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お返しの連係技


ここで、我々ADF長野県支部における抵抗者のメンバーのうち、今わたしが属している小隊にいる十人の名前とその異能を、大雑把にだが一通り紹介しておこうと思う。

・わたし、篠守久凪。《不壊(ミョルニル)》。頑丈なカナヅチ…やかましいわ。

・梨乃ちゃん。《固定斬撃(キャッツクレイドル)》。あやとりをする。

・馬垣くん。《万物融解》。本作をグロ系コンテンツにした元凶の一人。

・左門さん。《月下湖面(デビルレイク)》。領域展開をする。

・国栖穴さん。《硬化(プラーク)》。卑劣に相手を苦しめる。

谷貝(やがい)居萱(いがや)さん。《干肉(ミイラ)》。ドライフルーツならぬドライ貪食獣(デボアラー)を量産する。

御水見深海(みみみみみ)さん。《船幽霊(オーシャンフォビア)》。水責め。

髭根(ひげね)まいさん。《研磨(フリクションレス)》。表面をツルツルにする。

荻原(おぎはら)萩原(しょうげん)さん。《黄金剣(クリューサーオール)》。ポ○モンバトルみたいなやつ。

真鈴(ますず)真鈴(まれい)さん。《冷凍庫》。天○龍閃みたいなやつ。


さて、ざっと説明するとこんな感じだけれど……

ん?

正直に言うとあまり詳しくは各々の異能を憶えていないというわたしの壊滅的な記憶力はともかく、改めて列挙してみると、なんだこの名前たちは?

真鈴(ますず)真鈴(まれい)』…

御水見深海(みみみみみ)』…

荻原(おぎはら)萩原(しょうげん)』…

えーと、親として人として、子供に名前を付ける時に言葉遊びをするのは良くないと思うの。いや、苗字に関しては元からだから仕方ないとしても。

特に『荻原萩原』は酷い。異質が過ぎる。この名前を考えた奴の意地の悪さが容易に想像できる。

初見で読めるかよ、こんな名前。憶えられないし。

ちょっと、この名前を考えた奴を出せ。どこのどいつだ、こんなふざけた名前を付けた野郎は。どんないけ好かない顔をしていやがるのか、この目でしかと見てやる。

はい、僕です。ごめんなさい。

本当に出てくんな。著者が喋るのはあとがきだけにしろ。


もういい、それじゃあ次に、この人達がどういう戦い方をしているのかということを一通り説明しよう。異能自体の内容については、先程わたしがしっかり説明したので、ちゃんと理解してもらえたと思う(いや、ごめんね、ちょっと待ってね。わかってるわかってる、後でちゃんと説明するから)。

今現在、梨乃ちゃんと国栖穴さんと左門さんはこの陣の中にはいないため、残る抵抗者は7名。盾役のわたしを除けば6名いることになる。

馬垣(まがき)くん、谷貝(やがい)さん、御水見(みみみ)さん、髭根(ひげね)さん、荻原(おぎはら)さん、真鈴(ますず)さん。

うわーん、振り仮名を打つのが面倒だよう。

この中で最も抜きん出て攻撃力の高い能力を持つメインアタッカーはそりゃあ馬垣くんだろうけれど、ウォーターカッターばりの超強力水鉄砲で攻撃する御水見さんや、黄金の剣とか眷属にした貪食獣とかを使って戦う荻原さんは、その次くらいの攻撃力を誇るサブアタッカーと言えるだろう。そして、谷貝さんは貪食獣の身体から水分を奪うことによって、また真鈴さんは局所的な気圧の操作で貪食獣を特定の位置に吸い寄せることによって、貪食獣を弱体化させたり妨害したりする役割を担っている。ゲームならデバッファーといったところか。また髭根さんは、狼が立っている場所の地面に異能を使用し、さながら真冬の凍りついた路面のようにツルツル滑るようにすることで狼のバランスを崩すという、敵からすれば何とも嫌なサポートをしてくれている。


つまり何が言いたいかと言うと、彼らは中々に強く、また実は、盾役のわたしがダウンして陣形が崩されてしまった時のために、第二の陣形としてわたしを除いたフォーメーションを定めているということもあって、わたしが倒れたことはそこまで致命的ではなかったということである。

……あれ?わたし、捨て駒にされてる?

