第7話:蛇悪の巣
町を出たラスティードとアルザリアは、瘴気の濃くなる方向へと足を進めた。周囲は不穏な空気が漂い、鬱蒼とした森がその景色を覆っていた。アルザリアは先頭を歩き、邪魔な枝葉や障害物を払いながら進む。彼女は時折、後方にいるラスティードの様子を横目でうかがい、何かを考えているようだった。
「ラスティード様。1つ訊いてもよろしいですか?」
ラスティードは少し驚いたように顔を向け、「なんだ?」と返答した。
アルザリアは立ち止まり、ラスティードに向き直る。彼女の眼差しは真剣で、興味本位ではない問いがそこに込められていた。
「なぜ神を目指すのですか?」
ラスティードは一瞬ためらったが、すぐに笑みを浮かべて答えた。
「奪われたくねェからだ」
ラスティードは笑みをこぼしながら歩き始め、振り返りながら「くだらないか?」と問いかけた。
その言葉にアルザリアは微笑みを浮かべ、「単純でよろしいかと。理屈をこねくり回す男は嫌いですから」と返した。
「いつか全てをお話してください」とアルザリアはラスティードの背中に向かって言った。
「それはお互い様だろ」とラスティードは微笑み、「ラスティード様が話せと仰っしゃれば今すぐにでもお話しますよ」とアルザリアは微笑みながら付け加えた。
「ほんとかよ」とラスティードは聞こえるかどうかの声で呟いた。
歩き始めて数十分が経った頃、瘴気の濃さは一層増していた。周囲は異様な静けさに包まれ、地面から立ち上る黒い霧が空気を重くしていた。瘴気は息苦しさを覚えるほど濃厚で、呼吸をするのも困難だった。
「瘴気が濃くなってるってのに魔物の気配がしないのはなんでだ?」
ラスティードは不審げに尋ねた。
「星霊力の感知は問題なく使えるみたいですね」
アルザリアもまた疑念を抱きながら答えた。
「スリ師だからな。感知だけは元々得意なんだ」
ラスティードは周囲を見渡した。
瘴気の発生源に到着すると、周囲は一層不気味な静寂に包まれていた。地面から立ち昇る黒い霧が視界を遮り、空気は重苦しい。しかし、魔物の気配は一向に感じられなかった。
「何かがおかしい…」
アルザリアが周囲を警戒しながら呟いた。彼女の目は鋭く周囲を見渡し、何かを探し求めているようだった。
ラスティードもまた、直感的に何かが迫っていることを感じていた。その時、不意に地面が揺れ、足元から突然鎖が飛び出してきた。鎖は星霊力で強化されており、瞬く間にラスティードとアルザリアの体を拘束した。鎖は冷たく、しっかりと二人を捕らえたまま離さない。
「くっ…罠か!」
ラスティードは歯を食いしばりながら鎖を引っ張ったが、鎖はびくともしなかった。
「これは…星霊術!」
アルザリアは冷静に分析しながら、周囲を見渡した。
その時、瘴気がさらに濃くなり、視界がほとんど遮られるほどになった。そして、霧の中から巨大な影がゆっくりと現れた。赤紫色の大蛇だった。大蛇の体はまるで瘴気そのものでできているかのように揺らめき、その瞳は冷酷に輝いている。
「よくぞ来た、人間ども。ここは私の領域だ」
大蛇が低く響く声で言った。その声は頭の中に直接響くようで、威圧感に満ちていた。
「こいつが瘴気の源か…」
ラスティードは大蛇を睨みつけながら言った。
「ふふふ、そうだ。私の瘴気がこの地を蝕んでいる。そして、ここは私の領域。侵入者は許さない」
大蛇はにやりと笑い、鎖をさらに締め付けた。
「わざわざ餌になりに来るとはバカな奴らだ」
大蛇と周りにいる魔物達が大笑いしている。
「おい!この女かなりの上玉だぜ!」と周りの魔物達がアルザリアを見て興奮している。
アルザリアは冷静に大蛇に視線を合わせている。
「気に入らない目つきだ」
大蛇がアルザリアの鎖をさらに強く締め付ける。
「まさか全力ではなかろうな」
アルザリアは全く動じることなく大蛇を睨み続けた。
「少しはやるようだな。ならこっちは!!」
大蛇はラスティードの鎖を強く締め付ける。ラスティードの体からは血が噴き出した。
「ぐゥッ!!」
「ラスティード様」
アルザリアは目を見開き、ラスティードを見る。
「シェラララララ!少しはいい声出すじゃないか」と大蛇は笑い、さらに鎖を締め付けた。
「貴様ただではすまさんぞ」
アルザリアが星霊力を高め始めたその時、「アルザリア!!」とラスティードの怒声が響く。アルザリアはその声に星霊力を高めるのをやめた。
「…お前は手を出すな。こいつは俺が殺る」
ラスティードの発言に魔物達が一斉に大笑いする。
「この俺様を殺るだって!手も足も出せないくせに笑わせてくれる!!」
大蛇は新たに出した鎖を鞭のようにしてラスティードを叩いていく。
「ぐアゥッ!!」
「貴様ァ!!」
アルザリアは怒りのあまり鎖をいとも簡単に引きちぎった。
「な、なんだと!!?」
アルザリアの周囲は膨大な蒼い星霊力を纏っていた。その眼はとても冷酷に殺意だけが込められていた。
