表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔性転生  作者: 邪
第二幕 ―秘匿島―
26/29

“試験開始”

 目を覚まして早々、六郎太は「あ゛?」と顔を顰めた。鈎がこちらを覗き込んでいた。

「なんで朝から喧嘩腰やねん」

「お前の顔が近いからだよ。――てか、朝?」

 六郎太は上体を起こし窓から差し込む日の光に目を向ける。夜が明けている――ということは、

「もう着いたのか? よーこちゃんは?」

「まだや。けど、もうすぐらしいで。姐さんとしおりちゃん(+ゴブ)なら外や」

 二人は女性陣と合流するため船室を出た。すると甲板にしおりが立っていた。声をかけると彼女は振り返り「おはよう」と微笑んだ。日光を帯びたその瞳は三稜鏡のように七色に輝いて見えた。

「おはようやけど――しおりちゃん、あんま先のほういくと危ないで。風も強いし」

「うん、でもなんだか潮風が気持ちよくて」

「あーら、青春の一幕って感じね」

 そう言って永子が船尾のほうから歩いてくる。

「もう着くって聞いたけど」

 六郎太が訊ねると、彼女は目をぱちくりさせてから船の進行方向へ顎をしゃくった。一同は、その方角へ目を向ける。しかしあるのは地平線の彼方まで続く海だけだ。陸なんて見えやしない。

 不思議がる三人を見て、永子は右手の人差し指と中指で自身の目と三者を交互に指す。

 六郎太と鈎は「なるほど」とでも言うように目に霊氣を集め、改めて進路の先を見据えた。

「ほう、思ったよりでかい島やん。もっとこじんまりしたの想像してたわ」

「え、島が見えるの?」 

 しおりはそう言って二人の視線を追う――が、何も見えない。

 見かねた永子はしおりの肩でのほほんとしているゴブリンを突いた。

「まだ<霊視>は出来ないものね。でも、あなたにはゴブリン君の目があるでしょ?」

 しおりがハッとしたように頷く。

「ゴブちゃん、お願い出来る?」

 これに「ギ」と返したゴブリンは宙に飛び上がり手の甲を打ち合わせた。

 同時に、彼女の黒瞳は深緑の液体でも流し込まれたかのように黒と緑のマーブリングを作り上げる。

 しおりは改めて、その“よく視える目”を男子ふたりが見ていた方角へ向けた。

 大きな島が見える。先ほどまでは何も無かったはずなのに――まるで鳩を出す手品を見せられている気分だった。

「あの島は霊視をしなければ見えないようになってるの。ちなみに人除けの結界も貼ってあるから普通の人間が自力で辿り着くのは潮の流れも相まって不可能に近いわ」

「ふーん。にしても、あんなところでやんのか試験って。受けるのは役のない奴等だろ? 中役の俺が混じっていいのかよ」

 面倒臭そうに六郎太が頭を振る。

 しおりは「中役?」と訊ねた。

「ん? ああ、行者にも位――まあランクみたいなものがあるんだよ。試験に合格すれば実力にみあった<役>が貰える。で、いいんだっけ」

 六郎太が永子を向く。永子は頷くと付け加えるように言った。

「一番最初、つまり一番下の役が初役で、そこから中役、上役、特役、大役――ってな具合に上がっていくわ」

 しおりは目を真ん丸くした。

 かわりに鈎が話に割り込んだ。

「解せんな。まんじでも二番目なんか? 言いたかないけど、赤鬼の要素を省いたとしてもそいつの戦闘能力はかなりのもんやで」

 永子はうんうんと首を縦に振る。

「まあ、会が決めてることだからねぇ。強さだけでは決まらないってところかしら。当然、指標のひとつとして武力は必須だけれど」

「あの、毬倉先生の役は何なんですか?」

 しおりの問いに永子はキョトンとした。

「私は初役よ」

 鈎、しおり、ゴブリンが「え!?」と声を揃える。

「驚きよねぇ。でも、わたしはあくまでも六郎君の保護者兼、会との中継役って立場だから。実務はつよーい六郎君におまかせよ。とはいえ悲しいわぁ……こんなにも会に尽しているのに一番下っ端だなんて」

「ホンマなん?」

 鈎は六郎太へ訊ねる。

 六郎太は頷く。

「ギギところでもう島に着くぞ」

 一同が進行方向へ目を向けた。気付けばもう陸が近い。船も減速している。

 そうして、あれよあれよという間に、船は船体の側面を島に向けるかたちで岸壁に着けた。

「さあ、降りましょうか」

 永子に促され、六郎太達は船を降りた。

「ここって人が住んどんのか?」

「いいえ、今は無人島よ。大昔は人が暮らしてたらしいけど」

 しおりは辺りを見まわした。確かに船が着けるところも整備されている様子はない。島の岩肌を平らにならしただけに見える。しかも視界におさまる範囲には森と海と岩しかなく文明というものを感じない。

「こんなところで本当に試験なんてあるんですか?」

「うーん。そのはずなんだけど……多分、こっちね」

 六郎太、鈎、しおりは歩き出す永子に続き海沿いを歩いていく。そして20分ほど進むと今度は開けた原っぱのような場所に出た。しかもそこには特設されたであろうコンビニ程の大きさの建物が建っていた。建物の周りには受験者と思しき男女が数人――他にも人の出入りが見受けられる。

