表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔性転生  作者: 邪
第二幕 ―秘匿島―
30/32

“自力”

 それは、行者採用試験を受けると決まってから、船に乗るまでの間の出来事である。

「ではレッスン4よ、しおりちゃん」 

 放課後、学校の屋上で毬倉永子が指を立てて言った。その向かいでは、しおりが体育座りをしながら彼女の話を聞いている。

「4は、そうね~……式神について教えておこうかしら」

「しきがみ――」耳にしたことはある。主に少年向けのアニメや漫画などによく出てくる印象だ。

「犬とか狐とかを召喚するやつですよね?」

「うーん、まあ正確には“妖を”かしらね」

 しおりは首を傾げた。それっていうのはつまり、自分がやっている事と同じなのではないか?

「ゴブちゃんも式神ってことなんですか?」

「いいえ、前に軽く説明はしたと思うけど、あなたは魔性使い。式神使いではないわ」

「は、はあ……」しおりの眉間に皺が寄る。

 永子はそんな彼女を眺めて面白そうに笑った。

「魔性使いは契約者と妖が“同意”のもと“契約”を行なうだけ。ただし、契約した妖の力を行使する場合、それに見合った霊気を消費する。ちなみに顕現させているだけでも霊気は消費し続けるのだけど……――しおりちゃんには関係のない話ね。おそらく、霊気を食われてる実感すらないでしょう?」

 やれやれといった顔になった永子を見て、しおりは申し訳なさそうに頬を掻いた。するとこれまで霊体化していたゴブリンが突如実体化し、しおりの肩に顎を乗せて言った。

「ギギ、オレを顕現し続けるだけなんて、コイツにとっては池の水を手で掻き出すくらいの消費でしかないからナ」

「あれ、ゴブちゃん寝てたんじゃないの」

「ギ、お前があまりにモ素っ頓狂だから目が覚めたんダ」

「えー、だって……。あの先生、式神は何が違うんですか?」

「んー、召喚された妖という部分は同じ。でも式神の召喚には<式>が必要なの」

「式……数式みたいなですか?」

「まあ……ようはルールよ」

「ルール?」

「ええ。妖を式神化にするには、対象を一定以上弱らせたうえで専用の儀式を行なうのだけれど、その際にしもべにした妖を召喚をするための条件――ようは自分に課すルールを決めなければいけないの。例えば口笛を吹くとか、ジャンプをするとか、何でもいいのだけれど、本人にとって厳しい条件であればあるほど強力な式として機能する」

「でもそれって、なんだか凄く手間じゃないですか?」

 というのも、自分は何も行っていないからだ。なんなら召喚しているという意識すらない。基本はずっと一緒にいるし、いない時でも向こうから勝手に現れる。いつだって呼べば応えてくれる。

 永子は不思議がるしおりを見て小さく微笑んだ。

「そう、だからそれが魔性使いの利点。ただし、何をするにも霊気を食うという弱点がある。あなたの場合、それが弱点として機能していないってだけ」

「じゃあ式神使いは何のために式を使うんですか?」

「それは、霊気の消費を抑えるためよ。式は僕を顕現させ、力を行使するために必要な霊気量を大幅にカットすることが出来る。というより『こちらはこれだけの対価を払うから、あんたも出来るだけ自力で動いてくんない?』みたいな」

「じゃあつまり、霊気のかわりに式を使うのが式神使い」

「そう。そして<贄>を捧げることで僕を強化することが出来る」

「にえ?」しおりがまた難しい顔になる。

「生贄の“贄”よ。話を聞いた限り、しおりちゃんも油取りの結界の中で、たびたび贄を捧げてるはずよ?」

 といわれても――覚えがない。

 ゴブリンを向くと呆れた顔をしていた。

「ギギ何度も余計にオマエの霊気を貰っただロ」

「あ、それ?」

「そうよ。まあ、しおりちゃんには何の負担にもならないようね。ようは魔性使いは霊気を贄にする。妖の顕現にも霊気がいる。何をするにも霊気がいると言ったのはそういうこと」

