40話 名前の漢字
「ミサキちゃん、これはなんでしゅか?」
「???? それはカバンだけど……」
それは私が小学校の家庭科の授業で作った手提げカバンです。
重いものを入れるのに使ってちぎれたら捨てようと思っているのですが、そういうのに限ってなぜか壊れず長持ちしますよね。不思議。
ずーっと「壊れたら捨てよう」と思い続けて、今に至ってしまっています。
「カバンじゃなくて、このややこしいのはなんでしゅか?」
「????」
ややこしい?
たむが前足(手?)で指し示すところを見ると、私の名前が漢字で書いてあります。
漢字を「ややこしい」と言っているのでしょうか?
「これは私の名前だよ」
「『ミサキちゃん』って書いてあるんでしゅか?」
「違うよ! なんで自分をちゃん付けで書くの!? そんな恥ずかしい子じゃないし!」
「じゃあなんて書いてあるんでしゅか?」
「『山原美沙希』だよ」
「????」
どうも苗字のことがよくわかってないようなので、できるだけ頑張って説明しました。
今日の本題ではありませんし、あまりにも長くて疲れたので割愛いたします……。
「たむもみょうじがほしいでしゅ!」
「私と一緒でいいでしょ。山原たむ」
「嫌でしゅ!」
「なんで!?」
まあ確かに苗字も下の名前も自分で選ぶわけじゃないので、気に入らないということもあるでしょう。
中学校の同級生だったアヤコちゃんは「子」がつく名前が嫌で、「大人になったら改名する」と言って名付け辞典を読んでましたがどうしているのでしょうか。
話がそれました。
「たむは『たむら たむ』がいいでしゅ」
「田村たむ」
「はい」
「……別にいいんじゃない」
どうせたむが自分で言ってるだけですので、好きにしたらいいと思います。
「たむの名前もかんじで書いてくだしゃい!」
「いいけど……」
苗字は「田村」と書いて、「たむ」はどうしましょうか?
適当に字を充てていってみましょうか。
田無、太武、多夢、他務、誰霧……。
スマホに「た」と入れて変換し、「む」と入れて変換してるのですが、これがホントに「た」とか「む」と読むのか? という文字も出てきますね。
まあでも「田無」でいいんじゃないでしょうか。
田村田無
「はい、書けたよ」
「…………違いましゅ」
「いやいや、読めないのに違うってなにが?」
「これはたむっぽくないでしゅ! こっちの方がいいでしゅ!」
太武
「えー、それは1番たむらしくないと思うよ」
なんでそんな勇猛そうなのを自分らしいと思えるのでしょうか?
「じゃあ、これでいいんじゃない?」
多無
「嫌でしゅ!」
「もう、わがままなんだから!」
その後もギャアギャアと言い争いながら漢字を書いていきますが、私とたむの趣味が全く一致しません。
こうなったらとにかく画数の多い字でも書いてやりましょう。
蛻鵡、點鵐、墮鶩、橢繆……。
あれですね。「夜露四苦」の世界ですね。
とある病の匂いがプンプンします。
「たむ、これがいいでしゅ!」
そう言ってたむが指し示すのは「墮鶩」です……。
「じゃあ今日からたむは『田村墮鶩』ね……」
「わーい!」
ちなみに「鶩」はアヒルなので、この字面だとどうしても飛ぼうとして失敗するアヒル→飛ぼうとして転がるたむが思い浮かんでしまいます。ぷぷっ。
そう考えると案外ぴったりな名前だったのかもしれません。
今後とも夜露四苦! 押忍!




