1.プロローグ 1
夕暮れ時、大量の空き缶や瓶などのゴミが散乱する狭い部屋の中で中年男性が少年の首を締め上げていた。
首を絞められている少年の名は天音優、十二歳。
優は意識がだんだんと朦朧とする中、目の前にいる男を見る。
目を血走らせて首を全力で絞め続けている男は優の父だった。次に部屋の隅で座り込み頭を抱えている女へと視線を向ける。女の腕や顔には痣や傷があり、服で隠れている全身にも優と同じような物があるのが想像できた。
女は頻りに意味の分からない言葉をつぶやくばかりで、虚な目は焦点が合っていない。
「は…放っ…ぐがぁああっがかひゅ…」
「悪く思うなよ。借金返済の為にはこうするしかねぇんだ。ははは」
男は気持ち悪い下卑た嗤いを顔に浮かべている。
優は首を締め付ける太い腕を剥がそうと必死になって藻搔いているが、大人の子供の力には腕力に差がありすぎてしまった。脳への酸素供給が止まり、抵抗すらできなくなっていくと優の体は痙攣を繰り返す。
やがて抵抗がなくなり痙攣を繰り返すだけになった優の首から男は手をはなし、掻き毟られ血が出ている腕をさすりながら満足そうに笑みを浮かべる
「 クッソ痛ぇ…クソガキが思いっ切り爪をたてやがって。大人しく睡眠薬を飲まねぇから、こんなザマになっちまった。まぁいい…計画を変えるか。階段から落ちて首の骨が折れたあとにするか、なに保険屋の弱みは俺が握ってんだ。どうとでもなる…」
父だった男はぶつぶつと呟きながら流し台の方へ向かう。
「仕方ない仕方ない仕方ない仕方ない仕方ない仕方ないシカタナイシカタナイシカタナイシカタナイ…悪くない悪くない悪くない悪くないワタシハわるくなイ…」
女は自分の罪を認めまいと現実逃避していた。
暫くして男が戻って来て、部屋を見渡し慌て出した。
「あ…アイツはどこいった⁈居なくなったんじゃねぇか!」
洗面所で引っ掻き傷の血を洗い流し戻ってきた男は、部屋から優がいなくなっていることに気づき、女に問いただすが女は既に正気を失っている為、男が求める返事は返ってこなかった。
家の中や、周辺を探したが結局優を見つけることは出来なかった。
その日を境に “天音優” は失踪することになる。




