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不良少年


割と人見知りなところがあるわたしは、突然話しかけられるという状況に未だに慣れていないため、つい動揺してしまう。

「ど、どうも、わたしは篠守ですけど…失礼、年齢は?」

『失礼』というのは、むしろたった今わたしに対して彼が言った内容のほうにこそ相応しい言葉ではあるけれど、わたしはとりあえず彼、馬垣くんの年齢を確認する。

「あ…?どちら様かを訊くでも何の用かを訊くでもなく、年齢を最初に訊くのかよ?やっぱり変な奴……、俺は18だけど」

出会って10秒くらいしか経っていないのに、『変な奴』だと確信されてしまった。それも、変な奴から。

わたしはただ、喋る前にまず敬語を使わなきゃいけない相手なのかを確認しようとしただけなのに。ついでに媚びへつらわなきゃいけない相手なのかを確認しようとしただけなのに。

「じゃあわたしより歳上ですね。わたしは17ですから」

「おいおい、別に無理して敬語使うなよ。たったの1歳差じゃねーか。やめろ堅苦しい」

「あっすいません」

「お前なぁ…」

ちょっと待ってくれ、別に、わたしだってできれば敬語は使いたくないんだよ?タメ口で話したいんだよ?でも、目の前にいる男子がやけに威圧感を放ってくるんだもん。

多分こいつ不良だ。女の子相手でも容赦なく殴ってくるタイプだ。そんな相手にタメ口で喋れるもんですかい!

「お前、今、俺を悪魔か何かだと思ってねえか?」

「ご、ごめん、なんかこう迫力のある雰囲気だったから…」

流石に怪訝な顔をされてしまっては、従わずにもいられない。しかしこの馬垣くんという男の子、何となく怖い。敵に回してはいけない感じがする。三下小悪党としての直感だ。


「まあいい、それで、お前も抵抗者なんだろ?」

「うん、そうだけれど。やっぱりあなたも?」

「おう。まあ隠すような事でもねえやな。俺はな…」

そう言うと馬垣くんは、(おもむろ)ながらもいきなりにわたしの髪を指で(つま)んできて、いきなり何をするのかと抗議しようとしたわたしに対し、しれっと言った。

「手で触れた物を、何でも()かせるんだよ」

「…えっ」

…ッ!

瞬間、わたしの髪を摘んでいた馬垣くんの指から、ジュッという音とともに、煙が立った。

慌てながら髪を触って(あらた)めてみると、摘まれた部分の髪の毛が熱くなっていて、溶接されたようにくっついていた。

「ちょっと!何を!?」

「あぁわりぃわりぃ、ちょっとした実践だよ。でもって、ここからが本題なんだ…おい待て、逃げようとするな。もう何もしないって。何だその、疑惑が確信に変わったみたいな目は。やめろ、謝るから。距離が遠いんだよ」

わたしは逃げ出しこそしなかったものの、代わりに馬垣くんから少し距離を取って…5mくらい距離を取って、話を聞くことにした。

「俺は長年生きてきたからわかるんだけどよ…いや、『18年しか生きてないだろ』とか野暮なツッコミを入れるな。気持ちの問題だよ。とにかく、俺は自分が勝てる相手と勝てない相手が、なんとなく直感でわかる」

「ふ、ふーん…」

喧嘩をしまくって生きてきたということだよな?

やっぱり不良だったか。

「それでな?その応用なのか、この異能で融かせる物と融かせねえ物も、一目で大体判別できるって訳だ。ただし、今まで俺は融かせそうな物しか見たことが無かった。そりゃそうだ、何でも融かすことができてこその異能なんだからな。しかしお前を一目見て、変に違和感があると思ったんだよ。さっき気付いたんだけど、多分お前の肉体は…お前の肉体だけは、大部分が融かせねえんだわ」

ふむ…?

それはもしかしなくとも、わたしの異能と関係があるのではなかろうか。わたしの異能は多分、『絶対に壊れない肉体』ってやつである。多分そうである筈だ。尤も、たった今部分的に融かされてしまったため、それは壊されてしまったということなのではないかという気持ちで一気に自信が無くなってきたのだが。

「あぁ、やっぱりそうか。お前の身体(からだ)は壊れることが無く、ならば融けることだって無いってか。なるほどな。ところでそろそろ、もうちょっと近づいて話さねえか?」

「で、でも、馬垣くんはさっき融かしたじゃない。わたしの髪を、アイロンみたいにジュって」

「どっちかっつーとシーラーだってのはさておき、問題はそこだよな。俺は最初、『こいつの身体は融かせねえな』と思ったからこそ、不思議に思ってお前に話しかけてみたんだけどよ……、近くで見てみたら、まあ何となく、髪の毛はいけそうだなと思って」

