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聖獣様の棲む国

          ☆ この国アバラン王国・この街フォギーケープのこと


 このアバラン王国のある大陸には全部で5つの国があるらしい。

昔はもっと小さい国が沢山あったが、遠い昔から何度も何度も戦いを繰り返し、吸収したりされたりの歴史がある。


 唯一アバラン王国だけは一度も他国との戦いをせず今までやって来た国だ。

5つの国になった今は敵対せず、どの国も平和を維持し、貿易も盛んだという。

 12才までの義務教育では、各町にあるいわゆる小学校でそのように学ぶ。ルリア達は同じ事を孤児院で学んだ。


 この国は子供の教育には力を入れているがまだまだ学校が足りない。教育者もだ。

 本来なら15才の中学校まで義務教育を受けることが推奨されているが、この町のように小さな街は人口も少ないしお金も無いことから、12才まで学校に通わせるのが精一杯だし、そもそもこの町に中学校は無い。

 隣の町には中学校があるが、ここには中学校を作るためのノルマである子供の人数が足りない。

 貧しい町だから、隣町の中学校へ通う子供もいない。何とか人口を増やして、せめて中学校を作りたいと領主様と町民達は思っていた。


 その後は16才から18才まで学ぶ高等教育学校は、東西南北の大きな町に幾つかあるが、お金が掛かるため裕福な家の子女でなければ通うことが難しい。

 大学も首都に教育者をそだてるための教育大学の他医療大学がある。


 この国は衛生面に力を入れていて、早くから水道を引いているし、下水道の処理の方法も確立されている。

 

 それによって周辺の国々に比べて格段に病気に罹る人が少ないらしい。そのためアバラン王国から医療を学ぶため、首都にある医療大学に留学生が集まって来ているという。

 

 しかし国の事業である薬草からの創薬等は国家機密になっていて、留学生には教えていない。国の創薬専門の機関が担っているのだ。それに創薬自体がかなり難しいため、出来上がる量が少なく高価で一般の人々には行き渡っていないのが実情だ。


 アバラン王国は大陸の中でも一番西側に位置し高い山脈と深い森に囲われた地だ。


 東側のユリーナ帝国と北東側にあるロマナスベンタ王国との間の少し低い山に、両国側から協力してトンネルを掘った道2本しかこの国と繋がっているところが無い。

 昔は東側のトンネル1本しか無かったため、そのトンネルを封鎖することで他国との戦いを回避してきた。


 トンネル封鎖で一時は鎖国のような形を取ったこともあるこの国だが、今はその道を利用して、大陸のどの国とも友好関係を結んでいる。


 それに伝説として、この国には昔から聖獣が棲むと言われていた。

それ故「この美しく豊かな国を守ろう」と小学校の教科書に書かれているが、フォギーケープの町民以外の国民は聖獣がいるなんて今は誰も信じる人はいない。


 ルリアにとって異世界と言えば魔法を思い出す。ライトノベルを愛読していた人にとっても「魔法」と言う言葉は当たり前の言葉だ。


 教会の中で小さく薄い教科書で習ったが、昔この国の人達の中には、魔法を使えた人が多くいたそうだ。

 王宮には優秀な魔法使い達が集められて、専門の研究所や魔法軍もあったらしい。


 しかし一部の魔法使い達が暴走したせいで、その人達は捕まり研究所は縮小し、軍は解体された。


 その後、国に残っていた一般の魔法使いも、捕まるかも知れないと怖がって魔法を使わなくなり、それによって魔法使いは一気に減ってしまったとか・・・

そこまで教科書に書いてあった。


 今は平和なこの国も大変な時代があったのだなと思った。


 現在、魔法使いとして知られている人達は、国の管理の下で魔石に少しばかりの魔力を注ぎ込む仕事をさせられているようだが、未だ未だ隠れて暮らしている魔法使いもいると思われる。

 その魔石によって王都の街灯に火を飛ばして付けたり、薪の火付けに利用されているとコーネリアスが以前教えてくれた。



 記憶を取り戻したばかりのルリアとコーネリアスからすれば、魔法の事よりどうしても前世と今の暮らしとを比べてしまって生活に物足りなさを感じていた。


 物資の種類も少ないし、食べ物も同じような物ばかりで、素材が少ないしメニューも種類があまり無い。

 それはこの地が辺境の地で生活が貧しい所為なのだろう。


 ここはアバラン王国の最南端に位置するフォギーケープという小さな町だ。


 ここアバラン岬から西側がフォギーケープだ。

 東側のサンフィールドとの間には低い山が幾つか連なっている。低い山と言っても、裾野に森もあるため、人が徒歩で越えるには無理な場所だ。

 森の裾野には二本の大きな川も流れていて、それは西に向かって延びている。

川は他の山からの川と合流しもっと幅の広い川となって西の海へと流れ出る。


 北側には100メートルから1000メートル級の山々が連なっていて、西側と南側は海だ。

 この国も山と森に囲まれて隣国からの脅威から守られて来たが、国内の大きな町も山や森に囲まれているところが多い。


 ここは南に位置し土地は広大で、暖かい地方なのに冬には雪も降る。


 それでも北と東の山の裾野には広大な森が広がっているため薪になる倒木や建設用木材、キノコや木の実などが豊富で、そういった面では恵まれていた。


 南の岬も入り江になっていて漁もできる。

 まだエンジンも無い小さな船ばかりだけど、漁師達は果敢に海に出ては網を使って魚を捕ってくる。

 小さな漁場の割には魚の種類は思ったより豊富だ。


 陸の孤島だったフォギーケープにも大昔は少数ながら人々が住んでいたらしい。


 その人達の子孫が残した手記によれば、

 小さなこの村に王都での大きな事件に巻き込まれ、それから逃れるようにここへ辿りついた人達がいたと書いてあった。


 その人達は高い知識を持ち、特に薬草の知識に長けていたため、食べるために畑では野菜を育て、それとは別の畑で薬草を育て薬にし、それを密かに売って生活の糧にしていた。

 その人達はいつの間にかこの場所から消えてしまったと書かれている。何処へ行ったのかも分からない。

 今ではこの地では誰も薬草などを育てる人もいないし、そういった知識を持っている人もいない。

 現在薬は商人から買っている状況だ。

 だからそんな知識の高い人々がいたなんて信じられていない。


 けれど、昔人々が暮らしたであろう崩れた建物の残骸は残っている。

 朽ちてはいても家は何棟分も残っていたし、水道も通っていた跡があった。


 手記を残した子孫と言われる人は、家族にさえも何も話さず亡くなった。亡くなった後、隠されていた手記を家族が見つけたと言うのだ。


 それ以降人々が多く住まなかったのは隣町との間に道路が通っていなかった事と、春から秋にかけてしょっちゅう霧が出ることが理由だった。


 山や森からの霧と海からの霧、町中が真っ白になり全く前が見えなくなる。

 その状況が地名の由来となった。

 昔の人々は濃い霧の中、何も見えないことが怖かったのだろう。


 元々隣のサンフィールドには王都までの一本道が出来ていた。

 サンフィールドは暖かい気候の地域で冬物の衣類も必要無く、そして農作物も豊かだった。

 他には特別魅力的な場所は無かったが、冬になると寒さを凌ぐために王都から人々がやってきて「避寒地」として栄え、別荘なども多く建ち始め町は潤っていた。

 しかし全ての町民が潤うわけではない。

 何処の世界も同じで、利益を搾取したり、力で商売を独占したり。

 税金も上がって嫌気がさした一部の町民は、僅かに隣り合っている草地を越えてフォギーケープへと流れてきた。


 町との境で岬に近い場所である野原、30メートル幅長さは100メートルもあるだろうか、そこが隣町との唯一隣接する場所だった。

 野原とは言え、当時は人の背丈より高い草も生えていたため、異動して来る人々は鎌で草を刈ったり足で踏みつけたりして、やっと獣道のようになった所を荷馬車や徒 歩で渡ってきた。


 少しずつ人口が増えて、農業で食べられるくらいになり、商売をする人も出てきた。

 住めば都で、朝や夕方に霧が出てきても【神秘的でなんとなく雰囲気がある】

【周りが見えないなら家にいれば良いんじゃないか】くらいの気持ちになってきた。


 それと利点が見つかった。

 霧が出る事で、野菜への水やりが少なくてすむ。

 寒暖の差が大きいため野菜などは甘みが増して美味しくなるのだ。

 自分達の植えた野菜の美味しさに、村の人々は嬉しくなり、頑張って畑を広くしていった。

 人口も増えてきて、町としての形が整って来た頃王都からこの土地を治める初めての領主様、現エバンズ様のご先祖様が妻とやって来たのだ。


 大変な道を、御者とエバンズ様は皆と同じように鎌で草を刈りながらやって来た。


 始めてこの町を見た領主様は、町の小ささに驚いていたが、貴族の次男である自分が領主になれること自体有り難い事なので、この街を発展させここに骨を埋める覚悟で妻と暮らすことにしたのだった。

 代々のエバンズ御領主様達は、皆優しくて人柄の良い方ばかりだった。


 発展させるための第一歩が道を作る事だった。

 まず、町の中心から隣町までの道を整備し人や馬車が通れるようにした。しかし隣町を通っている道に繋ぐにはサンフィールドの領主様の承諾が必要だった。


 出来て間もないフォギーケープから土産になる物はまだ何も無かった。

 エバンズがここの領主となるために家を出てくる時、財産分けとして父から少しのお金と宝石、エバンズ領特産のウイスキーをもらい受けた。

 父も来られないような小さな田舎町。苦労するということは分かっていたのだろう。「何かあったら使いなさい」と寄越したに違いない。

 第一、道路が無ければ、人の往来が出来ない。商人を呼べなければ生活が立ちゆかなくなる事が分かっていた。


 エバンズ様は隣町サンフィールドの領主様にウイスキーを何本かと少しのお金を持って行って道を通させることを承諾して貰った。


 それからはフォギーケープの皆と一緒になって鎌を片手に草を刈ったり、奥様と炊き出しをして持参したお金を使って道を通したのだった。


 そして、ようやく馬車も通れるようにした。

 そのお陰で月に一度は一人の商人が来られるようになった。

 馬車に沢山の商品を乗せて来ると、町の人々が祭りのように集まって買い物に笑顔を見せていた。


 他の豊かな町を回っている商人だったが、月に1度貧しいこの町に来ても嫌な顔をせず、色々な品物を持って来てくれた。

 町の農産物など売れる物は全て買い取ってくれた。それは本当に有り難い事だった。町民が現金を手に入れることが出来る唯一の事だったからだ。

 

 売買の税金も低く抑えられて、町民も領主様に感謝した。

「よい領主様で良かった」

そうして少しずつ人口も増えて行った。


 エバンズ様は仰った。

「この地域は辺境の地ではある。人口も少ない。しかし、これからは作物や魚が多く獲れるだろうし、少しずつではあるが豊かになっていくだろう。それまでは、皆で助け合い住みやすい良い地にして行こう」



          ☆ ルリア会社を興す


 エバンズ領主様が城を去った日、ルリアは他の使用人3人と話をした。

「皆さんはこれからどうされるのですか?」


シュバルツさん

「妻も居ないし、子供達の所に行く気も無いからね。のんびり一人暮らしをするかな?」


ブラウン夫妻

「まぁ何処かの食堂で働かせて貰えるかも知れないな。お給金はかなり安くなるだろうけど」

「しょうが無いわよ。宿屋なら二人で働けるかも知れないけど、この街に泊まりに来る人も滅多にいないだろうから」


「あの・・もしも・なんですが、もし宜しければ私に雇われて頂けませんか?」


「えっ?・・・・」

 三人の目がルリアを見た。


「実は私、会社を興そうと思って居るんです」

「会社?会社ってなんだい」アネットが聞いてきた。


「会社という組織です。町で働くとすると、働いた時間や日数でお給金が出ますよね」


「そりゃそうだ」と料理人のブラウンさん。

 他の二人もウンウンと頷いている。


「私の場合は皆さんを正社員として働いて頂きたいのです」

「決まった時間、例えば朝8時から夕方5時まで働くとします。昼の12時から1時までは昼休み時間にします。5日間働いたら2日間はお休みです。

 大体ですが1年の内110日間近くが休みになる計算です。他に有給休暇を設けます。

 そうですね、半年働いてくれたら5日間。

 1年働いてくれたら10日間。

 2年目からから2日ずつ増えて、6年間で20日間ですね。それ以上の勤務は、毎年20日間としましょうか。

 有給休暇と言うのは、いつでも好きな時、或いは急な用事などがあったときに休めることです。 休んでもその月のお給金は減らないという制度です」

「細かい事は就業規則を作るのであとで見て頂けるようにします。最初は領主様と同じくらいのお給金は出せないかも知れませんが、どうでしょう。会社の利益が多ければ別に報酬を出します」


 三人は唖然としていた。

「何処にそんなお金があるんだ?昨日だって領主様にため込んだお金を全部渡してたよな」ブラウンさんの言葉に他の二人も頷く。


「そうですね。あのお金はあくまで領主様から頂いていたお金と、今まで商売をして得たお金の一部です。あのレースを売って得たお金はまだ他にあるのです」


 3人は又もビックリして口が開いたままだ。

 シュバルツさんが問う。

「それで私たちが社員になったとしてどのような仕事をすれば良いのですか?」


「はい。まず、屋敷の資産の把握、会社の就業規則・商売とお屋敷の資料作り・そして売り上げなどの帳簿を付けて頂きたいです。

 とても忙しくなるでしょうから、頼りになる若者を探してきて第2・第3の執事を育てて欲しいです。それに執事の経験を生かして、町民や商人との折衝等ですね」


「一番大事なことを言い忘れていました。子供達への教育が出来る方を探して欲しいです。

 私は孤児院の皆がきちんと働けるようにしたいと思っています。

 あの子達が将来、私の会社で働くも良し。何処かのお店や職人さんの所、他の町へ行っても良いと思っています。夢を追えるように教育したいのです。多岐にわたり大変でしょうが如何ですか?」


「うーむ、なるほど。・・・仕事量が多くて老体にはちょっとキツそうですが、子供達の夢・・叶えられるよう協力しましょう」


「ありがとうございます。嬉しいです。

 ブラウン夫妻には今まで通りここの皆の食事と、あっ、あんなに豪華な食事は要りません。

 町の人達が食べるような、時間のあまり掛からないような簡単な食事で良いです。

 そして孤児院の子供達が自立できるようにお料理と洗濯、片付けの指導をお願いしたいです。

 料理人になる夢を持つ子も出ると思いますので。その他にもお願いしたい仕事が出来たら知らせますね」


「俺はまだやるって決めてないよ」

「良いじゃないか。あんただって他に行くより気が楽だと思うよ。何より二人で働けるんだ。有り難いよ」

「ん~・・。まあ、そうだな。分かったよ。宜しく頼む。本当はどうすれば良いか分からなくて不安だったんだ。すまん」


「皆さんありがとうございます。領主様はこの屋敷が痛むのを心配して、そのまま使って良いと仰ってました。

 まぁ直ぐに私の物になりますから、今までどおりの部屋で暮らしましょう。

 一階の広間を会社の仕事をする部屋にしようと思っていますが、仕事によってどんどん変わって行くかも知れません。私は儲けが出るように頑張って行きます」ルリアの所信表明であった。


「あっ。忘れていましたが、会社の会長は私ですが、副会長はコーネリアス、私の婚約者です。皆さん、これから宜しくお願い致します」と恥ずかしそうにお辞儀をした、

 

 皆は一瞬えって・・驚いた顔をしたけれど、次には「おめでとう」と笑顔で声を掛けてくれた。


「ところで商会名・・いや・会社名とかは決まって居るのですか?」シュバルツさんの言葉に、

 「・・・・・考えてませんでした」


「それなら、ルリアの名字でハレミヤ商会で良いんじゃないの」

 アネットの提案に他の二人も頷きながら「それが良い」と言ってくれた。


【ハレミヤ】

 前世を思い出した時、自分の名字は「ハレミヤ」だと皆に伝えていた。 

 普段は名字を名乗ることもないので、久々に聞いた晴宮の名前に前世を、そして家族を思い出し涙がこみ上げてきた。


「はい。ハレミヤ商会で行きましょう。皆さんありがとうございます。そしてこれから宜しくお願い致します」



          ☆ ルリアとコーネリアス


 ルリアとコーネリアス二人の関係は前世に遡る。

 2歳違いの二人は、遠い親戚に当たる。


 ルリアこと瑠璃は晴宮家の本家で三人兄弟の末っ子。祖父母と両親、それに兄二人からとても可愛がられて育った。


 特に祖父母は全部で4人いる孫のうち、女の子が瑠璃だけということもあって、それはそれはとても可愛がってくれた。


 それでも家族は甘やかし過ぎないように躾をし、好きなことを一生懸命頑張れる子に育てた。

 見た目のお淑やかな雰囲気とは別に、兄達のおもちゃを分解しては怒られたり、鬼ごっこで走り回ったりという面も持ち合わせていて、中学・高校ではテニス部に所属して、顔を黒く日焼けしながら勉学と共に頑張っていた。


