33話 換毛期と毛刈り
「ぎょばーーーーー!! どうしてそんなひどいことをするんでしゅか!? 痛いでしゅー!! やめてくだしゃい!!!!! びえーーーーーーーーーん!!!」
やめてください。
そのセリフだけ聞いたら、まるでたむが虐待を受けているみたいではないですか。
違いますよ!
全く違いますからね!!
「ひえーーーーーーっ!!!! そんなことをしたら、寒くて死んでしまいましゅよ! かわいそうでしゅ!!!! やめてくだしゃい!!!!!」
タブレットの画面に向かって泣き叫ぶたむ。
他のぬいぐるみ達はドン引きした後に、見ないようにしています。
私も部屋から出ようかと思ったのですが、ちょっちゃんに縋るような眼差しで「置いていかないで」と言われてしまったので、仕方なくたむの奇行を眺めています。
「どうして羊しゃんのもふもふを取ってしまうんでしゅか!? 寒いでしゅよ! 可哀想でしゅよ!! みんな逃げてくだしゃい!!!」
どうしてもなにも暑いからですよ。
真夏にもふもふのままでいたら、熱中症になってしまうではないですか。
だから羊の毛刈りをするのに、そんなこの世の終わりみたいな反応をするのはたむだけですよ。
そろそろ説明してあげましょうか。いい加減うるさくて我慢の限界もきましたし。
「たむ、それは羊さんをいじめてるんじゃなくて、夏に暑くないように薄着にしてあげてるの。毛刈りをしないと、暑くて死んじゃうの」
「あついってなんでしゅか?」
「は!?」
いったいなにを言っているのでしょう……。
「……暑いは暑いだよ。汗かいて、もふもふなんて着てられない状態のこと」
「??????」
漫画のように「?」マークを浮かべて不思議そうな顔をしています。
なんで……??
「たむはぬいぐるみだから汗はかかないだろうけど、夏は毛布もいらないでしょ?」
「いりましゅよ」
「は?」
「毛布はいつでもいりましゅよ」
「いや、だから夏は暑いんだって」
「あついってなんなんでしゅか?」
「………………」
どうしましょう、話が通じません。
同じ言葉を話しているはずなのに、全く通じていません。
暑いとは…………。
暑いとはなんなのでしょうか。
調べたら「気温が高いこと」だそうです。そうですね、本当にその通りです。
でもそれをたむにどうやって説明したら通じるのでしょうか。
気温とは?
暑いとは?
全ては個々の感じ方次第であり、即ち「心頭滅却すれば火もまた涼し」の世界であり、それならばたむの世界に「暑い」という概念がなくてもおかしくはない……。
ああ、私ったらなにを考えているのでしょう。
哲学的な思索と見せかけて、これはただの逃避です、逃避。
「ミサキちゃん、あついってなんでしゅか?」
「ごめん、私には無理だった」
「どういうことでしゅか!?」
食い下がるたむを宥めすかしてどうにか誤魔化したのですが、数日後に換毛期のサモエドの動画を見たたむがまた同じように叫び出し、全く同じ会話が繰り返されましたとさ。とほほ。
暑いって、なんなんでしょう?




