8話 しっとり高級毛布
たむが恍惚とした表情で毛布に埋まっています。
あれは見たことがない毛布ですね……。またたむ神様(仮)がたむに新しい毛布を与えたようです。
先日からちょこちょこたむ神様(仮)にお供物をするようになり、それからたむ神様(仮)はお願い事を聞いてくれるようになりました。
もちろんたむに関することだけですし、家の外にも影響するようなことは叶えてもらえません。
ですから、いくら「たむに毛布とあんこを買うためです」とお願いしてもお金はもらえません。
しかし、「たむにもふもふの毛布をあげてください」というお願いは聞いてもらえますし、毛布をあげたらたむが喜ぶということにたむ神様(仮)は味を占めたようで、たむはしょっちゅう新しい毛布をもらって埋まっています。
今日は濃いグレーの毛布で、見た感じではあまり毛足は長くないようです。
珍しいですね。たむの好みは文字通りたむが埋まるぐらい毛足が長い毛布なのに。
ちょっと触ってみましょう。
さわさわ。
「なんと!?」
手に吸い付くようなしっとり感。撫でただけでも手が暖かい保温性。毛足は短めですがとても柔らかい毛並み。
間違いなくこれは超高級毛布です!!!!!!
めちゃくちゃ気持ちいです!!!!!!!
どうしましょう、これは私が着たいです。裸になってくるまって、全身で堪能したいぐらいのしっとりふわふわ毛布です。
しかしここで焦ってはいけません。
たむ神様(仮)はあくまでたむに毛布を与えているので、いくら飼い主とはいえ私が奪ってしまっては取り上げられるでしょう。
だからこうするのです。
「たむ、私も入れて」
「……ちょっとならいいでしゅよ」
嫌そうですが了承を得ました。こうなればこっちのものです。
いそいそと毛布の中に入ると、そこは天国です。
しっとりした程よい重みが全身を隈なくつつみ、毛布に溶けていくようです。
「私が毛布なのか、毛布が私なのか……」
「ミサキちゃん、なに訳のわからないことを言ってるんでしゅか?」
たむに突っ込まれるなんて屈辱的なことも、今はどうでもいいです。
今は毛布が全て。毛布以上に大切なことなんてないんです。
ああ、眠ってしまいそう。でも眠ってはもったいない。ああ、困った。
「ミサキ! ミサキ、起きなさい!」
「ふへ?」
激しく体を揺り動かされて目を覚ましました。
外は真っ暗です。今は何時でしょう?
「もう! ご飯だって呼んでるでしょう!」
怒っているのは私のお母さんです。
なにがどうしたんでしたっけ?
ああ、そうです。たむの高級毛布に入れてもらって、堪能しているうちに寝てしまったようです。
たむの方を見ると、綿毛のような毛布に埋まってぐーすか寝ています。
そして私が着ていた毛布はいつの間にか私の毛布に変わっています。
あたりを見回してもあの灰色の毛布は見当たりません。
「あちゃー、やっちゃったか」
どうやら私の行動がたむ神様(仮)のお気に召さなかったようで、高級毛布は没収されてしまったようです……。
それ以降、しっとり高級毛布が降ってくることはありませんでした。
ああ、なんということでしょう。