 コーネリアスこと幸貴は瑠璃とは親戚とは言え、互いの家同士は滅多に行き来していなかった。

 僕達兄弟の初参りの挨拶の他は、必要な冠婚葬祭だけの繋がりだったような気がする。

 両親が晴宮の本家をなぜだか嫌っているのは分かっていたが理由は分からない。

まあそれだけ血も薄まった関係になっていたのだと思う。


 僕の中学卒業の挨拶のために本家に向かう日。家を出る前に両親の話し声を聞いてしまった。

「中学卒業だから一応本家には挨拶に行かなくちゃ成らないけど、正直面倒だよな。・・・」

「でも幸哉が中学卒業を目前に肺炎を患って入院しても、卒業祝いを結構貰ったわよね。今回もきっと沢山貰えるんじゃないかしら。多分幸哉の時と同じ10万円はあるわよね。楽しみだわ。今晩はお寿司でも取りましょうよ」


 普段は本家を蔑ろにしていながら、実は利用しているんだと思い込んでいる我が家が失礼なのに・・・聞いてると腹が立つ。

 そんな思いを抱えながら本家に向かった。


 本家の長男俊太郎さんと幸貴の兄である幸哉も、自分がこれから通う高校と同じ高校に通っていたがクラスや部活が違うこともあり、それ程付き合いも無かったようだ。


 本家の人間は皆優しく応対してくれた。

 来る者は拒まない人達で、普段関わらないよう疎遠にしている野宮の家族を鼻であしらう事はしない。


 本家の客間でも、相手に対して失礼な話を平気で話す両親の話を聞いてうんざりしていると、女の子が「失礼します」とお茶とジュースを持って入って来た。


 中学生くらいなのかな?前髪を少し流して三つ編みをお下げにした可愛らしい女の子だった。人数分の飲み物は持てなかったらしく、次男の俊介さんと二人で入って来た。


「どうぞ」と、可愛らしく僕の前にはリンゴジュースが入ったグラスを置いてくれた。


「ありがとうございます」

「えっ、・はい」

 お礼を言われると思っていなかったのだろう。ちょっと驚いた顔をしたけど、にっこり笑ってくれた。


 可愛い・・胸がドキドキ煩く感じる。


 俊介さんが

「今度は僕と同じ高校だね。部活は決めてるの?中学では何の部活だったんだい?」

「中学では科学部でした。でも高校では運動部にしようかと思っています。運動はあまり得意ではないのですが・・体力を付けたくて・・恥ずかしいです。俊介さんはテニス部でしたっけ?」


「そうなんだ。うちはあまり強くない部なんだけど見学に来て見れば良いよ。そんなに厳しくやっているわけじゃないけど、みんな仲良いし真面目に且つ楽しく練習しているんだぜ」

 笑顔が太陽のように明るい。


 この人好きだ。直感的に思った。

「僕もぜひテニス部に入らせて下さい」

 絶対この人達と関わりたいと思った。僕の直感はいつも当たる。


 そんな僕を両親は変な顔で見ていたけど、晴宮家の皆さんは嬉しそうに「頑張れよ」とか「俊介、虐めるなよ」なんてからかっていた。

 俊介さんの横に座った瑠璃ちゃんも嬉しそうに笑っている。

 その時僕は、『この子は僕のお嫁さんになる』と思った。


 時は過ぎて高校の先輩後輩だった関係に区切りを付けて、瑠璃と僕は付き合い始めた。

 交際の申し込みは勿論僕からだった。

 高校生になった瑠璃は、初めて会った時から見てずっと大人びて見えとても美人になっていた。

「まずい」と思った。こんなに綺麗になってしまって、他の男共が黙っていないだろう。

 それでもラッキーだったのが、瑠璃もテニス部に入ってきて、二人の距離がぐっと縮まった。

 今まで学年が違っても同じ高校にいたから、部活も一緒・生徒会にも誘った。

 成績はトップだったことを良いことに、「勉強を教えてあげる」なんて言いながら、図書館で一緒に勉強もした。

 そんな事を繰り返しても一年すれば自分は大学生になって瑠璃と簡単に会えなくなる。


 何を考えているか分からないと、よく両親に言われるくらい冷静で表情をあまり変えない自分だったけれど、瑠璃の事を考えるだけで胸がドキドキして勉強をしているはずなのに、気が付けばノートには【瑠璃・瑠璃・瑠璃・・・】と瑠璃の名前ばかり書いていた。

 もう我慢出来ない。明日は図書室で勉強を教える約束をしている。その時に告白しよう。

【もし断わられたら?】

 いや、絶対OKしてもらう。


 そして翌日「瑠璃、君が好きだ。僕と付き合って欲しい」と告白した。

 最初瑠璃は戸惑っていたけど、「嬉しいです。宜しくね」って言ってくれて。

 あーもう僕は嬉しくて、天にも登るくらい舞い上がっていた。それからは二人で、

図書室で勉強も一緒、帰りも一緒に帰った。

 休みの日も市の図書館で一緒に勉強したし、帰りはカフェに寄ったりもした。


 僕が大学に入ってからも、瑠璃の休みの日にはデートしたり、図書館で勉強を教えた。

 その後何ヶ月かが過ぎた頃には、瑠璃を送っていった最後は必ずキスをするようになっていた。

 僕はもう瑠璃と離れない。と心に誓っていたし、瑠璃も同じ気持ちだと信じていた。


 大学に入って2年、瑠璃も高校を卒業する。

 瑠璃が同じ大学に入れば、今までお互い見えない距離から少しは近づく事が出来る。お昼はなるべく学食で一緒にご飯を食べた。けれど帰りは研究などで遅くなることもあり、いつも一緒に帰ることは出来なかった。


 ある日、友人から言われた。

「お前の彼女だろ。晴宮瑠璃って綺麗な女の子」

「昨日、他の学部の学生に告られていたぞ。・・困った顔して断わってもしつこく言い寄られてたな。運良く彼女の兄が間に入って連れて帰ったみたいだったよ」


「良かった。後で俊介さんにお礼言っとくよ。教えてくれてありがとう」

 僕も周りの女の子から告られる事が多くなり、煩わしく思ってきていた。

 何とかしなければ。やはり前々から考えていたことを実行に移そう。


 僕の中では将来瑠璃と一緒になって、尊敬する晴宮家の手伝いをすることに決めていた。だから瑠璃を守るためにもプロポーズは早いほうが良い。


「瑠璃、瑠璃が大学を卒業したら僕と結婚して欲しい」

「本当に?・・・・、幸貴さん嬉しい。一緒に幸せになりましょう」

 涙をためた瑠璃の瞳の輝きは今でも忘れられない。

 こうして瑠璃の大学卒業と共に僕達は婚約した。



          ☆ 町は発展していく


 会社を興してからのルリアは忙しかった。

 森の主様の名前をお借りしながらも、町の人々の暮らしを改善していった。


 商売をする人達のために、同じ業種同士のギルドを作らせた。

そうしてそのギルドごとに第一段、第二段と徐々に難しい技術を伝えていった。


 最初に一番技術の進んだのが、鍛治屋だった。

 今までは野菜用菜切り包丁と魚捌包丁くらいしか使ったことが無かったため、肉切り包丁を作らせた。

 今まで貧しさ故に殆ど肉を食べたことが無かったので仕方なかったが、これからはお肉も沢山食べるようになると確信していた。


 その他にも、天ぷら鍋、魚や肉の燻製機、無水鍋のような物を試作してはその都度試してもらっていた。


 鶏農家を増やすため雛を大量に仕入れ、場所と飼料も無料で買い渡した。


 牛や羊を飼っている酪農家には子牛を増やすように伝え、肉や牛乳やチーズを多く生産できるようにした。


 農家にはハーブ園を作らせて、何種類もハーブを作っては料理人に渡した。

 漁業者には、魚を生で食べる方法を教えたり、冬にはなるべく多く干すことを伝えた。


 こうしている内に、生産者達は自ら考え工夫して美味しくなるやり方、簡単にできるやり方を工夫し始めた。


 初めは、苗や家畜や鉄製品などはルリアが出資していたが、それぞれ出来た品物が質の良い物に仕上がってくると、商人が買ってくれるようになって皆お金が貯まってきた。


 こうして5年間はあっという間に過ぎて言った。


 実は二人の会社の収入はボビンレースだけでは無かった。それよりも稼いでいたのはコーネリアスの作る薬だ。


 この国において薬の製造は、薬に対する知識、つまり薬剤師になるための試験を受けて資格を取らなければならない。

 大学が少ないため、大学で学ぶことが出来なくても小学校や中学卒業後独自で勉強出来るように時間を与え、17才になってそれなりの知識を身につけることが出来れば薬剤師の受験を受けて資格を得る事が出来るようになっている。

 かと言っても17才で薬剤師になった人間は今までいないらしい。


 ルリアが会社を興す前、17才になってすぐに、コーネリアスは一番近い試験会場のあるアユタリスという大きな町まで行って試験を受けることにした。


 試験前3ヶ月も早く町に乗り込んで、薬に関する本を買い、宿に缶詰状態で勉強をしたのだ。


 前世の知識との違いを確認するだけだったので割と簡単だった。


 あとは薬の材料を売っている店に行き、見たことの無い植物を確認して歩いた。そうして、コーネリアスは最年少で試験を突破した。

 まあ前世では薬剤師の免許(この時代大学4年でとれた)も持っていたし、宗右衛門の会社で研究員をしていたのだから楽勝だった。


 前世を思い出した9才のあの時、驚いたのは、孤児院の裏の畑の奥。

ルリアと内緒の話をするために、子供の背丈より高い草むらの方に行った。


 そこには草に覆われながらも、所々に薬草が何種類も生えていたのだ。僕達は内緒の話も忘れて「もっとあるかも」と草むらを慎重に探し歩いた。

 驚いた事に、かなりの広い土地に100種類ほどの薬草が生えていた。

そのままでは使えないくらいひ弱な状態だ。

 僕達は孤児院の畑からは見えないくらいの距離を置いて、ルリアの魔法で雑草を抜き薬になる植物だけを綺麗に植え直して行った。それが薬草園の出来上がりだった。

 他の野原には絶対生えていない薬草。誰かが意図的に植えていたのだろう。

 それはこの町の昔の住人の話を思い起こさせた。


 ルリアが9才で前世の記憶を思い出してから見つけたこの薬草を、宗右衛門さんが持たしてくれた薬草の苗と種も二人で8年間大事に育ててきた。勿論収穫もした。

 そしてそれらは僕が持って来たマジックバックにどんどん入れていった。


 転生する前に祖父が幸貴君に持たせたバッグは魔法のバックだった。

 どんなに沢山入れても軽くて、他の人には着替えが入っている分しか見えない。


 一つのバックのその中には、私の大事なボビンレースのレース用糸が5種類の色で巻きが各300個、大豆が200粒、薩摩芋100個そして、なんと種籾60キロが入っていた。その他にもいろいろな種が入っていた。


 もう一つの幸貴君用のバックには、薬を作るための器具も入っている。

 流石に最先端の大型の物は持ってこられなかったが、緻密な上に小型の量りや粉砕機などを持って来た。

 電気が必要な物は、ルリアが魔石で利用できるよう魔法を掛けてくれている。


 この頃にはコーネリアスもルリアの会社で働き始めていたし、勿論同じ屋敷の同じ部屋で暮らし始めていた。


 現在、屋敷の2階にある私達の寝室の両サイドにはそれぞれの部屋を用意してある。

 コーネリアスは自分の部屋を薬造りの作業部屋にしている。

 マジックバックには薬の材料がたんまり入って居るので、夢中で薬を作って居る。


 あの後、私達は薬草園から離れた土地に食物畑を作った。この町に必要な食物を選ぶ。食用油が不足しているので、菜種とひまわりを植えた。

 この国には無い薩摩芋と里芋。これが上手く育てば特産物として

売れるだろう。


 大豆はカラスなどに食べられないように、バッドに種を蒔いて孤児院の庭で育て、苗にしてから畑に植えた。

 大豆は枝玉として簡単に食べることも出来るし、何せ味噌と醤油が作れる。

 そうすればこの町の特産物として売る事も出来るが、それより自分達が調味料として使いたいのだ。


 綿花も植えた。ボビンレース用の糸を製造するためだ。この国の糸や布の質は悪くないのでレースは次々と編めている。

 ただ、これからは量産を目指し機械で編めるようにしたいと思っているが、今の機械ではルリアの作るボビンレースの緻密さを作る事は未だ難しいだろう。


 それでもレースはその内他の商会などが真似て機械で作るようになるだろう。そうなれば、こちらの値の張るレースは売れなくなるかも知れない。他社が真似る前に今ある機械の調整を急がなければと思う。

 それまではレース編みの得意な子供達と一所懸命作って儲けなければならないし、平行して別の商品を考えて行こうと思う。


 畑には他に、主食用の小麦と大麦を植えた。差別化を図るためにライ麦も植えてみた。

 ここの農家も小麦を作っているが、毎年足りなくて商人から自分達の物より高い値の小麦を買っていた。

 商人は最後にこの地に来るため麦の質も落ちているが、そんな麦を買うしかなかったのだ。


 何年か前、国内各地の麦が不作で、この町に商人が来たときには殆ど麦は残っていなかった。

 町の人々は町で獲れた麦を分け合ったり、多く獲れたジャガイモやカボチャ、そしていつもの豆料理で一年を凌いだ。


 孤児院はもっとひどくて、食事は野菜くずを多く利用したスープが殆どだった。

太っている子は誰もいないが、益々痩せて目の大きさが目立つ子も増えていた。


 もうそんな思いを誰にもさせたくない。

 沢山収穫できたら、それを保存する倉庫を建てなくては・・・。

 主食だけでなくみんなの食を守りたいとルリアは思っていた。


 最後に、一番山に近くて他の畑から離れたところに見えるのが広々とした田んぼだ。

 山から染み出た湧き水が川となって流れている。この川を魔法で田んぼに流れるようにした。

 お米が食べられるという喜びはもの凄く大きな糧となった。


 畑や田んぼを作った二人は、この作物が盗まれないよう、周りに柵を作った。高さが2メートルあり、先端が尖っていて当たれば痛い。元は廃材だが、二人はそれを石化して簡単に壊したりは出来ないし燃えないようにした。作って居るのを誰にも知られないように少しずつ長くして行った。それは、さも手作りしているように見せられた。


 畑への入り口も孤児院からでないと入れない。畑の管理も孤児院の子供達の仕事にした。

 この町の人達の中に悪者はいないと信じている。ただ、これからいろいろな人がこの町にやってくるだろう。そのための防衛策なのだ。


 一生懸命働けば沢山食べられると思って子供達は皆懸命に働いてくれた。

 ルリアとコーネリアスはその気持ちに報いたいと思った。


 こうして春に植えた作物は徐々に収穫の時を迎えた。


 この土地にも彼岸花のような赤い花がある。

 畑から離れた道沿いにはその彼岸花が一面に咲いて、風に靡きながらうねる様は見事だ。


 収穫はハレミヤ商会の社員、町長さん、孤児院のみんな、食べ物商売の関係者、町で無職の人をアルバイトで雇った。


 枝豆は茹でて塩を振っただけで試食。

 大粒の豆の大きさに驚きながら、こんなにシンプルな味付けなのにとっても美味しいと笑う皆の顔が嬉しい。


 薩摩芋は大きな釜で蒸かし試食。

「こんなに甘い芋が・・・ほくほくして美味しい。お菓子みたい」と初めて食べた感触に感激していた。

 後にケーキ職人はどんな物が作れるのかレシピを教えて欲しいと言ってきた。


 里芋の煮付けにも驚いていた。

「このつるつるして、ねっとりした食感がたまらない」と言ってる。スープに入れて食べているが、腹持ちが良くて嬉しそうだ。


 試食できたのは野菜や根菜などだけだ。


 お米は収穫したが、今は稲架はさ掛けに干してある。干し上がるまで1ヶ月近く掛かるだろう。

 それまでに木工や石工職人に頼んであるが、水車での精米機が出来上がると良いんだけど・・・って簡単だったみたい。

 麦も一緒に挽けるということらしい。良かった。これでご飯が食べられる。


 綿花は収穫だけして取ってある。糸巻きを用意してから製品にする。


 こうして1ヶ月後、手伝った皆にお米を炊いて、振る舞うことにした。


 漁協で今朝獲れた鮭に似た魚を買い塩焼きにした。それを孤児院にいる10才以上の子供達と身をほぐしてからご飯に間に詰め込み丸く握った。子供が作ったものだから形は歪な物が多かったけど、この国に来て初めてのおにぎりを食べたときは感慨もひとしおだった。勿論皆にも食べて貰った。

