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10 ゴブリンって何でできてるの? 焦がした砂糖とぴかぴかするもの、それと風呂桶いっぱいの血、あと、うひゃうひゃげらげら嗤い声。そういうものでできてるよ。

 それから1週間。


 弐番街に出現(ポップ)するモンスター(モブ)は、大まかに3種類に分けられる……って色葉の言い方が僕にもうつってきたな……こんな、どんなダンジョンでも時給いくらの狩り場として見るような、かなり極まってるネトゲ住人的言い方は僕の趣味じゃないのに。




 ダンジョンはダンジョンで、仕事場じゃない。

 新宿(しんじゅく)の街を模したこの九鬼城砦(くきじょうさい)弐番街だってそうだ。




 悪鬼(ゴブリン)たちも虚空から沸いて出てきてるわけじゃなくて、ダクトや一方通行のドア、短距離転移陣(ポータル)なんかを使って、階層と階層の間にある、悪鬼専用階層ゴブリン・スタッフ・フロアからやってくる、らしい。


 ……よし、こういういらない豆知識を挟んで、色葉成分を抜いていこう。あいつときたら、ダンジョンを稼ぎ場としてしか見てないんだから、失礼しちゃうぜ、ほんと。




 さておき。




 弐番街のモンスター、筆頭は悪鬼発明家ゴブリン・インベンター

 現代の地球文明に触れた悪鬼(ゴブリン)が科学技術に魅せられてしまい、悪鬼(ゴブリン)ならではの知恵と知識でそれを再現するスキルを手に入れた。地球の科学が、悪鬼(ゴブリン)にもなじみ深い魔石駆動の発明品を支える理論と融合し、時には地球の科学技術なんか目じゃないぐらいの代物を作り出す。

 とはいえ実際のところは、2割が成功、8割は失敗、ってところらしいけど……その8割の失敗も、弐番街じゃ大きな意味を持っている。まあ成功作も成功作で、冷静に考えると失敗では……? ってやつが多いけど。


【クリア……です】


 新たにとった探知系のスキル、〈気配察知(センス・サイン)〉〈生物察知(センス・リビング)〉〈生物感知(ディテクト・リビング)〉などにより、能動的にのみ、だけど直径3メートル範囲内の生物ならわかるようになったリサさんが、メッセージを飛ばしてくる。透明状態を生かすため、こういった冒険中の大事な場面では姿を消すようにしてるんだ。

 趣味で図鑑と地図を作るためにとっていた〈地図作成(カートグラフィ)〉スキルと(あわ)せ、今彼女の視界には、よく画面右上にあるミニマップ的なやつが表示されているはず。あの宿屋に寝泊まりするようになって1週間、これでかなり、奇襲は防げている。


「……スライ・スライ、においは?」


 それなりに頑丈そうで、最近補修の工事をしたんだろうな、って風情の非常階段の踊り場。僕らはフロアの中に突入するかどうか、最後の判断を下そうとしていた。レベル上げと実戦訓練を兼ねて、悪鬼発明家ゴブリン・インベンターが魔石を貯蔵しているという噂のビル、その最上階まで来ている。1階から6階までは廃墟そのもの。あとはこの7階だけ。


「……ゴブリンのにおいはせんな……いや、わずかに残ってはいる、が……」


 真っ暗闇となっているフロアをくんくん嗅いで首を振るスライ・スライ。6割ぐらいの信頼度しかないけれど、彼はどうやら、同族のにおいを察知できるらしい。スキルじゃなくて種族的なものだそうだけど。


「色葉、行っちゃおう」


 僕は杖を握りしめ(・・・・・・)、言った。星空(スターリー・スカイ)コーデの色葉は少しためらいながらも、おニューの(エクスカリ)バールを握りしめ、頷く。


「……イグニタス・ライタス」


 詠唱っぽいやつ(・・・・・・・)をしながら、発明狂界系(テスラ・システム)を無言起動。杖の先端に仕込んである魔石に、火のエレメントを適量、注ぎ込む。


 改造(モディファイ)で回収できる四元素を注ぎ込むと様々な反応を見せる魔石は、こんな使い方もできる。壱番街の発明ショップにいた悪鬼(ゴブリン)が教えてくれた。ちなみに杖は改造(モディファイ)で作った、いかにも魔法使いっぽいやつ。発明狂界系(テスラ・システム)は両手をあけてないと発動できないけど、改造(モディファイ)で作ったアイテムはその限りじゃなくなるのでオーケー。まあこれぐらいできないと職業(ジョブ)スキルのうま味は薄い。




