第4話:新たな出発
洞窟の暗闇から抜け出したラスティードとアルザリア。洞窟の出口に立つと、彼らの後ろで洞窟の入口が徐々に結界に覆われていくのが見えた。結界がかかる際に「ヒュオオ」という風の音が響き渡り、まるで隠れるように洞窟の入口が姿を消していく。
「外からだと洞窟を確認出来ない仕掛けか」
ラスティードが口元に微笑を浮かべながら言うと、アルザリアは目を細め、どこか虚しそうに腕を組んだ。
「万が一にも私の封印を解く者が現れぬよう、結界を張ったのでしょう。通りで千年も来訪者が来ぬわけだ」
彼女の声には一抹の寂しさが含まれていた。
ラスティードは彼女の封印について何かを聞こうとしたが、その思いを飲み込み、先に進むことを決めた。
「まずはこの森を抜けないとだな」と言いながら、彼は顎に手を置き、周囲を見渡した。
アルザリアは鼻をクンクンと嗅ぎ分け、東の方角を指差した。
「ここから東の方角に小さな集落があるようです」
「わかるのか?」ラスティードは驚きと興味を込めて尋ねた。
「造作もない事ですわ」
アルザリアは微笑みながら答え、その微笑みには一切の誇張が感じられなかった。彼女の言葉を信じて、ラスティードは東に向かって歩き出した。
森は昼間の光を浴びて、木々が生い茂り、その間に様々な動植物が見え隠れしていた。鳥のさえずりや風の音が響き渡る中、ラスティードとアルザリアは慎重に進んでいった。
「きゃああああ!!」
突然、少女の悲鳴が森の中に響いた。 8歳くらいの少女が薬草のようなものを手に持ち、目に涙を浮かべながらモンスターから逃げ惑っていた。少女は黄色のワンピースを着ており、ブーツと短いベストを身につけていた。
「ぐははは!美味そうな人間だ」
熊のような姿に額から特徴的な角を持つモンスターがその背後に迫っていた。その姿は見るからに凶暴であり、恐怖を煽るものだった。
「あッ!」少女はつまずいて地面に倒れ込んでしまい、恐怖のあまり立ち上がることができなかった。
「逃げるのはやめか?つまらん」
モンスターは不敵に笑いながら少女に近づき、顔を彼女に近づけた。
「まずは首でももいで脳みそでも吸うとするか」
「い…いや…来ないで…!」
少女は恐怖に震えながら言葉を絞り出した。
「恨むならこんな結末を用意した神を恨むんだな!!」
モンスターが言ったその瞬間、突然声が響いた。
「結末ってのは書き換えるもんだぜ」
少女の前に立ちふさがったのはラスティードとアルザリアだった。
「ちッ星霊術なしか」ラスティードが言い放った。
「な…なんだお前ら!どこから現れやがった!?」モンスターは驚き、叫んだ。
「ラスティード様、ここは私が」とアルザリアが冷静に提案した。
「ああ、任せた」
ラスティードはそう言うと、少女の元に向かった。
「おい、大丈夫か」
「は…はい」少女は怯えながらも答えた。
「ぐははは!人間の女ごときが俺に挑むのか!身の程を知らないようだな」
モンスターはアルザリアに向かって突進した。
「身の程を知らぬのがどちらか━━━」
アルザリアは冷静に言い放ち、人差し指でモンスターに触れた。その瞬間、モンスターは一瞬で氷漬けにされ、次の瞬間には粉々に砕け散った。氷の結晶が光を乱反射し、幻想的な光景が広がった。
「す…すごい…」少女は思わず声をもらした。
「強ェとは思ってたけど、桁違いだな」
ラスティードは感心と驚きを隠さずにアルザリアに視線を向けた。
「お褒めにあずかり光栄です。」アルザリアは胸に手を当て、軽く頭を下げた。
「あ…あの、助けてくれてありがとうございました!」少女は感謝の意を表した。
「お前、こんなとこで何やってたんだ?」ラスティードが少女に尋ねた。
「薬草が欲しくて…。どうしてもおばあちゃんに」少女の目には再び涙が浮かんでいた。
アルザリアが少女の持っている薬草に目を向け、「小娘。名はなんという?」と尋ねた。
「ミレアです」少女は小さな声で答えた。
「ラスティード様。この娘は私たちが向かう集落の人間と同じ匂いがします」
アルザリアの目は優しく、ラスティードに何かを訴えるような光を帯びていた。
「意外と優しいんだな」とラスティードは微笑んだ。
「いえ。小娘を助けたとなれば、何かと交渉に使えるかと」アルザリアは冷静に答えた。
「そういう事にしといてやるよ」
ラスティードはどこか不敵に笑いながら、アルザリアの頭に手を置いた。
「ミレアっつったか」
「は…はい」ミレアはラスティードに目を合わせ、向き直った。
「お前の住んでる所に案内しろ」
「はい!」ミレアは元気よく答えた。
ラスティードたちはミレアの住む村に向かい歩き出した。森を抜け、彼らは徐々に東の集落へと近づいていった。