 コーネリアスはゆっくりと噛み締めながら食べている。

 

「涙が出そうだよ。ルリア、美味しい!」

「よかったね。コーネリアス」


 他の皆達も「美味しい。美味しい。こんなの食べたこと無い」って言っている。

「アハハハ」皆の驚く顔が面白くて、ルリアはつい声を出して笑ってしまった。

 それに釣られ他の参加者も笑いだし、楽しい試食会となった。


 無職だった人達も全員が農地・森林作業員兼雑務員として正社員になった。


 孤児院の卒業生も皆ルリアの社員になった。

 手の器用な子はレースを作り、計算や文字が得意な子は事務の手伝いとしてシュバルツさんの下に付いた。

 力仕事が得意な子達は山や農地の整備と農作業に就いた。こうしてハレミヤ商会は忙しくなっていった。


 この町が活気づいてきた。

 偶にしか来なかった商人が毎月来るようになった。それも一人では無くて、月によっては3人だったり、4人が来る時もある。新しく出来た宿屋も忙しくなって来たようだ。


 質の良い野菜、牛や羊の肉、チーズやバターなど、ハレミヤ商会が一度買い取って、買いに来た商会に売っている。商売を知らない町民に損をさせないためだ。


 商人だけで無く、隣町サンフィールドのパン屋や食品店などの多くの個人経営の店主が、麦や包丁、鍋などを買いに来る。

 薩摩芋は今のところ加工品だけを売っている。その内ここでしか育たないように魔法を掛けておかないと、と思っている。


 シュバルツさんの下に着く若い執事が二人決まった。

 町長さんの息子さんは王都で働いていたが地元で執事の仕事があると聞き戻って来たのだ。

 もう一人は、土木・建設ギルド会長の次男だ。大工よりも算術などの勉強が好きで、王都の商会で働いていたそうだ。

 二人とも優秀なので、シュバルツさんも「楽になった」と喜んでいる。


 レースは相変わらず良く売れている。

 神父様、シスター、シュバルツさんが話し合って、値段の交渉や商人への振り分けを決めている。

 ハレミヤ商会では町民の皆さんが作った物で、他の町で売れそうな物も取り扱っている。少しでも儲けて豊かになって欲しいからと思い手数料が殆どない状態だ。


 現在の会社は、薬の販売額がとてつもない事になっている。

 初めて商人に薬を渡したら驚いていた。

 「あのレースの他に薬ですか?どれだけ稼ぐおつもりですか?」半分呆れ声で言われてしまった。


 それでも、

「全部うちで買い取らせていただきますよ。試しに少し売ってみましたが、ここの薬は良く効くんですよね。他の商人には渡さないで下さいね」と念を押された。


「大丈夫ですよ。初めてこの貧乏な町に来てくれた商人は貴商会だけでした。町民の皆、貴商会に感謝しているんですよ。

 オリバーさんで4代目ですかね。貴方ももう5年くらい通って来てくれていますよね。これから暫くは貴商会と貴殿への恩返しです。うちの薬をどんどん売ってください。

 あとうちの薬は一番必要だと思われる数種類を一袋に入れて説明書も入って居ます。それは、どの薬がどういう症状に効くのか細かく書いてあります」


 ルリアから掛けられた言葉にジーンと感動するオリバーであった。が、『説明書』の言葉にはしてやられたと思った。

 今まで扱っていた薬は、どんな症状に効くか説明はするが、日にちが経てば忘れてしまう人が多くいる。

 ところがここの薬の説明書があれば、どんな症状にはどの薬が良いか、どれとどれを一緒に飲んで良い薬なのか書いてある。

 そのために何種類かの薬をパックにして袋に入れて売っているのだ。

いざという時に役に立つようになっている。


 国の政策によって、今は昔よりはずっと医者も増えている。


 しかしそれでも未だ未だ医者は足りていない。この町にも未だ医者がいない。

それを補っているのが薬だ。


 今出来たばかりの田舎の商会が、ここまで客に対して気遣うことが出来るなんて・・・

『恐ろしい。この若い会長はどれだけの知識を持っているのだろう』

 オリバーは思わず身震いをした。


 そばに居た執事達も、この若い女性会長がここまで気を配る商売が出来ることに感動していた。

 第3執事のベンジャミンは、自身が王都の商会に勤めていた経験もあったから知っている。

 金や地位のある人間の横暴さ、横柄さ、汚さ。そこの代表だって同じような人だった。

 商会で働く人間を、タダの駒にしか考えないような人だった。

 ここは出来てまだ新しいが、規模も結構大きな商会だ。今はそんな汚さは微塵も見えない。

 兎に角町民のためになる事をやりたい。その思いの強さが滲み出ている。


 お陰で父が働く建設業業界は、建設ラッシュだ。どの業界も同じで、それもこの商会からかなりの資金提供がされているからだ。


 もっと利益を上げないと、会社は大丈夫なのだろうかと心配になる。思わず眉間に皺が寄った。

 勿論経営状態は知っているので、全く以て心配は無いのだが。


 それでも自社で各地に商人を送った方が儲けになる。なぜそれをしないのだろうと先日社長に聞いたことがあった。


「それをするのはもう少し後です。今はまだ今までのご恩を返す方が先ですよ」と。


 恥ずかしかった。自分が今まで培った商売とは何だったんだろう。

 数年前だが、横柄な客がいた。

「ありがとうの言葉の後、俺に頭を下げろ。たかが商人風情が・・」と言われて悔しかった。

「もう来なくて言い」と心の中で叫びながら、頭を下げ見えないように舌をだしていた。


 けれどこの人は・・・うちの会長は何もかも分かっているんだ。

 この人に付いていけば間違い無いのだ。ベンジャミンの顔は晴れ晴れしていた。


 こうして、ハレミヤ商会は取引量が大きくなり、町には観光客も増え豊かになっていった。

 


          ☆ 町を作り直そう


 冷たいパイナップルが食べたい。


 うだるような熱い日。

 ルリア達とコーネリアスが会社を興してから5年が経っていた。


 今日は各職業ギルドの代表を集めての第2回目の会合だ。


 ギルドは各職業ごとから商業ギルドとして一つになった。

 嬉しいことにその考えは、土木・建設ギルドからの提案だった。未だ未だ町が小さいため、ギルドを一つにして、各職業は部門別にしてはどうかと。


 皆が賛成して始まったが、部門が違ってもお互いの仕事の気がついたことを話し合うことで相乗効果が出て来ている。


 この町も変わりつつあるのだ。


「皆さん、前回お願いした【新しい町を作ろう】の素案を考えて来ましたか?」


農業部門代表・・・

「畑のある地域と商業地域、住宅の地域など同じ職業を出来るだけ纏めたらどうかと思います」


商業部門代表・・

「荷馬車等が行く方来る方、両方の道幅を広く作り、その両側に人々の通れる道を作ったらどうかと考えています」


飲食部門代表・・・

「飲食系は清潔さが大事ですから、町や道が綺麗に保てるようにして欲しいです」


鉱業部門代表・・・

「我々は出来れば町から外れた方がいいなあ。音も煩いし、火を使うから危ないしな」


漁業部門代表・・・

「まあ、我々は海の側で良いしな。ただ、町民や観光客が遊びに来られると危ないから、港から離れた所に海遊びが出来る場所を作ったらどうかという意見が出たぞ」


町民代表・・・町長・トーマス

「皆さんの意見を元に、ハレミヤ商会と話し合って設計図を作りたいと思います。

その時は又、声を掛けます。

「前回皆さんに伝えた税金の件は了承して頂けましたか?御領主様がいない現在は税金は徴収していません。ただ、今後は自分達でこの街を発展させ、守らなくてはなりません」

「最近、他の町からの客や商人などが来るようになって、トラブルも起きて来ています。そのため、御領主様がいた時に協力していただいた方々に加えて町に住む何人かの退役軍人と兵隊経験者を募り町の自衛隊を作ろうと思います」


「現在殆どの活動資金はハレミヤ商会が出してくれていますが、何時までも甘える訳には行きません。如何ですか?」

 そう町長が提案した。


 少し沈黙が流れる。

 お互い顔を見合わせたり、下を向いたりしている。

 新しい町は作りたい。でもお金は出したくない。人の心の中を表している。


 ハレミヤ商会の会長以下、執事も参加しているが、執事は参加者の顔を黙って見ていた。


 第2執事のリアムが声を上げた。

「恐れながら意見を述べても良いですか?」


 ルリアが言う。

「ここに居る参加者は忌憚なく意見を出して欲しいです。町のためを思っての会議なのですから。誰も咎めませんよ」


「では・・・エバンズ領主様が居た頃は売り上げ金に対して約3.5割の税金を掛けて居ました。現在この町に領主様はいらっしゃらない。

 けれど、町の運営は自分達で行わなければいけません。

 それならば、これからは3割の税としてやってみて、もっと儲けてきたら2.5割に引き下げて試しながらやっていっては如何でしょうか?」


 誰かが「3割かあ」と呟いた。


 そこに農家の代表が言った」

「良いじゃないか。私たちの作物や商品が売れるようになったのはルリア様のお陰だよ。今までに比べたら格段に裕福なったと実感出来ているじゃ無いか。

 きちんと税金を払って、もっと良い町にしようじゃないの」


「んだな。ルリア様ばかり当てにしても駄目じゃ。自分達も協力しなきゃ」


「そうだ、そうだ」


「よし、それでは当面3割の税金で頑張って行きましょう」町長のトーマスが後を締めた。



          ☆ 裏 切 り


 それから何日か日を置いて2回・3回と代表会議をし、やっと新しい町作りの青写真が出来た。


 今現在の町は、それぞれ好きなところに家や店を建てている。

 店の位置もでこぼこで、そのため道も真っ直ぐになっていない。


 簡単に言えば、きちんと区画整理して統一感を出し、道も広く真っ直ぐになるようにと考えた。

 街路樹も植え、街灯も増やし、町のあちこちに小さな公園を作り、郊外には大規模な公園も作り憩いの場所にすることも考えた。

 その公園の周りには・・・・・♪♪♪サクラ♪♪♪ 綺麗な町を作ろう、ルリアも楽しみだ。


 店と家はなるべく別にして、もし商売を辞めるときは店を他の人に売り渡すことが出来るようにする。

 家や店の【屋根と壁の色を統一】し、店の看板も職業を表すデザインで、鉄製で作られた。

 農家も、個人の持つ畑を一カ所に纏め、すぐ近くに家や小屋を建てれば行ったり来たりする不便さが無くなるだろう。


 お医者様がいないので、なんとか来てくれる方を探したい。

 いつ先生が来てくれても良いように病院を建てるための場所は、町の一等地に広い場所を確保した。


 木材は早いうちから主様と話し合って、間伐してある。

 この森の広さだ。町の一つや二つ分の木材なら間伐した物だけでも十分に間に合う。

 後は細かいところを詰めるだけだ。

 会議が終わって皆が帰る前に執事のシュバルツは今日までの資料と設計図を会議室の隣のドアを開け、大きな金庫にしまった。

 皆からも見えた金庫はあまりに大きかったので、思わず「凄いな」と何人かが言葉を発していた。


 シュバルツは

「あぁ皆さんお帰りですか。もし良かったら隣の部屋にお飲み物とおつまみを用意していますのでどうぞ」と慌てて隣の部屋に案内をした。

 珍しく慌てたシュバルツが金庫に鍵をかけ忘れたのを見逃さない人がいた。


 飲み物とおつまみを頂いて小腹を満たした皆が帰り、大きな門は閉じられた。


 ハレミヤ商会には、執事達3人や護衛も5人が一緒に暮らしている。

「そろそろかな」

「ああ。今日は間違い無いだろう」夜中に何やら物騒な話しが小声で聞こえてくる。

 少しして、「来たぞ」一人の護衛が知らせに来た。

 ぎっ。と通用門を開けて一人の人間が入って来た。

 わざと鍵が簡単に開くように細工しておいた使用人用のドアから屋敷に入ったようだ。

 明かりも消えて暗いのに、目的の物が何処にあるのか良く分かっているのか、迷うこと無く目的地に向かって廊下を歩いて来た。


 その人は一つの扉の前に立った。左右を確認し扉を開け部屋に入った。

 この部屋は日が変わる前に皆で会議をした部屋だ。


 その部屋のもう一つの扉を静かに開け、大きな金庫を前に「よしっ」小さく呟く。

 金庫の扉は重たくてもなめらかに開いた。


 中には皆で話し合った議事録や町の設計図があった。そして金庫の一番下に丸々と太った袋が二つある。


 「重そう。うふふ」そしてその袋を一つだけ両手で「よいしょっ」と持ち上げた。あまりに重く二つだと無理と判断し、名残惜しそうに一つを残し、背中とお尻を使ってなんとか金庫の扉を閉めた。


 両手に乗る袋の重さによろめきながらも部屋を出た。先ほど来た廊下を戻る。

 使用人用の扉を開けようとしたその時、「もうお帰りですか?二つ目の袋を持たなくて良いのですか?」第2執事のリアムが低い声で冷たく言った。

「ひっ・・・。えっと・・・」言葉を発することが出来ないでいる女に、

「中身を見ましたか?そんな銅貨だらけじゃ貴女の借金には遠く及びませんよ」またしても冷たいリアム。


「うそ」慌てて中身を開いて「騙したわね。こんな青銅貨だけを用意して。私を嵌めて・・・騙し討ちも良いとこだわ」


「騙し討ちも何も、分かっていますか?泥棒に入ったのは貴女の方ですよ。

細かい話しは明日町長と聞きますので、これから役場の地下牢に送ります。頼みましたよ」と護衛の連中に後を任せた。


「了解」

 女は頭をがっくり垂れて連れて行かれた。


 翌日。

 雑貨屋の奥さんことナタリーは牢屋の格子の前で町長・神父様・セバスチャン・リアムの面会を受けていた。


 ナタリーは町でも気立てがよく元気で快活な女性だ。

 手が器用なことからビーズや押し花などを使ってアクセサリーや小物入れ、小さな  額縁、造花の花束などを作っていた。

 センスも良く商人からの受けも良かった。


 この小さな貧しい町ではどんなにおしゃれをしようと思っても、どんなに素敵なアクセサリーで人気があったとしても食べ物が優先される。

 だからルリアが商人に売ってもらおうと仲介を引き受けていた。


 ナタリーの試作したネックレスの技術は素晴らしいもので、本気でやるならとルリアが材料費と道具代を投資する形で支援した。

 大工の夫には副業で宝石箱や、小物入れなどを作るようアドバイスもしていた。

 喜んだナタリーは初めて作ったブレスレットをルリアにプレゼントしてくれた。


 ルリアもブローチを買って、シスターにプレゼントしたことがある。


 材料のビーズはこの時代でも高価な物だ。

 ルリアに作ってくれた物は、数種類の蒼いビーズと金のビーズを数個使った物で、それはルリアの金髪と瑠璃色に近い瞳を表した物だった。


「本当はネックレスをプレゼントしたかったけど、蒼いビーズと金のビーズはちょっと高価だったから多く使えなくて・・・でも、とってもいい出来なんだ。

 それにジョンが作った宝石箱もこの通り。どう?なかなか素敵に出来たでしょ?

