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第16話




 …何が、起こってる…?



 あり得ない。



 …こんなの、絶対有り得ない




 目の前で「人間」が変わった。


 そんな経験は今までの人生になく、きっと、この先も無いだろう。


 雰囲気が変わったとか、表情が変わったとか、そんなレベルの話じゃない。


 「丸ごと」変わった。


 そんなことが、現実に起こり得るのか…?


 自分で言ってて困惑する。


 見開いたままの目を、閉じることができない。


 幼いその表情は、当時の彼女のままだ。


 “あの時のまま“なんだ。


 10年前とか、そんなのは関係ない。


 当時のことは鮮明に覚えてる。


 …そりゃ、はっきり思い出せって言われたら難しい部分もある。


 記憶に残ってるとはいえ、ずいぶん時間が経ってることに変わりはないんだ。


 でも、“思い出せた”。


 まるで、鮮明な過去の映像を、直接目の当たりにしているような感覚だった。


 覆い被さる彼女の「顔」が、現実と過去の狭間で揺れていた。




 「…えっと」



 彼女は微笑むでもなく、ただ、俺を見下ろしている。


 



 時間が、止まる。




 俺は固まったまま動けなかった。


 何が起こってるのか、それに対処できるだけの余裕はどこにもなかった。


 理解できるはずがなかった。


 それくらい、“衝撃的“だった。



 「ね、言ったでしょ?」



 何が、”言ったでしょ”?


 わからなかった。



 彼女の意図している言葉も。


 目の前で起こっている出来事も。



 追いつけない。


 全く、追いつけない。



 目を擦ることさえできない。


 どこを見ればいいのかもわからなかった。


 視線は固まっていた。


 それはずっとだ。


 目を離せなかった。


 甘い香りが、さっきよりもずっと近い場所にある。


 柔らかい感触が肌の上に掠めていく。


 天井から降る眩しい光。


 スピーカーから流れてくる、テレビの音。



 「私はもう死んでるの。「人間」としての、私は」



 彼女の言葉を追うことはできなかった。


 何もかも、“停止”していた。


 何も入ってこなかった。


 何かが埋まったまま、頭の中が渋滞していた。


 身動きができなかった。


 多分、そうだ。


 そこにあるはずのないものが、確かな“実線”の中に浮かんでいる。


 くっきりと、それでいて“滑らかな”。


 声を上げる隙間なんてなかった。


 瞬きも、——息を吐く動作でさえも。



 「今から言う「話」を、信じてくれる?」



 彼女は俺の目をまっすぐ見ていた。


 まっすぐ、俺の心臓を捉えていた。


 頷くことも、返事をすることもできないまま、それでも彼女は、その鮮やかな声色を「音」にした。


 10年前に起こったこと。


 自分の身に起こっていること。


 その一切を、静かに話し始めた。


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