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Another story ~ 2-2

 白い光の中に 山並みは萌えて――


 中学の卒業式、会場である体育館で、同級生と肩を並べてそんな歌を私も心ここにあらずの状態ながら、歌っていた。

 卒業式が終わり、卒業生退場の号令とともに、私は列に従って、レッドカーペットを歩く。

 父兄席では、お父さんがビデオテープを回しながら、歯を食いしばっているのが見える。ファインダーをのぞいているから目は見えないけれど、きっと泣いているんだろう。隣に座るお母さんも、何だかお父さんのその親バカ振りが恥ずかしそうだ。

「……」

 とは言っても、正直私はこの時、あまり卒業式という、中学最後の行事に浸りきれていなかった。

 この後の事を考えると、気分が凄く重かった。



 卒業式が終わり、担任の先生から、一人ひとり祝辞を頂いて、私達は校庭に出ると、下級生達が卒業生を見送るために、外に出ていた。

「マツオカ先輩、3年間お疲れ様でした!」

「埼玉高校に行った先輩なんて、私達の誇りです。高校でも頑張ってください!」

 所属していた女子テニス部の後輩を始め、私は中学で成績が3年間トップだったため、学校行事の色々な場所に借り出されていたから、割と後輩の間で人気があった。私の着ているブレザーは、ボタンを全部後輩に取られてしまい、他にも何か思い出の品をと言って、鞄の中にあった色々なもの、付けていたヘアピンまで取られてしまった。そんなもの、何年も残っているとは思えないけれど、私の事をいつまでも忘れないでいてくれるなら、きっと幸せなことなのだと思う。

 それから私は、クラスのみんなと卒業証書を持ったまま、カラオケでの打ち上げに参加した。

 とは言っても、私は小さい頃から音楽をやってはいたものの、人前で歌を歌うのは苦手なので、ウーロン茶を飲みながら、ずっとみんなの歌を聴いてばかりだったけれど。

 昨日まで、みんな同じ制服を着ていたのに、今日はそれぞれ違う制服――これからみんなが進学する高校の制服を着ているのが、何だか印象的だった。私の進む埼玉高校だけ、私服登校が認められ、制服がなかったから、一人だけ中学の制服を着ているせいかもしれないけれど――

「……」

 適当な頃合を見計らって、私はカラオケの部屋を出る。

 すると廊下には、一人の男の子が私を待っていた。

「ありがとう、ごめんね、呼び出したりして」

 男の子は、手を広げて私に挨拶する。歯を見せて笑顔を作って、私の事を一瞥した。

「……」

 この男の子は、私のクラスメイト。昨日、私の机に手紙を入れていて、この時間に私を呼び出していた。

 バスケ部のキャプテンで、成績はそれほどでもなかったけれど、背が高くて、女の子から人気がある男の子だった。でも、私はほとんど話したことがない。

「――あの、話って?」

 皆を待たせているので、変に長引いて怪しまれたくない。私は単刀直入に用件を伺おうとした。

「あ、うん、その……」

 男の子は、はにかみながら少しもじもじする所作を見せて、やがて意を決したように、私に言った。

「マツオカ・シオリさん。俺と、付き合ってくれませんか?」

「……」

 そういう用件なのは、わかっていた。別に聞く必要もなかったのだけれど。

 でも、わかっていても、気が重い。

 実を言うと、私に卒業式前に手紙を送ってきたのは、この人だけではないのだ。既に10人以上が、この人の後に、私に所定の場所に来てくれという内容の手紙を送ってきている。

 私が卒業式の間、ずっと気もそぞろだったのは、そのせいだ。

「――どうして、私なの?」

 私は訊いてみる。

「ど、どうしてって、そりゃ……」

 いきなりそんな事を訊かれては、相手も戸惑うだろう。男の子は、言葉を咀嚼する間を置く。

「マツオカさんって、物腰が柔らかくって、女っぽくて――クラスでも親切で、公平で、努力家で、だけど華奢でちっちゃい女の子で――心の底から守ってあげたいって思ったんだ。最近の女って、ガサツなのが多いから、マツオカさんみたいな、守ってあげたいって女の子、他にいないからさ」

「……」

 守ってあげたい――

 よく男子から、たまに女子からも、私はそういう事を言われることがある。

 でも――

 守るって、何から?