「髪の毛だけは例外ってこと?なんで?」

「俺に訊かれてもな。際限なく伸び続けるから、困らないようにというご都合設定か?いや、切られたりしても痛くない場所だからか?よくわからねえけどよ、もしそうだとすると、爪も切ることができそうだよな」

「そうね。そうであって欲しいわ。切ることができなかったら、わたし、リー・レッドモンドになっちゃうもん」

「まあよく見たら、なんか爪もいけそうな感じがするし、その辺は安心しといて良いんじゃねーの?」

他人事(ひとごと)ね…」


触れた物を何でも融かす能力者。

どこかで聞いたことがあったような気もするが、まさかこんな変人だとは思わなかった。

サラッと流されたが、初対面の人の髪の毛をいきなり加熱して溶接するなんて、常識を説くのも馬鹿らしく思えてくる程の酔狂だ。一応は謝ってきたとはいえ、あまり反省していないような気もするし……

なんというか、怖いというのもあるが、それとは別に人としての危うさを感じさせるような、そんな男の子である。

「男の子って言ってもいい年齢なのかは、議論の余地がありそーだけどな……ところで、もうちょっと近寄らないか?多少は近づいたとは言え、まだ4mくらい距離があるけど…」

「言ってもいいでしょ、それくらい。18歳なんてまだまだ男の子よ。ところで馬垣くん、物を融かす時に、その熱で手が熱いなと思ったりはしないの?」

「いやぁ?熱くないし、火傷もしない。これも法則性がよく判ってねえんだけどな、俺の(てのひら)は絶対に火傷をしたりしないようになってる…っぽいんだよな」

「それも変な話ね」

「変というなら、抵抗者の特殊能力全般が変だけどな」

それを言ったらもう終わりなんだが。

「そして今のこの、俺とお前との物理的な距離感も変なんじゃねえかと、俺はそう思う訳よ」

「いや、だって掌を火傷しなくても、そこから手の内部に熱が伝わっていけば、手の内部は火傷する筈でしょ?」

「屁理屈みてえなことを言うんだな……、でもまあ確かに、じゃあもし手全体が火傷しないのだと言い訳しても、その熱は血液から全身に伝わるんじゃねえのかって話になっちまうよなぁ。何せ俺の手は鋼鉄をも融かすんだから、それはつまり鋼鉄の融点に達する程度の温度の物質に触れたこともあるっつー訳だし……、だったらアレかね?掌が全く熱を伝導しないようにでもなってるんかね?」

「そうかしら。だとしたら、熱い物だけじゃなくて、冷たい物を触っても何も感じないってことになるけれど」

「おお」

そこで馬垣くんはパチンと指を鳴らしてから、その指でそのままわたしを差した。

いいなあ、わたしも鳴らせるようになりたいなあ。

「それだ。だからここ数日、水道の水がぬるかったんだ。ははあ、そういうことか。いやいや、こりゃ熱い収穫だぜ。重畳といったところか」

一人で勝手に合点がいったみたいな態度を取る馬垣くん。

『どういうこと?』と訊いて欲しいのかなと思って、わざと何も訊かないという無駄な意地を張るわたし。

というか、気付かないのかよ、それくらい。掌だけだというのなら、手の甲は熱を遮断しないから、水道水の冷たさは手の甲から…いや、手の甲も熱を遮断するのか?

まあ、他人事だし、どうでもいいや。


「んじゃ、用はそんだけだから」

一段落ついたところで一方的にそう言って、わたしに背を向ける馬垣くんだったが、そこでしかし、

「んにゃ、まだあった」

と振り返った。

どこまでも勝手な奴である。

「お前さ、なーんか暗そうな空気漂わせてっけどよ、あの貪食獣とかいう怪物どもに家族でも殺されたのか?復讐をしようとでも思ってんのか?」

彼は軽い口振りで、わたしにそう尋ねてきた。

わたしは質問の意図を汲まないままに、答える。

「確かに家族を殺されたけれども、わたしは復讐なんていう辛気臭くて暗い事は嫌いよ。暗そうな空気が漂っているのは、ただわたしが根暗だからっていうだけだから、関係ないわ」

「はっ、微妙に矛盾しているようで、絶妙にそうでもねえことを言いやがる。面白い野郎だ」

「野郎ですって!?冗談じゃないわ!わたしは女よ!」

「キレどころがどこなんだよ。じゃあもう訂正するよ、面白い奴だお前は」

そう言ってから、馬垣くんは今度こそ、わたしに背を向けて離れていった。


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