「じゃあ、式神使いは霊気以外を贄にするってことなんですか?」

「ええ。例えば髪の毛、爪、歯、コレクションしているコイン、お気に入りの人形、ゲームソフト。式と同様に何でもいいのだけれど、本人にとって大事なモノであればあるほど強力な贄となる」

「そうなんだ……魔性使いも式神使いも端から見たら同じにしか見えなそうなのに、全然違うんですね。あ、でも式があるから直ぐに見分けはつくのか」

 ひとり納得するしおりを見て、永子は人差し指を立てながらチッチッチと舌を鳴らした。

「基本的に見分けはつかないと思っておいた方がいいわよ」

「でも式を見れば」

「ノンノンノン。式神使いにとって<式>はまさに生命線。なんといってもこれを実行できなければ妖を顕現させられないのだから。なので式神使いは必ず式を隠す。バレないようにそれを行使する」

「なるほど」

「でも、だからこそ式神使いと相対することになればしおりちゃん、あなたが有利なのよ」

 私が、有利……。

 そう、永子との会話を振り返りながら、しおりは林のなかに身を潜めた。ゴブリンが二匹の蝦蟇と交戦している。いてもたってもいられない。でも今は出て行けない。しっかりと作戦通り動かなけば。まずは相手の式を探る。ゴブリンが幾多の行動パターンをとり、その際の相手のリアクションを自分が距離を保ちつつ観察――と相棒は言っていた。正直、自信はない。でも見極められなければ次の段階にはいけない。

 しおりは少女を注視した。

 どうやら彼女は、その場から動かず、中空で行われている妖精と蝦蟇の攻防を見上げているだけのようだった。つまり動作が<式>になっている可能性は低い。

『強い妖を式神として使役するには、それ相応の<式>と<贄>が必要』

 そんな永子の言葉を思いだし、しおりは小さく首を捻った。

 試験の参加者は行者ではない。自分と変わらない霊能が使える人間というだけ。強力な妖を従えているとは考えにくい。

 脳裏に、油取りとの遣り取りが過る。向き合っただけで身の毛もよだつあの感じ。クラスメイトの姿を奪い、その命までも――。卍六郎太が鬼にならなければ倒せなかったほどの怪物。それと比べたら、どう見ても蝦蟇は弱い。