 戦争も飢餓もない、テロはあるかもしれないけれど、それほど目立ったテロ組織が日本で暗躍しているわけでもない。強いて言うなら天災だけれど、少なくともこの日本で、私はいったい、何から守ってあげたいと思われるのだろう。

 ――いや、きっとそんな対象がなくても「守ってあげたい」という言葉を聞くと、女の子というのは嬉しくなってしまう――そんな定番の口説き文句というだけなのかもしれない。

 きっと、他の女の子なら、この人にそういう事を言われたら、嬉しかったり、何らかの心の変化をきたすものなのだろう。

 でも、私は……

「――ごめんなさい。私、まだそういう、付き合うとか、そういうこと、よくわからないの」

 私は頭を下げる。

 そう、私にはまだ、わからないのだ。誰かを好きになること、恋愛――

 この3年間、私は自分で言うのも変だが、男子にもてた。

 それを見て、周りの女子からも、色々とやっかみも受けた。付き合ってみるのも、人生勉強のうち、とも、説得もされた。

 それでも、私はまだ、一度も男性とお付き合いしたことがなかった。

「私、今はまだ、もう少し、自分の気持ちと向き合ってみたいの。高校って新しい環境で、自分がやっていけるか、不安もあるし、自分がこの先、何をしなくちゃいけないのか、何がしたいのか――自分のこれからと、向き合ってみたいの。だから……」

