第弐拾伍話 驚愕! 新たなる敵!
第二次英国奪還作戦、ノースウッドの戦いは連邦軍の完勝に終わった。
奇襲攻撃からの押し込む作戦と、反撃の為の手段を奪われていた連合軍には逆転の目はなかったのである。
いや、完勝というには若干ちがうだろう。
ノースウッド司令部にまで押し込まれた連合軍はその艦隊の半分の撤退に成功させ、そのほとんどが旧ソビエト地域へと流れ込んだとされる。
無論、連邦軍も勝利したが被害が無かった訳ではなく、艦隊の約1/4を失った。特筆すべき損害と言えば第1独立艦隊のエースパイロット、ラペイシャス・A・クイーンの怪我であろう。
命に別状がないとはいえ一時的な下船を余儀なくされる状況であり、艦の中でも非常に高い戦果を誇っていた彼女の戦線離脱はかなり大きな損害だ。
また、今回の戦闘におけるノアの活躍は特に素晴らしいものであり、コスト度外視であったノアの量産計画は凍結を解除されたのである。
イギリス地区を奪還から約2ヶ月
旧ソビエト地域、東部戦線の最前線を形成するポズナン基地にてノアの量産型の配備を視野に入れた実践演習が行われていた。
4機で一個小隊とし迎撃、防衛、索敵、と言ったように役割を分けることにより、量産化に伴う性能の低下にも対応させようとしていたのだが、突如として連合により強襲され、ほとんどが破壊された。
「これを受け、本艦は以降ポズナン基地に入港し、連合の用いるノアを破壊するほどの兵器の調査、対処を当面行ってゆく」
ブリッジにて今後の作戦を説明したキシベは自らの椅子に腰掛ける
少しため息をついた後、思考をめぐらせる
試験機を壊滅させたのは月面にて遭遇したマキアなのか、そうではないのか
確認するまで不明のままのことについて考えては無駄である
そう分かってはいるものの考えを巡らせることを続ける
2507年7月29日 ポズナン基地
アークイド停泊
停泊から1時間後
第5小隊、哨戒任務を開始
2時間後、一切の異常無く帰還
警戒態勢解除
1時間後、上空にて待機させていた無人観測機との連絡が途絶
周囲の探査を開始
今まで戦闘を行わなかった雪原地帯であるため探査用の装備としてノアに新型の脚部装甲を装着
探査員として、第八小隊のキシべ、テツゾウの2名が抜擢
出撃してから1時間を作戦可能限界とした、哨戒任務を開始
「…母艦との通信途絶しました、敵が潜んでる可能性が高いですマスター」
テツゾウのノアに搭載されたAI、マキアがそう話しかける
「だそうだ、隊長」
「こちらでも確認した。各員警戒態勢へと移行しろ」
雪で白銀となった世界に緊張感が現れ始める
熱源、音響の感知以外のレーダーは調子が下がり視認性も低い戦場であるここはいつ攻撃が来てもおかしくない、という事実が何時もよりも戦いを予期させる
…ズバババ
それは突如起こった!
自らが滑る音以外何一つ響かない雪原に突如銃声が響く!!!
「マキア!方向は!?」
「右前方!2時の方向です!!」
白く偽装された敵の姿は見えないものの撃ってきた場所に向かい銃を放つ!
幾つかの光は敵がいるであろう位置へと進み…
当たるその瞬間!
回避せんと雪を吹き飛ばし現れた敵の姿は彼らのよく知るものだった!
「…!ノアだと!?」
「いや…よく見ろジーク!見た目に差異がある!」
「外見的特徴、サイズからノアを参考にして開発された機体と思われます!」
「面白い!行くぞマキア!博士達からの借り物を使う!」
「黒筒、展開申請受理。申請、許可…いいですよ!マスター」
奇襲にしっぱいし姿を見せた巨神は
背部に装着していたコンテナはプシューと言った音を放ちながら展開し中に入っている拳銃、機械的なナイフを取り出させる
周囲に敵が居ないかを確認しつつ…相手の間合いへと飛び込みッ!ナイフを振るう!
ナイフより飛び出した光刃により…本来の間合いよりも長い斬撃を放つ!
当たった!………!?
否!
雪の上を滑走し、瞬間的に距離を確保した敵は!
両腕に相当する位置に装着された機関銃で弾幕を貼りながら後退していく!
「逃すわけにはいかん!追ってくれ!ジーク!!」
「ああ!了解だ!」
最大速度で追跡を開始したノアは数秒で再度接近が可能な距離にまで到達!
だが!しかし!
「弾幕が厄介だな…」
二丁の機関銃に加え!更に内蔵された機関銃の弾幕はノアを傷つけるほどではないものの傷を負いかねない攻撃であり、敵がさらに存在する可能性があるこの戦闘において回避すべきものだった!
「マスター!黒筒を!」
「…そうだな!」
2つの黒き光が放たれ!
敵の巨神を穿たんとする!
が!
しかし!
放たれた黒き光は避けられ!虚空へと進んでゆく!
(当たらないな…ならば将を射んとせば先ず馬を射よだ…)
「マキア!雪上に当てて崩すことはできるか!?」
「…可能です!」
「ならば!落ちやがれ!」
ロシア地域、特にこのポズナン基地周辺は前の大戦以降、以前の数十倍以上の豪雪地域となっており雪上の移動はスキーを持ち要らなければノアほどの重量を持つ兵器は沈んでしまう
そこで彼は雪を吹き飛ばし!即席の落とし穴を作成した!
想定していない自体に対応が遅れた敵は転倒し!盛大な隙を見せる!
この光景を眺める者がいた
ジークのノアと転倒した敵、そこから約1キロほど離れた場所にて彼は構えていた
…虎視眈々と…冷静沈着に…確実に仕留められるその時を待ち!
来た!
そう!来たのである!
そのタイミングが!
彼は引き金を引く
ジークを巻き込まないように丁寧に
放たれた一閃は!
隙を晒していた敵を文字通り吹き飛ばす!
「ジーク!手柄を横取りしてすまん!だがここにいるのは不味いのは分かるな!?引くぞ!ジーク!」
冷静に引き金を引いた彼は、ものすごい剣幕でジークへと話しかける
「…ああ…了解した」
「よし!撤退する………ダメそうだなぁ…」
あることに気づいた彼はため息を吐き…また銃を構える
「さてマスター…嫌なニュースしかないんですけどいいですか?」
「…気づいてるよマキア、敵と推定される反応が10機…しかも今のと同じらしいのか…軽装で来るもんじゃないな…」