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第3話:封印


広大な洞窟の最深部、ラスティードは蒼白の体を持つ巨大なドラゴンと対峙していた。洞窟の空間は冷たく、周囲は氷で閉ざされ、ドラゴンの下には複雑な封印術式が組み込まれていた。その術式は淡い青白い光を放ち、洞窟内の闇をわずかに照らしている。ドラゴンの蒼い瞳が鋭く光り、ラスティードを見つめている。その眼差しには気品と威厳が溢れていた。


「人間に会うのは千年ぶりだのお。」


ドラゴンの声が直接脳内に響き渡る。その声は深く、圧倒的な存在感を伴っていた。しかし、ラスティードは全く気負うことなく、冷静にドラゴンに話しかけた。


「お前、封印されてるんじゃないのか?」


ラスティードの声は落ち着いていた。彼の銀髪が暗闇の中で淡く輝き、黒い服に包まれた姿が一層際立っていた。


「私を前に気負わないか。人間よ。」


ドラゴンの眼光は一層鋭くなったが、ラスティードはそれに動じることなく応じた。


「さっきもっとすごいババアに会ったばっかなんでな。」


ラスティードは肩をすくめた。その態度には自信と余裕が滲み出ていた。


「まあよい。人間がなぜこんなところにおる?」ドラゴンの声には疑念が込められていた。


「こっちが聞きてェよ。気づいたらこの洞窟にいたんだ。」


ラスティードは苛立ちを隠さずに答えた。彼の目には焦燥の色が浮かんでいた。


ドラゴンは内心で思った。(ただの人間なら星粒子濃度の高さに体が消滅するはずだが…)


「もういいか?用がないならもう行くぞ」


ラスティードが言い放ち、ドラゴンに背を向けて歩き始めた。その歩みは力強く、洞窟の冷気を物ともしない。


「ま、待て!お前、私に興味はないのか?なんで封印されているのかとか」ドラゴンは焦ったように言った。


「ねェよ。」ラスティードの返答は冷たかった。


「なッ…!?」ドラゴンは驚きを隠せなかった。


「お前が俺の敵なら容赦はしねェが、そうじゃねェなら用はねェ。もう千年くらい寝てろ。」


ラスティードは冷たく言い放ち、さらに歩を進めた。


「あははははは!私相手にそこまで言った人間はお前が初めてだ!」ドラゴンは高笑いしながらラスティードに声をかけた。


「あーそうかい。」ラスティードは冷めた態度を崩さなかった。


「まあ待て。私が人間を気に入るなど初めてのことだぞ」


「嬉しかねェよ。俺は急いでんだ」


「封印を解いてくれるのであればお前を私の配下にしてやってもよいぞ。」


ドラゴンはラスティードの背に向かって告げた。

ラスティードは足を止め、背を向けたまま呟いた。


「今なんて言った?」


ドラゴンは心の中でほくそ笑んだ。(喰いついた♪私の様な高貴なドラゴンの配下になれるのだ。断る手はない)


「バカかてめェは。俺は神になる男だぞ!てめェの下僕になる気は毛頭ねェんだよ!!」


ラスティードはドラゴンを睨みつけた。


「お前その眼…!!」


ドラゴンは驚きの声を上げた。(力では私に遥かに劣るくせにこの人間の態度はなんだ。なぜ奴の眼からこれ程までに力強さを感じるのだ)


「もしお前が封印から解放されたいなら俺の配下になるか、ここで死ぬかだ!」


ラスティードは神眼を使い、ドラゴンを睨み続けた。


ドラゴンは心の中で叫んだ。(本気で言っているのかこの人間は。遥かに弱いというのに奴のその自信はどこから出てくる。なぜその様な事を口に出来る。それなのになぜ私は高揚しているのだ!?)


ラスティードはドラゴンを封印している鎖に手をかけた。その鎖は黒いオブシディアンのような光沢を持ち、古代の術式が込められていることが感じ取れた。


「何をする気だ?」ドラゴンは尋ねた。


「封印を解く。てめェの力を俺の為に使ってやる。」ラスティードは力強く宣言した。


「無理だお前には!下手したらお前まで封印されるぞ!」


「いいから黙って見てろ。」


ラスティードは鎖に手をかざし、力を込めた。鎖が音をたて光を発しながら自壊していく。鋭い音が洞窟に響き、鎖が崩れ落ちる様子はまるで星が砕け散るようであった。


「なッ!お前どうやって…」


ドラゴンが驚きを隠せない表情でラスティードに尋ねた。


「お前を封印していた鎖がお前の星霊力を吸収しているのは視てすぐわかった。それに星霊力を吸収する星霊術が組み込まれている事もな。」


ラスティードは冷静に説明した。


「それがわかったとしてもどうやって…」


「触れたものの能力を奪う。それが俺の星霊術だ。お前の星霊力を吸収できなくなったことで鎖は自壊したってわけだ」


ラスティードは勝ち誇ったようにドラゴンに言い放った。


ドラゴンは心の中で強く叫んだ。(なぜ私が高揚しているのかわかった。私は支配をしたいのではない。支配されたかったのだ!!)