ルリア、もらってくれる?」


「綺麗だわ。ブレスレットのこの蒼が取っても素敵。それを引き立たせた金のビーズのアクセントも素敵ね。それにジョンが作った宝石箱。猫足で引き出しの取ってが髪飾りのようにおしゃれだわ」


「ナタリー、ありがとう。沢山作ってね。私も頑張って売るから」

 そうして手を取り合った二人だった。


 町民同士など個人の売買以外、この町の商品はハレミヤ商会が値段を付けて売ってあげていた。


 それは、今はまだ普通の町民が商人との交渉術を身に付いていないからだ。

 皆に損をさせないためにしていた事だったが、ナタリーは初めて来た商人から、もっと儲けさせてあげると言われ信じてしまった。

 まんまと商人の口車に乗ってしまったのだ。


 ハレミヤは売りたい品物の一つ一つに値段を付けていたが、

 商人はネックレスとブレスレットの数点、小物入れも付けて纏めて300リア払うと言ったらしい。その金額に惹かれてナタリーはどんどんその商人と取引をしていった。

 ハレミヤ商会のようにきちんとした値段で売れば、その商品なら全てで500リアにもなるのに、騙された事を知らないで300リアで喜んでいた。

 そのお金で200リアもするレースのリボンや付け襟を何枚も買って借金が増えたのだそうだ。

 数ヶ月経って、大工をしていたご主人に売り上げの金額がおかしくないか?と言われて苦手な計算をしてみて初めて騙された事を知ったそうだ。

 商人に訴えたところで「その金額で了承したのは貴女ですよ」といわれ愕然としたという。


「そんなにレースの襟が必要なのか?おしゃれにも限度があるだろう。

 それに元々計算が苦手なんだから、交渉が出来るはずも無い。ルリアさん達に任せておけば良かったんだ。

 あの人なら皆のために動いてくれるんだから」と言われた。


「ルリアが悪いんだ。こんなレース作って。誰だって欲しくなるじゃないのよ。人に借金負わせて利益を得ている悪魔だよあの娘!」

 そう言われてさすがにナタリーの旦那も頭にきた。

「この町の誰もがハレミヤ商会の世話になっている。ハレミヤ商会は手数料も僅かしか取っていないんだぞ。町長もいつも申し訳無いと仰っている」

町の皆がハレミヤ商会に助けられて生活していて有り難く思っているのに、その言い草は何だ」

「いい加減頭を冷やせ。お前が悪いんだろ」


 犯行の二日前そんな夫婦喧嘩をしたばかりだった。


 借金をこさえた理由は既に目の前の面々は把握していた。

 美人なナタリーは子供もいないので自分にお金を掛けていた。それが度を超していたのだ。何故なら、町人では高額で中々買えないルリアが作ったレースの付け襟を、何枚も買っていた。


 町の代表会議に来たときも、毎回来るごとに別のレースの付け襟をしていたことに気づいた執事達がナタリーの生活を調べ上げていた。


「何よ。ルリアだけが儲けてさ。あたし達にも儲けさせてくれたら良いじゃない」


 そこに地下牢にナタリーの旦那が現れた。げっそりと蒼い顔をしたジョンだ。


「ルリアに散々儲けさせてもらっただろう。せっかく繁盛してきて、二人で働いていればこれから子供が出来ても学校にやれるなって そう 思っていたのに うーぅっぅわー・・」

 ご主人の切ない言葉と鳴き声に誰もが言葉を出せなかった。


 数日してナタリーが釈放された。


 ルリアとコーネリアスが、直接的な被害が無かったからとナタリーへの訴えを取り下げたからだ。


 それでも、「ルリア様が許すのは今回だけですよ。次は許しません」

ベンジャミンが睨みながら語気を強めて言った。


ジョンは、

「ありがとうございました。ルリア様には本当に感謝しても仕切れません。ナタリーはきっと反省させて見せます」とナタリーの頭を手で押さえつけるように下げさせて、自らも頭を深く下げて二人で帰って行った。

 

 町長がこの町を何度か訪れている商人の中に今回ナタリーを騙した張本人がいるのを見つけて話しを聞いたそうだ。

 その商人もレースの襟を手に入れたはいいが、金持ちの少ない町を担当していてなかなか売れない。たまたま寄ったこの町で雑貨屋を開いている女主人に声を掛けて売りつけたら上手くいった。と言うことらしい。

 町長はその商人見つけ出して話し合い、この町を出禁にしたと伝えてくれた。



          ☆ オオカミ様と麒麟様との会話(三つ月の夜、の話し)


 町を再建する設計図も冬の間に作り上げて、町のあちこちで工事が始まった。

 新しい場所へ移転をする人々。その跡地に出来るいろいろな形態の店々。


 移転のために、今住んでいる家を壊さなければ成らない人々は、初めは不安もあったが、今より頑丈なレンガ造りの家が出来るとあって期待が大きい。

 何せこの町自体が貧しいため、頑丈とは無縁の板を張っただけの、隙間風が入るような家ばかりだったからだ。

 東風の風が強く吹く中でも張り切って移転の準備をしていた。


 少し前、前領主様のエバンズ様には予定よりずっと早く注文のレースを送ってこの屋敷と広大な土地はルリアとコーネリアスの物になった。


「ルリア、結婚式を挙げよう」


「本当に?・・嬉しい。コーネリアスありがとう」ルリアはコーネリアスに抱きついた。前世はあんなに結婚式を待ち望んでいたのに、今の生活があまりに忙し過ぎて結婚式なんてすっかり頭から抜け落ちていたのだ。

 既に自宅兼会社でもあるこの屋敷には二人の部屋もあり、とっくに夫婦としての生活は始まっていた。

 それでもコーネリアスはけじめを付けたかったし約束を守りたかった。


 コーネリアスが25才。

 ルリアが23才になっていた。


 お互いの家族はいないけれど、今までお世話になった人々に感謝する意味できちんとしようと思ったのだ。

 会社を興して忙しい日々を過ごしているが、商売は順調に進んでいる。

 社員達も皆仲良く、助け合いながら生き生きと仕事をしている。嬉しい限りだ。


 そうして菜種梅雨の終わった頃、二人がお世話になっている教会で結婚式を挙げた。

 教会はあの時のコーネリアスの修繕のお陰で、すっかり丈夫になり新しく白いペンキも塗られて綺麗になっていた。


 ルリア自身が作ったレースを町の仕立屋の女将が丁寧にウエディングドレスにしてくれた。勿論ベールもレースだ。

 豪華な家が数軒は建つだろうと思える素晴らしいドレスだった。


 前領主様であるエバンズ様ご夫妻も駆けつけてくれた。

 あちらでルリアのレースを扱って、商売が上向きになったそうだ。

 小さいが屋敷も手に入れたと言っていた。


 神父様は二人を前に緊張していたし、シスターは涙を流して顔がぐちゃぐちゃだった。

 

「では、指輪の交換を・・」神父様が優しく声を掛けた。

 始めにコーネリアスが、この日のために二人で選んだ細めの金で出来た指輪とルリアに内緒で買っていた小さなダイヤの指輪も薬指に嵌めてくれた。ルリアは思わず驚いた顔でコーネリアス見つめた。コーネリアスはニコッと笑った。

 次にルリアがコーネリアスの薬指に金の指輪を嵌めた。


 指輪の交換が終わったと思った時、直ぐにコーネリアスが、胸ポケットから一つの宝石を出した。

「ルリア、これは宗一さんが用意した物だと宗右衛門さんが僕に託してくれた。

 いつかはルリアにつけてあげて欲しいと願っていたものだ」

 そう言ってルリアの左耳から、普段付けている真珠のピアスを取り外してそれを付けてくれた。


 「瑠璃石のピアス? うっ 」ルリアの目からは大粒の涙が零れた。

心の中に家族皆の顔が、次々に浮かんだ。


 神社を任せられている父の左耳には、大粒の瑠璃石で出来たピアスが付けられている。

 いつもそれが見えないように耳が隠れるくらい髪を伸ばしていた。

 神社の神主がピアスだなんて・・・と言われそうだが、


「これは初代から受け継がれている大事なピアスなのだ。大昔はこの石を見た者が泥棒に入ったことがあったと伝えられている。だから、その後は石に麻紐を通して首に掛けて他人に見えないようにして代々護ってきたそうだ。

 戦後は本来の形であるピアスに戻したが、煩い奴はいるもので、そいつらに見えにくくするために髪を伸ばしているんだ。

 なに騒がれたら、言い返すだけなのだから怖くもない」

 父は笑いながらそう言っていた。


 代々受け継がれているピアスは、次世代に渡す時に金具だけ新しくしていたと聞いている。

 本家の子供達は大学を出た後、例えば俊太郎兄様は初めて神主の仕事をしたときに、俊介兄様は入社式があった日に、嬋媛大御神様の首に掛っている首輪から少し小さめの瑠璃石を頂いてピアスを作ったと聞いていた。

 兄達はそのピアスを父から頂いて左の耳に付け始めた。二人とも父のように髪を伸ばしていて、普段ピアスは見えにくい。


 そして本当に神社を継ぐ事が決まった者だけが、父から大きな瑠璃石のピアスを受け継ぐ。


 でも何故、左耳だけなんだろう。父は詳しいこと教えてくれなかった。

 結婚式の最中にふと家族のピアスを思い出していた。でも今、私もこのピアスを貰った。

 私も本家の人間だと認めて貰ったということだ。あの家に戻ることは難しいだろうけれど。これは本当に嬉しい。


「コーネリアス、大事に持っていてくれてありがとう」

 ルリアの左耳には、瑠璃石の落ち着いた蒼い光が輝いている。これから先、外すことはないだろう。


 感激の結婚式が終わって、屋敷の広間ではパーティが催された。

 普段仕事場にしている場所だが、この日のために綺麗に片付けて、多くの人を迎え入れるようにした。


 前世での暮らしとはあまりにかけ離れた生活だったせいか、あの頃のほわんとした優しさが漂う顔とは違い、この世界の暮らしの中で二人ともキリッとした精悍な顔つきになっている。


 あの頃は、会社勤めだった幸貴は服装や髪型も整えるように気を使っていたし、瑠璃は就職のために髪を肩でそろえて、入社式用のスーツを用意していた。

 現在の二人は、会社の代表などをしているが、コーネリアスの髪は所々ツンツンと跳ねているのが当たり前だし、ルリアも切るのが面倒なので背中まである髪は首の辺りを紐で結んでいる。


 二人とも綿で出来たシャツにカーゴパンツやウエストがゴムのロングスカートを履いて、町の人達と同じ格好で過ごし働いている。

 そんな前世と今を比べて思いながら、二人とも結婚式を家族に見せる事が出来ないことだけが残念だと感じていた。


 町の人達は、幾ら大金持ちになっても自分達と同じ格好をして気軽に話しかけてくれて、それにも増してとてつもない程のお金を町のために使ってくれている。

 この二人に皆感謝しかない。本当に金と銀の子供がこの町に来たのだと信じるようになっていた。

 だから結婚式に呼ばれなくても、少しでもお祝いを渡したいと駆けつけて来た町民が屋敷までの道に列をなした。

 この日屋敷のパーティ会場は夜になっても賑やかな声が響いた。


 この夜の遅くに、二人はやっと皆から解放されて部屋に戻った。

「私達は幸せ者だね(よね)。これからもこの町のために尽くしていこう」二人は顔を見合わせて微笑んだ。


 結婚式をした翌日、二人は森の主様に結婚の報告をしに出掛けた。

 以前結婚の報告をした時に、主様から結婚式が終わったら都合の良い日に来るよう言われていたからだ。


 二人で手を繋いでゆっくりと森に入って行った。

 いつも通りすぐに湖が見える場所に着いた。

 そこには主様ともう一頭?

 あれは麒麟?(聖獣?)前世でビールのラベルでしか見たことがなかったが、目の 前の麒麟の身体は揺らめく炎に包まれている。


 熱くないのか?と思っていたら、

「フン。熱くないぞ」と低くて凄みのある言葉が返ってきた。

「すみません」コーネリアスが頭を下げた。


「まあ良いではないか。二人とも良く来た、結婚おめでとう」主様の優しい声に、特にコーネリアスはほっとした。


「そちらの方はお友達ですか?」

 ルリアの脳天気な明るいその聞き方に、コーネリアスはぞくぞくと寒気がした。

『ルリア、強面の麒麟様に対してのその言葉、君って心臓が強いね』

心の中でそう呟く。


「ああ二人に紹介しよう。ここにいるのはこの国の北の山を守っている麒麟でギトークと言う。お前達の噂を聞いて会いに来たのだ」


「私達に会いに・ですか?・・・」ルリアが不思議そうに頭を傾げた。


「うむ」

 主様達は、ルリアとコーネリアスをジッと見つめた。

 二人はその目があまりに鋭いので、怖いのと緊張とで直立して固まったままだ。


「やはりな。子孫に間違い無いだろう」


「そうだな。それでは話そうか」とギトークが言う。

「ああ。そうしよう」ゲルッサも同意した。

 私達に切り株の椅子を用意してくれて、座らせてから二人の主様達は話し始めた。


 主様達は迷う素振りは無かったが、幾らか間を置きながら少しずつ、麒麟様と交代しながら話し始めた。


「この国には月が二つあるのは勿論知っているな。まあ夜には見えているのだから知らないはずはないだろう」


「はい。勿論です」とコーネリアス。


「お前達の前世では月は一つだけだっただろう?」

「はいそうです」今度はルリアだ。


「こちらには大小二つの月がある。大の月は見て分かるように右側が少し欠けた形をしている。が、満月の時は大きな分明るさも増すので、欠けた部分は見えなくなる。

 そして大小二つの月が同時に満月を迎える事があるわけだが、何十年かに一度もっと小さな月が大の月の欠けた場所に少しだけ重なるように満月を迎える。

 つまり三つの満月が現れる。私達はその日を『三つ月の夜』と呼んでいる。

 ただ大の月の横に隠れている事と、ほんの少ししか見えないため、満月の明るさで殆ど見ることが出来ないのだ」麒麟様の説明に驚く。


「以前この世界とお前達のいた世界は隣り合っていると教えたことを覚えているか?」


「はい覚えています。ルリアにも教えました」


「先ほどギトークが言った通り、三つ月の夜、二つの世界は何十年かに一度、短い時間重なるようなのだ。つまり互いの世界を繋ぐ道が出来る・・・・ただ、三つ目の月の周期が分からないため、次にいつ重なるかは予測するのが難しい」


「繋ぐ?繋ぐってどういう事ですか?又向こうの世界に行けるって、帰れるって事ですか?」普段冷静なコーネリアスの声が大きくなった。


「ああ、三つの月が見えれば帰ることが出来るかもしれない。し、・・・出来ないかも知れない」


「見えれば?だって三つ重なったらいつもより明るいし・・・何故見えないのですか?」


「先ほども言ったが、大きな月の影に隠れて縁しか見えない。人の眼では見えないのだ。それに三つ月の夜は、今までは春に現れそして道が通じた。こちらの世界でのその時期は最も霧の濃い季節だ。霧に邪魔され月も道も見えにくい」

「この世界の人間の誰もが見たことも聞いたことも無いだろう。町の人も知らないからお前達も聞いたことが無かっただろ?」


「確かに。夜の月を見ても、誰もそんな月を見た話をしないし、言い伝えがあるとも聞いたことが無い」


「それに・・・通じるのはお前達の世界とは限らないのだ。この国と何処かの国が通じると言うことだ。もしかしたら、何処かの国同士が通じることがあるのかもしれない。そこまでは分かっていないのだ」


「けれど、必ずではないがその道を誰かが通って来ることがあるため、我々は見逃さないよう警戒して見ている」


「・・あの夜・・お前達が来た日も三つ月の夜だった。お前達は繋がった道を歩いて渡った訳では無いが、強い力でうまくその道の中に飛ばされたのだろう。森の中で見つけられて本当に良かった」主様の声が優しさを帯びている。


「この国には他にも東の山と西の森、そして中央の湖を守る聖獣がいる。この国の5大聖獣だ。三つ月の夜、5大聖獣は自信の守る土地に道が現れるか見守っている」


 続けて麒麟様が話し始めた。


「昔の話をしよう。

大昔、この国で内乱に発展しそうな事件が起きた。昔はこの国も沢山の魔法使いがいたのだ。

 王都には昔、魔法使いが在籍する魔法省があった。その管轄下には魔法研究所や国の治安を守るための小さな軍隊もあった・・・」


「省のトップは当時の王様の弟で、この国一番の魔法使いだった。

 王である兄より優しい顔つきで、背も高く細身ながら魔法や剣術にも長けていて、将軍でもあった。

 当時の王族は国民からも慕われていて、民を思い我々をも大事にする良い王族と国だった」


「だった?」

 