 私が恋愛に足が向かない理由は、いくつかあるが、これがそのひとつ。

 私は中学生活の間、自分の出来る事を精一杯やってきたつもりだったのだけれど、実際のところ、まだ自分の確固たる居場所を築けてはいない気がしていた。

 県立では日本一の進学成績を誇る埼玉高校に、主席で合格できたとは言っても、それでもまだ私は、自分がそこまでの器の人間にはなれていない気がする。

 だって、私には、まだまだわからないこと、できないことが沢山あるから。今だって、これから自分が何をしたいのかさえ、よくわからない、その程度の人間なのだ。

 そんな私が、他人の気持ちを慮る恋愛に興じるという気持ちには、まだなれなかった。

「そんなの、付き合ってから、二人で考えていけばいいよ」

 私のその返事に、男の子は食い下がる。

「マツオカさん、1年の時から、そういう理由で告った男に断ってるんでしょ? それが今も続いてるって事は、一人ではもう解決しないって事なんじゃないの?」

「……」

 私は押し黙ってしまう。

 そう、私はこの数年、告白して来た男子への返事を、いつもそんな理由で断わってしまっている。

 さすがにもうそれは、みんな知っている。もうこの理由だけで、いつまでも逃げられるものではない。

 だから、3年生になってから、こうした男子の告白を断わることは、一層困難になっていった。誰も私の断わる理由を、簡単には納得してくれなくなったからだ。

 告白を上手に断わるのが、いい女の嗜みだと、何かの本で読んだ気がするけれど、そんないい女の嗜みなど、恋愛偏差値最低の私が持ち合わせているはずもなく……

「だったらさ、俺も力になるから、一緒に自分と向き合うっての、やってみない? 俺もマツオカさんが悩んでいるなら、力になってやりたいしさ」

 男の子はそう言って、私に一歩にじり寄る。

「……」

 その時、私は男の子が私に近づいてきたことで、心臓が一度、大きな音で高鳴った。背中に一筋の汗をかいてしまう。

「あ――ご、ごめんなさい。私――やっぱり……」

 私は、その男の子の食い下がりに怯んでしまい、数歩後ずさってしまう。

 だけど男の子は、後ずさる私の腕を取ってきた。

「ごめん、もうちょっと話をさせてよ。俺、本気なんだよ」

「い、痛い……」

 私は、男の子に掴まれた右腕が、強い力で握られるので、腕に鈍痛を感じて、顔をしかめてしまう。

「あ……」

 私の声に、男の子は咄嗟に手を離す。

「……」

 私の心臓は、アレグロで脈を刻んでいる。呼吸も苦しくなる。

「ご、ごめん! 俺、そんなつもりじゃ……」

 男の子は血相を変えて、私に謝罪する。

「……」

 それはわかっている。この男の子は、故意に私を傷つけたわけじゃない。

 だけど……

 私はそのまま、男の子の前で踵を返して、走り去ってしまった。カラオケボックスを出た私は、そのまま自分の家まで走っていた。

「あ、おかえりー、お姉ちゃん」

 時計は夕方の5時を回っていて、まだ両親は、父母会で仲良くなった父兄と一緒のようで、帰っていなかったけれど、シズカが家に帰っていて、夕食の準備をしていた。カレーかシチューを作っているのか、野菜を煮込んでいる匂いがする。

 私はそのまま部屋に入り、そのままドアに寄りかかり、ずるずるとその場に座り込んでしまった。

「……」

 頭でわかっていても、どうしようもないことがある。

 これは私の女友達や、家族はある程度知っていることなのだけれど、私は男子と二人きりになったり、触れられたりすることに慣れていない。

 というより、それは私にとって、恐怖に感じられる事象だった。

 実は今までも、こうして告白を断わったことで、こうして男子から詰め寄られることは何度もあった。

 今回のように、しつこく食い下がられて、なかなか帰してくれなかったりすることもあれば、告白を断わると、態度が豹変して、私を散々に罵倒する男性もいた。

 そして、最もひどかった時は、告白を断わってからも、ずっと私に手紙を送ってきたり、帰り道に尾行をされたり、そんなストーカーまがいの行為が続いた時だった。

 その時は、家の中でまで、その人にみられているような、そんな影を感じることがあった。とは言っても、犯罪だとわかっているからか、盗聴だとか、いたずら電話だとかの行為に踏み切ることはなかったので、家族にも相談することができなかった。心配をかけられないから、友達にも誰も言えなかった。

 中学の間、私は男子からの視線を何処からともなく感じては、自分の被害妄想なのかという気持ちも否定できずに、疑心暗鬼を増大させていった。そしてそれが同時に、男子への恐怖をどんどん増大させていってしまった。誰にも相談できないから、私はいつも夜遅く、防音になっている家の音楽部屋で一人泣いた。

 だから、私に告白してくる男子がいることは、私にとっては、苦痛、迷惑以外の何物でもなかった。

 この恐怖感のせいで、上手く男子とも向き合うことが出来ないから、上手に告白を断わろうとか、そういう余裕もない。結果、私はいつも告白を上手く断われずに、男子に食い下がられたり、余計に怒らせて、罵倒されたりしてしまう。

 本当は、私は共学の埼玉高校ではなく、近くの県立女子高に通いたかった。でも学校の先生が「埼玉高校に入れるのは名誉なこと。内の学年であそこに入れるのはお前しかいない。埼玉高校以外、お前には願書を書いてやらない」と言われてしまい、埼玉高校しか受けさせてもらえなかったのだ。両親も、ただでさえ私を私立に通わせられない分、これ以上高校のランクを落とさせたら申し訳ないと、埼玉高校行きを望んでいたので、断わりきれず、私は埼玉高校を受験したのだった。

 私だって、このままではいけないことはわかっている。

 でも――男の人とこの先も上手くやっていける自信がない。

 そんな私が埼玉高校に入って、大丈夫なんだろうか……



「新たな花が萌え出ずる、今日のよき日に――うん、いいんじゃないですかね。これで」

「ありがとうございます」

 私は目の前にいる初老の男性から、私が提出した用紙を返してもらう。

 中学を卒業し、高校入学の準備を進める3月の末日――私は一人、一足早く埼玉高校にやってきていた。

 入学試験を主席でパスした私は、入学式で新入生代表の挨拶を務めることが内定していた。今日はその段取りの説明と、私が考えた挨拶の内容を、校長先生はじめ、各教師の面々に検閲してもらうために登校した。