 間違いない、ここが試験会場だ。

 しおりはスマフォで時間を確認した。午前8時を指している。

「よーし、中で受付するわよ」

 一同は永子に続き、建物の中へ入った。

 中は外から見る以上に広い。いや、明らかに中の面積と外からみる建物の大きさが一致していない。それに、人が多い。ぱっと見で100人以上はいそうだ。これほどの人数が行者になるための試験を受ける。すなわち霊能を持っている――しおりは固唾を飲んだ。

 永子の指示に従い、六郎太としおりは壁際に沿って部屋の奥まで幾つも設置されている<受付>の一つに並んだ。受付といっても机に着いている女性に名前を告げるだけの簡単なものだ。

 遠巻きに見ていた鈎は、隣に立つ永子へ訊ねた。

「あの受付のねーさん達も行者なん?」

「ええ、受験者以外はすべて行者よ」

「なるほど」

 鈎は辺りに目をやった。思った以上に様々な年代がいる。自分達よりも若い者から、ふたまわりは世代が違いそうな者まで――何人かは妙に殺気だっている者も見受けられる。

 一筋縄ではいかなそうだと思っていると六郎太としおりがこちらに戻ってきた。

「はあ……緊張した」

 しおりはそう言って、その場にへたり込みそうになっていた。

「なんか試験開始は一時間後って言われたぞ。さっさと終わらせて帰りたいんだけど」

 六郎太はだるそうに天井を見上げる。

「もうすぐ試験内容の説明がアナウンスされるからって言ってたね」

「ああ。面倒臭え」

 一同は入口近くの長椅子に座り、試験内容の説明を待った。

 5分ほどすると建物内にアナウンスが流れた。

『この度は遠路はるばる行者採用試験<裏修験道>へようこそお越しくださいました。早速ですが試験内容を説明いたします。一度しか申し上げないので、お聞き逃しのないようお願いいたします。今から受験者のみなさまにはピンバッジを一つお渡しいたします。バッジの表面には<零>の漢数字が描かれております。数字は妖を一体祓うごとに1づつ増えていき試験開始から五日後の時点でバッジの数字の合計が十以上である、もしくは数字に関わらずピンバッジを3つ以上所持している者を試験合格とみなします。では、受付にてピンバッジを受け取り試験開始までしばしお待ち下さい』

 アナウンスが終り、受験者たちが受付に並び始める。

 しおりは眉を顰めて永子を向いた。

「あの、五日って……明日の学校は……」

「あー、大丈夫大丈夫。試験を受ける2人は出席になるよう手配してあるから」

「ん? ふたり……まてや――わいは!?」

「え、君は勝手についてきた来ただけじゃない」

「嘘やろ……三年間無遅刻無欠席目指してたのに」

 鈎は頭を抱えた。

「自業自得じゃねえか」

 六郎太はざまあとほくそ笑み受付に向かう。

 しおりは哀れむような表情を浮べながらもそのあとに続いた。

 ふたりが離れていくのを確認して鈎は永子に言った。

「出席はまあええとして……。妖を祓うとか数字とか、どこで何する試験なんや?」

 永子は何も答えなかった。

 バッジを受け取り戻ってきた六郎太としおりが鈎と同じように永子へ訊ねた。

「まあ、始ればわかるわ。大丈夫、ふたりの実力なら余裕よ」

「俺はな」

「わたしも必ず受かるから。ていうか……さっきからずっと気になってたんだけど、向こうにいる制服の子、こっち見てない?」

 六郎太はしおりが言う方向に目をやった。

 遠目にでもわかるド派手な金髪の女子がこちらを見ている。

「あれ多分、山神のこと見てんな」

「え、なんで――私?」

「あー、あの制服は菊蘭ちゃう?」

 しおりは目を凝らした。

 薄い桃色のカッターシャツ――東京都北区内にある私立菊蘭女子高等学校のものだ。

「有名なのか?」

 六郎太が訊ねると鈎は渋い顔になった。

「ああ、悪い意味でな」

「ふーん。北区で受けるのが俺と山神以外にもいたとはな」

「え、まだこっち見てるけど……」

「王摩の制服やからちゃう?」

「いや、うちらの制服はそんなに特徴的じゃないし(制服の時点で目立ってはいるけど)。まさか、狙われてる?」

 六郎太は笑った。

「見た感じ敵意はねえけどな。まあ、試験が始まってみればわかるんじゃないか」

「お前はお気楽な性格でええのう。気付いとるやろうけど、ここに入った段階でお前に殺気を向けてる奴らもおるっちゅうのに」

「は、くだらねぇ。相手にそれを覚られてる時点で三流だろ。大したことねえよ、んなの」

 そうやって談笑している間に試験開始の時間がきた。同時に六郎太、しおり、さらには他の受験者までもが光に包まれ、その場から消えた。

「お、おい、どうなったんや!?」 

 慌てる鈎を流し見て永子が顎をしゃくる。その先で天井が次々と捲れ、巨大な液晶モニターが幾つも降りてくる。

『ご観覧の方々はこちらで映像の方をお楽しみください。なお、個室と五日分の飲料と食料もご用意しておりますので、お泊りの方はご自由にお使いください』

 永子はふんと鼻を鳴らした。

「なにがどうなるかは見ていればわかるわ」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