 麒麟様が辛そうに話し出した。

「ああ・・・・・。魔法省のトップだったジョージ王弟殿下(以降・殿下)の信頼を得ていた魔法軍副隊長がクーデターを起こしたのだ。自身の魔法に溺れていて作戦が成功すると思ったのだろう。

 軍の半分を掌握していた彼は、王様、ジョージ殿下、そして王族を殺して国を乗っ取ろうとした。

 しかし、軍の中にはジョージ殿下を慕っていた若者達が多くいた。

 そうして城の中で魔法使い同士の戦いが始まったのだ。

 けれど城の敷地が広くて良かった。民の住んでいる地域までは被害が出なかったから。

 軍副隊長達はジョージ殿下の魔法には敵わず敗北し、処刑されてしまった。クーデターが終わって見れば、争った魔法使いの多くも亡くなってしまった」


「戦いが始まった時、王様は私達聖獣にも協力を求めようとしたが、ジョージ殿下がそれでは死者が多く出てしまうからと頑なに拒否したんだ。それでも結果は・・」


「なんてこと・・・」

 ルリアの目から涙がこぼれ落ちている」


「王様は、弟であるジョージ殿下のお陰で王族が守られたのだから、と言ってクーデターを起こされた責任は不問にした。

 それでも、ジョージ殿下は、自分の目がきちんと行き届いていなかったせいで沢山の部下、有能な若者達を死なせた事への償いをしたいと王族からの離脱と魔法省のトップの辞任を願い出た。

 どうしてもというジョージ殿下の願いを説得しきれない兄である王様は、離れがたい悔しさを押し殺し自身の左の耳に付けてあったピアスを弟に付けてあげた。

 兄弟で右耳と左耳にピアスを分け合い、何時でも何時までも繋がっていると教えたかったのだろう」


「その後ジョージ殿下は共に行くと言ってくれた部下と王都を離れ、亡くなった部下の家族に謝罪する流浪の旅へと出た。そして行き着いたのがここフォギーケープだった」


「最後まで彼を慕って付いて来た20人程の若い男女の部下とここで暮らし始めた。元々住民がほとんどいない村だったが、憶測を招かないよう村人からは距離をとり、儂の住処であるこの森近くに住み始めた」


「彼等にとってこの土地は静かで落ち着ける住処となっていった。

その者達は得意の薬を作るため、マジックバックに入れて持って来た薬の苗を植え、出来た薬を交代で隣町まで売りに行っては生活物資を手に入れていた。

 昔は隣町に行くのには道が一本しかなかったが、元々が魔法使いだ。境界まではひとっ飛びで行く事が出来た」


「3年が経ってここでの生活が安定した年、春にしては珍しく霧のない夜があった。そしてその夜は満月で、僅かながら3つ目の月も幾らか見えた。が、人間には見えていない」


【この道を行ってみる】とジョージ殿下が言うと、それなら私達も付いていく。

 なあに皆で行けばどんなところでも暮らしていける。と、なった」

 

 しかし迷っている者が一人いた。

 付いて来た部下達は、住んでいた村の中で結婚をした者達が何組もいて、ジョージ殿下もその内の一人だった。ずっと慕っていてくれた年の近い美しい女性と一緒になっていた」


 だが、迷っていたのはこの土地の娘と結婚した若者だ。


 ジョージ殿下は言った。

【お前は残れ。この先が安泰とは限らない。ここでこの国を見届けてくれ】


 若者は涙を流してジョージ殿下に頭を下げた。

 残った彼はジョージ殿下に依頼されて、皆の素性が分かるような痕跡を消す役目を受けたし、自身も薬草栽培と薬作りを止めることにした。


「何故?何故その様子を見ていた主様はその道に入ることを止めさせなかったんですか?その道は、何処に続いていたんですか?皆さんはどうなったんですか?」

 興奮したルリアが主様に問い詰めてしまった。

 ルリアが言いたいことはわかっていた。当然質問されると分かっていた事なので怒りもしない。

「その内知ることが出来る」とだけ言った。


 麒麟が一息ついたとき、

「ちょっと良いですか?

 それがね ルリアごめんよ。実は宗右衛門から預かってきた物があるんだ。僕にも良く分からない事だったんだけど・・」唐突にコーネリアスが口を開いた。


「えっ。お爺さまから預かったって。何を?」

「それは、沢山の本なんだ。いずれ僕達に必要になるのだろうと思っていたけれど・・それだけではないようなんだよね。

 似たような専門書ばかりなんだよ。だから宗右衛門さんは、この世界の事を知っていたような気がするんだ。多分・だけど、・・昔に晴宮家の誰かが、こっちの世界に来ていたかも知れない」


「うむ」

「儂の棲む北の山が最近雨が多く降るようになってな。雪の季節でも雨の日が混じるようになった。その所為で木が倒れたり、山の一部が崩れたりする事が多くなって来たのだ。昨年は麓の村も幾つか被害が出てな。何か対策があればと思っていたんだ」


「それで以前、王であるオーウェンと話す事があったが、その話しを聞かせよう」


「オーウェンと山の被害の話しを始めた時、奴が『そろそろ来る頃だと思うが・・』という。


「何がだ」と問うた。

「いやな以前来た奴が、いずれ来る奴はこの国に必要な本を持ってくるだろう。と言っていたから当てにしているのだ」


「お主なあ。自分の国のことだろ。自分で考えたらどうだ」


「あはは・・勿論だよ、ギトーク殿」


「ギトーク殿。貴殿達はこれからもこの国に住みたいと思っているのだろうか?」

冗談めいて話をしていた顔が真面目な顔つきに変わった。


「そうよなあ。儂達はこの国最初の王がこの土地に来るとき一緒に来て、それからずっとここに住んでいるのは知っているだろう」

 

 まあ、もっと昔から棲み着いている我々の仲間の里は残っている。だから時々は顔を出すが、顔ぶれも変わってきているから挨拶程度だな。


「この土地に来た頃は、この大陸の他の地域にも住みやすい場所があったんだ。

 最初の王になった兄弟に付いて来た時我々聖獣は棲み分けをして、この国を見守りながらも大陸のあちこちで暮らしていた」

「長い年月を経て今、他の国々は発展のための開拓だとか言いながら、計画も無しに森を切り開き、農地には良くない肥料とやらをどんどん入れて行った。

 その所為で山は崩れ、森は未だ再生出来ていない。畑で作物が育ったのは2年ほどで、その後の畑は汚れ、作物もあまり育たなくなった。そしてその汚れは湖や川まで流れて行った」


「食べ物が生産出来ないと民の怒りが王や貴族に向かっている。生産できなくなった食料を奪うこと、民の怒りを逸らすための作戦として隣国へ戦争を嗾ける」


「そんなことが続いたことで、我々は彼の地を諦めこの国に定住している。ここはまだ心地良いが、ここも他国と同じになるのではないかと懸念している」


「我々が助けても良いがそれは一時の夢物語でしかない。

 そもそも、そこに棲む者達が土地を大事にしなければ何度でも同じ事を繰り返すだろう。そうなれば我々はこの大地を離れる事になるだろうな」


「ギトーク殿。民を導き、そしてこの大地を守るのは王の仕事だと思っている。

 貴殿達に責任を押しつける気は無いし、助けて欲しいとちょっとは思っているが、自分達の手で守って行きたい。

 それが出来るならギトーク殿はこの地に住み続けてくれるだろうか」


「・・ああ。皆の意見は聞いていないが儂はここが気に入っている。出来れば住み続けたいと思っているぞ」


「良かった。儂は王としてより、人間としてギトーク殿の友達でいたいのだ。友達がいなくなるのは寂しい。聖獣達が棲む国だなんて、・・なんて素晴らしいんだろうと言った奴がいたが、儂も本当にそう思う」


「だから私は自分が王としての力を使って、貴殿達が棲む場所を守っていきたいと思っている。それに聖獣殿達が喜ぶ土地は、間違い無く民にも良いことと分かっているからだ」


「そのためなら・・・、この国にあったやり方があるなら、異世界の力を借りてでも成し遂げたいと思っているのだ」


 いつもおちゃらけているオーウェンの顔は、王としての威厳を表した顔で真っ直ぐに麒麟を見ていた。


 ギトークはこの時の会話を誇らしげに、ゲルッサやルリアとコーネリアスに聞かせた。


 麒麟様の話を聞いて感動していたルリアとコーネリアスだけれど、胸につかえが残っているのを感じていた。

【最初の王様になった兄弟と来た?】【以前来た奴?に異世界の力を借りる?】

 異世界から私達の他に来た人間がいる。それも、持ってくる本を託せるだけ私達に近しい人間。頭の中を謎がぐるぐる回っていた。



          ☆ ルリア 王に会いに行く


 あれから間もなく、ルリアとコーネリアスに王様からの招待状が届いた。

「秋になったら城に来なさい」と言うことだ。


 麒麟様の話しを聞いていたので、宗右衛門から持たされた本の事だと分かっていた。


 現在、王都のアバランティアを中心に東西南北の要所にある町まで、片側二車線はある幅広の立派な道が出来ていた。

 広い道は綺麗に平されていて、馬車の振動も少なく快適だった。


 その道を、ルリアとコーネリアスが一台の馬車に乗り、執事のシュバルツさんとリアムがもう一台とそれぞれの馬車で1週間ほどの旅を満喫していた。


 50才を優に超えているシュバルツさんの年を考えると、王都へ行けるのは最後かも知れない。息子さんに会わせてあげたい。

 だからルリアとコーネリアスはシュバルツさんを絶対連れて行きたいと思った。

 若いリアムが一緒なのと、会社の護衛として働いている男性が各馬車に二人ずつ御者として付いている。この人数なら私達でシュバルツさんを見守ることが出来るだろう。


 空澄む季節。

 この国に転生してもう大分経つが、他の地域に行くことが無かったので二人は物珍しそうに景色を見ながら旅を続けた。さながらお供付きの新婚旅行のようだ。


 馬車窓から見える広いこの国は殆どが農地のようで、遠くには紅葉の綺麗な森が広がっている。

 その奥には山が連なって見え、てっぺんの方だけは石や岩で出来ているように見えていた。

 しかし森とみられる場所の所々が葉の色がなく、暗く枯れているように見えたりそこだけ木がないように穴が開いているように見えた。


 町の側を流れている広い川は、水量が少なく水が濁っている。


 王都にたどり着くまでいろいろな町の宿に泊まって町を散策して見たけど、森や川の状態は似たような感じのところが何カ所かあった。

 道路事情が良いことから、王都までは予定通り到着することが出来た。


 王都には午後早めに着いて、その日は王都でも一番の豪華な宿屋に泊まることにしていた。宿のことはシュバルツさんの息子さんに手紙を出して予約してもらっていたのだ。


 王宮には三日後伺うことになっている。翌日、ルリアとコーネリアス以外の付き人達も入城する予定が無いとは言え、何か会ったら困るからと皆で貸衣装屋に行って衣装を選んだ。思いのほか衣装合わせに時間を取られ疲れてぐったりしたけれど、初めての王都と言うことで、次の日こそは楽しく観光しようと話していた。


 宿で早めにお風呂に入り、皆それぞれ部屋でのんびり過ごしていた。


 夜になって宿の食堂に向かうと、そこにはシュバルツさんの息子であるフレディが来ていた。

 フレディも今日は故郷から父親がやって来るとの事で、使えている領主様から休みを貰って来たそうだ。


 皆で一緒に食事をしながら第2執事のリアムが、発展したフォギーケープの町とハレミヤ商会の事を熱を込めて話しだした。

 そしてそれは全てここに居るルリアさんとコーネリアスさんのお陰なんだと興奮して話しだし、段々声も高くなっていった。


 ルリアとコーネリアスは笑顔でその話を聞いたり、一緒に食事と会話をしながらフレディの人となりを見ていた。


 いつもはあまりお酒を飲まないシュバルツさんだけど、今日は本当に久々にフレディと会った嬉しさで、ついついお酒が進んだようで項が垂れたまま眠ってしまった。


 食事も殆ど終わっていたことから、コーネリアスは護衛達にシュバルツさんを部屋につれて行ってくれるように頼み、その後は護衛達も休むように言った。何かあったら呼ぶからと。


 後に残ったルリアとコーネリアスはお酒に強くてまだしっかりした口調で話しているリアムとフレディに話し出した。


「フレディ、今日君が故郷の父と会うためにとお屋敷から休みを貰うとき、領主様は喜んで休みをくれたかい?」

 コーネリアスの言葉にフレディの顔が少しだけ曇った。

「いいえ。そんな事で休むのか?だから何時まで経っても執事見習いなんだと言われました」周りに聞かれないように小さな声で言った。


「君は13才から家を出て18才まで高等教育学校に通ったんだよね。

 13才の君も寂しかっただろうけど、シュバルツさんご夫婦も寂しかっただろう。

 その気持ちを隠して、君に教育を受けさせるために一所懸命に働いていたのだろうね」


「その君がそのまま10年も親とも会えずに頑張って来たのに、見習いのままというのはおかしな話だ。

 少し調べたが、君の上司である執事は領主様の縁戚に当たるのだろう。仕事があまり出来なくて、面倒な仕事は全て君にやらせていると報告されている。

 それなのに君は見習いでお給料も少ないと言うのは理不尽な話だよね」


 フレディは、そこまで調べられていたのかと思うと恥ずかしい気持ちと面白く無い気持ちで、思わずぐっと歯を噛み締めた。


 けれどコーネリアスの次の言葉に耳を疑った。

「フレディ、もし良ければだけど私達の会社に入らないかい?どうしても王都が良いというなら仕方ないけどね。

 今、うちには3人の執事がいる。けれどシュバルツさんも年だからね。

 今のうちにシュバルツさんから仕事を教わっていても良いと思うよ。あの人は昔気質の本物の執事だ」


「リアム、うちの会社の就業規則を持って来たよね。後で彼に渡して欲しい。今はそれを簡単に説明してくれるかい?」

「はい。・・フレディさん、私達の会社についてお教えしますね」


 就業規則と言う物を初めて聞いたフレディは驚いた。週休2日に有給だなんて、そんな働き方が本当にあるのか?


