過剰包装で送り返したい婚約者
お読み頂き有り難う御座います。
本日ふたつ投稿しております。順番にお気をつけくださいませ。
そして、何故か婚約者までロジェルに与えられることとなった。
どうも、お偉いさんの騎士様のご親戚らしい。
頼んでいない。本人に会うまでも返品したかったが、会ったら更に嫌気がさす初対面だったので、厳重にラッピングしてご返送したかった。
「何故私が賎しい庶民上がりの云々かんぬん」
向こうも出会い頭から、テンプレ的に嫌がられていたのだ。
だが、身分的にも此方からの辞退は出来ない。相互嫌がっていても、だ。
会う度にテンプレな嫌味を浴びせられ、花嫁修行だという、庶民には訳の分からない学校に入れられ、また同級生から嫌味を喰らう。
婚約者に連れられて行った、今まで雲の上の存在である社交界でも嘲笑を喰らい、ロジェルのメンタルは最早、限界だった。
そして最悪なことに男爵位を貰ったからといって、不労所得は入ってこない。
少しばかりお金を貰ったらしいが、左団扇には暮らせるレベルでは勿論ない。
そして、ロジェル達一家には更なる試練が襲いかかる。
有名になったので注文が入る→父親は頑固職人なので、大量生産してランクを下げたくない→造れない→早くしろとお客様からプレッシャーがかかり、喧嘩になる→父親の機嫌が悪くなる→当たられて弟子が辞める→だが注文が入る。
綺麗に嵌まった、負のループだ。
父は朝から晩までひとりで働き、憔悴の日々。母はロジェルの学校と社交のせいで嵩んだ家計に苦しみ、外へ働きに出て、3年前に生まれた弟は放置気味にされて泣き喚く。
必死で学業を修め、学校を卒業しても、このままではきっと報われないだろう。それでも社交界に出たくない家族の為に、婚約者の為に。ロジェルの社交は続く。
10年近く頑張っても、婚約者は罵倒を浴びせかけ、所詮庶民よと口さがない嘲笑の中に置き去りにされる。
「汚い煤まみれの髪だな。これだから庶民は」
これは地毛ですとテンプレ嫌味に返事する気力も失せた。
もう10年近く、それの繰り返しだ。
最近は、元貴族の母を持つ大商家のミンク獣人のご令嬢と、浮気を繰り返す始末。
人気のカフェで馬鹿笑いしていた彼らの様を目撃したのも、記憶に新しい。
因みにそのご令嬢の髪色は、高価な染料で玉虫色に染めているものだった。最近高位貴族の間で流行し、女官として覚えておきなさいと学校で習ったから分かったことである。
因みに地毛の玉虫色を持つ人は、数少ない古生獣人か、虫系の獣人に水棲獣人しかいないらしい。結構居るじゃないかとロジェルは思った。
「やだもう、チョボンったら意地悪ね。婚約者さんに自分よりも綺麗な異性の友達を紹介するなんて!」
「ははっ、そうか?」
「そうよ、女心が分かってないんだから。だからこの間くれたちょっとしたプレゼントも……」
因みにこの婚約者は、ロジェルに何か物を贈ってきた事実はない。ロジェルはささやかながらも贈った事はあるので(贈らさせられた方が正しいが)一方的に搾取かブン取られているという言い方の方が正しい。
恐らく横の玉虫色に光るミンク嬢はそれを知っての上で、ロジェルをバカにしているのだろう。疲弊した心にも疲れ目に厳しい。
元々意に沿わぬ婚約なのはお互い様だ。
だが、限度がある。
とっくに仲良くしようと歩み寄る気持ちは消え去った。
そもそも何故しがない街の鍛冶屋の作品が、お偉いさんの目に止まってしまったのか。最近心労で目の下の隈が取れない。疲れた。学校行きたくない。女官クラスなんて行きたくない。城勤めなんて真っ平御免だ。就職なら商店街で仕事に就きたい。
時間よ戻れ。最近のロジェルの願いは、それしかない。
ロクでもない男をよこしてくれますよね。