第0話 並行世界に来た平凡高校生
皆さんは人から勇者と呼ばれたことはあるだろうか。俺? 俺は……。
「あ、勇者様だ!」
「本当だ、みんな勇者様がいるぞ!」
俺の場合はこのような感じである。
この世界に来て1か月、そろそろこの勇者様扱いにも慣れてきた。
いや、違和感があることに変わりはないのだが……。
「たーくまー、速く速く〜」
と、そのような事を考えていた俺は、少女の呼び掛けに反応して、考えるという行為を一時放棄した。
「おう、今行くよー」
返事をしながら、たーくまーこと私、藍沢拓真は駆け足の少女を追いかける。
並行世界ユーローズ。
俺がこのユーローズなる並行世界に来てから、先程も言った通り一か月が経った。
始めは色々戸惑った俺だったが、持ち前の天才的な頭脳で……。
「拓真?何ボーッとしてるの?」
訂正しよう。
持ち前の平均よりやや上の頭脳と、俺の隣を歩くこの少女、セーナのおかげで俺はこの世界に慣れてきた。
「ボーッとしてたんじゃねーよ。ただ俺がこの世界に来てからもう1か月も経ったのかと思ってよ」
本心を包み隠さず話した俺の返事を聞いたセーナは、それはボーッとしてるうちに入るよ、とぶつぶつ文句を言いつつも。。
「そうか、もうそんなに経つんだね」
と返事を返してくれた。
ところで、先程包み隠さず話したと言ったがあれは嘘だ。正確には俺がこの世界に来てから一か月ではなく、俺がこの世界の存在を知ってから一か月、である。