表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔性転生  作者: 邪
第二幕 ―秘匿島―
27/32

“島伏”

 六郎太は森の中にいた。光に包まれたと思った瞬間、ここに移動していたのだ。恐らくはバッジを所持している者をマーキングし、指定の座標へ飛ばす術。受験者たちは皆ランダムに島内の何処かへ飛ばされているはずだ。山神しおりの霊気を感じないのも、それだけ距離があるということ――

「で、何すりゃいいんだっけ」

 説明通りなら妖を祓って点数を稼ぎ、それを五日間保持――。幸い辺りには微弱ながらも妖気を感じる。点を稼ぐのは難しくない。ただ、五日――水も食料も所持していないこの状況でそれだけの時間を過ごさなければならない。説明のアナウンスではそれは主題となっていなかった。行者であればその程度のことは前提という意味合いが強いからだろう。妖祓を生業とするのなら、ただ生き抜くだけなんて出来て当たり前――子供の頃、毬倉永子にも言われた。山へ連れていかれ置き去りにもされた。あの頃と同じ、この試験はVS妖を含む無人島サバイバル。

 六郎太はとりあえず真っ直ぐに森を進むことにした。

 今は山神しおりが心配だ。ゴブリンがいるとはいえ、つい最近までただの女子高生だったのだ。ある意味、対妖以上に対自然と生命維持の点が不安だ。出来ればすぐにでも合流してやりたい。

 一方その頃、しおりは砂浜に立っていた。六郎太と同様に、光が見えたと思ったらこの場にいた。

「ギギ対象の座標移動のようだナ」

 右肩からゴブリンにそう言われ、しおりは改めて辺りを見渡した。背後には海、眼前には背の高い草の生い茂る平地がある。ずっと先の方には森なのか山なりになった木々の列が見える。先ほどまで建物のなかにいたはずなのに……。

「座標の移動って、瞬間移動みたいなもの?」

「ギ正確には違うガ――効果的にはほぼ同義ダ」

 相棒の回答に彼女は固唾を飲んだ。

「ギギ、固まっている暇はないゾ。微弱だが辺りに妖気を感じル」

「妖気……そういえばルール説明だと妖を倒すごとに1ポイント貰えるって――」

「ギ、そうダ。だがおそらク、この試験の主題はそこではなイ。感じとれる妖気は微弱ダ。妖を狩ること自体は霊能を持つ者ならば難しくないはズ。つまりポイント稼ぎは出来て当たり前というのが役会の判断なのだろウ」

「それって妖を倒すことを重要視してないってこと? 行者になるための試験なのに?」しおりは眉を顰めた。

「ギギというよりも生存能力――常に危険に晒された状態でノ。ルールを思い出して見ロ。ポイントを稼いで終わりではなイ。それを5日間保持しなければならなイ」

 しおりはハッとした。そういえば持ってきたリュックがない。つまり――

「水や食料がない状況で五日間も過ごさなければならない、てこと?」

「ギギ――それだけじゃあないゾ。説明では『合計の』ポイントと言っていタ。しかもポイントとは関係なク、バッジを三つ以上所持していればいイ……これがどういう意味カわかるカ?」

 しおりは首を傾げた。

「ギギようは受験者からバッジを奪ってもいいって事ダ。イヤ、むしろバッジを狩ることを推奨していると言っていいだろウ」

「受験者同士で争うってこと? そんな、どうして……みんな行者を志す人達なんだよ。それに妖を倒してポイントを稼ぐって手段があるんだから皆そっちを選ぶんじゃ」

 ゴブリンは彼女の肩から降りてその正面に周った。

「受験者の数を見ただろウ? 100名はいたゾ。全員が10ポイントも稼いだとしたら1000ポイントにもなル。確かに妖気は幾つか捉えられるが今のところ片手で数えられる程度ダ。この島に1000ポイント分、つまり1000体も妖がいると思うカ? 時間が経てばたつほど妖は狩らレ、ポイントの取得は難しくなル。そうなれば否応なくバッジの取得が求められルということダ」

「じゃあゴブちゃんの言うように、この試験って――」

「ギギそうダ。対妖、対自然、対受験者という“危険”に常に晒されながら自身とバッジを守り抜くサバイバル戦ダ」

 しおりはバッジを手に取った。

「まんじ君は大丈夫かな?」

「ギギこんな時に他人の心配カ?」

 やれやれと頭を振るゴブリンだったが、突如その呆れ顔が神妙な面持ちに変わった。大きなギョロ目が細まり、訝しむように周囲を向く。しおりは思わず「どうしたの?」と小声で訊ねた。

