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18-02 トライ & Error

 その気になれば地球の自転も止められるんじゃないかってぐらい、力に満ちあふれたエンジンが鋼鉄の無限軌道を回転させ、乱暴に道を踏み荒らし、近づいてくる音。




 破滅の音。




「よし、食いついた……っ」




 作戦の第1段階は成功。僕らは雑談を切り上げ、呼吸を整える。実行段階じゃあんまり僕らの出番はないけれど、なにかあったら即座に行動できるようにしておきたい。




 色葉とスライ・スライを罠にして、戦車をおびき寄せる。




 これが戦車討伐法の第1段階。


 戦車は常に発明家(インベンター)とセットで行動し、車体を動かしやすい大通りを巡回するように動いている。だから慣れた冒険者は裏道を使って移動するようにして戦車を避ける。逆に言えば、大通りのどこかで網を張ってれば、いつかは戦車に遭遇できる。


 遠くの方から煙を上げ、猛スピードで突進してくる戦車を見つけ、ぴたり、演舞を止める色葉。


 不敵に微笑み、右手の(エクスカリ)バールを、ぴっ、と予告ホームランのように突き出し、戦車を指す。その顔はまるで、かかってこないの? と煽っているかのようだ。スライ・スライはナイフでそれをマネする。これが人間だったら、あからさまに罠か、狂人相手だとして速度を緩めるだろうけど……。




「…………お、お、おおおおおおおおおお! バカだ! バカだぞ! お前ら! オレたちなみの、バカがいたぞ! 宴だ、宴だ、宴だあああああああああああ!」




 ゴブリンの辞書に狂うの言葉はない。

 みんなが常に狂っているなら、誰もそれに名前をつけようとは思わない。




 もう数百メートルのところまで近づいた発明家が、戦車の砲塔にまたがり、叫んだのが聞こえる。距離と戦車の轟音にも負けないぐらいのでかい声。ひょっとしたらそれ系のスキルでもとっているのかもしれない。


〈Lv.39 悪鬼発明家ゴブリン・インベンター

〈Lv.39 悪鬼戦車(ゴブリン・タンク)


 2体のステータスが、視認できる距離にまで近づいている。ここ弐番街で今まで見た中で、1番高レベルのセットだ。



「色葉……変な気起こすなよ……」


 と、彼女がいきなり片方の(エクスカリ)バールを放り投げ、残った1本をバットのように構えた。おまけにくちゃくちゃとガムを噛むように口を動かしている。メジャーリーガーにでもなったつもりだろうか。おまけにそれを見て、閃いたゾ! みたいな顔になったスライ・スライがキャッチャーみたいな位置におさまる。


「あはは、いーちゃんは大丈夫ですよ、いつでも冷静ですから」

「あいつが冷静? 嘘だろ、ガキみたいな感情だけがロリィタ服着て歩いてるヤツだぜ……マジで戦車をホームランしようとしても不思議じゃない」

「それは……竜胆くんのそばにいるときだけだと思いますよ」

「……リサさんといるときは?」

「ふふふ、どこにでもいる、ふつうの、かわいい、女の子です」

「なんだいそりゃ、みんなそうだろ」

「…………………………竜胆くん……あなたは……ほんと……」




 その後は、轟音にかき消されて聞こえなかった。




 悪鬼戦車が、おそらく時速80キロ近い速度で、色葉とスライ・スライの100メートル間近に、さしかかったとき。




 めきょっっ。




 戦車が道路を踏み抜いた(・・・・・・・・)

 解体工事現場で建機が横転した、とでもいうような音を立て、ずぶずぶ、道路にめり込んでいく。


「「やったっっ!!」」


 僕とリサさんは思わず声を合わせて叫んだ。色葉は飛んできた瓦礫を器用に躱し、放り投げた(エクスカリ)バールを拾いつつ、満面の笑みで後退。なぜか「ストライッ!」と叫んでるスライ・スライの首根っこをつかみ、近くのビルに待避。




 道路に、落とし穴を掘る。

 これが第2段階。




 弐番街……このダンジョンの床や壁は破壊可能(・・・・)だ。


 もっとも次の日になれば、補修部隊の悪鬼(ゴブリン)がどこからともなくやってきて、すぐに修復されてしまう。あの灰丸が開けた穴も、次の日にはもう直っていた。だけどそれも、冒険者が近くにいないときの話。穴を開けた箇所に居座っていれば、修復屋たちは姿を見せない。


 とはいえ、長々と道路工事に励んでいたらその隙に戦車に轢かれてしまう。正面からぶつかれば勝ち目はない。


 だから僕たちは発想を逆転させた。




 2階の床に穴を開けるなら、1階の天井からやってもいいはずだ。




 リサさんの地図作成(カートグラフィ)スキルで、壱番街と弐番街の地図を細かく見比べ、弐番街では大通りで、壱番街では人気のない廃ビル、みたいな場所を探す。運良く見つかったその場所の屋上から天井に手を伸ばし、僕の改造(モディファイ)スキルでエレメントを抜き、消滅させる。

 もっとも改造(モディファイ)は、1つの素材に対して、それなりの間隔を開けて、しかできない。鉄、コンクリ、アスファルト、木、モルタル、FRP、なにかわからないゴブリン伝統建材がまぜこぜにされた壱番街の天井、弐番街の床に穴を開けられたとしても、頑張って10センチぐらいが関の山。


 でも、パンチ一発で30センチの鋼板に穴を開けられる色葉の力なら、無理なくそれを拡張できる。天井の崩落、ひいては建物全体の崩落に繋がるんじゃ、と不安にもなったけど……工事の最中から、そうならないかな、と目をキラキラさせた悪鬼(ゴブリン)たちが集まってきて、むしろこっちが不安になった。まあ、灰丸があれだけどでかい穴を開けても大丈夫だったから、こっちも平気だろう。