 しかしリアムが言う。

「そのお陰で僕達はどんなに忙しくても、自分の時間を持てるし、その時間は寝て過ごそうが買い物に行こうが自由だ。その楽しみがあるから仕事も頑張れる。

 会社が多くの利益を揚げれば、給与の他にボーナスというお金も貰える。

 【今の会社の売り上げは大体○○○○で、利益は○○○○なんですよ】

 これからの時代は多くの商会で働き方がそのようになって行くんじゃないかな」


 利益額を聞いたフレディは驚いていた。

 王都の大きな商会と大差無いではないだろうか。あんな小さな町に?・・。

 それでもフレディはその話しを眉唾物に受け止めていた。後で父に確認を取ってみよう。

 まだ信じられないけれど、リアムの話は・・本当の事のような気がする。父からの手紙で知ったハレミヤのレースはもの凄い人気で、仕えている貴族の奥様も手に入れたいと躍起になっているからだ。


 もしそうなら・・王都で働きたいなんて言っていられない。何れは自分も家庭を持ちたいと思っているけれど、家族の時間なんて・・・今のままでは無理だ。

 それなら、誘いがあるうちに移った方が良いかもしれない。とても魅力的な話しだ・・・・。

 今になって酔いが回ってきたのか頭がガンガンしてきた。

「返事を少しだけ待って頂いても宜しいですか?」

「勿論構わないよ」コーネリアスのその言葉を聞いて安心したように頭を下げて、フレディは夜中、仕えるお屋敷に帰って行った。


 3日間、皆で王都での買い物や観光を楽しんだ。

その翌日、ルリアとコーネリアスはお供を宿に残して、迎えの馬車に乗り込み王城へと向かった。


 城からの馬車が宿に止まった事で、宿屋の主人や泊まり客達も何事かと騒ぎ出した。ルリアとコーネリアスが、今現在【飛ぶ鳥落とす勢いであるハレミヤ商会】の代表だと聞いて驚いていた。

 それを見たシュバルツ他残った面々は鼻高々だったらしい。


 王宮に着いた二人は、謁見の間と呼ばれる広間では無く外国などからの要人が寛げる部屋。リビングが併設されていて、豪華な装飾がふんだんに飾られたサンルームに招かれた。

 既にお菓子や果物が沢山用意されたテーブルに暖かいお茶を出されている。


「陛下がお見えになるまで少々お待ち下さい」と執事らしき男性が丁寧に案内をしてこの部屋を出て行った。

 何種類かの果物を味見した頃、ドアがノックされ付き人によってドアが開かれた。

私達は慌てて立ち上がり頭を垂れた。


「どうぞ頭を上げて、座りなさい」渋い声で、それでも優しさを滲ませた声が二人に掛けられた。


 顔を上げるとそこには明るい金髪で、耳と襟足を隠すくらい長髪の男性が立っていた。


 顔は優しげだが威厳があって・・それはまるで・・宗右衛門お爺さまに似ていた。勿論もっと若いけれど・・・。


 王様と共に席に着くと、先ほどのドアから何人かの人が入ってきた。多分王妃様と王子様達だろう。王様の背後にはお供の騎士らしき人が2名立っているが、王妃様達は王様の両脇に座った。


「今日は良く来てくれた。今は王都でも貴商社のレースは評判だぞ。今度王妃も購入したいそうだ」

「ありがとうございます。ただ残念ながら、あのレースは手作りのせいで今は在庫が予約で一杯な状況です。

 ですが現在編み物の上手い人間も増やしていますので、早めに良い品を王妃様にお届け出来ると思います。

 それに現在、機械で編めるように試行錯誤しています。

 機械の調節が上手く行けば、いろいろな雰囲気のレースが出来上がると思いますので楽しみにしていただければと思います」


「ありがとう、嬉しいわ。あのレースはとっても素敵よね。手編みの良さが本当によく出ています。

 時間が掛かっても大丈夫ですよ。納品されるまで、首を長くして楽しみに待っていますわ。うふふふ」


「王妃がそんなに気が長い人だなんて初めて知ったよ」

 王様のからかいの言葉に王妃様の「まあ、私はそんなに我が儘な人間ではなくてよ」という拗ねた言葉と仕草で、この夫婦の仲の良さが覗えた。


 和気藹々と歓談をしている最中だった。

 この部屋に付いているバルコニーが騒がしくなった。騎士達が慌てることもせずバルコニーの背の高いガラス戸を開けた。


 そこからは、北の地を守る麒麟・ギトーク、南の地フォギーケープの森の主のオオカミ・ゲルッサ、遠い東の地を守るドラゴン・ダルク、西の地を守るケンタウルス・パローワ、そして王都アバランティアの北にある湖の畔に住み王都を守るユニコーン・ユニタファ、 この国の聖獣達が皆やって来ていて、身体を人間の姿に変身させてこの部屋に入って来た。

(確かに聖獣のままの姿だと、この部屋には入れないよね。だけど人間に姿を変えられるなんて・・主様と麒麟様は話していなかったよね)

 同じ事を考えていたルリアとコーネリアスは顔を見合わせて頷き合った。


「いったいどうしたというのだ?皆さんどうぞ中へ入って下され」

少し驚いてはいたが、落ち着いた声で王様は聖獣の皆様を部屋に招き入れた。


 燃えるような赤い髪で大柄の麒麟様と、白銀髪で長身のオオカミ様は少し都合が悪そうにこちらから目を逸らしているが、反対に他の聖獣たちは少し興奮している感じがする。


 端から見ていたルリアとコーネリアスでさえそれを感じ取っていた。


 まず緑色の髪の毛に、二本の角を生やし肩幅が広い体格のドラゴン様が話し始めた。

「王よ。お主はギトークに対して二人は友達だと言ったそうだな」

「ああ、言ったがそれがどうかしたのか。聖獣を友達だと思うことは、不敬罪になるのだろうか?」


 次は清閑な顔立ちで、茶色の長髪を靡かせている、筋肉質な感じだけれど少し細身に見えるケンタウロス様が話す。

「悪いわけではない。その・・ギトークとそれにゲルッサだけが友達なのか?」


「どういう意味かな?」王様が首を捻った。


 最後に額にかかる真っ白い前髪をかき分けて長めの一本角を生やし、足が長くて細身のユニコーン様が言葉を発した。

「それでは聞くが、ギトークとゲルッサだけが友達になったのか?その理由があるのか?」

「我々には人間の友達がいない」そう言って、ギトークとゲルッサ様を睨んでいる。


 ルリアは吹き出しそうになって、やっと自身の手で口を塞いだ。コーネリアスも笑いたいのをなんとか堪えている。


 王が続けた。

「炎神のドラゴン・ダルク、猛神のケンタウロス・パローワそして清神のユニコーン・ユニタファ。勿論、貴殿達も私の大事な友達だと思っている」

「そして雷神の麒麟・ギトーク、勇神のオオカミ・ゲルッサ、ここにいる皆が友達であり仲間だともな。

 いつでもここに来てくれ。

 その時は酒でも飲みながら、友としてたわいも無い話をしながら時間を過ごそう」


「もしもこの国に危機が迫ったときは貴殿達にも相談するし、もしかしたら助けを請うかも知れない。

 貴殿達の棲む場所を大事にしたいし、その場所のあるこの国を守る事が私達王族の使命だと思っている。

 ここにいる私の家族と共に、そしてこれからも続くであろう王族達に、同じ思いを繋げていくからな。

 これで納得してくれただろうか?」


「そうであったか。我々も大事な友であり仲間なのだな。

あい分かった。何かあったら協力しよう。だから遠慮はするなよな、友よ」


 ドラゴン様たちがそれぞれ言うと、バルコニーで元の姿に戻りあっという間に自身の棲む場所に帰っていった。


 ルリア達は、失礼だと知っていても可笑しくて、それを我慢しすぎて胸が苦しくなった。


 後にルリアは手持ちの手帳に【聖獣様は寂しがり屋で我が儘で、とっても可愛い】と感想を書き込んだ。


 王様との歓談も終わりに近づいた時、

「今日の目的を忘れるところだった。付いて来なさい」と促された。


 ルリアとコーネリアスは

【そう言えば、私達が王宮へ呼ばれた意味を聞かされていなかった。前世から持って来た本を渡すことでは無かったのかな?】と二人はヒソヒソ話し、王様の後に続いた。


 王族専用出口から城の外に出て、裏手にある王族だけが楽しめるこじんまりした庭に着いた。

 庭師の手が丁寧に入った生け垣の入り口を進んで行くと薔薇のアーチがある。

 今は秋咲きと四季咲きの薔薇が満開になっていて、うっとりする甘い匂いに包まれている。


 アーチをくぐって噴水を横目に通り過ぎると大きな四阿があった。そしてその先には・・、そこは王族だけが眠る墓地だった。いくつもの墓石が建っている。


 ルリアとコーネリアスは「何故お墓に?」と思った。


 何基かの墓を通り過ぎた時、前を歩いていた王様が一つの墓石の前で立ち止まった。

 私達にも見えるように、脇にそれてくれて・・墓石の名前は・・

「JYOTARO HAREMIYA」

「KAZU    HAREMIYA」

(晴宮穣太郎・晴宮 和)


「どうして?・・どうして曾お爺さま達の名前が?」涙を貯めた瞳で王様を見た。


「今から170年程前、三つ月の夜を越えてやって来たんだ」


「そんな、・・だって曾お爺さまがいなくなったのは20年位前で・・」


「うむ、そう聞いている。三つ月の夜は多分あちらとこちらの世界を繋ぐ道で、時間の流れが変わるのか、それとも時間をも越えてやって来るのかは分からない。

・・・・穣太郎夫妻はこちらの世界へやって来て、この国の発展に多大な影響をもたらしてくれた。

 全国に小学校と中学校を作らせるよう提言してくれたお陰で、子供達の識字率が100パーセントに近くなった。

 その上で高等教育学校や大学をも作るよう提言してくれた。

 和さんは、医療や衛生面を細かく指導して医療の発展に貢献してくれた。

 お陰で生まれた子供の死亡率が格段に下がり人口もぐっと増えた。


 結果、彼女に憧れて医療の世界を目指す若者が増えた。本当に有り難いことだ。

 この国が他の国々から羨ましがられているのは二人のお陰だ。

 だが、まだまだ地方には医者が足りなくて、もっと増やせるよう努力している。その間は薬に頼るしかないのだ」


 「そう言えば、和・曾おばあさまは昔の女性にしては医療に興味を持ち、当時女性医師として活躍した人だと聞いていました。

 薬造りに没頭していた曾お爺さまとは、薬草談義で盛り上がって恋に落ち結婚したと笑って話していた事を覚えています」瑠璃が昔の話を懐かしむように話した。


「君たちはこの国の歴史を知っているかい?」


「はい。先日麒麟のギトーク様から当時のジョージ王弟殿下のお話を伺いました。辛い歴史だった思います」


「私達も穣太郎殿より話を聞いている。

 そちらの宝物庫に穣司殿(ジョージ殿下)の日記が残されているそうだ。貴殿達が知らないようなら話してやりたいが如何かな?」


「日記があるなんて聞いていません。是非お聞きしたいです」


 近くの四阿にある白いテーブルにはお茶とお菓子やサンドイッチなどの軽食がいつの間にか用意されていて、椅子に座り話しを聞くことになった。


 それなら・・・と、王様は何処か遠くを見るような目をして話し出した。


 フォギーケープに着て3年が経ちここでの生活が安定した頃、春にしては珍しく霧のない夜があった。そしてその夜は満月だった。(ゲルッサによると僅かながら3つ目の月も幾らか見えていたらしい)

 森の近くでなんとなく月を見ていたジョージ殿下達は森の中がザワザワと音がするのを聞いた。振り返って見ると森へ続く道の中に、もう一本の道がぼんやりと重なって見えた。その道は青白くゆっくりと渦を巻いているのが分かる。


【あれは何だ?】誰かが叫んだ。魔法使いの性か、不思議なことには興味を引かれる。

 みんなで入り口に近づいてみると、大柄な彼等がやっと通れるほどの直径しか無い。

【この道を行ってみる】とジョージ殿下が言うと、それなら私達も付いていく。なあに皆で行けばどんなところでも暮らしていける」と、なった。

 

 実はジョージはこの青い道を見たことも通った事もあった。兄と聖獣たちに守られながら必死に青い道を走って、この土地に来た事は鮮明に覚えていた。

 もし今この道を通って行けばあの国に戻れるかも知れない。

 そうすれば父も母も未だ生きているかも知れない。あの時の戦い程度なら、今の自分達なら負けることも無いだろう。

 そんな事が頭をよぎった。同行を決めている仲間にはなんと言えば良いのか?

 けれど皆は、何があっても一緒に行くと決めていてくれていた。

 しかし迷っている者が一人いた。

 殿下に付いて来た部下達は、住んでいた村の中で結婚をした者達が何組もいて、ジョージ殿下もその内の一人だった。ずっと慕っていてくれた年の近い美しい女性と一緒になっていた。


 だが、迷っていたのはこの土地の娘と結婚した若者だ。

 ジョージ殿下は言った。

【お前は残れ。この先が安泰とは限らない。ここでこの国を見届けてくれ】


 ジョージ殿下達はあの日、ゆらゆらとおぼろげに見えるその道を歩き続けたそうだ。

 青白い道の中は渦を巻きながら揺らめいていて、強めの風が前や後ろから吹いてきて、真っ直ぐに歩くことが大変だったらしい。

 そしてどんなに歩いても、揺らめいている道の周りは森の中のようだった。もしかして今回は何処へも通じていなかったのか?


 いつの間にか道は消えていて、歩き疲れた皆は、持って来た布に包まってその場に横たわった。

 太陽が高く昇り森の中にも陽が差し始め頃、眩しさで起きてみた。

 そしてよく見ると少し遠くに家のような建物が見える。

 それを見て、フォギーケープの住処とは違う小高い森に抜け出たのが分かったそうだ。

 ジョージ殿下は少しだけがっかりした。父と母のいる国に戻れなかったからだ。

 それでも皆を戦いに巻き込まずに済んで良かったと心から思った。


【建物が見える場所へ行ってみよう】ぞろぞろと歩いて行くと100人ほどの村人が集まっていた。

 ボタンなども付いていないくぐるだけの簡素な衣服を纏っている。


 建物も木を組んだだけだ。元いた世界より随分原始的な生活のようだと思った。

 その村の人々はジョージ殿下達を恐れることはしなかった。

 それより初めから友好的で、野菜と少しだけの鶏肉を使った出来るだけのご馳走を用意して歓迎してくれた。


 代々この村を治める村長達の話しによると、明るい満月の夜には知らない世界から一度だけ訪問者が来たことがあると言い伝えられていたらしい。


 とても知恵のある人で、その人のお陰で村の生活が豊かになった。

 しかし病気を患っていたらしく、数年で亡くなってしまった。残念でならなかったと村の皆で悔しがったそうだ。と昔話をしてくれた。


 村長達から、今度又そのような人が来たら大事にしなさい。決して争ってはいけないと遺言で言われていると。

 その方が亡くなってから大分経つが、月が明るく見える時は【もしかして】と村中で待つことが習慣化され祭りのようになっていて、そのような人が来なくても【又今度】と思って待っていたのだそうだ。

 

 そうしてジョージ殿下達は住むところを与えられ、一緒に農業をしながらその土地に馴染んでいった。


 生活に慣れた頃、皆で人々のために薬を作ろうと言うことになった。自分達が出来ることはそれだけだからだ。

 その事を村長に話してみることにした。

その話しを聞いた村長さんが驚いて話し出した。


【以前この土地に来た人も薬を作っていたそうだ。栽培が難しいため、この土地の人々は覚えることが出来なかったが、昔薬草を育てた場所は言い伝えで分かっている。行ってみるかい?】


 まさかこんな貧しい村で薬を?

 見るからにこの土地の人々は貧しく、薬というものを手に入れることが出来ないだろうと言うことは分かる。

 昔来た人のお陰で豊かになったと言ったが、これより貧しい生活をしていたのか。

 フォギーケープと同じような貧しい場所だと思ったが、あそこよりひどいかも知れない。


 以前薬草を植えていたとされる畑に行ってみた。そこは草だらけで薬草と見られるものは何もないようだった。

 けれどこの場所は、森が近いおかげか腐葉土がたっぷりと入っていて軟らかく、確かに数種類の薬草を植えるには良さそうなところだ。乾燥地を好む種類もあるから、それは後で別の場所に畑を作ろう。

 

 意外にも村から借りた農機具は割と新し目でしっかりしている。貧しい村だと思っていたのでこんなに立派な道具を持っているとは考えもしなかった。

 仲間と草を抜き土を起こし、夜中には村人に知られないよう薬草の種を捲き、早く育つ魔法を掛け一晩で苗にした。

 これからも驚くほどぐんぐん育つだろう。


【ああそれと、その方が残した遺品と思われる物があってな、鞄が一つだけなんだけど何も入っていないようなんだ。それでも、次来た人に渡して欲しいと言っていたから大事に取ってあるんじゃ】

 村長さんの言葉に何故か胸が騒いだ。

【はい、是非見せて下さい】

 

 夜になって妻が寝た後で、一人でバッグを手に取った。

 預かった鞄は魔法が掛かったマジックバッグで、誰でも開けられるようにはなっていなかった。

 それなのに、ジョージが手を入れるとすんなり中の物が見えた。中には薬草の種が何種類もはいっていたが、それには少しだけ魔法が掛かっているのが分かる。

【私達のやり方と同じだ】


 他にも小さなノミで掘ったのだろう、女性の像が出てきた。その像には瑠璃の首輪が二重になって首にかかっていた。この首輪は・・・・間違えようが無い。母であるサヤハナがいつも身につけていた物だった。

 つまり、父もあの道を後から通ってここに辿り付いたのだろう。

 ついに会えなかった。別れたときの両親の顔はもうハッキリとは思い出せない。

 それでも二人を思い、口に手を当ててむせび泣いた。

 翌日、村長さんにその人のお墓の場所を聞いて一人で行ってみた。

 

 そこには大きめの石が置いてあるだけだったが、村人の誰かだろうか。近くに咲いている白い小さな花を何本も束にして供えてあった。

 今でもこんなに大事にされているなんて・・。この村によっぽど貢献した証なのだろう。

 さすが父上だ。【私もこの村にできる限り貢献していきますから見守っていてください】そうして静かに手を合わせた。生きた父上にはもう会えないけれど、時々ここに会いに来よう。そう誓った。