 やはり少女が難しい<式>を使っているとは思えない。きっと誰でも出来ること──

「あっ!」

 しおりは何かに気付いたのか、木々から身を乗り出し、「ゴブちゃん!」と相棒に声をかける。

 ゴブリンはそれを認め、作戦を第二段階へうつすことにした。蝦蟇を弾き飛ばし、少女へ向かって一直線に飛んでいく。

 すると少女の傍から別の蝦蟇が出現し、行く手を阻まれる。

 が、それでよかった。ゴブリンは確かめたかったのだ。しおりが伝えてくれた少女の<式>。その是非を──

「ギギ口の動キ! 見えたゾお前の式ガ!」

 ゴブリンの言葉に少女は初めて狼狽した。

「ハッタリでしょ! それにこっちだって、もうあんたの式は把握ずみなんだから!」

 少女の視線がしおりを向く。

 しおりは、彼女がこちらを向くのを確認してから、指をパチンッと鳴らした。

 それと同時に、蝦蟇と応戦していたゴブリンは姿を消し、精神世界を経由してしおりの傍に現れる。相手からすれば妖精が瞬間移動したように見えたはずだ。

「やっぱりね。あんたの式は指パッチンでしょ? 林に身を隠す時も指を鳴らしてた」

「そ、そんなわけ……」 しおりが口籠る。

「ギギそっちコソ特定のワードを言うのが式なんだロ。ネタは割れタ調子に乗るなヨ」

「ふん、こっちの台詞よ。ただ、まあそうね……蛙を連想させる言葉を口にする。それがあたしの式。でもだからなに? わかったところでどうだっていうのよ!」

 彼女の口が『ゲコ』と動く。

 すると新たに蝦蟇が出現し、しおり達に襲い掛かる。

 しかし、これをゴブリンのボウイナイフが銀光一線ではじき飛ばした。

「ギギ、最初のが一番強かったナ。もしかしてガス欠カ?」

 妖精が挑発するように顎をしゃくる。

 少女の目が据わり口が動く──『ゲロゲロゲロゲロ クワックワックワ』

 しおりは思わずカエルの歌を連想し、すぐに違和感を覚えた。

 景色が変わった? いや、暗くなった──影? と思った瞬間、ゴブリンが「上ダ!」と叫んだ。

 見上げると空は無く、かわりに直径5、6メートルはあろうかという蝦蟇の腹が視界を遮っていた。

「ギ、マズイ!」

 ゴブリンがそう口にした次の瞬間、こちらを向く巨大蝦蟇の暗いトンネルのような口腔から、ドッ! と大量の水が噴き出した。

 ただの水……シャワーと変わらない──なんてことはありえない。水は1Lで1kgある。いま降ってきている水の量は何百? 何千? 何万? いやもっとある。まともに食らえばペチャンコ──

