第3話 平凡高校生、初めて魔物と戦う
「ここが……、並行世界……」
俺の目の前には、現代の日本とは全く違う雰囲気の村があった。
RPGの最初の村を思い浮かべたら出てきそうな感じの……。
「まずはこっち! 早く来て!」
「うわっ!? ちょっと何すんだよ!?」
「いいから早く!」
どうやら少女は、俺をどこかへ引っ張って行くつもりらしい。
全く、少しは感動の余韻に浸らせてくれても良いと思うのだが。
あれ? なんだこの違和感は。
「着いたわ、ここが目的地の教会よ! さ、まずは中で色々説明を……」
「セーナ! 無事だったのね!」
「おば様!」
「無事で本当によかったわ、セーナ。この世界の危機とはいえ、並行世界への転移なんて前代未聞だもの。無事で本当に……。セーナ、この子は?」
「おば様、彼が勇者よ。私、勇者様を連れて帰って来たわ!」
「そ、それは本当かい、セーナ! やったじゃないか! まさか本当に勇者様を連れて来てくれるとは! さっそくユートリア様に……」
「あのー、勝手にテンション上がってらっしゃるとこすんませーん。状況が全く理解出来ないのでご説明していただけると助かりまーす」
「あのねぇ、並行世界に転移した姪が無事に帰って来たら喜ぶのは当たり前でしょ? ほんと君は融通が利かないわね」
「はいはい、ごめんなさーい」
「絶対反省してないわね」
「セーナ、勇者様と仲が良いのは結構だけど、まずは色々説明した方がいいんじゃないかい?」
「……それもそうね。じゃあ早速話を始めるわよ」
やっとか。
おば様がしっかりした方で助かった……。
「話し始めようとしてるところ申し訳ないんだけど、セーナ、最初に勇者様の紹介をしてくれないかしら?」
なんと素晴らしい方なんだ、このおば様は。
そうだよ、初対面の人とはまず自己紹介からだよな!
……なんだ? また違和感が……。
「ごめんなさいおば様、すっかり忘れてたわ。おば様! こちらが勇者の……、あ、そういえば私、まだ君の名前聞いてない!!」
そうか、さっきまで感じてた違和感は、並行世界に転移するとかいうとてつもないことをした(させた)のに、お互いにまだ名前を知らなかったからだな。
人を並行世界に連れてくるときに名乗らないとは、こいつはやっぱりバカだな。
最初は自己紹介だろ、普通。
まぁ、ここにいるおば様のおかげで、こいつの名前がセーナであることはもう分かったけど。
「おっほん、じゃあまず私から! 私の名前はセーナ。この教会で修道女見習いをしてるわ。これからよろしくね、勇者様!」
「んじゃ次は俺の番だな。えーっと、俺の名前は藍沢拓真。どこにでもいる普通の高校生だ。お前みたいに何か仕事をしてるわけでもない。まだ全然詳しいことはわからないけどこちらこそよろし……」
ドガーン。
うん、明らかに鳴ったらダメな音聞こえた。
「お、おい! 今の音は一体……」
「まずいわよセーナ。何かが柵を壊そうとしている音が!」
「ここは私たちに任せて! おば様は村のみんなの安全確保を!」
おお、何かよく分からんがセーナが凄くカッコよく見える。やるときはやるやつなのかもな。
うん? ちょっと待てよ。
今こいつ、私たちに任せて、って言ったか?
「よし、行くわよ拓真!」
「やっぱり俺もか~~っ!!」
どうやらいきなり大変なことに巻き込まれてしまったようだ。
◇
何の説明も無しにセーナは走り始めてしまった。
とりあえずセーナについて行きつつ、俺は質問を投げかけた。
「おい、セーナ! 少しでいいから説明してくれ! 一体何がどうなってんだ!?」
「たぶん、村を囲ってる柵を魔物が壊したのよ! このままじゃ村に魔物が入ってきちゃうわ!」
「状況は理解したけど俺は何すりゃいいんだよ! もし魔物と戦うとか言われても俺何も出来ねーぞ!」
「この役立たず! と言いたいところだけど、何も説明してないから無理もないわね。仕方ないわ、これ使って!」
そう言われてセーナから受け取ったのは剣だった。
「石の剣よ! 武器のランクとしては最低クラスだけど我慢して!」
「別に貰いもんの武器にあれこれいちゃもんはつけねーけどよ、最低クラスの剣で戦えんのか?」
「安心して! この村の周辺に湧く魔物は弱いやつばかりだから、その剣で十分戦えるわ!」
確かに武器のランク自体は低いかもしれないが、剣が欠けているとかいうこともないし、セーナの言う通り戦うには十分だろう。
それに、石の剣は最低クラスの武器らしいが、俺も並行世界で戦うのは初めて……、というか練習すらしてないので、変に強い武器を使うより良いかもしれない。
「役に立てるかは知らねーが、やってみるだけやってみるわ」
「その意気よ! ということで前衛よろしく!」
「おう、任せ……、ちょっと待て、今、前衛って言ったか?」
「言った! あ、魔物が見えたわ! 拓真頼んだわよ!」
「えーい、こうなりゃヤケクソだ!」
俺はそう言うと剣を構えた。
こうなりゃヤケクソだ、と言いはしたが、当然俺は死ぬつもりはない。ゲームで培った知識を今こそ生かす時だ。
もし死んだらこのバカを一生恨む。
魔物は地球でいう猪みたいな感じだ。これだと突進攻撃には気をつけた方が良さそうだな。
と、言ったそばから魔物が突進して来た。
俺は魔物の突進を避けるや否や、魔物の首筋目掛けて剣を振り下ろした。
「ギイィィィ!!」
魔物はそう叫び、そのまま絶命した。
あれ、思ってたより呆気ないぞ?
「あなた……、一体何者? 怖いんだけど……」
あれー、何故かセーナに恐れられてるー?