Basketball
一時間目は体育だった。元々今日は土手のグラウンドでマラソンの予定だったが、昨日の雨でグラウンドが使えないので、バスケットボールに変更になった。土手のグラウンドは水はけが最悪で、雨が降れば3日は使えない。僕達は喜んで、すぐに服を着替えて、体育館に向かった。
隣のコートでは、女子がバレーボールを持ったり、女子の体育委員がネットを取り付けたりしていた。ネット一枚隔てて、奥のコートで僕達は、出席番号順にチームを決めた。ユータとも、ジュンイチとも別チームだ。E組を受け持つ体育教師は、間の悪いことに、サッカー部顧問のイイジマだった。
「ごめんな、今日は女子もバレーで、一面しかコート取れなかったんだ。見学時間が多くなるけれど、我慢してくれ」
僕はバスケットボールを持っていた。イイジマに促され、僕はボールをイイジマに上手投げでパスした。これでも元名セカンド。伸びのあるパスがイイジマの胸にストライクで決まった。とかく下半身ばかり強くなって、体のバランスの取れなくなるサッカーだが、中学での野球の経験は、僕の上半身の発育に、そこそこ生きたと言えるだろう。
「丁度いいや、ユータとサクライのチームでやるか? お前ら、体育は学年一位二位だし」
皆が賛成の拍手をした。
僕はチャンスだと思った。
昨日誓った、自分の進化。まずは自分の力を確かめなくてはならない。それについては、ユータは絶好の物差しになる相手だった。
僕とユータはじゃんけんをした。僕が負け、僕らのチームは各自で用意したジャージの上に、赤いビブスをつけた。僕は10番のゼッケンを着た。
ユータと僕のチームの一人がジャンプボールをする。僕はやや自軍寄りにポジションをとった。
イイジマのトスが高く上がる。長身の二人はジャンプするが、ユータが勝つに決まっている。ユータが叩いたボールは、僕のチームの陣地に飛ばされた。
自軍寄りにポジションを取って、正解だった。僕は飛んできたボールを手を伸ばしてインターセプトして、そのまま自分で敵陣に切り込んだ。
サッカー部でも僕の持ち味は運動量と加速力だ。既に前にいた二人を振り切っていた。着地したユータも、大きく引き離され、僕のスピードにはついて来れない。僕はゴール下まで潜り込み、センターに立っている一人をわずかにかけたフェイクで惑わせてかわし、レイアップシュートを決めた。
イイジマのホイッスル。得点係についた男子が僕のチームの得点を2枚めくった。僕はすぐに自軍に戻る。勿論僕はユータをマークする。
「ケースケ、今の速攻、マジ速かったぜ」
ユータは僕を振り切ろうとしながら、笑って言ったが、僕は答えなかった。
ユータのチームの一人が投げたスローインは、ロングスローでユータの所に来た。それはある程度読めていたので、僕は前に出て、ボールをジャンプしてインターセプトした。すぐに僕の前にユータが回りこむ。僕は間髪入れずに素早くターンし、ユータをかわした。
あっ、という、ユータの感嘆の声が後ろでした。ゴール下には二人がいたので、僕はスリーポイントを打った。ボールは高く――ディフェンスの頭を超え、すぱっ、という、快い音がした。ギャラリーがどよめいた。
今度はユータはスローインをもらいに行った。ボールを受け取ると僕が前につく。
「ケースケ、ずいぶん飛ばしてるじゃん」
ユータは半見でドリブルしながら僕に言った。
しかし僕は間髪入れずに前かがみになって、ユータの体で隠れるようになって弾んでいるボールに手を入れた。
「おっと!」
今度はユータが背中方向にターンし、僕の手をかわした。僕を尻目に、すぐにユータは速攻する。僕は半回転して、右足で踏ん張って体を止めて、全力で追いかける。
僕とユータでは、身長は25センチも違う。足の速さもユータが若干上だ。しかし、ユータは今、不慣れなバスケットボールを操っている。追いつける。
ボールを扱っていない分、僕は素早くユータの前に回り込み、体を入れる。基本的に所作はサッカーと同じだ。軽量だけど足腰の強さには自信がある。僕はチーム内の誰にも、競り合って負けたことはなかった。ユータも体勢を崩したが、僕が軽すぎるせいか、ユータはびくともしない。
ボールを持ったまま、ジャンプを強行した。僕も同時にジャンプして、手を伸ばした。ボールには届かなかったが、お互い無理な体勢でのジャンプで、空中でバランスを崩した。ユータは手首だけでボールを投げたが、足首よりは不器用で、当然入るわけもない。バランスを崩したユータは、僕と一緒にエンドラインへ倒れこんだ。ホイッスルが響く。
「ディフェンスファウル! ユータのフリースローな」
僕とユータは重なり合って倒れ、まだ起き上がらないまま、その判定を聞いた。
ユータは先に起き上がり、僕に手を差し伸べて僕を起こすと、僕の肩を叩いた。
「いてて……今のはイエローカードものだぞ」