 そして、穴の偽装。


 木材を組んで、ブルーシートで覆い、ぶちぬいて出てきた瓦礫をかぶせる。もともと弐番街の大通りは戦車が通るからかなり荒れている。これでぱっと見には気付かない、道路に開けた戦車用の落とし穴の完成だ。不安なのは、この倒し方じゃ戦車を落とすだけで、倒せはしないんじゃないか、ってことだったけど……


 ……そっちについても、作戦がある。




「ぎゃばばっばばばばばば!」




 踏み抜いた穴に向かって傾いてく戦車の砲塔にしがみつく発明家は、気が狂ったように嗤っている。そして彼が手にしたスパナで、戦車を思い切りぶったたくと、キャタピラが猛烈な勢いでバックを始める。むなしく土砂を巻き上げるだけかと思いきや、じりじり、じりじりと後退を始める戦車。

 くそ、やっぱり穴のサイズ、もっと拡げておけばよかった……素人が4人集まって下から天井に穴を掘っているって工事の性格上、僕らは、自分が生き埋めになるのが怖すぎて穴を拡げきれなかったのだ。




 でも、そのために仕掛けた罠はもう1つ。




「色葉! やっちまえ!」


 僕が叫ぶと、返事のつもりか、ガキンガキンッ! と金属音が、彼女とスライ・スライの待避したビルの中から。


 そして数秒後、屋上から彼女の叫び声。




「Booooooooooombs awaaaay!!!!」

(用語解説※1)




 あらかじめビルの屋上に持って行った自動販売機を、戦車に向かって、投げ落とす。二十メートル近い高さから落とされた自動販売機は、戦車に直撃はせず、そのちょうど後方辺りに落ちる。けれど……




 炸裂。




 本来ならジュースを入れておくところに、壱番街で買いあさったバッテリーから作った爆弾をぱんぱんに詰めてある。数にして、家にスライ・スライたちが押しかけてきたときに作った収束手榴弾みたいなやつの、五倍ほど。


 着地のショックと同時に……







 閃光。







 衝撃。







 爆裂。







 待避用に選んだ頑丈そうなビルの中で、頭をクッションでしっかり守りながら、机の下で赤ん坊のように丸まっていた僕らでさえ、まるで大地震に直撃されたかのようなショックだった。辺り一帯の床が吹き飛んで、もう崩落が始まってるんじゃないか、って思うほど。作ってから思うけどやっぱり、爆弾は、怖い。




「リサさん……大丈夫……?」




「は、はい……なんとか……」




 お互いに机から這い出て窓に近づこうとしたけど、窓ガラスがほぼすべて吹き飛んでいる上に、あからさまに呼吸したらヤバい感じの煙がもうもうと辺りを覆っていて、まるで様子はうかがえない。


「ちょっと……やり過ぎたね……」

「竜胆くん、それ、この前も言ってました」

「なんていうか……ちょっとでいい、って書いてある調味料をさ、ちょっとの概念が違うかも、足りないかも、って心配になってたくさん入れすぎてとんでもない味になっちゃう、って……わかる?」

「…………少し」


 リサさんが吹き出して、少し咳き込んだ声が聞こえる。


「あ、ダメだこれやっぱり、マスクつけたほうがいい」

「こ、これ、本当に大丈夫なんですかね……?」

「リチウムとかニッケルとか、聞くだけで体に悪そうだから呼吸は控えめにしよう」

「そ、そんな無茶な」

「まあ、なんにせよ、あいつにひねり潰されるよりはマシじゃないか、公害病が出てくるにしたって、日常的に数ヶ月吸ってたら、とかだろうし」

「ですけど、も……」

「……………………も?」

「レベル、上がりませんね」




 不思議そうな、本当に不思議そうなリサさんの声。




 あいつらのレベルは39。

 ぼくらは32。

 上がっていなければ、おかしい。




 となると、作戦は成功のはずだ。

 僕らは、あの戦車を、倒せなかった。

 そしてあの戦車は、昇進(プロモーション)した。

 歩が、と金になるように。

 そう、すべては、作戦通りのはずだ。


 たった1つだけ、作戦した通りじゃなかったのは……




 ギャギャギャギャッッッッ!




 金属部品がすさまじい勢いでぶつかり合い、こすれあう、イヤな音、って言葉を具現化したような轟音が、通りから聞こえてきたこと。




「色葉! スライ・スライ!」




 僕ははじかれたように立ち上がって、もうもうと立ちこめる白煙の中に飛び出してしまう。




「竜胆っっ……! 出てきちゃ……ダメ……っっ!」




 色葉の叫び声を無視して通りに出てみると、そこには。




悪鬼昇進ゴブリン・プロモーション!」




 発明家(インベンター)の叫び声。




 ゴキャンッッ! ガキンッ! ガキゴキガキンッ!




 金属をむりやり折り曲げ、整形するような、音。




 そして。






〈Lv.78 戦車悪鬼(タンク・ゴブリン)





 戦車の装甲を身に纏った、身長4メートル近い巨大な悪鬼(ゴブリン)がいた。




※あとがき

トライアンドエラー、は和製英語。英語的に自然な感じで書くとTrial and errorとなりますが、和製英語大好き人間なのでこういうタイトルになりました。


※用語解説

※1Bombs away

 爆弾投下、の意。古くは二次大戦中の爆撃機パイロットの間で用例が見られるという。こういったかけ声のご多分に漏れず、爆弾以外の爆弾的なもの、を投下する際にもよく使われている。海外で有名なShitty game(訳:クソゲー)をネタにする動画配信者が、Shitty gameに対してなにか(主にshit)を投下するときのかけ声でもあり、色葉はそのファン。

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