29話 魔法の杖〈前編〉
「ミサキちゃん、たむの魔法を見てくだしゃい」
「……魔法?」
「たむは魔法の杖を見つけたので、魔法が使えるようになりまちた!」
「……魔法の杖?」
「これでしゅ!」
たむがドヤ顔でぴっと、手だか前足だかを持ち上げます。
そこには爪楊枝。
「……それが魔法の杖?」
「そうでしゅ!」
それは私が割り箸の袋から取り出して、なんとなくテーブルの上に置きっぱなしにしていた爪楊枝です。
すぐに捨てておけばよかった……。
「それで魔法が使えるの?」
「はい! 見ててくだしゃい! まほーん!」
今のは呪文ですか? と言いたくなるふざけた言葉をたむが唱えると、爪楊枝改め魔法の杖がピカッと光りました。
まさか本当に魔法!?
「どうでしゅか、ミサキちゃん」
「えっ、今のほんとに魔法なの!? 杖が光る魔法!?」
「違いましゅよ。杖が光る魔法ではなくて、ものを浮かせる魔法でしゅよ」
呆れたようなたむ。
でも、なにも浮いているものは見当たりませんが?
私がキョロキョロしているのを見かねて、「あれでしゅよ」と杖で指し示すたむ。
「え、何にもない……えっ、これ!?」
「そうでしゅ」
それは綿埃です。
埃です。
なんでわざわざそんなものを……。というか、床に落ちてるだけで全く浮いていませんよ?
「よく見てくだしゃい」
仕方なく床に這いつくばって横から綿埃を見ると……。
なんということでしょう!!
浮いています!!
床から5mmほど。
「浮いてるね」
「そうでしゅ! たむの魔法でしゅ!」
これはすごいのでしょうか。
綿埃のような軽いものが上空5mmのところに浮いています。たった5mm。
これはすごいのでしょうか。
いえ、冷静に考えれば私は綿埃や髪の毛1本さえ1mmも浮かせることはできません。
ならば、これはすごいのでしょう。
「たむは魔法が使えるようになりまちた!」
「そうだね、よかったね」
それはいいのですが、喜びながら爪楊枝をぶんぶん振っているのは危ないです。
どうしたものか……。
あ、そうです。爪楊枝よりもたむらしいものをあげましょう。
綿=もふもふを固めたあれならたむにぴったりです。
「たむ、その杖は尖ってて危ないから、こっちの杖と交換しよう」
「それはなんでしゅか?」
「もふもふを固めて作った杖だよ。こっちの方がたむに似合うと思うんだけど」
「もふもふの杖でしゅか! いいでしゅよ、交換しましょう」
私は爪楊枝と引き換えに綿棒を渡しました。
嬉しそうに綿棒を振り回しているたむ。かわいい。




