表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/8

与太話に辿り付いた乙女

お読み頂き有り難う御座います。

これ単品でもお読み頂けるかとは存じます。

宜しければ『初恋を踏みにじられたので、可愛い番を作ります』https://ncode.syosetu.com/n4418gm/(連載中)もどうぞ。

馬系の獣人で雑種な宰相と、イレギュラーで木っ端貴族になってしまった鍛冶屋の娘のお話です。

 此処は、人と獣人が、時には仲良く、そして時にはいがみ合う国。小さな諍いには目を瞑り、手と手を取り合って暮らす、ちょっと変わった小さな国。

 時々、空から色んなものが降ってくる不思議な国。

 他の国とのとは少し違い、ちょっと不思議な虹色の油で動く歯車の国。


 古機械の都と呼ばれるシャーゴン。


 他の国には真似できない、蒸気を上げる大きな煙突がシャーシャー鳴り、重い歯車がゴンゴン鳴り響き続けるから、その名前が付いたと言われている。


 初めて訪れるものよ、安直と言うなかれ。

 古来より散々言われ尽くしている。

 そんな皮肉を旅人へ返すのも、お約束となっている。




「こ、此処が……大事なものを放り込んだら願いを叶えてくれる伝説の泉、かあ」


 何時も賑やかな商店街を突っ切って、煙と轟音を上げる工場地帯を進み、少しばかり森に入り込み、本の通りに歩を数えて進め、祈る気持ちで辿り着いたのは。

 柔らかい草に囲まれ、キラキラと陽光を反射させながらも光る、しかし底の見えない泉。


 此処は、お供えを捧げたら願いが叶うと言われている伝説の泉。恐らく。多分。間違いなく。

 体に似合わぬ大きさの荷物を両手にした煤色の髪の少女は、本当に疲れきって、切羽詰まっていた。


 8年前から今日まで、彼女は実に追い詰められていた。

 それこそ、必死に古文書を解読し、中身を紐解いて場所を特定し、鼻で笑い飛ばせるような与太話にすがりつかねばならない位に。



 話は8年前に遡る。

 当時8歳だったロジェルは、鍛冶屋であった店の軒先で玩具で遊んでいた。

 余り鉄の欠片で造られた、父親手製の大きな熊の人形である。

 工房の中では何時ものように父親が弟子を怒鳴り散らし、鉄を叩く音が鳴り響く。

 母親は家事に内職にお得意先への納品にと、父以上に忙しく、食事の時間以外はロジェルを構うことはない。


 ロジェルは、一人で遊ぶのが常だった。

 だが、特に寂しくはなかったのだ。この時は。

 時折、商品を引き取りに来た武器屋の親父さんがロジェルに飴をくれたりすることもあるし、近所の靴屋さんの息子のトビーが遊びに来ることもある。

 埃の立つ商店街に面した、四代前から続く一軒の鍛冶屋。

 代わり映えのしない、何時もと同じ風景だった。


 しかし、店の前に場違いな迄に派手な馬車が止まったその日。

 ロジェルの日常は劇的に様変わりすることになる。


 何でも、お偉い陸軍の騎士様が偶然父親の剣をお使いになり、近隣の村を苦しめていた大きな魔物を倒したというのだ。

 騎士様の技量が優れていたのだろうが、とても名誉な事である。

 しかも、それだけではなく。


「私を守ってくれたこの剣を宝物としたい」


 え、何故。

 斬れ味は鋭いが常人には扱いにくい大きさで、飾りとか神々しさは全く無い剣なのに、宝物?


 その御発言に、職人気質な父親と田舎者の母に幼いロジェルはポカンとする他無かった。


「そなたに一代限りの男爵位を与えよう。だが、精進を怠らぬよう」


 精進も何も、庶民に叙爵等意味が分からない。何をどうしろと。

 お偉いさんの気紛れ、訳分からない。未だに家族の中でそう語り合っている。その時貰った豪華な封筒は、未だに非常持ち出し袋の中でヨレヨレになりつつも眠っている。


 爵位持ちの鍛冶屋。領地無し、勿論俸給無し。

 そんなちぐはぐが、ロジェルの家となってしまった。


『初恋を~』と平行して書いてたんですが、此方が後になりましたね。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