つ立場だ。お前達にだって部下がいるのだろう。なのにお前達は、俺達に協力を求められた時、自分ひとりの保身ばかりをしきりに確認して、自分達の部下を助けてくれ、と言った者は一人もいなかった。そればかりか、中には協力の見返りに、俺達に賄賂を求める者さえいた」

 エイジはその大きなどんぐり眼で、役員達を睨んだ。

 エイジの言葉を聞いて、モニター越しの人間達も、途端どよめきだす。この中には当然、僕達の目の前にいるこの役員達の息のかかった者もいるだろう。

「人の上に立つ者なら、まずは自分達のことよりも、部下の安全を確認すべきだろう。それなのに自分だけが助かろうと、こちらに尻尾を振るだけならまだしも、自分の益のために賄賂を求めるなんて、そんな連中をうちの会社の幹部に据えるだと? 冗談じゃねぇ。寝言は寝て言え」

 エイジの怒りを露にする様に、役員達はもう文句の言葉もつけられないほど怯えていた。

「――ま、そういうことですね」

 あまり大柄な、元ヤンキーのエイジが怯えさせてしまっても悪いから、僕が静かな口調で、その空気を破った。

「この会社は短時間で勢力を拡大した。はっきり言って、M&Aで買収した会社もいくつもある。この会議室の円卓に座る人間も、半分以上はそうした会社の元役員――今のあなた達と同じ立場だった。この席に残った人間は見な、会社を買収した際に、自分達の社員のことを最後まで案じていた。だからこそこっちも厚遇で迎えているんだ」

 僕は円卓に座る社員達を一瞥した。皆僕の言葉に往々に頷いている。

「うちの会社は、三つの旗印を掲げてる。そのうちの一つ、大一大万大吉――僕が欲しいのは、一人が他の社員のため、果ては世の中のために力を尽くせる人間だ。それが出来る人間は、僕は全力で守る。だが、お前達や、さっきの連中のような、私利私欲に目をくらませ、他人の蹴落としてでも自己の富だけに執着するような人間は、もう一つの旗印、誠一文字の名の下に、容赦なく裁く――これ以上の説明は必要あるまい」

「……」

「安心しろ。僕達に協力した見返りとして、少しくらいの金は出してやるから。分かったら、あんた達もとっとと帰れ」

 エイジがそう言って、まるで毘沙門天のような顔で睨みをきかせた。

 さすがにもう、僕とエイジが初めて自分達に怒っていると知れば、もう無駄な抵抗はしないほうが吉だと思ったのか。それとも自分達に保障されている未来が一気に崩れ去って、何が何だか分からなくなっているのか、役員達は皆呆然として、そこから動かない。膝から崩れ落ちた者や、泣いている者さえいる。

「――トモミさん、ガードマンを呼んで、この連中をつまみ出してもらってください」

 僕はトモミにそう指示した。トモミは頷いて、電話で会社に待機しているガードマン室に連絡した。

 程なくガードマンがぞろぞろやってきて、まるで抜け殻のようになった役員達を引きずるように会議室から連れ出していった。

 そして、その最後の一人がガードマンによって連れ出され、トモミが会議室のドアを閉めると。

「――これにて一件落着、かな」

 僕がそう言った。

 その瞬間、モニターから再びサクライコールが起こり始めた。


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