 実力偽装はダンジョンで、かなり重要なファクターだ。

 パーティーキラーが横行しているから、だけじゃない。




 ここにはモブがいない。




 今僕たちが倒そうとしている悪鬼(ゴブリン)だってそうだ。1つのちゃんとした生命体だ。知性については限りなく怪しいけど、スキルについては僕らより詳しいし、攻略視点(ガイド)がなくても、相手の見かけからスキルを想定して戦いを有利に進める、ぐらいの芸当は当たり前にやってくる。僕は後列専用の魔法使いと思わせておいて損はない。


「空っぽ……?」


 色葉が周囲を警戒しながら一歩を踏み出す。腰につけてる、僕が作った専用の鞘に(エクスカリ)バールを、手には遠距離用の投げナイフを亜空筺(ボックス)から出し、特殊部隊のようなクリアリング。スキルはないけど、星空(スターリー・スカイ)コーデの能力値ボーナスがあると、当たり所が悪ければ(良ければ)即死クラス。もっとも本人はけん制にしか使おうとしないけど。


「いや……誰かがいた気配はある……」


 スライ・スライも横に進み出て、鼻をひくつかせる。こちらは変わらずのマフィアスタイルにいつものナイフ。お買い物ではサブウェポンを買った、ということは全然なく、壱番街の飲食街で悪鬼(ゴブリン)名物のお菓子をたくさん買ったという。今度から500円までって言っておこう……

 ……まあどうやら彼のナイフは、何回無くしてもいつの間にか彼の手元に戻ってくる、という、むちゃくちゃなユニークアイテムらしいので、いいけどさ。


 僕は彼の影になるように慎重に。かすかにリサさんの足音も背後に聞こえる。


「……先を越されたかな?」


 色葉はフロア内に脅威がないことを確認し、呟く。


「にしては、部屋がきれいだ……っていうか、悪鬼(ゴブリン)って麻雀(マージャン)するの?」


 フロア内はそこそこ綺麗に自動雀卓(じゃんたく)が並び、椅子やソファ、ドリンクバーなんかもある……たぶん、雀荘(じゃんそう)的な場所。

 新宿の街をテーマにダンジョンを作成した悪鬼(ゴブリン)たち。王か建築家かどっちかはわからないけどかなりの凝り性だったようで、階層中、こんな場所が多々存在する。


「あんな運任せの下品な遊戯はやらん。我らの遊戯と言えば、逆さ吊り落とし転がしゴブリン大爆破おもしろゲームに決まってる」


 それはなんですか、と聞いても多分、逆さに吊ったゴブリンを転がして爆破するおもしろい遊びです、としか帰ってこない気がして聞くのはやめた。


【相変わらず……生命反応はゼロ、です】


 フロア中央まで進んできて、リサさんも。狭めの教室ぐらいのこのフロアなら、直径3メートルの感知範囲でも漏れはないだろう。ということは、本当に生物はいない。


「ブラフ……ってわけじゃなさそうだったけどな」


 僕は呟く。リサさんも横で、頷いているのがなんとなくわかる。


 弐番街の西の外れ、超職安通りとあほあほ甲州街道(看板にそう書いてあったので、ネーミングセンスを責めるなら悪鬼(ゴブリン)たちを責めてくれ)の交差点に立つ、SU(すっげーうっぜー)第二ビルが魔石貯蔵庫になっている、って話は、リサさんが仕入れてきた情報だ。

