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第8話:出発


ラスティードが大蛇のモンスターを退治した頃、時同じくしてキュリナの町は変化が起きていた。


「おい見ろ!」


町の住人がキュリナの樹を指差すと樹は淡く光る星粒子がキュリナの樹を囲んでいた。それはまるで傷ついた樹を星粒子が癒しているかの様に枯れていた樹が元の姿に戻っていく。止まっていた時間が動き出した様に樹には実が実り始める。同様に町の草花も癒えていく。


「こ、これは…!」


神父はまるで過去に自分が体験した神の加護を感じざるを得なかった。


「すごい!」


ミレアはキュリナの樹が元気になっていく姿に嬉しさが溢れ出していた。


しばらくするとラスティード達が西門から町に帰って来た。ミレアは走って駆け寄る。


「お兄ちゃん!キュリナの樹が治ったんだよ!」


満面の笑みをラスティード達にむける。ミレアに続いて町の住人達からも感謝の声が飛び交う。


「俺の前で奪うのが癪に障っただけだ」


ラスティードは感謝される事になれてないのかぶっきらぼうに返す。


「まさかあの魔物を倒すとは。一体君は…」


神父がラスティードに感心と驚きが混ざった眼差しを向ける。


「何度も言わねェぜ」


ラスティードはニヤリと笑いながら言う。


「ありがとう。礼を言う」


神父はラスティード達にゆっくりと頭を下げる。

続けて神父は


「イグダートにいるグレイジストという男を尋ねるといい。星鍵について詳しく知っているかもしれない」


ラスティードは少し目を見開いて神父を見る。


「何者だ?」


「医学者だ。主に治癒術の研究をしている。まだ若いが知識の多さは保証しよう」


「そんな事教えちまっていいのかよ。あんたにしたら俺は異端もいいところだぜ」


ラスティードの言葉に神父は少し考えながらも答えた。


「…君の発言を認めるつもりはない。」


少しの沈黙が流れる。


「だが町を救ってくれたのも事実。これはそのお礼だ。」


「ハン。堅苦しいおっさんだ」


「君の行く末を静観させてもらうとしよう」


神父は優しくラスティードに笑みを向ける。


「イグダートには汽車で行くといい」


神父は町の駅のある方を指す。ラスティード達はその方向へと歩き出す。


「こいつは貰ってくぜ」


振り返ったラスティードは笑いながら手に持つ地図を見せる。


「そ、それは私の……まったく…」


神父は呆れながらも口元は緩んでいた。


「お兄ぃーちゃん!お姉ぇーちゃん!ありがとう!これでおばあちゃんの薬が作れるよ!」


ミレアは満面の笑みで2人の背中に向かって大きく手を振った。ミレアの声を背中で聞きながら2人はどこか嬉しそうでもあった。


ラスティード達はミレア達の元から離れ、駅に向かう為、市場の前を通っていた。


「してラスティード様。汽車に乗るといっても私は現代の通貨を持ち合わせておりませんが」


アルザリアが特段心配してるわけでもなくラスティードに問う。


「だと思ったぜ。生憎俺も手持ちはゼロだ」


ラスティードはそう言うと、市場にいる人達を獲物を探すように鋭い目つきで観察しだした。


市場は、いつも通りの賑わいを見せていた。市場には色とりどりの品々が並び、人々が忙しく行き交っている。その中で、一人の太った40代くらいの女性が目立っていた。彼女は豪華なドレスをまとい、使用人を連れて市場の中心にある薬屋に足を運んでいた。


「なんですって!?在庫がないですって!?」


女性は激怒し、店主に向かって声を荒げていた。


「申し訳ございません、奥様。魔物の影響で製造が追いついてない状況で…」


店主は頭を下げながら平謝りしていた。


おばさんはさらに怒りを募らせ、店主を脅し続けた。その勢いで、彼女が身に付けていた豪華なネックレスが床に落ちた。しかし、彼女はそのことに気づかず怒りをぶつけ続けていた。


その状況を見ていたラスティードは、さりげなく近づき、落ちたネックレスを拾った。


「奥様、お忘れ物です」と言いながら、ラスティードはおばさんにネックレスを差し出した。


「何よ、あんた!」


女性はラスティードにも怒りの声をぶつける。


「美しい宝石は持ち主を選ぶといいます。あなたにはこのネックレスがとても似合います」


ラスティードは微笑みながら、彼女の首にネックレスを付けてあげた。


「あら、あなたよくおわかりざますわね」


おばさんはその言葉に気分を良くし、「今日はもういいわ。また来るざます」と笑みを浮かべた。そして店をあとにし、使用人を引き連れて去っていった。


その様子を少し離れた場所で見ていたアルザリアが、ラスティードの元にやってきた。「あの一瞬でどうやって?」と疑問を投げかけた。


「視線をそらすのはスリの基本だ。」


ラスティードは手に握られた財布を見せながら、不敵に笑った。


アルザリアは笑みをこぼし、「やはりラスティード様はただ者ではありませんね」と感心した。


「まあな。これで切符を買う金も手に入れた。さっさとイグダートに向かうぞ」


ラスティードは得意げに言い、アルザリアと共に駅へ向かった。


キュリナの町の駅は、古風な趣と自然の美しさが見事に調和した場所だった。駅舎は石造りで、歴史を感じさせる苔むした壁と、風雨に晒されて色褪せた広告がその時代を語っていた。駅舎の屋根にはツタが絡まり、四季折々の花々が咲き誇っている。


ホームに並ぶ木製のベンチには、自然に囲まれた穏やかな空気が漂い、腰掛ける人々は静かに列車を待っていた。ホームからは川のせせらぎが聞こえ、鳥たちのさえずりが背景に流れる。その奥には小さな池があり、光を反射してきらめく水面の下では魚が優雅に泳いでいる。


駅全体が緑に囲まれ、季節ごとに違った表情を見せる花や木々が美しい景色を作り出していた。古びた駅の時計が時を刻む音が静かに響き、蒸気機関車がゆっくりとホームに滑り込むと、その汽笛が駅全体に響き渡った。


ラスティードとアルザリアは、汽車に乗り込むと四人掛けの席についた。ラスティードは窓の外を眺め、アルザリアは彼の横に静かに座った。


汽笛が鳴り響き、汽車がゆっくりと動き出す。蒸気の白い煙が空に昇り、汽車はイグダートへと向かう。


「やっと先に進めるな」


ラスティードは窓の外を見ながら呟いた。アルザリアは彼に向けて微笑み、「はい、ラスティード様。これからの旅が楽しみですね」と応えた。


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