 月日が経ち、育った薬草を薬にしては周りの村に売り歩いて、そのお金を村長に預けていった。

 この村の農業を効率よく収穫を増やせるように指導し、冬や災害対策のための保存食の作り方も教えて行った。

 意外にもここには村人が共同で使う小屋が建てられていて、豊作で実った米を保存してあったり、冬を過ごすための野菜が保存してあったりした。

 意外だったのは、米から酒を造って売っていてそれが村の大きな収入源になっていたことだ。

 どれも村人達の考えで作られていたのだという。

「大したものだ」ジョージ達は思ったより裕福なこの村に驚いた。


 村人達は要領も良く、どうすれば効率よく出来るかを話しながら仕事をしていた。

 見た目の格好から、頭もあまり良くないだろうと勝手に思っていたけれど、それがいかに失礼な考えかを思い知らされた。


 こうして助け合いながら、その土地で何年も頑張って暮らしたお陰で、移民として初めて村長となった人がいた。・・名前は・・晴宮穣司。


「うわ~・・」涙がぶわっと出てきて、思わずコーネリアスに抱きついた。


 今までなるべく冷静に話を聞いていたつもりだった。話が進むにつれて『もしかして、もしかして』と思うようになった。

 それでも『まさか、まさか』と信じられないでもいた。


 晴宮の歴史は嫌と言うほど聞かされて育った。

 初代が村長としてどれだけ辛い思いや苦労をして、やっと認められる人になったのかを。

 けれど教えられていた事よりも以前の生活は全く知らなかった。

 ルリアは胸が一杯だった。今はただ泣けてコーネリアスにしがみついて泣くしか出来なかった。


 ルリアが泣いている間、コーネリアスは黙って抱きしめてくれていたし、王様達も黙ってそこで見守っていてくれた。


「泣いたりしてすみませんでした。ジョージさん達が三つ月の夜を渡ったお陰で私達がいるのですね。

 そう言えば私達家族は・・前世での家族ですが、一般的な人達よりも全員背が高くて、瞳や髪も薄い色でした。

『国の神社を守っているのに日本人じゃないみたい』なんて言われたこともありました。

 それはこちらの姿で現れたジョージさんの血を継いでいるからなんですね」


「そして今度は私達がこちらへやって来たと言うことは、もしかして私達にも何か役目のような事があるのでしょうか?」


「そうだね・・・実は、穣太郎ご夫妻がこの世界に来たとき私はまだ生まれていないのだ。彼は三つ月の夜を狙ってこちらに来たと言っていたそうだ。

 あの時は北の森にあの青い道が出来たらしい。

 道の出口で穣太郎ご夫妻を見つけた時には消耗が激しい状態で、ギトークが二人を乗せてすぐに城に連れて来てくれたと聞いている」


「穣太郎殿の話しによると、きっとこの世界に来られるだろうと思っていたようだ。

 私の四代前の王が、この城に穣太郎夫妻を住まわせて何日にも渡って話を聞いたと伝わっている。

 その話しを聞いて、ジョージ殿下が何処に渡り、どれほど苦労したかを知ることが出来た。

 そして今度は彼の子孫がこうしてやって来てこの国のために働いてくれた」


「穣太郎殿の話しでは、歴史はこの国アバラン王国の方がずっと古いけれど、今は自分達の国の方がずっと発展しているとも教えてくれた。・・・

 けれどその時の王は、穣太郎殿から言われたそうだ」


【聖獣の棲む国があるなんて、なんて素晴らしいんだろう。

 我々の国にも大昔は聖獣がいたらしい。けれど科学の発展と共に山や森や湖が汚れ、とうとう聖獣を見かけることは無くなった。

 所によっては何十年も何百年も経って、森や湖は綺麗になって行った。

 森は建材に使うためにと、以前とは別の種類の木を大量に植え付け、山も再生されたかのように見えた。

 どんなに再生されても、いなくなった聖獣たちが戻ってくることは無かった。

 少しの不便までも便利に改良していく事が、聖獣の棲む場所と引き換えたことに何の意味があったのだろう】と言ったらしい。


「こちらの世界がどのように発展しているか分からないため、穣太郎殿は思いつくだけいろいろな分野の専門所を沢山持って来てくれた。

 その中には【歴代の王の失策】【無能な王様】などと言う本もあったぞ」

 面白そうに笑いながら王様が教えてくれた。


「当時もらった本は翻訳し、王族で何回も読み直して国作りに利用して来たんだ。

今回はどんな本があるのかは想像できる。君たちも見ただろう」


「ここ数年。隣国が科学とやらに夢中になって山や川が汚れても構わないという政策をとった。

 その所為で国民の多くが病気になったり水も飲めなくなった。そのため多くの隣国の民がこの国に逃げて来ているのだ。下手をすると争いに繋がる可能性がある。

 だから、今の自分達で出来る方法を見つけて、隣国にも教えてあげたいと思っているのだ。教えた分は、まあしっかり金は取るつもりだがな」

 王様はカップに残っていたお茶を飲み干して、又墓地へと歩き出した。

 私達もその後ろを付いて行った。


「それでは次にあちらの墓石を見て欲しい」

 そう言って王様は一番端に並んでいる二つの墓石の前に行った。


 一番奥の墓石には、初代の王様

 「HARYUMIYA・ABARAN」と書いている。

  (ハリューミヤ・アバラン)

 『ハリューミヤ?王様の名前?・・・』

  先ほどから涙が止まらないルリアだが、いい加減泣きすぎて目が腫れてきた。



 そして最後だよ、この墓石を見てくれないか?」

 墓石には

「GEORGE・HARYUMIYA」

 (ジョージ・ハリューミヤ )


「そうなんだ。ジョージ殿下は異国の地で名前を名乗るとき、尊敬する大好きな兄の名前を名字に使った。この話しは後から穣太郎殿から聞いたそうだ」


「あちらの国で呼びやすいようにハレミヤと言い換えて、代々忘れることの無いように。・・・・まさか誰かが三つ月の夜を通り、反対にこの国へ来る人がいるなんて考えられなかったに違いない」


「初代の王はあの事件で責任を負った弟を本当に残念に思っていた。

 いつも気に掛けていて、ほとぼりが冷めたら城に戻そうと思っていた。

 だから部下を付けておいて、ある程度は動向を把握していたのに、突然居なくなった。そう報告を受けた時は信じられなくて、部下に何度も捜索させたと言われている」


「まさか三つ月の夜を通ったなんて思いもしなかっただろう。

 後からゲルッサ殿から【道に入ったのが見えたので止めようと思ったが、すでに後ろの道が消えかかっていて間に合わなかった】と聞いた。本当にあの夜にいなくなったんだと知った時はショックで動けなくなったそうだ」


「実はね、この国の初代ハリューミヤ王と弟のジョージは、聖獣たちに守られながら三つ月の夜を通って、以前暮らしていた国から逃げて来たんだ。

 逃げて来た、と言うより内戦状態になった国から王妃である母が逃がしたのだ。

 五大聖獣も番達を残し、兄弟を守る使命を帯びて一緒に来た。

 だから、ジョージ殿下が又三つ月の夜の青白い道に入ったと聞いて驚いただろう。以前の内戦状態の国に戻ってしまったのではないかと危惧した。

 けれど実際には、別の世界のニッポンという国に行き着いていたとはね」


 【全く三つ月の夜とは・・・・不思議な事象が出来上がったものだ。それも私達王族に関係しているのだから】王様は小声で呟いた。



「王はその悲しみを少しでも和らげるため、自信の墓の場所は決まっていたから、その隣に、空の棺を埋め墓石を建てた。

 その時はまだ墓石にはジョージ・アバランと掘られていたが、穣太郎殿から話を聞いた王が、ジョージ・ハリューミヤと掘り直させたのだ。

 初代の王は、時間の有る時や重要な決断をする前など、ここに来ては語りかけていたそうだ。

 二度と弟には会えない事を憂いて・・」


「けれど穣太郎殿が来て、今度は君たちが来た。

 だからもう、大事な人を失うことの無いよう、私達は君たちハレミヤ夫妻を縁者として守っていきたいと思っている」


 もう泣きすぎていて、頭がぼーっとしたままで、王様の言った言葉の意味を考える事が出来なかった。

「明日も用があるから今日は城に泊まって行きなさい」と言われたが、頭がいろいろ一杯になっていて早く休みたくて・・、それだけは固辞した。


「今日はルリアも疲れたでしょう。皆のいる宿でゆっくりさせたいです。

 我が儘を言って申し訳ありませんが、明日もう一度お伺いさせていただきたいのですが宜しいでしょうか?」


 コーネリアスはルリアを思って願い出た。

「分かった。よかろう。色々と知ったのだから無理も無い。疲れただろう。

 明日は皆で来なさい。又、迎えを出すから今日はゆっくり休むとよい」

 優しい口調だった。こちらを思いやってくれていることが分かった。


【助かった】


 コーネリアスも王様の話を聞いて複雑な思いだった。

 野宮だって元々はジョージ殿下の子孫に当たる。それでも分家としての生活が長く晴宮家との関わりも殆ど無くなっていた。だから話しを聞いていてもジョージ殿下が遠い存在にしか思えない。

 今回王様の話を聞いて、晴宮家の歴史の凄さを知った。

 ジョージ殿下の人生に加えて小さい時可愛がってくれた穣太郎さんまでもが転生してここに来ていたなんて、ユリアが泣くほどのショックを受けるのは当然だっただろう。

 ユリアのために僕が今出来ることは、側に居てあげることだけ。


 二人は朝と同じ王宮の馬車に揺られ二人は宿に戻った。


 まだ夕食には早い時間だった。宿に帰った二人があまりに疲れ切って抜け殻のようになっていたので。

「何があったんですか?商売の廃業を命じられたとか?」と皆が心配したけれど、


「大丈夫疲れただけ。少し休むね」

 コーネリアスはそれだけ言って二人の部屋に閉じ籠もった。

「ルリア、僕はいつも君のそばに居るよ」二人で抱き合ったまますぐに眠りに落ちた。


 夜の食事の時間になっても二人が起きて来ないため、シュバルツさんとリアムは二人でルリア達の部屋の前まで来ていた。

 城から帰ってからの二人は、明らかにおかしかったのがよく分かっていたからだ。

 もっとゆっくり休ませてあげたいが、夕食も摂らせなければと思った。

 執事二人で顔を見合わせ、シュバルツさんがドアを優しくノックした。

「は い・・」コーネリアスが眠そうな声で返事をした。そして少ししてドアが開いた。


「ルリアは疲れすぎて起き上がれないから、後で夜食を用意してもらおう」


 皆が食事のためのテーブルに着いた時、シュバルツさんが口を開いた。

「今日の王様への謁見は上手くいったのですか?」


「ああ。心配掛けてすまない。悪い話は何も無かったんだ。むしろ良い話だったぞ。王妃様もうちのレースが欲しいそうだ。時間が掛かっても良いと仰った。王様との謁見は初めてだから、気を遣いすぎて疲れてしまったんだ」

 皆は「王妃様までレースを注文して下さるなんて」と、興奮状態で喜び合った。


 そうしてルリアの居ない食事を始めた。


「明日は皆で城に行くよ」突然の言葉に、


「えっ。私達護衛もですか?」

「そうなんだ。王様が皆で来いと仰った。何か話したいことでもあるのだろう。貸衣装を用意しておいて良かったよ・・・」


「お城なんて初めて入ります」

 リアムの言葉に

「一般人なら皆初めてでしょう。エバンズ様に長く仕えてきた私でも入った事はありませんから。一生に一度だと思って、粗相の無いように、そして楽しみましょう」

 シュバルツの言葉に皆、「そうだよな」と頷いている。


「コーネリアスさん。息子のフレディですが、ハレミヤ商会にお世話になりたいと言ってきました。

 昨日コーネリアスさんとリアムから商会(会社)の事を詳しく聞かせて頂いたらしいのですが、あまりの理想的な就業規則を聞いてそれが本当の事なのかどうかを私に確認しに来ました」


「リアムが話した内容を私がその通りだと伝えたことで気持ちが固まったようです。息子の事まで気にして頂いて申し訳ありません。

 それでも息子がフォギーケープに帰って来てくれることは親としてとても嬉しいです。これからは親子共々お世話になりますが、どうぞ宜しくお願い致します」

 シュバルツは立ち上り、いつも通りの綺麗な姿勢で頭を下げた。 


「ああ良かった。シュバルツさんの仕事ぶりは執事としてお手本になると思っている。今のお辞儀も見本そのものだからね。

 リアムとベンジャミン、そしてフレディをしっかり教育して欲しい」


「はい。誠心誠意やらせていただきます」

「あの、あんまり厳しすぎるのはちょっと控えていただけると助かるかなぁって・・・」リアムの調子に皆が笑った。


「さあ。明日もお迎えが来てくださる。早く休もう」コーネリアスの言葉に皆が笑顔で頷いた。


 皆と別れて、コーネリアスは暖かい野菜のスープと小さく切って貰ったサンドウィッチをトレイに乗せて部屋に入ったが、ルリアはまだ寝ていた。

「瞼がまだ赤い」

 暖かいお湯を貰い、タオルを絞ってルリアの目に乗せた。ルリアの顔を見ながら何度かタオルを変えてあげた。

「今日はこのままにしてあげよう。良い夢を見るんだよ」

 そう呟いて、コーネリアスはルリアの額に軽くキスを落とした。

 そして、眠っている横に身体を滑り込ませた。


 翌日は6人で城に入った。初めて着る豪華な衣装に、着せられている感はあるものの何とか様になっている。

 昨日とは違って謁見の間という広間に通された。

 始めは昨日と同じ王様の家族と私達だけかと思っていたが、謁見の間には、衣装から見ても分かる程の沢山の貴族と騎士達が既に並んでいて、貴族達は私達が入っていくと物珍しそうにこちらを見ながらヒソヒソと話している。


 私達は謁見の間の最前列にまで誘導された。

 目の前の高い段の上にある玉座を前に、一番前はルリアとコーネリアスが並んで膝をつき、直ぐ後ろにシュバルツとリアム、その二人を挟んで護衛が左右二人ずつ同じく膝をつき頭を下げて待った。


 少しして、「王様のお出まし」と爽やかな声がした。厚い紅絨毯が敷き詰められた床でも、コツコツと歩く音は僅かに聞こえる。

 玉座から「顔を上げよ」と昨日聞いた声と同じ優しい声が聞こえた。


 皆で顔を上げた。

 王様の両脇には昨日と同じ王妃様と王子様達が並んでいた。皆笑顔でこちらを見ている。

 (あの笑顔には救われる)

 その姿のお陰で緊張が少しだけ解れた。


「皆に紹介しよう。ここにいるのはハレミヤ商会の者達だ。皆もハレミヤのレースは知っているであろう」謁見の間がざわつき始めた。


「欲しくても手に入れられない貴族も多いだろう。

 だが暫く待て。ここにいるルリアが手編みしている物は最高級で時間も掛かるが、

 今は編み師もたくさんいるから納品も早まるだろうと言っている。

 これからは機械化して少しでも安い品物を、早く提供してくれるよう考えているそうだ。

 新しいタイプのレースも直ぐに出来るだろう。だから、皆の者は商人を買収したり値をつり上げたりしないよう頼むな」


 そんな事になっているのか?

