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わがはいは、たむである(不定期更新中)  作者: 紅葉月


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37話 妄想おむすびころころ〈前編〉

 あるところにおじーさんとおばーさんと、かわいい子猫がいました。子猫はたむのことでしゅよ。

 おじーさんは山へ()()()()に、おばーさんは川へ洗濯に行きました。()()()()ってなんのことでしゅか?

 子猫が縁側で日向ぼっこをしながらうとうとしていると、目の前を大きなおむすびが転がっていきました。


「なぜかおむすびが転がってましゅ。追いかけましょう」


 おむすびは止まることなく、ころころころころと転がっていきます。


「待って〜」


 子猫はおむすびを見失わないように本人(猫?)としては急いで、はたから見るとふらふらと飛んで追いかけます。

 おむすびは子猫の家の庭を抜け、畑を通り過ぎ、道を転がり続け、ついには森の中へ入って行きました。


「待って〜」


 子猫は疲れてへとへとになっていますが、おむすびを見失わないように追いかけ続けます。


「どこまで行くんでしゅか〜」


 おむすびは森の中をころころと転がり続け、森の中にある池にどぶんと落ちてしまいました。


「ありゃりゃ、落ちてしまいました」


 子猫はしばらく様子を見ていましたが、おむすびは浮かび上がってきません。


「仕方がないので帰りましょう」


 子猫が引き返しかけたとき、急に池が眩く光りはじめました。


「眩しいでしゅ〜」


 光が収まり子猫が目を開けると、池の上にはなんと女神様が浮かんでいました。

 金髪碧眼に白いドレスを纏った女神様は、慈愛に満ち溢れた微笑みを浮かべながら、池の前にいるものに声をかけます。


「妾はこの池の女神じゃ。お主は……」


 そこまで言いかけて、女神様は池の前にいるのが人間ではなく黄色くて平べったいひよこをデフォルメしたような物体で、しかもそれがふよふよ浮いていることに気づき、怪訝な表情を浮かべます。


「なんじゃお主は。えらく珍妙な姿をしておるが、狐狸妖怪の類かえ? そのような気配はせぬが……」


 それを聞いた自称子猫は反論します。

 もちろん女神様の言葉の意味はわかっていませんが、不審がられているのはわかったからです。


「なにを言ってるんでしゅか。たむは見ての通り可愛い子猫でしゅ!」

「はぁ!?」


 どう見ても猫ではない自称子猫の言葉を聞いて、女神様は反射的に女神様らしからぬセリフを口にして固まっています。


「たむは猫でしゅよ。ちんみょうなんて名前ではないのでしゅ。たむはみかん箱に入って捨てられていたのを、おじーさんとおばーさんに拾われたんでしゅ。たむはもふもふが好きなかわいい猫なのでしゅ」


 ツッコミどころしかない自称子猫の言葉を聞いて、女神様は頭痛をこらえるように額を押さえてしまいました。


「なんじゃ此奴は。なにゆえこのような変なものが引き寄せられてしもうたのかえ……。頭痛とめまいがしてきそうじゃ……。とはいえ来てしもうたものは仕方がない。妾の務めを果たしてしまえばよいことよ」


 口の中だけで独り言を呟いている女神様に、自称子猫は不満げです。


「なにをひとりでぶつぶつ言ってるんでしゅか。たむはもう帰りたいのでしゅ。疲れたので早く帰ってあんこを食べて寝たいのでしゅ。今日の夕飯はうぐいす餡なんでしゅから!」


 更なるツッコミどころを耳に入れないようにしながら、女神様は本来言うべきことを厳かに告げます。


「先ほど妾の池におむすびが落ちてきた。お主が落としたのはこの金のおむすびかえ?」

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