「な、なんだ!この星霊力は!!?」
大蛇や周りのモンスター達はアルザリアの星霊力を前に驚きを隠せない。
「…お前ただの人間ではないな」
「貴様如きが知る必要はない。すぐに死ぬのだからな」
アルザリアは指先に星霊力を込めた。
「…ハァ…手ェ…出すなって…言っただろ」
ラスティードの言葉にアルザリアは指先に込める力を弱めた。ボロボロになりながらもラスティードは笑みをやめない。
「お前まさか…俺を心配してんじゃねェだろうな」
ラスティードの眼が徐々に光を帯びていく。
「俺は神になる男だぞ!お前は安心して俺についてこい!!」
ラスティードの眼は強烈な紅い閃光を放った。その眼を見たアルザリアは手を降ろし後方に下がる。その顔はラスティードへの信頼が込められていた。
「シェラララララ!人間如きが神になるだとよ!」
大蛇と周りのモンスター達の大爆笑の声が響く。
「【蛇迅鎖縛】」
ラスティードは笑いながら大蛇を視た。
「!!!」その言葉に驚きを隠せない大蛇。
「いい能力だ」
「なぜ俺の能力を…!?」
「貰うぜお前の能力」
ラスティードは【星霊力操作】を発動した。ラスティードの体からは紅い星霊力が溢れ出し、その力が急速に増大していく。
「うオオオォォォ!!!」
ラスティードの星霊力が急速に上昇し、その体を紅いオーラが包み込む。その様子に大蛇と魔物達は驚きを隠せない。ラスティードは鋭い目つきで大蛇を睨みつけると、鎖を引きちぎり、自由の身となった。
「さァて、反撃といこうか」
ラスティードは右手を肩に乗せ、左腕を軽く回した。その姿は余裕に満ちており、大蛇に対する圧倒的な自信が感じられた。
「調子にのるなよ小僧!お前ら!!」
大蛇は怒りに燃え、周りの魔物達に攻撃を命じた。しかし、その瞬間、ラスティードの周囲から放たれた強烈な力が一瞬にして魔物達を粉砕した。
「なッ!!?」
大蛇は驚愕の表情を浮かべた。
「次はお前だ。蛇野郎」
ラスティードはニヤリと笑い、大蛇を小馬鹿にするような口調で言葉を向けた。
「舐めるなよ!!人間が!!」
大蛇は怒り狂い、全力でラスティードを襲おうとした。しかし、次の瞬間━━━。
「【強欲】」
ラスティードの姿は一瞬で消え、気配すらも感じ取れなくなった。
「ど、どこだ!!どこに消えた!!?」
大蛇は驚きと恐怖に駆られ、周囲を見渡す。大蛇がラスティードの姿を完全に見失ったことに、アルザリアもまた驚きを隠せなかった。
(どういう事だ。ラスティード様はすぐにそこにいるではないか。ラスティード様は何か能力を使ったのか?)アルザリアは冷静に状況を分析しようとした。
「ふざけるな!出てきやがれ!!」
大蛇が再び鎖を操り攻撃を試みるが、その動きはすべて空振りに終わった。その時、ラスティードはすでに大蛇の背後に立っていた。
「貰うぜお前の能力」
ラスティードは大蛇に手をかざし、その能力を奪った。大蛇は再び星霊術を発動しようとするが、何も起こらない。
「な、なんだ!なにがどうなってる!?」
「どうした?能力が使えなくて焦ってんのか」といきなり目の前に現れたラスティードは不敵に笑い、大蛇を見下すように言った。
「…お前、俺に一体何をした!?」
「さァな。自分の眼で確かめてみろ!【蛇迅鎖縛】!!」
ラスティードが叫ぶと地面から鎖が勢いよく飛び出て、まるで蛇が獲物を縛り上げるかのように大蛇の体に巻き付いた。
「なッ!!?どういう事だ!!?」
事態を飲み込めない大蛇は慌てふためいた。
「てめェの能力はもう俺の能力だ!」
ラスティードは冷笑を浮かべた。
「なんだと!!」
大蛇は恐怖に震えた。
「さァて、ジワジワいくか。それとも一瞬でいくか」
ラスティードの冷酷な微笑に、大蛇の恐怖は込み上がる。
「ま、待て!瘴気は消す!だから━━━」
大蛇が命乞いを始めたその瞬間、ラスティードは指を弾いた。音と共に、鎖は一瞬で大蛇を引き裂き、その命を絶った。
「命乞いするなら言葉遣いに気をつけろ」
ラスティードは冷たく言い放ち、大蛇に背を向けた。彼はその場に倒れ込むように力が抜けた。アルザリアはすぐにラスティードを抱え込み、優しく膝枕の体勢をとった。
「お疲れ様です。ラスティード様」
アルザリアは優しく声をかけた。
「心配したか?」
ラスティードは微笑みながら尋ねた。
「微塵も」
アルザリアは微笑んだ。
「今は少しお休みください」
アルザリアは優しくラスティードに触れた。ラスティードは目を閉じ、「悪くねェな」と微笑んだ。
彼の顔には、疲れと共に達成感が滲んでいた。ラスティードとアルザリアの前には、瘴気が消え去った静かな森が広がっていた。戦いの後、二人はただ静かにその場に佇んでいた。
ラスティードに新たな星霊術が宿りました。ゲームや物語など新技を習得するとテンションが上がります。