 どおりで最近やたら商人が血眼になってレースを欲しがっていたはずだ。

 そこを柔らかく正したのはさすが王様だ。


「今日皆に来てもらったのはそれだけでは無い。ここに居るハレミヤ商会夫妻の妻ルリアが、アバラン国初代ハリューミヤ国王の弟ジョージ殿下の子孫と分かった。

 その言葉に対して周りからざわめきが起きた。


 ハレミヤ商会はこの他にも、辺境のフォギーケープの街を美しい町並みに作り替え、他にも美味しい料理や食材・農産物などを各地に知らしめた。

 今では多くの国民までもが彼の地を訪れたいと思わせる町に変貌させた。

 そして夫のコーネリアスの作る薬は今までに無い程良く効く薬で、医者達がこちらも取り合いになっていると聞いている。


 この功績と王族の縁者と言うことを考え、ルリアはフォギーケープ辺境伯とし、コーネリアスはルリアに変わってハレミヤ商会会長を命ずる。功績を考えればすぐに侯爵になるだろうが・・初めてだから、まずは辺境伯からで良いな」


 あまりの出来事に8人は目を見開いたまま動けないで居る。後ろに控えていたシュバルツ以外は口まで開いている状態だ。


「なんてことを・・・」

 初代王弟の子孫なんて知られたくなかった。三つ月の夜の事や、どこからやって来たんだと大騒ぎになるからだ。

 肩を振るわせ、異論を述べさせていただかなくてはと思った時、

「王よ、間に合ったか」謁見の間の窓から小さいサイズになった五大聖獣達が姿を表した。


「友よ、良く来てくれた。たった今、ルリアにはフォギーケープ辺境伯の地位を授け、コーネリアスにはルリアに変わってハレミヤ商会の会長になれと告げた所だ。

小さな姿になってもらって申し訳無い。窮屈であろう」


「なに、これくらいは大したことでは無い」

「ルリアとコーネリアスよ。我々がジョージの子孫として見つけてきた甲斐があったのう」

「これからも領地の運営と商売に励めよ」

「友であるオーウェンよ、又遊びに来る」


 ドラゴン様、ケンタウルス様、ユニコーン様は

「友」という言葉に力を入れて本来の姿で飛んでいった。その後を無言で麒麟様が飛ぶ。

 オオカミ様は最後に

「ルリア、コーネリアス、儂が付いている。安心せよ」と言い残し窓から飛んでいった。


 やられた。王様は五大聖獣と口裏を合わせ、三つ月の夜と、別の世界の事を隠したのだ。

 聖獣様達もすっかり乗せられて・・・


 それに聖獣様達が一度でも姿を表せば、悪いことを考える者は全くとは言わないが、かなり少なくなるだろう。

 何も知らない周りの貴族達は、唇をガタガタ震わしてやっと立って居る状態だ。

「策士だなあ」頭の中でそう呟いたルリアは、王様への異論がすっかり消えてしまった。


 謁見の間の後は、お供の6人は私達と離され別の部屋へ促され連れて行かれた。

 美味しい食事が用意されているらしいので、皆嬉々として付いていった。


 ルリアとコーネリアスは昨日と同じサンルームのある部屋に連れて行かれた。


 部屋には先ほどの五大聖獣が人の姿をして思い思いに食事をし、酒を飲んでいた。

 意外だったのが、人の姿の聖獣様達は人間の年で言うと20代後半の年頃の姿をしていた。(以外に若いのねと思った)


「皆さん人の姿になれるんですね」

「人間の食事をするときはこのほうが食べやすいし飲みやすいからね」と我が主様。


 フォギーケープの森の主様であるオオカミ様は背も高くがっちりした体格だ。銀白髪の長い髪は後ろを紐で結わえていた。

「あれ?あの紐は私達が幼い頃にクッキーを包んで持って行った紐じゃない?」

 コーネリアスも「うん、間違い無いよ」と言った。

 主様にはその声が聞こえていても、恥ずかしがって聞こえないふりをしている。

「顔が赤くなってるのに・・・」知らない振りを決め込む主様にルリアは口を尖らせた。


 人の姿の聖獣様達を見ていると、ドアが開いて王様が入って来た。

「友よ、今日は私の策略に付き合ってくれてありがとう」そう言って頭を下げた。


 そして

「なんとしてもこの二人を守りたかったのだ。

 これからハレミヤ商会は益々大きくなる。騙したい人間、取り入りたい貴族等、魑魅魍魎が跳梁跋扈するようになるだろう。

 それでも王族の縁者で、聖獣様が付いていると知らしめれば、おいそれとは近づけまい」


 そうなんだ。王様は私達を守るために手を打って下さったんだ。


 その言葉を理解した二人は王様に深々と頭を下げ、次に聖獣様達にも同じように頭を下げた。

「ありがとうございます。これからはもっと精進して国や民のために頑張ります」

二人は思いを言葉にした。


「良かったのう。先ほどは何か言い足そうな怖い顔をしていたけれど、怒られずにすんだ。よかった」

 王様が笑顔でお茶目に言った。


 こうして人生最大と思える出来事を終えてから、再び皆で王都を観光して私達は帰路についた。

 そうそう。シュバルツさんの息子であるフレディも一緒に帰ることになった。


 仕える貴族の主に、辞めたい旨を伝えると罵詈雑言を浴びせられたそうだ。

しかし、次に仕える主がハレミヤ商会だと聞いてそれ以上は何も言えなかったと言う。


 当然だろう。

 その主人も貴族なのだから、あの日城に呼ばれていて、ハレミヤ商会の辺境伯授与と聖獣様達を目の前で見ていたのだから。


          ☆ 未来へ続けば


  フォギーケープに戻ると町中が大騒ぎだった。

 王都に滞在している間、一部の商人達は早くも二人の偉業を聞きつけ、急いでフォギーケープにやって来ていた。

 その情報を買い取ったのが最近地元に出来た唯一の小さな新聞社だ。ルリアの辺境伯授与とコーネリアスがハレミヤ商会会長になった事と、この国に本物の五大聖獣がいて城に姿を現した話を詳しく書き号外としてばらまいていた。


 そんな騒ぎが何日も続いてようやく静かになった頃、商人として長い間この町を訪れていたオリバーさんが、家族を連れて移住するからと挨拶に来た。

 そして、ハレミヤ商会で働かせて欲しいと言うのだ。


 ハレミヤ商会としてもそろそろ営業に詳しい社員が欲しいと思っていた頃だったので、喜んで迎え入れた。彼の人となり、商売の巧さはよく知っていたから。


 オリバーさんは若い頃からこの地にやって来ていたが、今では37才になっていて3人の子供がいるそうだ。


 長男のレオ君は16才だと言う。

 本人も父親と同じ営業を目指して一緒に働いていたので、このまま一緒に働いてもらうことにした。

 他の子供達12才と11才でまだ学校に通っているとのこと。本人達はこの先中学や高等教育を受けるかどうかまだ迷っているのだそうだ。

 そして奥さんのエミリーはなかなか強烈な人だった。


本人曰く。

 以前、主人であるオリバーから

「凄い物を手に入れたよ」と、家に戻るなり興奮して見せてくれたレースに、私も一目惚れでした」


「ここへ早く移り住んでハレミヤ商会さんで働きたいと夫を急かしました。

 夫を中々辞めさせてくれない前の商会の会長を、やっと口説き落としたのもこのレースでした。会長の奥様にレースの襟をプレゼントしたんですよ」


 「お金は高く付きましたがここへ来れるなら安いと思いました。それくらい惚れ込んでいるので是非雇って下さい。

 それに元々編み物が好きだったので、自分で見様見真似で覚えて編みました」

 そう言って、自作のボビンレースのリボンを持参して来た。


 この情熱には流石にコーネリアスも折れた。

 持って来たレースも出来が素晴らしかったからだ。直ぐ戦力になるだろうとルリアも太鼓判を押した。


「家族三人が同じ会社で働くことに不安は無いの?会社が潰れたら、家族全員が路頭に迷うのよ」と個人的に聞いてみたところ。


「この会社が潰れるなんて考えられません。憧れのハレミヤ商会で働くことを夢見てきましたから感激です。会社が潰れる?そんな事は絶対ありませんよ。けれどもしもその時が来たら、その時はその時です。働けるうちにお金を貯めておけば良いのですから」


 それに、エミリーはここで働けるなら家族は二の次ですと言った。


「家の事より仕事を優先させるつもりです。ああ大丈夫ですよ、うちの家族は皆食事くらい作れますから。

 私が働けるようなった時に困らないようにと躾しましたからね」

 ときっぱり言う奥さんはかなり逞しいと思う。


 オリバーさんが来てくれた事で、営業を目指す人間を何人か募集しようと思っていたことが実現しそうだ。新しい人材は彼に教育して貰える。


 そろそろ町の人口も一万人に近づいて来ている。まだまだ増えそうな勢いだ。

 そんな中、何年かすればこの国の東西南北に列車が通ると国が発表した。

 実現すれば人も物もどんどん各地に流れるだろう。

 その時、隣国のような環境破壊を起こしてはならない。


 先日、城で王様と一緒に食事をしたときに、王様は国中に列車を走らせたいと言った。

 それを聞いた私とコーネリアスは、王様と動力について話し合った。


「お勧めは・・多分・・魔石ですね」


「しかし魔石で列車は無理だろう。列車を動かせるだけ強い魔石を作る魔法使いはもういない」

「そう・・ですよね」

「昔、魔法使いがたくさんいたときの、国民へのエネルギーは何を使っていたのですか?」


「それは・・・魔石だった。魔法使い達がそれに魔力を注いでいたんだ」


「その使い古した魔石は残っているのですか?」


「使い古した魔石はかつての魔法省だった廃屋に山積みになっている。

 処分しようとしたが、魔法省がなくなってからどうすれば良いのか分からないから、そのまま放置された状態だ」


「では現在残っているその魔石を再生すれば、エネルギー源として使う事が出来るはずです。そうすれば野山を汚すことも無く列車が走れます」


「うーん。しかし何度も言っているが、魔法使いは・・もうそれほどいないのだよ」


「それで良いのです」

 1000年以上前の出来事で、王国は魔法使いを一掃した。

 そのため、どの家も魔法を使える家族や、魔力測定で魔力が強いと言われていた家族と関わらないようにして来た。中には家から出さずに隠して暮らさせた家族もいたが、殆どは赤の他人のように本人と関わらないようにし一人で暮らすようにと子供でも外へ追い出して関係を持たないようにした。


 追い出されたその人達は、魔法を使えることを隠してひっそりと暮らしてきたし、結婚さえ諦めてきた。

 そうしてこの国に魔力を僅かに持ったおよそ50人のその人達全員は、国に管理されていても魔法を使える人はもういない。


「今管理されている人達は弱い魔力しか持っていません。間違いを起こせる人はもういないはずです。それでも心配なら私が魔力を消してあげることも出来ます。

 彼等にこの国に忠誠を誓わせて、魔力と科学を融合させる研究を進めるべきです」


「魔法使いは頭もよくいろいろな魔道具を作る事に長けていました。

 その子孫達ですから、魔力が弱くても科学と言う物を理解出来ると思いますよ。

 多分今まで持って来た本の中にも機械に関する物、自然科学などこれから必要になるであろう本が何冊かあるはずです。


 それに、国のために働いて欲しいと告げ、最新の科学の研究も一緒に出来るとなれば、少しの魔力を持っていることを隠している人間も、表に出てくるかも知れません」


「将来、魔法使いがいなくなっても、科学を研究したい優秀な人材を集めることも大事です。その時のためにも、科学を発展させなければならないのです。

 この広い土地を早い時間で移動させるには、今は列車が一番必要なことだと思います」


「それに王様、・・・王様は魔力が強く魔法も使えますよね。王様より強い魔法使いは居ないでしょうし、どれだけの魔力を持っているかは、本人に会えば分かるのでしょう?」


「えっ。・・・君には分かるのか?参ったなあ。そうか、分かっていたか」隠し事を見破られた王様は、都合が悪いのか頭に手をやった。


「勿論です。ハレミヤの直系は皆魔法使いですから・・うふふ」


「私の魔力が強いにも関わらず、王都で出会った魔法使いと言われる人達は、誰も私の魔力に気が付きませんでした。本当に魔力が弱くなっているのです。

 それに、今まで迫害されたりして苦労してきたその人達が汚名返上出来る機会でもあるのです。彼等を守ってあげて下さい」


「そうだな。それで森や川を守ることが出来、人々の身体も害さない。それも日陰の存在だった彼等魔力持ちの働いたお陰となれば、国民への売り文句になるだろう。やってみるか」


「はい。頑張りましょう」


 そうして5年後アバラン王国に初めての列車が通った。


 魔力を持った人達が魔石と科学、そして技術を用いて動力を完成させた。


 ルリアとコーネリアスが、前世の列車の形や乗り心地などを思い出しながら参考になればと意見を出していた。

 そしてこの時代に魔石の力を大きくするために、太陽光を利用する事に成功した。


 私達の前世の記憶から提案した。簡単に説明すれば前世で使われていた太陽光発電のようなものだ。


 大きなフライパンのような物に、魔石を敷き詰めて、上から同じように大きなルーペで太陽光を数日掛けて照射した。

 王都は、フォギーケープと違って天気が安定しているので太陽光発電に適していた。

 普通の石なら高温過ぎて割れて形が無くなる。けれど魔石は太陽光のエネルギーをたっぷりため込み、使い古され黒くなっていた魔石が綺麗な紫に輝いた。それは魔石が力を取り戻した印だった。 

 

 安心して欲しい。こうして力を取り戻した魔石では魔法には使えない。

 何故なら魔力を注いだわけではく太陽光の力を吸収しただけだからだ。

 過去にこの国の山で採れた魔石は純度も高かった。使わなくなった中古の物とは言 え、何千個?と残った魔石だ。未だ未だ十分に利用価値があると分かっていた。


 魔力をつぎ込むわけではないので、魔道具には仕えないが、その分繰り返しエネルギーをため込むことが出来る。

 魔石数個のエネルギーは、開発したモーターを回転させ台車を動かすことが出来た。


 この時代の技術では、レールの出来はまだ良い物では無かった。そのため、あらかじめレールには粉々にした魔石を埋め込んである。

 これで魔石同士が磁石の反発する効果を発揮してくれて少し車体が浮いて、スムーズに走ることが出来た。

 埋もれていた魔力持ちの人達の奮闘が形になった瞬間だった。


 魔力を持って生まれた所為で、今まで隠れるように生きていた彼等は王国での開発部門(列車開発課)に所属し、誇りを持って国のために働いた。

 国民も彼等を賞賛したし、列車を作りたいと憧れる子供達も沢山出始めた。


 客車も豪華な作りにしたし、各座席の窓側に小さな魔石の力で灯るスズランの形をしたランプも取り付けられた。

 椅子の座面も柔らかく座り心地が良い。

 コンパートメントが付いた客車もあり、それら全てが国民の列車での旅行心をくすぐった。

 夜走る列車は外から見ると、客車の窓が光って見えとても綺麗だった。

 それはまるで空を飛んでいるように見えると、線路から離れたところから眺める人達もたくさんいた。


 開業したばかりの様子見で、客車5車両に貨物車が2車両しか引いていないが、これから乗車率などをみて車両の増減を考えて行く事になっている。


 人気の観光地は慌ててホテルを建設し始めたが、国は厳しい規制を設けていた。

 それは排水・汚水など環境に厳しい基準をクリア出来なければ建物の建設を認めないし、違反した物は即逮捕、資産没収となる。


 それによって、益々外国からの観光客や商人達も増えている。他国は偵察隊を観光客と見せかけて忍び込ませていた。

 無料で真似出来る所を探しに来ているのだ。

 しかしどうやって列車を走らせたり、環境を守っているのか分からずじまいで、国に帰って叱られる事を覚悟するしか無かった。


 列車の南側最終の駅はフォギーケープに近いサンフィールド側だ。

 フォギーケープからはサンフィールド駅まで立派な道が出来上がり、駅の近くには鍵の付いた倉庫も作った。そこからフォギーケープの農産物と加工品を貨物列車に乗せて運ぶ事が出来た。


 機械で編めるようになったレースは今までのボビンレースに加え、新しいオーガンジーというタイプのレースだ。張りがあってボリュームも出やすいので直ぐに人気に火が付いた。

 現在は、オーガンジーに刺繍やビーズを施して付加価値を付けた物を売り始めている。


 他にも飾りに使うビーズも作れるようになった。

 以前ルリアを妬んで捕まったナタリーが、心を入れ替えハレミヤ商会で働いている。

 ハレミヤ商会で新しくビーズ部門を立ち上げた時、ルリアがナタリーに声を掛けたのだ。ナタリーは涙を流しながらあの時のことを謝り、これからはしっかり仕事をして行きますと誓ってくれた。

 今では主任として若い娘達にビーズ作りを指導している。

 ハレミヤのビーズは色も大きさも多種多様で、他の地域の仕立屋が直接仕入れに来るほど人気になっている。


 私のレースと、コーネリアスの作った薬とを我が社の営業が、それぞれ二人ずつ付いて列車で運んでいた。この事でフォギーケープは、辺境地とは思えないほど潤って行った。

 念願のお医者様も家族で移り住んでくれた。


 王様は魔石の利用価値をエネルギーに限定し、クーデターが起こってから閉鎖していた魔石の掘削作業を再開することにした。

 掘り出した魔石は、二重三重に管理され国のために利用された。


 何度も太陽光を浴びた魔石は粉々になる。

 それを鍋やフライパンなどを作る材料に混ぜることで、熱伝導の強い調理器具が出来上がった。これは、開発部門の生活道具課の人達が作り上げた。

 こうして魔石は粉になる最後まで、利用され国民の生活に浸透して行った。


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