第5話 旅立ちの時
一体俺は何を忘れているんだ?
晩飯の食材は買ってあるし、アニメの予約も大丈夫……、
「あっ!」
そこで俺は大変なことに気づいた。
今俺は異世界(厳密には並行世界だが)にいるが、ラノベあるあるの死亡→異世界転生を経験したわけではない。
セーナとトイレで出会ってから、家に帰って、セーナがそこで使った転移魔法によって並行世界に来たのだ。
つまり、俺がこうして並行世界で色々やっている間も地球の時間はしっかりと経過している、ということである。
「ヤバイヤバイ、このままじゃ俺は行方不明ってことになっちまう」
「どうかしたの?」
「俺が並行世界にいるってことは、今地球に藍沢拓真はいないってことになる。このままじゃ地球のみんなが俺がいなくなったって大騒ぎしちまうんだよ」
「あー、そういうことね。それなら問題ないわよ」
「えっ……、そうなの?」
「例えば並行世界側の人が地球に転移したとき、転移した人は地球で好きに動ける。そして、並行世界側にはその人の体は残るのよ。」
簡単に言うと、魂は片方の世界に行っちまうけど、体は元の世界に残ったまま、ってことか。
「もう一つ付け加えておくと、元の世界に残った体は睡眠中と同じ状態になるの。要するに拓真は、朝昼は元の世界で生活して、夜は寝ながらユーローズで過ごせるってわけ」
「なんなんだその都合のいい話は」
とは言ったものの、正直この話はかなり有り難い。
これなら誰にも心配かけずに済む。
「拓真の不安も解決したところで、教会に戻ろ! おば様に魔物の報告して、その後諸々の説明を」
「了解」
◇
こうして教会に戻った俺たちは、セーナのおば様、オルガへの報告を済ませた後、ユーローズの現状を教えてもらった。
ユーローズに関する諸々の説明を聞き終えた俺は、改めて魔王を討伐することを決意し、ユーローズを旅することになった。
俺にはユーローズの基礎知識が抜けているが、セーナも旅に同行してくれることになった(というよりセーナは最初から勇者と一緒に行くつもりだったらしい)ので、知識面での心配は無くなった。
「それじゃあ拓真、これからよろしくね!」
「おう、よろしくな! 必ず魔王をぶっ潰して、二つの世界を守ってやる!」
「そうだ!拓真、私のステータスボード見せとくね」
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名前 セーナ
レベル 30
職業 賢者
所持スキル一覧 魔力量上昇、回復魔力上昇、転移魔法
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「うおっ! なんかスゲー」
レベルは俺の約4倍、スキルも持ってるし、これは頼りになりそうだ。
「セーナの職業、賢者になってるけど、賢者は何が得意なんだ?」
「えーっと、詳しい説明は省くけど、そもそも賢者は魔法使いの上級職なのよ。賢者じゃないと、転移魔法スキル使えないから、私は賢者になったってわけ。賢者の得意分野は回復魔法よ」
パーティーに回復魔法が使えるやつがいるのは有り難いな。
回復役無しで冒険はかなりツライ。
「それと、私の武器はこの杖。魔法を使うなら杖を持つのが普通なの」
「じゃあ俺が前衛だな」
「そういうことになるわね。よろしく拓真! じゃあ旅の準備をして出発しましょ! おば様、行ってくるわ」
「頑張っておいで、セーナ。勇者様をしっかりとサポートするんだよ」
「任せて!」
◇
「さて、行くか!」
「うん!」
いよいよ俺の……、いや、俺たちの冒険が始まる。
首を洗って待ってろよ、魔王! 俺が絶対お前をぶちのめしてやる!