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第14話


 「とにかく、危険なの。今は身を隠しておくのが一番いい」


 「身を隠すって言ったって、…ここに?」


 「アイツらにはキミの情報は渡ってない。それに、「私」が、キミに会いたがってたし」


 「は?」


 「…ああ、ごめん。気にしないで」


 「…なあ、悪いことは言わないからさ、まじで警察に行った方がいいと思うぞ?」


 「無理」


 「なんでだ?化け物って…、どんな目に遭ったのかわかんないけどさ…」


 「とにかく無理。わかって?」


 「ここで隠れててどうするつもりだ?家族は?」


 「家族?」


 「アカリの家族だよ。アカリの両親も、妹も、すごく心配してたぞ?ずっと泣いてたんだ。アカリがいなくなってから」


 「ああ、そう」



 彼女は冷たくあしらうように、そう呟いた。


 俺にはそれが理解できなかった。


 この10年、何があったのかはわからない。


 ひどい目に遭ったんだろうなとは思う。


 「攫われた」っていうのがどういう内容なのかは、まだよくわかってない。


 けど、少なくとも明るい話じゃないことは確かだ。


 それだけはわかってた。


 だからこそ腑に落ちなかったっていうのもある。


 アカリの家族が悲しんでたように、アカリだって、絶対みんなに会いたかったはずだ。


 なのになんだ?


 なんでそんな反応なんだ?


 冷たいっていうか、まるで、“他人のこと”みたいな…



 「私はもう、みんなとは会えない」


 「へ??」


 「今は説明できない。どうせ、信じてくれないだろうし」


 「和葉の連絡先なら知ってるぞ?知ってるって言っても、LINEだけど。ここにいるって伝えようか?」


 「やめて!私はもう、「不死川アカリ」じゃないの。色んな意味でね」



 何言って…



 彼女はおもむろにナイフを取り出した。


 さっき取り上げたはずなのに、いつの間に…



 たばこを灰皿の上に置き、ナイフを自らの右腕に添える。


 刃先は、肉に食い込もうとしていた。


 ナイフを持った左手が、グッと右腕の皮膚を押さえていた。



 「見てて」


 「待ッ…!」



 彼女の左手が、勢いよく滑る。


 途端に、赤い鮮血が滴り落ちた。


 ナイフの刃先が、彼女の右腕をスパッと切り裂いた。


 血は後から出てきた。


 斜めに深く線が入り、そこからインクが滲み出てくるように「赤」が溢れてくる。


 サーッと、血の気が引いた。


 目を疑う自分がいた。


 彼女が何をしているのか、全く理解できなかった。

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