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争いは避けられぬ時もある

お読み頂き有難う御座います。

どうやら、大騒ぎになっているようですね。

 そして、ロジェルがフラフラのまま家へ帰ると、何故か騒がしい。

 角を曲がると、家の前がごった返していた。

 松明やランプを抱えた近所の人達もいる。

 何があったのだろう。


「ロ、ロジェルちゃん!!ロジェルちゃんが帰ってきたぞ!!」


 え、と言葉を発する間もなく、ロジェルは母に泣きつかれた。


「そ、そんなに辛かったならど、どうして言わないの!?」

「ねーね!ねーね!!どーか、どっかいっちゃやー!!」


 未だ幼い弟まで泣きじゃくり、ロジェルの泥まみれの足から離れない。


「あ、あんたが虚ろな目で剣を抱えて森に入っていくってのを聞いてから!!じ、じさ、自殺でも」

「母ちゃん、お、落ち着け」

「あ、アンタが悪いんじゃないの!!この意気地無しのパワハラ恫喝野郎!!」

「ひっ!?」


 何時も疲れて生気のない母親が此処まで怒り狂っているのを、ロジェルは生まれて初めて見た。


「アンタが、アンタがくだらない爵位なんか受けとるから、ロジェルを追い詰めて、あんなクソガキをのさばらせて!!

 ああ、生きてて良かったロジェル!!放っといて御免ね!!母ちゃんを許して!!」

「す、すまん。ロジェル、ロジェル……!母ちゃん、すまねえ」

「煩あーい!!

 私はお前の母ちゃんじゃないいい!!ロジェルとトーマスの母ちゃんなんだあっ!

 もう嫌、娘の面倒も見れないのに、お前の面倒なんか見るか!!尻拭いなんかいや!もう、別れる、別れるううう!ロジェルとトーマスと暮らすううう!!」

「ねーね!!ねーねええええ!!」


 ワンワンと泣く母とギャン泣きする弟に、ワタワタする父。こんな光景をロジェルは初めて見た。


「こ、心を入れ換えるから許してくれ!ニコナ!!」

「おいおい許してやれよ。此処はグッと嫁さんが我慢して、夫婦仲良くだな」

「何言ってんだい、余計な口叩くんじゃないよこのロクデナシの宿六!!ニコナちゃんの言う通りだよ!!何だい偉そうに!」


 ……。

 どうやら、状況から察するに、ロジェルは自殺に失敗して帰ってきたと言うことになっているようだ。

 確かに、剣を持って、絶望に満ちた暗い顔で森に入る若い娘、と聞いたら普通に自殺しに行くひとじゃないかと遅れて気付いた。

 そして、何故か両親の離婚劇まで勃発しそうになっている。余所の家の鬱憤まで爆発している。


 ……だが、何だろう。この安堵感は。

 家族が、揃っている。

 笑顔でなくて、泣き顔で。

 それは、勝手なことをしてごめんね、とロジェルは謝らなければいけなかったのに。

 何故かロジェルは最後まで謝ることも出来ず。


 近所の住民まで巻き込んだその大騒ぎは、シャーゴン闇の大地通り商店街に結構長く話の種に語り継がれるのだった。




 そして、一夜明け、同じ日常が始まる。学校の準備をして、のろのろと食卓に着く朝。

 ただ、常に暗い顔だった母親が強くなった。


「ホラあんた!人を使えないならいっそあんたが親方に使われな!人様に教えを乞うて雇用側の修業をしてこい!!人格を叩き直して貰いな!!」

「そ、そんな……!?」

「その前にさっさと爵位を返上するんだよ!ほら!早く!!」

「さーさー!」

「いてっ!!トーマス!!やめろ!トム!トーマス!!」


 ……母が、なんだか頼もしい。流石に弟がスプーンで父親を叩き出したのは止めておいた。

 父親がバツの悪そうな顔で、ロジェルを見る。

 父親にこんな目を向けられたのも初めてだった。いつも勝手に怒ってばかりだったから。


「ロジェル、ごめんな。ありがとよ。苦労を掛けるが、ただ、直ぐには……」

「ううん、いいの。なるべく頑張るから」


 ロジェルは何時も通り学校に行き、授業を受ける。

 昨日よりは少し気が軽かった。


 しかし、学校が終わり、商店街に差し掛かったその時、わざわざ目の前に立ちはだかる者が居た。


「お前、自殺未遂までして俺の気を引きたかったのか」

「ふふ、ヤダ惨めー」


 ロジェルは分かっていた。颯爽と誰も助けに来ない。

 学校では婚約者として接してくる癖に、街中でこうやって嫌味を言ってくる。

 助けなんて、来ない。やっぱり、あの泉は幻だったんだ。

 ロジェルは、目の前の婚約者と、それにすがり付く自称友人を見た。

 何故来たのだろう。親戚からご機嫌伺けに行けと叱咤されたのだろうか。


 今までは、腸が煮えくり返っても黙って下を向いていたに違いない。だけど、言い返せなかった。

 でも、今は?

 ロジェルの心は凪いでいる。


 母の言葉、父の言葉、弟の涙、近所の人の気遣い。そして、白昼夢かもしれない宰相コンラッドの言葉。

 じわり、とロジェルの心を守ってくれている。


 惨め。惨めだろうか。

 いや、此処で耐える方がよっぽど惨め。

 もう良くない?もう、貴族も止めるんだし。

 そうよ。こっちの意思も汲まず縁談を押し付けてきたあの騎士様の元に苦情を言おう。監督不行き届きを訴えよう。

 何も言わずに耐えるのは、もう嫌だ。

 そう決断したロジェルは、俯くのを止めた。


「私、貴方みたいな人と結婚したくないです」

「ふむ、そのようだ。彼は実に乙女ロジェルに相応しく無いね」


 何故か、ロジェルの真後ろに影が覆いかぶさり、何故か周りから歓声が湧き上がった。

シャーゴンの都には幾つか商店街があり、ロジェルの住んでいる闇の大地通り商店街は都で3番目に大きな商店街です。名前が変なのは仕様です。

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