とにかく、それではわたしの非常にわかりやすい異能解説を済ませたところで、本題に戻ろう。



◆ ◇ ◆ ◇ ◆



「防御陣形!」

わたしが地に伏したのを見て、上官が一声。それを聞いて、馬垣くんと荻原さんを前列に残したまま、そのすぐ後ろに真鈴さんと御水見さん、体術に熟練した上官が並び、そしてその更に後ろ…最後列には、谷貝さんと髭根さん、射撃に熟練した上官が、それぞれ移動して陣形を構成し、倒れたわたしをよそに向かってくる狼達を迎え撃つ。

「《研磨(フリクションレス)》!」

語り部たるわたしだが、腹の痛みに悶えて彼らの戦い振りを見ていなかった。

しかし安心して欲しい。彼らの声や、彼らにやられる狼どもの声は聴こえていたので、彼らがどのような連係プレーを見せてくれたのかという点は、かろうじて語ることができよう。

まず、髭根さんが地面を(なめ)らかにしたため、先陣を切った狼は足を滑らせて転倒した。慣性の法則に基づいて、狼どもは転倒しながら滑って接近してくる。そこを、馬垣くんの《万物融解》と荻原さんの《黄金剣(クリューサーオール)》、及び上官の射撃によって仕留めたようだ。

ただ、狼のほうだって学習する。次は滑って転ばないよう、少し離れた位置からジャンプして、奴らは文字通り、飛びかかってきた。

しかし、それも想定内だったようだ。

「《冷凍庫》」

申し訳ないが、正直に言うと理屈はよく知らない。真鈴さんの異能を詳しく知らないというか、忘れてしまったので。

くっそー、度忘れだ。何だっけ、真鈴さんの異能。

ただ事実だけを述べると、馬垣くんや荻原さんに飛びかかろうとした狼達は、真鈴さんの《冷凍庫》が発動した瞬間、背後から何かに吸い込まれるかのように減速したのだ。

加えて、上官の射撃や御水見さんの《船幽霊(オーシャンフォビア)》による超強力水鉄砲により、狼どもはことごとく出鼻を挫かれる。特に御水見さんの超強力水鉄砲がえげつなくて、水鉄砲とは言ってもそれはただ水を噴射しているのではなく、本当に弾丸を発射するのだ。水で形成した弾丸を飛ばすのだ。被弾した狼は血をまき散らしながらかなり遠くまで吹っ飛んでいった。

残りの狼は減速しながらも接近してきたが、そこをやはり馬垣くんや荻原さんにとどめを刺されたらしい。

見事な連係技である。やるじゃん、皆。

わたしを盾にするしか能が無い奴らだと思っていたことを、心の中では謝っておきたいと思う。


「髭根、一旦異能を解除しろ」

わたしという防御壁を破ったのを好機と看做(みな)し、ここぞとばかりに突撃してきた狼どもを大体制圧して、狼の攻勢が弱まったところで不意に、日倭さんがそう言ったようだけれど……

ん?何故?

「起きろ篠守!もう回復しただろ!」

「篠守お前なあ、サボるのは不良のジョブだろうが!」

ちっ…!

日倭さんと馬垣くんがわたしに怒鳴る。

馬垣くん、きみ、不良の自覚あったのかよ。

髭根さんの異能を解除させたのは、後退しながら狼を迎撃していた皆の所までわたしが歩いて行く時に、足を滑らせて転ばないようにするためか。

しかし、なぜバレた。

そんなに、わたしが悶絶する振りをして皆の活躍をチラチラ見るのが下手だったのだろうか?

