足掻く者たち
闇。
光届かぬ闇の領域。万物はその黒に身を委ねる。
生けるか、死ぬか。暗鬱たる刻限は全てを等しく包み込む。
怯え、苦しみ、ただひたすらにその身を小さく震わせ、光を待つ。
だが、ある時、現れる。闇を己の域とするもの達。
光に、或いは光の領域で弾かれ、馴染めず、淘汰される、弱者。
その脆弱性故に闇に己の活路を見い出すもの達。
嘗ての隣人達が忌避した闇に、自ら身を落とす。
それは、弱者に許された、最後の手段にして、唯一の、か細いか細い希望。
それは、肥えた肉体に見合った、際限なく肥大化した欲望を持つもの達とは決して相容れぬ、暗雲低迷の道。
だが、確かに、繁栄への業苦であるのだ。
男は佇む。
太陽が沈み始め、薄ら夕闇が広がり始めるこの時間の人の往来は激しい。
皆、自らの家を目指し帰ろうとしているのだ。
そんな中にあって男はひっそり佇んでいた。道の端っこの方で、丁度影に隠れるような所に、男は立っていた。
無論、男にも家はある。それどころか妻子だっている。特に子供の方は手塩にかけて育てて来た大事な一人娘なのだ。
では何故こんな男が妻子の待つ家に帰らず、立っているのか?
それは少し待てば分かる事だ。
四半刻ほど経った時か。
太陽がその身をあと僅か地表に残すこの時間に男が現れる。
はぐれ者だ。妻子が待つ男が待っていたのはこのはぐれ者の男であった。
男は影でそいつを凝視する。生え散らかした髭に、ぼろぼろの衣物、まぁ服とも言えるが自分たちが着ているものと、同じ括りにされると思うとあまり言いたくはなかったと言うのが正直な男の心情である。
そんな言葉遊びをしている間に、そいつはよそよそしい手つきでゴミを漁り始める。
「ずっとこんな事をしている癖に。」
男は、そいつの普段からしている癖に、まるでこんな悪事に手を染めるのが初めてですと言わんばかりの罪悪感を感じさせる表情と怯えた手つきが大嫌いだった。
激しい嫌悪の感情が渦巻く。
そいつが漁るゴミは、男が懇意にしている飲食店のゴミであり、冴えないおっさんが1人で切り盛りしている貧乏定食屋だった。
誰かを雇う金も無いので、ゴミを漁るはぐれ者を捕まえて欲しいと頼み込まれ、正義感の強い男は二つ返事で引き受け、今に至る。
「盗人ならもう少し盗人らしくする事だ。」
男はそう思う。
未だ良心が残りながらこのような悪事を働くなど、正義感の強い、自らの理想を徹底してきた男からすれば到底許されざる行為であり、自らの生き方を否定されたような気になって、腸が煮えくり返るのだ。
「俺が直々にこいつを成敗する。」
そう意気込んだ男ははぐれ者のそいつの元へと歩みを進める。




