第三話
「なぁ、クロニャンって何度も直して貰ってるのか?」
俺は戻って来た絢香に聞いてみた。
「そっ……そんなわけないでしょ。今回、失敗しただけよ」
絢香は明らかに動揺していた。
そもそも上達する為に修行をしているわけだし失敗ぐらいするだろう。
俺はクールになった絢香を見てて何でもこなせるんだと勝手に思ってしまってた。今は強がりな部分はあるが中身は昔のままで少し安心した。
まぁ1番安心したのは魔法をかけられるのが俺じゃなくてよかった事だな。しかし一応確認しておこう。
「もしさっきの魔法を俺にかけたとして同じ失敗した時はどうなるんだ? クロニャンみたいに破裂するのか?」
「なっ、何を恐ろしい事言ってるのよ!? ……私も分からないけどまたアフロになるぐらいじゃないかな?」
「そうか。まぁアフロになるのは嫌だが破裂しないだけマシか」
「そもそもそんなに失敗なんかしないんだからね」
……そんなに失敗しないのであれば絢香のお母さんは俺に手伝いなんかさせなかったと思うぞ?
まぁ、これは言わないでおこう。
「ところでいつから魔女の修行してるんだ?」
「えっ? うーんと、中学生になった時ぐらいかな」
「そうか、絢香がクールになってきた時か」
「クールって何よ? 私は魔法上達の為にいつも心を落ち着かせるようにしてるだけよ」
「いや、だからそれがクールに見えるんだよ」
「そうなの? まぁ周りの評価なんてどうでもいいわよ」
……そのクールさがいいって奴がいるんだよ。今頃、また原稿用紙にラブレターを書いてるんだろうな。
あいつが今のこの絢香を見たらどうなるんだろう? ……いや、答えは分かってる。どうせ『それはそれでアリだ』だろう。
ってか、明日何枚書いてくるんだろう? ……まぁ今はあいつの事はいいか。
「それで、修行はまだやるのか?」
「当たり前でしょ。 お父さん帰ってきたら修行出来ないんだから。お母さんからダメって言われてるから」
まぁ、そうだろうな……
「それで? 同じ魔法をやってみるのか?」
「今日はクロニャン疲れたみたいだから他の魔法にするわ」
「クロニャンの気持ち分かるのか?」
「当たり前でしょ? 私の相棒なんだから。それにこれも魔法の1つよ」
「なるほど。じゃあその魔法で俺とクロニャンも会話出来るようになるのか?」
「勿論出来るわよ! ……私の魔法が上達したらね」
「そっ、そうか…… じゃあそれはいいとして次は何の魔法にするんだ?」
「うーん、集中力とか高めたいから透視の魔法かな」
そう言うと絢香はトランプを出してきた。
「このトランプでとりあえず1枚とってテーブルの上に置いてくれる?」
「あぁ、わかった。……しかしなんかマジックとかでありそうだな」
「それはマジシャンの中にも魔女の人いるからね。この魔法使えばやりたい放題よ」
「そういう事だったのか!? タネが分からないと思ってたよ」
とりあえず俺は言われた通りに1枚テーブルの上に置いた。
「じゃあちょっと集中するから話かけないでね」
そう言うと絢香はすぐ集中し始めたので俺は頷いておいた。
魔法を使うというのは余程集中しないとダメなんだろうな。今回は透視だし特に失敗などないだろう。俺はそう思いながら黙って結果を待つ事にした。
数分後……
「おかしいわね……今日は全然見えないわ」
絢香の集中力がきれたみたいだ。
「やはり俺が見てるから気が逸れるんだろうな。いつもなら出来てるんだろ?」
「そうね、いつもなら……」
絢香はそう言いかけて俺の方を見て驚いた
「ちょっと、何を服脱いでんのよ!? へんたい!」
「いや、待て! 脱いでないから! お前、もしかして俺の服を透視してるのか?」
「きゃー!? 動かないでー!」
俺も驚いて立ち上がろうとしたら止められた。
……いったいどこまで透視されてるんだろう?
この騒ぎを聞いて絢香のお母さんが来てくれた
「あらあら、どうしたの?」
「おかぁさーん、翔吾の服透視しちゃって戻らないの」
それを聞いて絢香のお母さんは笑いながら絢香に魔法をかけた。
「あっ! 戻った」
「……それはよかった」
そして絢香のお母さんは楽しそうに部屋を部屋を出ていった。
なんだろう……絶対に楽しんでるよな?
「……いつもならちゃんと出来てるんだからね」
絢香は今にも泣き出しそうだ。
「分かってるって。集中力上げる為の修行だろ? だから失敗なんか気にするな」
「……うん。頑張る」
正直に言うと気にして欲しい……が、泣かれても困る。というか泣きたいのはこっちだ。いったいどこまで透視されたんだろう? 怖くて聞けないぞ……早く慣れてもらいたいもんだ……