「ギギ、見られていル……しかも妖じゃなイ」

「え、受験者――?」

「おそらくハ。とりあえず移動したほうがいいだろウ。オレは大丈夫だが、お前は水と食料がいル」

「うん、確かに」

 とくに水は必要不可欠だ。食べ物は一週間ほど食べなくてもどうにかなると聞いたことがある。しかし水は三、四日摂取しないだけで命を落とす場合もあるという。

 しおりとゴブリンは生い茂る草むらの中を進んだ。


 森の中――丸く開けた30坪ほどの土地に小さな池がある。サイズ的には水溜まりと言っていいだろう。六郎太は「ふーん」とそこへ近づき水面を覗き込んだ。

 すると突然、水の中から顔を目掛けて青白い人の手が伸びてきた。

 しかし、六郎太は表情を変えることなく頭部を横に、それを躱すと、霊氣を纏った左手で白い腕を握り潰した。

「妖気を感じてきてみたら、やっぱり下異の妖か」

 足元に積もった塵を蹴とばし、彼は改めて池を覗き込んだ。

 水質は……まあ、煮沸すればいけるか――

 そう思いながら両手で池の水をすくう。そして“熱”により手の中でぐつぐつと沸騰させた水をさも当たり前ように口へ持っていった。

「はあ……まずい。でもまあ、これで水は確保、と。とりあえずここを拠点にすっか」

 六郎太は池の前にしゃがみ込みバッジを手に取った。描かれていた<零>の字が<一>に変わっている。説明通り――ということは、やはり妖よりも他の受験者を警戒しておいた方がいいだろう。腕に覚えのある者ならば、妖を10体探し出して祓うよりも受験者を2人狩る方が楽だと考える奴がいてもおかしくない。少なくとも自分が行者になろうと思う霊能者ならそうする。六郎太は左右の手を枕に仰向けで寝転がった。

 この先、無暗に動いても他の受験者と鉢合わせる可能性を上げるだけ……とはいえ、妖を祓いポイントを稼ぐ必要もある。受験者を狩るのも手だが――流石に大人げない。自分はもう中役の行者なのだから。やはり山神しおりを見つけて彼女の妖殺を手伝いつつ五日過ぎるのを待つのが理想か――

「はあ……まったく……出てこいよバレバレだぞ」

 六郎太は寝そべったまま徐にそう言った。

 すると不敵な笑い声と共に彼の頭側の木々の影から男性が現れた。歳は六郎太よりもひとまわりは上に見える。目は小さく鼻も低い。口の周りには濃い青髭がある。服装も洒落っ気のないプリントTシャツにチノパンという風体だ。

 六郎太は面倒臭そうに「よっこいしょ」と立ち上がり男を向いた。

「まだ若いのによく俺の存在に気付いたな」

「そりゃあ気配も霊気もだだ漏れだったし」

「ほう、いつから気付いていた」

「最初から」

 六郎太は両手をポケットに突っ込んだままあっけらかんと答えた。

「はっはっは、面白い冗談だ。まあいい、バッジを渡すなら見逃してやってもいいぞ」

「いや、断る」

 六郎太がそう告げると、男は目を細めて右手を大きく振った。すると、ひゅんっと風を切る音と共に小石が五つ六郎太に向かって飛んだ。

 六郎太はその場でひょいひょいと石を躱してから一歩前に出た。

「ただの石礫? あんたこそ冗談だろ」

「な、なにを! どこからともなく飛んでくる石の弾丸だぞ! お前がバッジを渡すまで延々に撃ってやろうか?」

「……あー、いや。俺、あんたに付き合ってるほど暇じゃねえから」

 これに男の顔がみるみる紅潮していく。

「いいだろう。脅すだけのつもりだったがもう容赦はせんぞ!」

 男はまた右手を振った。ただし今度は六郎太に向けてだった。

 石は飛んでこない。かわりにポケットに突っ込んでいる両腕ごと六郎太は上半身を拘束されてしまった。上体が何かで縛られているみたいに一本の棒のようになってしまっている。