読者にも嘘を言って隠していたのに。

誤解の無いよう言っておくと、いくら身体が壊れないからと言って、さっきわたしが食らった一撃…一刺しは、普通ならば尋常でない痛みにのたうち回るものだ。

凶器が身体を貫通していないだけで、腹を物凄い勢いで刺されたということに変わりはない。例えるなら、防弾チョッキを着ていれば銃で撃たれても痛くないのかという話だ。普通ならば。

だがしかし、わたしは度重なる地獄のような『異能訓練』とは名ばかりの拷問のお陰さまで、嫌だろうと否が応だろうと、痛みをあまり感じにくくなってしまった。

いや、そこまで感じない訳ではないよ?例えば銃で撃たれたりしたら、普通に痛みで動けなくなるよ?

より正鵠(せいこく)を期すなら、痛みの回復が早くなったのだ。すぐに痛みが引くようになったのだ。

従って、そんなわたしであれば、いくら凄い勢いで腹を刺されたとしても、戦闘不能の状態は30秒だって続かない。

「あはっ♪攻撃が効いていないのがバレちゃった♪」

「強キャラっぽく言ってっけど、実際はお前、異次元に悪質な職務怠慢野郎だぞ?どうしてこの危険な状況でサボれるんだよ、俺達の身の安全がかかっているのに」

「だってわたし、皆がこの程度の相手に遅れを取ることなんか無いって、信じてたから」

「えっ、うそ、そんな風に信じてくれてたなんて…ってなるか!」

馬垣くんは容赦なくノリツッコミで否定したけれど、しかし皆を信じていたというのも嘘ではない。言い訳であっても、嘘ではない。

信じているし、信頼している。

正直、皆はわたしなんかよりも凄い人達だ。強いし、優秀だ。わたしを盾にするしか能が無いだなんてとんでもない。むしろわたしが、盾になるしか能が無いと言ってしまっても良いくらいだ。

「やたらと自分を卑下する主人公を気取ってんなよ。普通なら、主人公はそこで『自分ももっと強くならなきゃ!』っていう風になるが、お前の場合は『じゃあ皆の足を引っ張ってやる』ってヤケクソになって迷走するタイプだろうが」

「何故わたしのイメージは何をしても良くならないのか」

手厳しいなあと思いながらも、わたしは狼の貪食獣から目を離さずに、後退りするようにして皆のほうに近寄って、元のポジションに戻った。それと同時に、他のみんなの陣形も元の状態に戻る感じで、微妙に変わる。

ただ、流石に言い過ぎたとでも思ったのか、そこで「まあ、でも……」と続ける馬垣くんだった。

何かな?フォローしてくれるのかな?

聞こうじゃないか。

「お前はこういう反応を求めて卑屈になっていやがるんだろうから、実際に言ってしまうのも(しゃく)に障るけどよ……、実際お前もお前で優秀だ。お前程に優れた盾は存在しない。お前が前に立ってくれているから、後ろに控えている俺達が安心して冷静に戦えるんだよ。今さっきだって中々に焦った。信頼と言うなら、俺もお前を信頼しているし、皆だって同じだ」

「えへへ、そういう反応を求めていたのよ」

「クソうぜえ」

わたしが茶化して、馬垣くんが怪訝になる。

予想通りの流れだった。

今度から、わたしの心の中では馬垣くんのことを『ツンデレくん』と呼ぶことにしよう。

とにかく、わたしは皆のいる場所まで後退した後、それに合わせて全員が、最終的には最初の陣形に戻った。またわたしが盾になる訳だ。

はあ〜やれやれ、しょうがないな。


……と、そこで上官の無線機が、不意に音を立てる。

小型ヘリからの連絡だろうか。

「え?いない?」

わたしの背後で無線で喋っている上官は無防備であるため、当然わたし達が気を張って守りを固めなければならないのだが、後ろから聞こえてくる上官の疑問形の言葉に、妙に嫌な予感を浮かべずにはいられない。

しかし、今は目の前の相手に集中しなければ。

わたしを睨みつけている狼どもが、いつまた襲いかかってくるか、わかったものでは……ん?

あれ?

「……おい、篠守」

今度はわたしの斜め後ろから、馬垣くんが一言。


「なんか、左門の向こう側に、狼がいなくねえか?」


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