 透明になれる彼女のユニークスキル、神隠れんぼハイド・アンド・ハイドは、誰からも認識されないでいた時間の分しか、使えない(本人が意識のない状態を除く)。だから彼女は夜な夜な、宿の別室や繁華街の路地裏なんかで、情報収集を兼ねてその時間を稼いでいる。


 今回の話の始まりはつい昨日のこと。


 彼女がとある路地裏にいたところ、天井から降ってきた発明家(インベンター)2体が、交わしていた会話から知ったもの。テーマパークのスタッフルームみたいに客、つまりは僕ら冒険者(プレイヤー)に対する愚痴てんこもりの2人は、しかし、このビルに隠してある量の魔石があれば、しばらくは連中をビビらせるだけの大発明ができる、と意気込んでいたそうなので、かなり信憑性は高い……はず。悪鬼(ゴブリン)に関することはなんでも確度があやふやになるから、なんとも言いがたいのがアレなんだけど。


「……すると……屋上?」

「かもしれない。もしくは……同じ名前のビルがあるか」

「ちょ、ちょっとスライ・スライさん……!」


 透明化中のリサさんが実際に声を上げるほどのことをしでかしたのか、と思って慌ててスライ・スライを見ると……ドリンクバーに直接口をつけて、じゃぶじゃぶがぶがぶ、メロンソーダを飲んでいた。


「……うめええ! うめええ! うんめぇえぇ!」


 粋なスーツが汚れるのもかまわない、欲望剥き出し。

 僕と色葉は顔を見合わせて、大きくため息をついてしまう。




 ゴブリンは甘いもの好きだ。




 って言うとなんか、いかにもファンタジックでロマンチックな印象があるけど……そういうやつじゃ、あんまりない。




 どうやら糖分はゴブリンにとって、ある種の興奮(アッパー)系麻薬に近い作用を持っているらしい。精製された純粋な糖ほど効き目は強い。たとえばコーラのちっちゃい缶一気飲みで「ウんメェェェェェッッ!」と跳び上がって叫び、1時間はせわしなく動き続け、しゃべり続け、それでも治まらなければ数千年の昔からゴブリンに伝わっているという踊りを披露してくれる(小学生男子が独自に考えた面白い動き集のような感じ)。


 オレたちゴブリンは種族的に依存性がつかないし、耐性もできないんだぜ、ああうめえぇ、うめえェよゥ……! と、コーラの缶を切って中をぺろぺろ舐めながらスライ・スライは言ってたけど……うーん……本当、かなぁ……歴史によるとゴブリンの戦争の大半は、糖を求めてのことらしい。塩ならともかく、砂糖で戦争するな。炭水化物を噛み続けてろ。


 そんな事情があるので、精製糖分(ゴブリンの言い方で言うと「混ぜモン無しの上等の白いヤツ」)を最も手軽に、一気に摂取できる清涼飲料水、ジュースには、ゴブリンは文字通り飛びつく。

 そう言う意味では、ドリンクバーが動いているのは二重の意味でおかしかった。もしゴブリンがここを使っていたなら、タンクは空のはず。

 でも、そうじゃないってことは……?




 ……ここを公共のジュースバーにでもするつもりだったのか……?




 僕は肩の力が抜けて、近くにあった雀卓の椅子に、どっかり、腰をおろしてしまう。エアコンの音もうっすら響いていることから、ここにはちゃんと電気が来ているようだ。たぶん、魔石に風と土のエレメントを入れてやる、魔石発電によるものだろう。ジュースバーのついでにいじったのかもしれない。


 エレメントをいじるのは改造(モディファイ)スキルの専売特許ってわけじゃない。四元素を操る精霊魔法エレメンタル・マジックスキルによってもいじれる……というか、普通はそれでやる。もっとも、かなりの量の前提スキルが必要になるから、今の僕がやるように楽々四元素をいじれるには、40ぐらいの専業精霊魔術師(エレメンタル・メイジ)じゃないと無理らしいけど。


