42話 妄想ウォータースライダー
ものすごく空いてしまって本当に申し訳ありません……。
今日はみんなでウォータースライダーをしに来ています。
えっ、みんなって誰のこと、ですか?
決まってるじゃありませんか。ぬいぐるみたちみんなです。
私は高いところも絶叫系も苦手なので、下でぬいぐるみたちを見守っています。
まず、列に並んでいられるのかが心配でしたが、乗り場に姿が見えました。双眼鏡で見ると、ちゃんと全員います。
ここのウォータースライダーはゴムボートに乗って滑るので、ぬいぐるみたちでも安心です。
浮き輪だったらまる犬とかきゅいちゃんみたいなちっちゃい子は穴から落ちちゃいますからね。
みんなでぎゅうぎゅうにゴムボートに詰められて、さあ出発しました!
ゴムボートが滑り出した瞬間、あらゆる物理法則とか慣性の法則なんかを無視して、たむがポーンと空中に放り出されました。なぜ??
微かに「あれーーーーー」という叫び声が聞こえました。
それから「待ってーーーーーー」と言いつつぽよぽよと追いかけていますが、あのスピードで追いつけるはずないので、たむはもう脱落です。
そんな遊びではないはずなのですが……。
その後は何事もなかったようで、ゴムボートはコースから出てプールに着水しました。
迎えにいきましょう。
ゴムボートに近づくと、「きゃー! きゃー! きゃー!」という叫び声が聞こえます。
ちょっちゃんの声ですね。もう終わったのにどうしたのでしょうか?
「きゃー! きゃー! きゃー!」
「ちょっちゃん、もう滑り終わってるよ。どうしたの?」
「きゃー! あ、ほんとだ」
けろっとした調子でそう言うと、何事もなかったかのようにゴムボートから降りて泳いで行ってしまいます。
あれはきっと周りもなにも見ずにひたすら叫んで遊んでいたのでしょう。きっとそうです。
それよりも、泳ぐというか浮いてるだけなのに進んでるのはなぜなのでしょうか……。ここは流れるプールじゃないんですが。
フランはずっと無表情で、ヒツジを抱えたままゴムボートから降りるとスタスタと歩いていきます。いやいや、なぜに君は水面を歩いているのだい?
「きゅい!」
ゴムボートからぴょーんと飛び出してくるきゅいちゃん。かわいい。
私の肩に乗ってきたので撫でておきましょう。楽しかったようですね。
あれ? まる犬がいませんね。
と思っていたら、コースから小さい何かが流されて飛び出してきました。
まる犬です!
「まるちゃん、どうしたの? はぐれてたの?」
「まるはね、なんかでっぱったところにひっかかってたの。やっとはずれてながされてきたの」
「えっ!?」
出っ張りって危ないのではないでしょうか。係員さんに言うべきでしょうか。
まあ、何はともあれまる犬が無事に戻ってきてよかったです。こちらも撫でておきましょう。
「ミサキちゃーーーーん!」
「フゴッ」
そうこうしているうちにたむが飛んできて、私の顔に突撃してきました。
「たむ、なんにもしてないんでしゅ」
「そうだね……」
「たむ、全然楽しくないんでしゅ」
「そうだね……」
「ミサキちゃん、たむと一緒に滑りましょう!」
「ええ……」
私は高所恐怖症で絶叫系も苦手なんですが……。
でも、うるうるお目々でじーっと見つめられると……仕方ありませんね。
「はいはい、わかったわかった」
「わーいでしゅ!」
たむをしっかり抱えてゴムボートに乗る私。
高いよー、怖いよー。
ああっ、滑り出しました!!
「きゃーーーーーーーーー!!」
目を閉じて絶叫する私。
訳がわからないまま、気づいたら終わっていました。ちょっちゃんのことをなにも言えませんね……。
たむは、あれ??
「ミサキちゃーーーーん!」
「フゴッ」
また上空から私の顔に突撃するたむ。
「なんでたむのことを放り出すんでしゅか!?」
「え、そんなことしてた!? ごめん……」
どうやら叫びながら無意識にたむを放り投げてたらしいです。
ごめん。本当にごめん。
でももう1回はほんと無理だから許して……。
びえーんと泣くたむを、よしよしと抱っこして撫でましょう。よしよし。
「こんな夏休みどう思う?」
「たむだけかわいそうなことになってましゅ……」