 まだ顔も名前も一致しない先生たちからも、太鼓判を押される。どうやら埼玉高校は、日本一の県立進学校だけに、入学式には県知事や文科省の人間まで来賓席に顔を出し、注目度が高いらしい。あまり変な挨拶をさせられないということらしく、チェックが厳しいようだ。恐らく壇上に上る私のことも、色々チェックされているのだろうと思われた。髪の色や、化粧の具合とか。

「しかし、さすが3000人以上受験したうちの入試で主席を勝ち取った人だ。聡明で、おまけに素直で」

 校長先生が、私の作った挨拶の草案に満足し、私に賛辞を送る。

「そんな……」

 私は恐縮してしまう。これでも図書館で、色々な用語辞典を引っ張り出して、考えたのだ。一夜漬けの知識を披露したようで、何だか恥ずかしい。

「まったく、助かりましたよ。あなたが二つ返事でこの件をOKしてくれて」

「いえ」

「それに比べて……」

「え?」

「ああ、いえ、こっちのことです」

校長先生の、最後見せた苦虫を噛み潰したような顔に、私は違和感を覚える。

 私は生来目立つこと、人前に出ることは、あまり得意ではない。だから出来れば今回の挨拶も断わってしまいたい。顔も知らない同級生の前で挨拶なんて、声が震えてしまいそうだ。

 小さい頃からそうで、それを克服するために、お母さんは私にピアノとバイオリンを習わせた。お陰で昔よりはましになったけれど、それでも人前に出るのはいつも緊張する。

 今回断れなかったのは、中学の先生に、埼玉高校の首席なんて、名誉なことだからと盛り上がられてしまい、埼玉高校に承諾の電話をしてしまったからだった。

「教師一同、あなたには大いに期待していますよ。頑張って入学後も、首席を維持してくださいね」

 教頭先生は、不自然な程に私を持ち上げるのだった。

「……」

 本当は私は、入試トップなんて取りたくなかった。

 目立つことは好きではないのに、成績がよかったから、中学では他の人から表に出る仕事を多く任されていたからだった。

 私に無理がかかるのに比例して、同級生も教師も、私を優等生、学生の鑑と評価した。

 そんな中学生活が、少し息苦しくて、私は埼玉高校に来たのに――


そういえば、シオリのパーソナルデータを本編であまり紹介していなかったので、見た目をイメージしやすいように紹介。


身長154センチ、体重38キロ。スリーサイズは…必要か?とりあえず胸は際立って大きいわけではないですが、人並みにはあります。

得意科目は国語、現代文で、苦手科目は特にないですが、あえて言えば化学。極度の味音痴で、あまり食に執着はないものの、甘いものは好き。

服装はあまりこだわりがないけれど、肌をあまり露出する服は苦手で、白や青系の服が好きで、ビビッドな色の服はほとんど着ません。中学時代、スカートは膝小僧より上に上げなかった典型的優等生ファッション。化粧はほとんど興味がないですが、中学の友達に勧められ、なんとなくの薄い化粧をしています。メイク時間は10分かけていません。髪はセミロングの黒髪です。


作者の中の風貌のイメージでは、「機動新世紀ガンダムX」に出てくるティファ・アディールをモデルにしてます。性格は作者オリジナルですけどね。要するに、ちょっとロリっぽい女の子って感じです。多分この作品、打ち切りとか言われて知らない人も多いと思うんですが…画像URLを歯ってもいいんですが、それはここでは禁止されているかもしれないので、自重。声は…作者はあまり考えてませんでしたが、どんなイメージですかね。


ちなみにケースケは「新世紀エヴァンゲリオン」の渚カヲルを黒髪にした感じっていうのが、作者の中での風貌のイメージなんですけど…ただ声は、女性声優が男性キャラを演じるような、そんな感じの声って感じでイメージしているんですが。幽遊白書の蔵馬を演じた時の緒方恵美さんとか。それだと顔はカヲル、声はシンジになっちゃいますが。


そこのところは読者様とはイメージが違うかもしれませんね。まあ、その辺のイメージはそれぞれにお任せします。

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