 悪鬼発明家ゴブリン・インベンターたちは、彼らの世界にはほぼほぼ存在しなかった、電気、それを使った機器にかなり入れ込んでいるらしく、時には1軒丸々、ちゃんと動いているコンビニなんかも弐番街には存在する。棚に並んでいるのは血がべっとりこびりついたままの衣服とか、その衣服の元の持ち主の一部だったりするので、非常にアレだけども。


「電気を来させてるってことは、やっぱここ、使ってるってことだよね?」


 色葉も僕の対面に座る。麻雀風に言うと、トイメン、って言うんだろうか? ……そういえば川島くん、ネットの麻雀にはまって、ほとんどプロ級だぜ、とか言ってたな……って思い出してしまって少し感傷的になってしまう。対戦ゲームってことで食わず嫌いせずに麻雀のルールを覚えてたら、もっと違う未来もあったのかもしれない。


 そこで、とす、と僕の右手側で音。リサさんも雀卓に座ったようだ。


「…………4人目が座ったら発動する罠とか……?」


 思いついてしまったのでなんとなく言ってみると、途端にありそうな気がしてくるから不思議だ。雀荘フロアの中央に位置するこの雀卓は、なぜか、他の雀卓から少し離れていて、一段高い位置にある。さながらここが配信席かなにかみたいに。いや、配信席のある雀荘ってあるのかな? ……あるか、たぶん。


「もしくは……」


 色葉が、あ、という顔をしながら続ける。


【やって……みます……?】


 リサさんも。


「あ! ずっけー! オレも座る!」


 と、僕らが心の準備をする前に、メロンソーダを飛び散らせながらスライ・スライが椅子に飛び乗って来た。壱番街には大きなお風呂やさんもあるし、清拭(ウォッシング)浄化(クリーニング)、なんていう体や衣服を綺麗にしてくれるスキルを持った、珍しい悪鬼(ゴブリン)がやってる洗濯屋さんがあるからいいけど、それでも彼の衛生観念については、あまりいい顔はできない。手がべとべとするのが僕は、この世の何より嫌いだ。




 かちり。




 同時に、僕たちはその音を聞いた。


「100RMT(リムト)賭けてもいい。これはいい感じの音」


 かちかちかち……かちり、かちり、ごろごろごろ……


 みたいな音がフロア中から響く中、椅子から飛び出し、雀荘の壁を背に、(エクスカリ)バールを両手に全力警戒する色葉が言った。


「……乗った。これは悪い感じの音」


 僕は彼女と隣合わせ、杖を構えてあちこちを照らす。




 僕と色葉は生まれてからずっと、こんな賭けをしてきてる。




 もちろん、こういう風に賭けるのってなんか洋画みたいでカッコいい、って色葉のストレートな中二病によるものだから、実際にお金をやりとりしたことはないけど。

 でも……フロアのどこにも、変化した様子は見られない。ただフロア全体から、ゼンマイ仕掛けの機械が続々と動いていくような、そんな音が響き続けている。


「オレ様は魔石がたんまり詰まった宝箱が出てくるのに賭けるぞ!」


 スライ・スライは僕の近くの雀卓に飛び乗り、目をらんらんと輝かせる。


「…………やっぱり、罠感知(ディテクト・トラップ)とっておくべきでしたね……」


 リサさんが呟く。弐番街は罠に関して、かなり緩いらしいって情報があったので、対生命体を優先させている。とはいえ……こういう状況になると、やっぱりどうしてもSPをもうちょっとくれ、あるいは、一個で数スキル分の効果があるスキルをくれ、みたいなことは思ってしまう。




「全員外れーーーーーーーーーーー!!!」




 知らない悪鬼(ゴブリン)の絶叫が響くと、天井が消え失せ、悪鬼発明家ゴブリン・インベンターが降ってきた。


 数体の成功作、そして十数体の失敗作と共に。






 …………この野郎、魔石、もう使いやがったな。












※まとめ

 ダンジョン初日から1週間。スキルを整えた一行は、魔石が大量にため込まれているとの情報があった弐番街のビルを探索する。なにも出てこなかったが、最上階の雀荘が再現されている空間にて、一段高くなった配信席のような卓に4人で座ったとたん、天井からモンスターの群れが降ってきた。

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