「しおり!」

 ゴブリンが手の甲を打ち合わせ、口からノイズ音を発してナイフを地面に突き立てる。すると地面が隆起し、しおりとゴブリンをすっぽりと覆い隠すかまくらが出来あがった。

 そこへ水の塊がドシャッ! と激突する。跳ねかえり舞い上がった水が雨となり、散った飛沫が霧のように辺りに停滞した。

 空中の巨大蝦蟇は消えていた。<水を吐き出す>という限定的な能力なのだろう。ただ、間違いなく大技。片膝をついて肩で息をしている少女の姿が、それを物語っている。

 霧が晴れ、視界がはっきりしてくると、しおり達のいた場所に崩れた岩のかまくらがあった。隙間から覗くそこに彼女と妖精の姿はない。

「出てきなさいよ!」 少女は立ち上がり周囲を見回す。

「私はここよ!」

 林の一角からしおりが姿を現す。ゴブリンの姿はない。

「あの緑はどうしたの? 隠れてる? 言っとくけど、感知は苦手じゃないよ」

 少女の視線が周囲へ忙しく動く。

「どうやら、いないようね。つまり、」

 少女の口が『ゲロ』と動く。

 すると拳大の蝦蟇が二匹出現して素早くしおりの両手に張り付いた。

「これで指はならせない。あのやっかいな妖精モドキは呼べないわよ。加えて、」

 彼女の口が『ゲコ』と動き、猫サイズの蝦蟇が現れる。手には短刀を持っていた。

「これでチェックメイトね。あたしの勝ち」

 と、少女が言った瞬間──

「ギ、確かにチェックメイトだ」 ゴブリンが彼女の背後から首筋にナイフを沿えた。

「なっ、どういうこと!? 式は使えないはずなのに……まさか!?」

「ギギそういうことだ」

「そうなの……魔性使い──そんなの本当にいるのね」

「サア、降参しロ。バッジを渡せば何もしなイ」

「……わかったわ。なーんてね」

 少女がそう言った、次の瞬間、猫サイズの蝦蟇が舌を伸ばしゴブリンの腕ごと胴をぐるぐる巻きにした。

「はーい、形勢逆転ね」

 彼女は身体ごと振り向いて、拘束されたゴブリンの額に自分の額がくっつくほど顔を近づけると、挑発するように笑みを浮べた。

「ギギ油断した」

「うーん、式神使いを装うのは悪くなかったけど、実戦経験不足ね。その場にまだ蝦蟇いるんだからこちらの口を封じるか、まずは蝦蟇を処理するべき」

「ギギ、だな。デモ蝦蟇の動きは封じタ。作戦通りダ」

 少女が眉を寄せ、ハッとしたように正面へ向き直る。

 目の前に、駆け寄ってくるしおりの姿があった。

『ギギいいかしおり、アイツは絶対に最終的にオレを無力化することに固執すル。ダカラ、その瞬間はアイツは無防備ダ。そこをオマエが決めロ』

 これが相棒の立てた作戦の最終段階。毬倉永子から教わったのは知識だけじゃない。

『今から実戦的な体術を仕込んでても間に合わないから、一つだけ教えておくね』

『は、はい。魔性使いの必殺技とかですか?』

『ううん、基礎』

 しおりは少女を手の届く範囲に捉える。そして右手を大きく振りかぶった。手にはまだ蝦蟇が張り付いている。しかし、その手が突如青く輝き、蝦蟇が消え去った。

『基礎……って?』

『霊氣の生成』

 しおりの右手が少女へ向かって走る。速度はない。力もない。普通の人間ひとり倒すことすら不可能であろうただのビンタ──

 しかし、彼女の霊氣を湛えた右手は、顔面を庇う少女のガードごと彼女の体を地面へ張り倒した。

『せ、先生! あ、青く光ってます!』

『うん、でもあなたの備える霊気量の0.0001%未満の霊氣還元率だけどね』

『え、じゃあもしかして全然意味ないですか……?』

『ううん、むしろ丁度いい。受験者なら死なないだろうけど直撃すればワンパンかな~ってライン』

 しおりは永子との会話を思い出しながら、地面に横たわる少女を見つめて言った。

「ごめんね……」

「ギギ、よくやったしおり! さっさとバッジを奪ってずらかるゾ」

「う、うん。ねえ……ゴブちゃん」

 眉を落とす彼女を見て、ゴブリンは大きく溜息をついた。

「ギギギやっぱこうなるのカ。ほら、アジトまでコイツを運ぶゾ。手伝え」

「うん!」

 一者一妖は少女を連れてテントへ戻ることにした。

 

 日が沈みかけていた。空には薄っすらと星々が浮かんでいる。

 しおりはテントで寝かせた少女を見つめた。

「まだ起きないね。強く叩きすぎちゃったかな」

「ギギそいつも行者になろうってんダ。アノくらいどうってことはないサ」

 ゴブリンが言う通り、それから少しして少女は目を覚ました。

「なに!? ここはどこ!? あたしは確か、ってあんた達!?」

「ギ驚くのはわかるガ、警戒はしなくてイイ。取って食うつもりもなイ」

「うん、それにバッジも手をつけてないから大丈夫だよ」

「だ、大丈夫? それ、なんのつもり? 情けをかけて助けたつもり? これだから恵まれた奴は──」

 少女の言葉には明らかな嫌悪感があった。

「め、恵まれてる? 私が?」しおりは困惑した。そんな風に言われるのは初めてだった。それも同性から。

「そうよ。だって魔性使いなんでしょ? それ以上に恵まれてることなんてないっての」

「そうなのかな。私からしたら、あなたみたいに髪を染めたりオシャレに制服を着こなしたりって方がずっと羨ましく思える」

「は? それじゃなに、あたしがあんたを羨ましく思ってるみたいじゃん」

「ギギそう見えるゾ」

 少女は苦虫を噛みつぶしたような顔で俯き言った。

「もういい。バッジはあげるからほっといて」

「受け取れない」しおりは首を横に振った。

 すると少女は「だから情けはいらない!」と声を荒げる。

「情けなんてかけてない。むしろ私なんかよりあなたの方がずっと凄い。霊能の知識も実力だって……。私は、ゴブちゃんに頼りっきりなだけ。だから、あなたからはバッジは受け取れない。受け取る資格がない」

 しおりの瞳が真っ直ぐに少女を射抜いた。

「な、なにそれ……意味わかんないんだけど……」

「ギギこうなったしおりはテコでも動かないゾ。オマエが折れるしかなイ」

「……あんた、なんで行者になりたいの? 魔性使いだから、才能があるから?」

「ううん、なにもなかったから。なにもない私が唯一他人のためになにか出来るかもしれないのがこれだった。人の役に立てるかもしれない……救える人がいるかもしれない。それに行者は多いほうが絶対いいもの。あなたが合格して行者になれば、そのぶん困っている人が救われる。だから、一緒に合格しよう」