「どうだ、身動きとれまい。俺が次に左手を振れば石の弾丸がお前を襲う。次は躱せないぞ」

 六郎太は「ふーん」と返しながら自身の身体を霊視した。

「なるほどね。霊氣の糸――ってところか」

 その言葉通り青白い紐が上半身に巻き付いている。

「まだ若いのに詳しいじゃないか。そうだ、俺は霊氣を糸状にして操ることが出来る」

「見ればわかるよ」六郎太が眉を寄せる。

 これは霊氣の形状を変化させる霊氣術の一種――石を飛ばしたのも糸で絡めて放ったに違いない。思ったよりもしっかりと霊能を使えるようだ。

「伊達に行者は目指してないってことか……おっさんなのに」

「な、誰が糸オジだ!」

「いや、そこまでは言ってない」

「ではどうする? バッジを渡すか?」

「んー、別にいいけど」

 六郎太はそう言って徐に両腕を広げた。すると霊氣の糸がブチブチと音を立てて千切れた。

「ば、ばかな――!? 俺の霊糸を膂力だけで――」

 ぎょっとする男を見て六郎太は後頭を掻いた。

「確かに霊氣を糸状にする器用さはある。けど、糸の強度が無さ過ぎだぜ。そんななら実際の糸かワイヤーを霊氣で強化したほうがマシだ」

 これに男は取り乱し「そんなことあってたまるか!」と左右の手を振りかぶった。

 ただ、その時にはもう既に六郎太が地面を蹴り間合いを潰していた。

 当然、男は反応することすら出来ず、腹にもらったパンチ一発で気を失うはめになった。

 倒れた男を見て、六郎太は悩んだ。バッジを奪うべきか否か――

「まあ、いいか」

 時間はまだある。妖を祓って点を稼げばいい。それに、受験者の力を知れただけでも儲けものだったのかもしれない。この程度であれば山神しおりでも大丈夫な筈だ。

 礼がわりというわけではないが――

 男を起こしてやろうと六郎太が手を伸ばす。

 しかし、その時だった。突如、背後から殺気を感じ振り向くと、物凄い勢いで矢が迫ってきていた。なんとか身をよじり、それを躱す。すると目標を失った矢が木々の一本に矢羽まで深々と突き刺さった。

 糸オジの飛礫とはわけが違う。

 六郎太は矢の飛んできた方向を目で追った。3、40メートルほど先に人影が見える。

「……女?」

 歳は二十歳くらいだろうか……褐色の女性が立っている。長い黒髪を頭の後ろで束ね、上半身にチューブトップ、下はカーゴパンツを着けている。

 しかも右手には木製の弓――矢を放ってきた人物に間違いない。それも殺気を込めて――

「殺す気満々かよ」

 戦るか逃げるか――距離は遠い……完全に相手の間合いだ。“受験者”なら逃げるほうが賢い選択だろう――が、六郎太は彼女に向かって走った。

 すると女の手が自身の背へ伸びた。よく見れば背中に矢筒を背負っている。

 完全に的――しかし、六郎太は放たれた矢を躱し、ほくそ笑んだ。弓の連射性能は低い。

 そう思いながら足を速めた瞬間、信じられないものを目にした。避けたはずの矢が何故か目の前にある。

 彼は体勢を崩しながらも地面を蹴って横に飛び退いた。

 女は既に次の矢を射る構えに入っている。

 いくらなんでも速すぎる――六郎太は転がりながら矢を避けた。

 起き上がって直ぐ女に目を向ける。これまでよりも目を凝らす。そして視線をそのままに次の矢を避けた。

 六郎太は目を細めて「なるほど」と呟く。発射間隔の短さの謎が解けた。

 タネは――ない。コインが増える手品と同じだ。シンプルなものほど魔法のように見えるという小理屈。

 そう、女はただ素早く矢をつがえているだけだ。いや、正確にはその動作に必要なフィジカルを霊氣で強化しているだけ――

「基礎力は上々。それに」

 六郎太は飛んできた矢を避けながら口を横に結んだ。

 女の霊気が凪いでいる。未熟な受験者とは思えない……まさか自分と同じ行者か――?

 なんにして距離を詰めなきゃ話にならない。

 六郎太は「こんなんどうよ!」と声を上げた。同時に彼の体から熱波が放出される。

 飛んできた矢が一、二――三、四、五と熱のカーテンを突き抜けて飛んでくる。

 熱波に速度は殆どない。女のところへ到達するころには熱は雲散し、殺傷力はほぼ皆無となっているだろう。だが、六郎太もそんなことはわかっている。霊氣を纏っている相手からすれば風呂の湯をかけられるに等しい。ただ、あれほど規則正しい動作を素早く、さらに強化まで使用し肉体に課しているとなれば、とてつもない集中力がいるはずだ。それ以外の事が頭から消え去るほどに――肉体と心がゼンマイ仕掛けのように連動していなければ成立しない。つまり、そこに少しでも意図せぬ刺激が加われば――そう、熱波を放った目的は動揺を誘うため。

 読み通り、熱を浴びた女がここにきて初めて表情を崩した。しかも矢をつがえる手が止まる。

 六郎太はニィと笑い、霊氣を足に込めて駆けた。

 このレベルの使い手がいたのは予想外だった。なんとしてもこの場で退場させなければならない。山神しおりの敵になるかもしれないのだ。

 女との距離が一気に詰まる――と思った瞬間、彼女は途端に踵を返し逃走した。

 ちっ――と六郎太が舌を打つ。腕もいいが状況判断能力も上々だ。

 六郎太は女の背中を見つめながら眉を寄せた。

 追うか……。おそらく走力ではこちらが上だ。しかし、罠かもしれない。

「まあ、のぞむところか」

 六郎太は女を追うことに決めた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