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まえがき


例えば、学校で習ったことを、習ったからという理由だけでできるようになるというのは、一つの才能である。

わたしの在籍している(『していた』のほうが良いかな?)高校のクラスメイトに、英語の発音がちょっと気取った感じの…もとい、発音がネイティヴな男子がいた。

申し訳ない。気取った感じっていうのは、性格がネガティヴなわたしの主観である。

とにかく、ある時その男子生徒に対して、他の生徒がこう尋ねた。

「なんでそんなに発音が良いの?」

そしてその男子の回答は、読者の皆さんお察しの通り。

「え?何でって……習ったから」


ふむ。

確かに、習いはした。

rとlの発音の違いも、thの発音も、習ったは習った。

『だが理解できなかった』と言うつもりは無い。理解できないのは、理解できるくらいまで知らないからだ。理解力が無かったとしても、先生が解りやすく説明し尽くしてくれれば大抵は理解できる。

理解するだけなら、できる。

しかし、実際にやってみるとなれば話は別だ。教わった通りに発音しようとしても、上手くいかない、上手くできない。

『できてる!』と言われても、そう言う先生の発音と自分の発音は全然違っている。何が『できてる』のかがよく判らない。

第一、発音に限らずとも言語能力というのは感覚的なものであり、知識として知ることはあまり意味を為さず、訓練して感覚的に覚える必要がある。それはつまり、凡人が良い発音を身に付けるためには、学校教育の範疇(はんちゅう)を超えた訓練を必要とするという訳である。

学校にもよるけれど……現状、日本の義務教育から高等教育にかけての英語教育などその程度に過ぎないのだ。

学校では、一だけとまでは言わずとも、三、四くらいしか習わせてくれない。そこで十を身につける才能がなければ、その学習だけで正確な発音ができるようにはならないだろう。


勿論例外もあって、単に暗記した内容をそのまま書くだけならば、才能だなんて言う程にどうしようもない問題でもないのかも知れない。

記憶力も才能の一種ではあるけれども、私がここで言うところの『才能』とはニュアンスが違うのだから、それは例外になるのだろう。

その上で、あくまでもわたしが先程挙げた例についてのみ考えた時に、『いやいや、教わったことをそのままするだけ、インプットしたことをそのままアウトプットするだけのことがそんなに難しいのか?』と思ったそこのあなたは、おめでとう、才能のある人間だ。

我々はコンピュータではない。

そもそも、先生からの言葉という音声(●●)を聞いただけで、自分が発音する(●●●●●●●)時の感覚(●●●●)までを認識してインプットすることができるという点が、才能なのである。この二つは別々の情報だというのに。

持たざる者には、先生の言わんとした事、先生の感覚が100%も伝わらないのだ。


「…一応言っておきますと、才能が無い事は努力をしなくても良いという事の理由にはなりませんからね。陳腐な言い草ですが。まあ、もう少しマシな指摘をさせていただくなら、英単語や文法を知識として知ることも、それなりに大切ではありますよ。実際に喋る練習というのが、学校の授業ではあまりさせてもらえないというだけで…って、これもつまらない説明ですけれど」

わたしの独白に対し、聞き耳を立てていたらしい紫野(ゆかりの)梨乃(りの)ちゃん、つまりは憎たらしくも憎めないわたしの後輩ちゃんが、黒髪のポニーテールを手ですっと触りながら、そんなつまらない正論を投げかけてきた。

「『後輩ちゃん』はやめてください。そんな呼び方をすることで優越感を維持しようとされても困ります」

つまらない正論……

正論…?

まあとにかく、これは平常運転。いつものことである。

であるのだが、時と場合によっては真面目な女の子ではなく、やんちゃな不良男子にも正論を言われてしまうというのが最近の悩みだ。わたしも舐められたものである。

その辺りの詳細については、今から語ることとしよう。


「そろそろ着くようですね」

「もうか」

おっと、もう独白の時間は終わりらしい。

さて今回は、持たざる者であるところのこの私が、そういう理由で苦労をする…という訳ではしかしなく、むしろどうしようもなく持ってしまっている特性のせいで、随分と苦労を強いられるというお話である。

わたしも成長したものだ。

それを他人(ひと)所為(せい)にしないのだから。

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