第2話:星霊術
小さな少年の意識がぼんやりと戻ってきた。彼は今、ジメッとした湿気を含んだ沼地の中の木を背にして座っていた。白い霧が立ち込める沼地は、どこまでも続く不安定な地面に覆われていた。空気は湿って冷たく、目の前には白銀の狼たちがじっと彼を見つめていた。その目は冷酷な光を放ち、闇の中で光る宝石のようだった。
ラスティードは周囲を見渡しながら、夢の中の風景をしっかりと感じ取っていた。「またあの夢か・・・」と彼は呟き、現実に戻ったことを確かめるために目を開けた。夢の中の情景がまるで現実のように感じられるが、ここが現実だと理解するためには、確証が必要だった。
洞窟の中で目を覚ましたラスティードは、周囲の景色に驚愕した。洞窟は漆黒の闇に包まれ、幻想的な光がほのかに漂っていた。天井からは結晶化された星粒子の鉱石がぶら下がり、その青白い光が洞窟内を柔らかく照らしていた。床や壁には古代文字のような模様が刻まれており、それらは紋章のようにも見えたが、光の加減でぼんやりとしか見えなかった。星粒子が空気中に漂い、洞窟全体に重圧感を与えている。
「あのババアよりによってこんなとこに飛ばしやがって」
老婆への不満をブツブツとこぼしながらラスティードは洞窟の奥へ進む。
洞窟の深部にひびく静寂を破るように、大きなねずみのような魔物が現れた。鋭い爪を持ち、目の前に現れるその姿は獰猛そのものだった。体毛は灰色で、目は不気味に光っている。知能は低く、喋ることはできないが、その攻撃的な態度はラスティードにすぐに理解させた。
その巨大な爪が地面に擦れる音が不気味に響くと同時に、魔物は突如として猛スピードで襲いかかってきた。ラスティードは一瞬のうちに神眼を発動させ、魔物の動きを見透かす。
「視えてるぜ」
ラスティードは冷静にその攻撃を見切り、紙一重のタイミングで体を反らして躱す。しかし、魔物は素早く体勢を立て直し、再び襲いかかってきた。今度は鋭い爪を振り下ろしてくる。その瞬間、ラスティードの瞳には魔物の星霊力が揺らめくのが見えた。
「星霊術か」
魔物の体がわずかに輝き、次の瞬間にはそのスピードと威力が明らかに増していた。ラスティードはかろうじてその攻撃を避けることに成功したが、その勢いに圧倒される。魔物の爪が地面を深くえぐり取る。
「奴の星霊力が上がっている!」
ラスティードは瞬時に状況を把握し、魔物が星霊力を自在に操ることで自身の身体能力を強化していることを理解した。彼は冷静に呼吸を整え、次の一手を考える。
「いい能力だ」
ラスティードはニヤリと笑うと瞳が再び赤く輝き、彼の姿が一瞬にして消える。魔物は目の前から消えた彼を探し求めて周囲を見回すが、何も見えない。ラスティードはその間に魔物の背後に瞬時に移動し、無音のまま接近する。
「貰うぜお前の能力」
ラスティードの手が魔物の背に触れた瞬間、彼の体に力が漲るのを感じた。魔物は突然、自分の力が失われたことに気づき、驚愕の表情を浮かべた。だが、すでに遅かった。
「どうした、焦ってるのか?それとも、攻撃の手が止まっただけか?」
ラスティードは奪った【星霊力操作】の力を使い、自身の身体能力を限界まで引き上げた。そして、強烈な一撃をモンスターに放つ。彼の拳が魔物の体に命中すると、凄まじい衝撃音とともに魔物は壁に叩きつけられ、動かなくなった。
「相手を見て喧嘩売るんだな」
ラスティードは静かに吐き捨て、魔物を見下ろす。彼の目は冷たく、ただ冷静に、次の行動を考えるための静けさが漂っていた。
ラスティードは魔物を倒し、倒れた魔物の体を一瞥してから、再び洞窟の奥深くへと進む。洞窟内の冷気が一層強くなり、空気がひんやりとした感触を彼の肌に伝える。周囲には魔力が結晶化した鉱石や植物が点在し、幻想的な光を放っていた。洞窟の壁面には古代文字のような模様が刻まれており、それが光の加減でわずかに浮かび上がり、神秘的な雰囲気を醸し出している。
「やけに静かだな」
ラスティードは自分に言い聞かせるように呟いた。その目には、ここまでの道中で何体かの魔物との戦闘で自信と興奮が宿っていた。星霊力の粒子が漂う中で、彼は心を引き締めて前進し続ける。
洞窟の最深部に近づくにつれて、星霊力の濃度が増し、冷気も強くなってきた。ラスティードは神眼を使って周囲を確認し、洞窟の内部に潜む異常なほどの星霊力の濃さに驚愕する。彼の足元には星粒子が結晶化した鉱石や、淡い青白い光を放つ植物が生えており、これらが洞窟内の神秘的な景色を作り出していた。
「さっきより星霊力が凝縮されてるな。相当な力を持つモンスターが潜んでるかもしれねェ」
ラスティードは警戒しながら周囲を見渡し、これからの戦いに備えて準備を整える。
洞窟の奥深くに進むと、さらに強力な魔物たちと遭遇する。ラスティードは出会った魔物たちを次々に倒し、星霊術を奪っていく。彼の中には【状態異常無効】や【呪血】といった新たなスキルが加わり、これまで以上に強力な力を手に入れたことに喜びを覚えた。
「確実にさっきより強くなってる」
ラスティードは自信に満ちた表情で呟きながら、洞窟の最深部へと向かい続ける。冷気が肌に突き刺さるような感覚を覚えつつも、彼はその圧倒的な星霊力の前に立ち向かう決意を固めていた。
ついに、洞窟の最深部に辿り着いたラスティードは、そこに封印された蒼白のドラゴンの姿を目にする。ドラゴンは氷に閉ざされ、鎖に繋がれている。冷たく静かな空気の中で、その巨大な体は眠るように封印されていた。
「まさかドラゴンが封印されてるとはな」
ラスティードは驚きと興奮を隠せない。ドラゴンは物語や伝説でしか見たことがない存在であり、その実物を目の前にしたことは、彼にとって大きな衝撃だった。
ラスティードは神眼を使いドラゴンを視る。驚異的な星霊力の渦がラスティードを突き抜ける。ドラゴンの底知れない強さはラスティードの現在の力では到底手に負えないことを示していた。
「・・・こいつはこのままにしておくのが正解だな。万が一目覚めでもしたら_____」
ラスティードはドラゴンを前に呟くと、その瞬間、彼の脳内に声が響いた。
「こんなところで人間と会おうとは。ただの人間ではないらしい。」
その声は、目の前のドラゴンから発せられているものだった。ラスティードは驚きの表情を浮かべつつ、その声の主であるドラゴンの姿に再び目を向ける。その声の持つ威圧感と神秘性が、洞窟の空気をさらに重く感じさせた。
「…ドラゴンが直接話しかけてくるとはな…。」
ラスティードはその声に対して警戒しながらも、自身の心の奥底で興奮と期待を抑えきれないでいた。