ドラゴンの体は光に包まれ、強烈な星霊力を放出した。洞窟内が眩い光で満たされ、その中でドラゴンの巨大な体が徐々に変わり始めた。蒼白の鱗が輝きながら消え去り、代わりに人間の形をしたシルエットが現れた。強い閃光の中で、ドラゴンの体は美しい女性の姿に変わっていった。その姿は蒼い髪、蒼い瞳、白を基調とした衣服を身に纏っていた。


挿絵(By みてみん)


ラスティードはその光景に驚きを隠せなかったが、不思議と笑みを浮かべていた。ドラゴンである女性はラスティードの前に膝まづき、恭しく頭を下げた。


「我が名はアルザリア。身命を賭してあなたに仕えさせて頂きます。」


ラスティードは親指を噛み、血を滲ませると、その指をアルザリアの前に差し出した。


「舐めろ。血の契約だ。」


「喜んで。」アルザリアはラスティードの手を両手で掴み、優しくラスティードの血を口に含んだ。ラスティードは【呪血】を発動させた。


アルザリアの胸元に紋章が浮かび上がり、契約が成立したことを示していた。その紋章は赤く輝き、まるで燃え盛る炎のようだった。


「俺の名はラスティード。この先の人生、俺のために生きろ、アルザリア。」


「承知いたしました。ラスティード様。」


アルザリアは恭しく頭を下げ、ラスティードに忠誠を誓った。


洞窟の冷気が少しずつ和らぎ、アルザリアの蒼い瞳が再びラスティードを見つめた。彼女の表情には尊敬と決意が浮かんでいた。


「さて、まずはこの洞窟から抜け出すとしよう」


ラスティードはアルザリアに向かってそう言い、歩き出した。


アルザリアはすぐにその後を追い、二人は洞窟の出口に向かって歩き始めた。洞窟内はまだ冷たく暗かったが、二人の足音が反響し、空間に命が吹き込まれたようだった。


「ラスティード様、これからどのように進めばよいでしょうか?」アルザリアが尋ねた。


「まずは外に出て状況を確認する。あの婆さんの言っていたことが本当なら、俺たちにはやることが山ほどあるはずだ。」


ラスティードは前を見据えたまま答えた。


「ラスティード様のお力があれば、どんな困難も乗り越えられるでしょう。」


アルザリアの声には信頼と期待が込められていた。


二人はしばらく無言で歩き続けた。洞窟の中は静寂に包まれていたが、その静けさは二人の心の中の決意と期待に満ちていた。


突然、洞窟の中に微かな光が差し込み始めた。出口が近づいていることを感じたラスティードは、歩みを速めた。


「もうすぐ外に出られるぞ。」


ラスティードがそう言うと、アルザリアは微笑んで頷いた。


洞窟の出口にたどり着くと、二人はまばゆい光に包まれた。外の世界は明るく、温かい陽光が二人を迎え入れた。


「千年ぶりの外の世界か…」アルザリアは感嘆の声を上げた。


「これから俺たちはこの世界を手に入れる」


ラスティードは決意を新たにし、その先に広がる大地を見つめた。


「どこから始めるのですか、ラスティード様?」アルザリアが尋ねた。


「まずは星鍵とやらの情報を集める」ラスティードは冷静に答えた。


「…星鍵」


「なにか知ってるのか?」


「幼少の頃、聞いた伝承があります。『星鍵を手に入れし者、神の力その身に宿されん』」


アルザリアの言葉に眼を見開くラスティード。


「幼少って…お前千年以上生きてんだろ」


「あらよく言いますでしょう。千年ひと昔と」


「言わねェよ!」


アルザリアはラスティードと戯れるかのようにその場を楽しんでいる。ラスティードはぶつぶつと文句を言いながらも「神の力か…」不敵に笑うラスティードをアルザリアは面白そうに見つめている。


こうして、封印を解かれたアルザリアとラスティードの新たな冒険が始まった。彼らは共に、この世界の謎と、そして自らの運命を切り開いていくことになる。


陽光の中を歩く二人の影が長く伸び、彼らの未来を象徴するかのように地面に映っていた。その影の先には、数々の試練と冒険が待ち受けていることだろう。しかし、ラスティードとアルザリアはそのすべてを乗り越える覚悟を持っていた。


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