31話 きんとんちゃん
今日も今日とて、たむは雲のような綿毛のようなクッションに埋まってお昼寝しています。
冬の途中ぐらいからこのクッションは現れ(変な日本語ですね……)、相当お気に入りなようでずっと埋まっています。
あ、でも夜寝るときは埋まっていませんし、そういえばクッション自体を見かけない気がします。
たむ神様(仮)が毎晩回収しているのでしょうか?
それにしても、このクッションは本当にもふもふでもふもふです。
ベスト・オブ・もふもふを与えてもいいぐらいもふもふです。
…………触りたい。
ちょっとぐらいいいですよね。取るわけじゃないですし、ほんとにちょっと触るだけですから。触るというか、握るだけですから。もふっと鷲掴みするだけですから。
そう思いつつ、手をワキワキとさせながら触ろうとすると……。
手を払われました。
え、一体誰に!?
たむは変わらずすやすや寝ていますし、たむの手だか前足だかはもっと短いので届かないはずです。
でも、今私の手にはバシッと何かが当たりました。
何が当たったの!?
気を取り直して、もう一度手を伸ばします。
今度は警戒しつつ、自分の手をじーっと見つつ、慎重にいきます。
すると、たむが乗っている、その雲みたいなクッションに手を払われました。
えっ、これも動いてたのですか!?
私が持っていたぬいぐるみはみんな動いているのですが、毛布やクッションは動いていません。
たむは正確にはクッションではあるものの、顔とか手(前足?)があるのでぬいぐるみと同じ扱いなのだと推察しています。
そうではない、ただのクッションや毛布は動かないと思っていたのですが……。
「え、君も動いてるの?」
思わず漏れた私の独り言に返事はしないものの、雲クッションからは不満そうなオーラが漂ってきます。
「よくわかんないけどごめん」
「むにゃむにゃ、ふごふごふご?」
私が雲クッションと会話?をしていると、たむが目を覚ましました。
口まで埋まっているので、相変わらずふごふご言っています。
「ねえ、たむ。その雲みたいなクッションって動くの?」
「ふごふごふご」
埒が明かないのでひょいっと持ち上げます。
「きんとんちゃんはクッションではないのでしゅ」
「きんとんちゃん? クッションじゃない?」
「はい。きんとんちゃんはきんとんっていう雲なのでしゅ」
「はい!?」
く、雲!?
「え、君ほんとに雲なの!?」
全身を使って大きく頷くきんとんちゃん。
「きんとんって名前の雲なの?」
これには首を傾げるようにするきんとんちゃん。たむと一緒で首なんてないので、全身を傾けているのですが。
「違うの?」
「きんとんちゃんはきんとーんみたいな名前でしゅよ」
「きんとーん? もしかして筋斗雲?」
全身を使って大きく頷くきんとんちゃん。
筋斗雲で間違いないようです。
「え、じゃあ君は孫悟空の乗り物なんじゃないの? こんなところで昼寝に付き合ってていいの?」
口がないから返事ができないきんとんちゃん。でもなんだか困っているオーラが出ている気がします。
「きんとんちゃんはその生活に疲れたって言ってましゅ」
「疲れた……?」
あれでしょうか、都会生活に疲れた人が癒しを求めて田舎に来るようなものでしょうか?
「昼間はここに来て休んでるそうでしゅ。夜になったらそんごーくんのところに行ってるそうでしゅ」
「そ、そう。孫悟空の乗り物はそんなに大変なの?」
「あっちこっちにたくさん飛ばないといけないので、疲れるそうでしゅ」
「そうなんだ……」
「雲使いが荒いそうでしゅ」
「……へー」
筋斗雲なんて子どもの頃からの憧れで、せっかく目の前にいるのだから乗せてってお願いしたいところなのに、こんなにもくたびれ果てたオーラを感じてしまってはお願いしづらいですね……。
「じゃあさ、好きなだけ休みに来ていいから、ちょっと触らせてくれない?」
「………………仕方ないからいいよって言ってましゅ」
渋々了承してやったというオーラがものすごく漂って来ます。
とはいえ、いいって言われたのですからオーラは無視して触りましょう。
「す、すごいもふもふ! 極上の綿みたい! 天上のもふもふだよ、これは! いいなぁ、いいなぁ、孫悟空いいなぁ! 私も毎日このもふもふに乗りたいよー!」
私のハイテンションにドン引きオーラがきんとんちゃんから漂って来ていますが、もちろん無視です。
もふもふは正義! もふもふは正義! もふもふは正義!
触れるときに触れるだけ触っておかないと。
その日も日暮れごろまでたむと一緒にダラダラして、心底嫌そうなオーラを発しながらお空に帰っていったきんとんちゃん。
お勤めご苦労様です。




