1話 わがはいは、たむである
気分転換で新シリーズも始めました。作者の妄想大爆発です。
わがはいはたむ、猫である。
人間に飼われている。
人間は、ミサキという女と、その父母である。
わがはいは、いや、普段は可愛らしく自分のことを「たむ」と呼んでいるので、そうすることにしよう。
たむは毎日、ごはんを食べ、日向ぼっこをし、昼寝をし、のんびり平和に暮らしている。
実は重要な仕事もしているのだが、人間は気づいていないので、たむはぐうたらしかしていないと思っている。不本意だが秘密の仕事なので仕方がない。
お店でたむに一目惚れしたミサキが連れて帰ってきたらしいが、たむはそのあたりのことはよく覚えていない。覚えていなくても困らないからいいのだ。細かいことは気にしないに限る。大事なことは、今日もおいしいごはんがもらえるかどうかということだ。たむは味にはうるさいのだ。
今は昼ごはんを食べてからしばらくたっており、たむは縁側で日向ぼっこをしている。
外はいい天気で、もふもふしていそうな雲が浮かんでいる。
……ほしい。
たむならあそこまで飛んでいけると思うのだが、外に出してもらえないのでどうしようもない。もふもふの感触を想像しながら見ているだけだ。
縁側の外はこの家の庭で、物干し竿がよく見える位置に置いてある。たむのお気に入りの毛布が干してある日などは、風で飛ばされてしまわないか心配で心配でずっと見守っているが、今日干してあるのはタオルと服なのでどうでもいい。がびがびのタオルなど、どうなってしまってもなんの興味もない。がびがびは敵だ。大切なのはもふもふしたものだけなのだ。
そうこうしているうちに寒くなってきた。毛布が必要だ。
今はたむ用になっている毛布をかぶっているが、1枚では足りない。探しに行こう。もふもふはどれだけあっても困らない。世界中のもふもふをたむのところに集めたい。もふもふに埋まってしまったら動けないだろうが、動けないなら動かなければいいのだ。寝ればいい。右も左も上も下ももふもふ。何という幸せ。
そんなことを考えながらもふもふの気配がする方へ向かう。上の階だ。階段を登らなければならないが、たむは浮いているので関係ない。
ミサキの父母の部屋へ入ると、畳んだ布団が積み上げてあり、1番上に毛布が乗っている。よし、もらっていこう。サイズが大きな毛布は重いのだが、がんばって運べば思う存分もふもふできるのだから気合も入る。
ふらふらしながら向かいのミサキの部屋へ入り、部屋の一角にあるたむ用のスペースに毛布を置く。たむ用のスペースには丸いクッションのようなベッドが置いてある。ペット用らしい。もちろんもふもふだ。たむはその上に乗って、上から毛布をかけてもらって寝るのだ。今日は新しい毛布を拾ってきたから、いつもよりさらにぬくぬく寝れるだろう。
よく見るとミサキの布団の1番上にも毛布が置いてある。これももらっておこう。ミサキは毛布を敷いて毛布をかぶるだけでなく、さらに毛布でできた服を着て寝ている。ずるい。だから1枚ぐらい減ってもいいのだ。ということで、ミサキの毛布もたむ用のスペースに運ぶ。疲れた。遅めの昼寝をしようか。暗くなってきたからもうすぐミサキが帰ってくるかもしれない。ミサキの父はそれより遅く、ミサキの母は今も台所にいる。今日の夕飯はなんだろうか。
たむの好物はあんこである。好物というか、あんこしか食べない。他のものはおいしくないので食べられない。今日の夕飯はなにかなというのは、なにあんかなということである。白あんか粒あんかこしあんか…。あんこの中に好き嫌いはない。ただ、皮に包んであるあんこは剥くのが大変なのであんまり好きではない。芯のあるあんこもある。もちろん芯は残す。だから初めからあんこだけを出してくれたらいいのにと思うが、あまり文句は言わない。ごはん抜きになったら悲しいから皮を剥くぐらい我慢してやるのだ。たむは健気ないい子だ。
ミサキが帰ってきた声がしたから下に降りよう。飼い主のご機嫌は取らないといけない。
わがはいはたむ、猫である。