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お供え物は我が家産の厄介物

お読み頂き有り難う御座います。

冒頭に戻ってきましたね。


 ロジェルは、ある日。一振の剣を睨んでいた。

 そう、此れこそが悪夢の始まり、厄介剣(命名ロジェル)

 研ぎに出されたその問題の剣を、暗い気持ちで睨んでいた。

 鞘に納められた、ロジェルの身長より少し短い程の、凶悪な剣。

 この剣が家族の未来を滅茶苦茶にした。

 これさえ、無ければ。へし折りたい。へし折れない。

 いや、これを捧げればどうだろうか?あの、希望の泉へお供え物として!


 学校で蔑んでくる同級生の冷たい目から逃れた図書館で読んだ、『願いを叶える泉』へ。

 大事なものを沈めれば、泉の主が願いを叶えてくれる。

 素晴らしすぎるではないか。


 そんな、夢物語が有るのなら、縋るしかない!

 通常なら、ロジェルはそんな与太話に真剣にならない。が、最早メンタル底辺を這いずっていた彼女は、真剣にやるしかないと決意してしまった。

 古文書まで探し解読して、滅茶苦茶真剣に読んだから、詳細は鮮明に思い出せる。


 そう!伝説にすがろう!今の現状打破のために!!


 そして、疲れきった少女は……大事に布に包まれた大事な、怨みを持つ剣を、抱え辿り着く。辿り着いてしまった。

 水面が澄んで、よく分からないが綺麗な花が咲く水草が浮かぶ様は美しい。が、ロジェルには、不思議な力が有るようには思えない。


 だが、最早何とでもなれ、とロジェルは泉に……憎き剣を放り込んだ。


「てやーーーーー!!」


 今までの逆恨みを込めて、ロジェルは剣を全身全霊でぶん投げた。

 投げられた剣は緩い放物線を描き……。


「!?あ!!」


 だが、無情にも勢い余って微妙に届かない距離の、地面に落ちてしまったのだ。

 彼女は子供の頃から、有名なノーコンである。ノーコン加減では街一番かもしれない。今は訓練のしようがないので益々ノーコンに磨きが掛かっているようだ。


 慌てて拾いに行こうとするも、見た目に反して泥濘んでおり、足場が結構悪い。

 このまま進めば自ら泉に滑り落ちてしまいそうだ。

 何か長い棒でも持ってくれば良かった。

 後悔と焦りで涙目になったロジェルは、キョロキョロと辺りを見回した。

 今気付いたが、静かな森は綺麗に整っており、枝すら落ちていない。

 もしかして、人が整備しているのだろうか。


 彼女は焦った。

 何せこんな森の中にひとり。人に見つかっては、不審に思われるに違いない。

 巡回中の警備騎士に見つかったらどうしよう。更に立場が悪くなるかもしれない。

 ロジェルが自分の手際の悪さに泣きそうになった時、ずり、と何かが滑るような音がした。

 時は彼女に味方したのだろうか。


「あ!?」


 先程まで静かに落ちていた荷物は、何故か動き出す。

 ずりずりと勢い余って、布に包まれた荷物は泉の中に滑り落ちた。


 そして、泉は柔らかく光り輝き……。

 見聞の通り、この世とも思えぬ絶世の佳人が姿を顕した。

 何がどうなっているのか分からないが、水面に立っている。


 テンプレだ。凄い。伝説凄い。

 だけど、何処かで見たこと有るな、あの人。とロジェルは口を開くのも気付かず考え込んだ。


 やっぱりこの人は、何処かで見たこと有る気がする。疲れた頭が働かない。


「……ふむ?」


 水の上に立つ姿は実に神々しい。

 泉の中から現れたにも関わらず、光に揺らめく髪も、睫毛も、豪奢な衣装すら濡れていない。

 まさに神秘だ。やっぱり伝説は本当だったのだ。

 この、神様的な人に拝むかひれ伏すかどうしようか、いやそれともさっさと交渉に入るべきか。根っからの庶民気質のロジェルは固まった。


「……」

「あれ……?」


 思い出した。見目麗しい姿に、深みのある声は……。


「か、閣下……コンラッド・リオネス閣下……」


 知人であった。

 それも、一方的に知っているタイプで、結構雲の立場の、偉い人。新聞に載るタイプの、とても偉い人だ。

 父の叙爵にてお目通りした初対面の際に名乗られたが、それでは知人と名乗るには烏滸がましいだろうか。


「あー、誰かね?」


 しかし、当たり前だが此方は覚えられていなかった。

 ロジェルは、動揺を押し隠し、半笑いで彼に向き直る。

 湿った草むらに平伏をした方がいいのだろうか悩みながら。

 動揺と焦りで、メメル校女官クラスで受けたマナー授業は、脳裏からスッパリと消え失せそうになっていた。


「ろ、ロジェル・ワルトロモで、ご、御座います」

「ワルトロモ?って、アレかね」


 あれかねとはどれかね?と言いそうになって、ロジェルは口を押さえた。

 我が家は、上の立場の人にどういう立ち位置で覚えられているのだろう。

 不安と恐れで此処から走り去りたい気持ちと震える膝を押し隠し、ロジェルは彼の次の言葉を待った。

 気合いを入れなければ崩れ落ちてしまう。いっそのこと、目の前の泉に飛び込み気を失いたかった。


「得体の知れない人外に名前と家名を教えてくれるとは、目茶苦茶迂闊なのだね」

「ヒイ!?」


 彼が首を傾げると、水面に波紋が広がった。非現実的なその様子にロジェルは思った。


 駄目だ、住む世界が違う。


 例えば、もし国事パレードがあるならば。

 ロジェルはごった返す大通りの端で、もみくちゃになりながら、手を振る立場。そして彼、宰相コンラッドはたんまり護衛された素敵な馬車に乗って窓から庶民に微笑む立場。

 何でパレードでの立場を例えてしまったのか、ロジェルにも分からない。


 いや、厳密には男爵位を父親が授かっているので、一応ロジェルは男爵令嬢の立場だ。貴族とひとくくりするなら、畏れ多くも同じではある。


 だが、彼は王妃のご親戚筋にて、若き宰相閣下。


 フワフワと風に靡く白めの金髪に、嵐の如き暗めの灰色の眼差しを持つ美男子が、ロジェルを見ている。

 雷雲閣下と称される、その苛烈さと美貌は国内ならずとも近隣諸国からも畏れられていると聞く。

 敵に回すと、社会的制裁は受けるわ、魔術や剣で滅多刺しに遭うわとは専らの噂。ソースはゴシップ紙だが、強ち間違いでもないのかもしれない。

 ロジェルは震えが止まらなかった。


 お城の奥でお忙しくされている筈の、この国No.2が。

 こんな街外れの森に、泉の上に浮いているなんてどういう幻か悪夢だろう。

 頼むから誰かの悪戯であってほしい。最近精巧な絵を街中や森に吊るして素早くパラパラ紙芝居のように動かし騙すという手口があると聞いたが、それであって欲しい!!とロジェルは祈った。


「どうした?乙女ロジェル、発言を許す」


 だが、現実は非情だった。美貌の宰相は滅茶苦茶動いて喋っている。どう見てもペラペラしてない。

 健康優良児のロジェルは自分の視力低下を疑ったが、先程と同じように、草木は萌え、空は明るい日差しを投げ掛け、宰相は立体的でイケメンだった。

初めての方もお馴染みの方もお待たせ致しました。ヒーロー登場ですね。あやつで御座います。

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