 少女はしばらく黙っていた。そして、やれやれといった具合に頭を振った。

「アホらしっ。でも、褒められるのは悪い気しない。名前は?」

「え、しおり、山神しおり──」

「あたしは水無川みながわまつり。菊蘭の一年。そっちは摩校でしょ?」

「え、うん。同じ北区だね」

「何年?」

「二年だけど」しおりは小さく首を傾げた。

「なーんだ! じゃあ、しおりちゃんパイセンじゃん」

「え、うん。まあ、そうなるね(そんなこと気にするタイプなんだ)」

「ギギなんだ? 急に馴れ馴れしいナ」ゴブリンは訝しむように片眉を上げた。

「だって、負けは負けだし。バッジを取る気がないなら敵対する理由もない。しかもパイセンだし、あたしのこと褒めてくれるし」

「ギ、なんだその理由ハ」

「だってさ、あたしのお師匠ってば、ぜんぜん褒めてくれないんだもん」

 しおりは「そうなんだ」と、小さく息を吐く。彼女の豹変は突拍子もないが、気持ちはわからなくもなかった。肯定をされない辛さはよくわかる。そうなると自分のなかに殻が出来ていくのだ。言葉の刃を受けとめるため、自身を守るために。だから、一言でいい、自分を肯定してくれる言葉があればそれで救われる。自分のとって卍六郎太がそうしてくれたように。

「ギギとりあえず回復したら出てけヨ」ゴブリンはプイッとそっぽを向く。

「わかってるって。夜が明けたら出てくよ。あ、停戦協定ね」

 祭がパチリとウインクをする。

 それを受け、しおりは難しい顔になると、「あっ」となにかを思いついたように宙へ目をやった。

「ギギ、嫌な予感──」

「祭ちゃん、一緒にこない?」

「一緒?」

「うん。実は私、ぜんぜんポイントが集まらなくて、祭ちゃんが手伝ってくれるなら助かるな……って。もちろん、こっちも祭ちゃんのポイント取得の手伝いはするよ」

「ふむふむ、ふーむ。悪くないかも!」

 ゴブリンが「ゲッ」と呟く。

「ほんとに!? よかった。実は私とゴブちゃんだけじゃ心細くて──まんじ君も見つからないし」

「まんじ君? あ、受付の時に傍にいた男子? どっち? 厳ついほうかな? パイセンの彼氏なの?」

「か、彼氏なんかじゃないよ!」

「ほーん……。よし、わかった! ポイント取得&パイセンの王子様探し承り!」

「だから、そんなんじゃないって!」

「ギギ、無駄に騒がしくなっタ……ハァ……」

 ゴブリンがやれやれと頭を振る。

「大丈夫だよ。祭ちゃんもいるんだし」

「そうだよ、パイセンとあたしがいるんだよ?」

「ギギ、しおりの戦力の9割9分9厘は オ! レ! ダ!」

「まあまあゴブちゃん」

 しおりがそう言って相棒をなだめる。

 祭もそれに合わせて「そうだよゴブっち」と妖精の体を指でつついた。

「ギ、変な呼び方をするナ! ハァ……とにかくあまり騒ぐなヨ。敵がどこに潜んでいるのかわからないんダ」

 しおりと祭は二人で合わせるように敬礼のポーズを取った。

「ギ、やれやれダ」 

 ゴブリンが愚痴ると、それに続けて、

「まったくだね」と、どこからともなく声がした。

 和やかなムードから一転して、二者一妖の間に緊張が走る。

 この場所は見渡しがいい。辺りには人影はない。でも声は近かった。

「そんなに警戒しなくていいよ」

「えー、なら姿を現しなよ」

 祭はそういうと掌サイズの蝦蟇を二匹顕現する。

 声の主は「いいよ。っていうか歩いてそっち向かってる」と、あっけらかんと答えた。

「ギギ、声はどこからダ」

「蝦蟇で探ってるってば。てか、男? 女?」

「男性にしては声が高くない? というか幼いっていうか」

 二者一妖がそうやってヒソヒソと相談をしていると、

「あー、声はここからだよ」

 と、テントの傍に転がっているカラのペットボトルがピョンと跳ねた。

 すかさず祭の蝦蟇がそれを取り押さえる。

「はい、つっかまえたー!」

「あー、いや、うん、だから今そっちにいくから」

 声の主がそう言ってから数秒後、正面の林から人影が現れた。

 しおりは伏し目がちにそれを目で追った。そして、

「あなたは、敵なの──?」

「それはお姉ちゃん達しだい」

 テントの側で立ち止まった影は、小学生高学年くらいの少年だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