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温厚執事と冷血公爵 ~101本目のすずらんを君に~  作者:ねぎ
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第一話 序

作者五作目の連載です。

よろしくお願いします。

 ぶどうの苗木(なえぎ)隊列(たいれつ)を組むように枝をからめあい、初夏の日差(ひざ)しを受けて深緑の葉を()(しげ)らせるころ。


 ぶどう畑の管理責任者、カスティヨン公爵家の広間では、公爵さまとわたしの専属執事が静かににらみあっていた。


 公爵さまは身寄りのないわたしを引き取ってくださった後見人。執事のベルトランはわたしが六歳のころから仕えている使用人。


 毎朝おかしな行動で公爵さまの神経を(さか)()でするのはベルトランだった。


 公爵さまが解雇を命じれば半刻もしない間に解決するけれど、それをわたしが望むはずもなく。


 対立なんてしてほしくなかった。でも何回怒っても、何回心配しても、ベルトランは全然聞いてくれなかった。


 今日でちょうど九十八日目、ベルトランは真意の読めないセピアの瞳で真っすぐに公爵さまを見つめて、無言でなにかを伝えようとしていた。



 *******



 公爵さまは朝食の席へつく前に必ずわたしの(ひたい)、耳、頬にキスをされる。


 今朝も二三度わたしの頭をなでてから前髪を軽くはらわれた。


 (ひたい)。右耳。右の頬。左耳。左の……。


 公爵さまの動きが止まる。長い指がわたしの左耳の下をゆっくりとなぞる。公爵さまはわたしを引き寄せて広間の扉の前でひかえていた執事に視線を送った。


「ベルトラン」

「はい」

「花がある」


 公爵さまはわたしの銀髪から桃と赤の花を手にとってみせる。お庭に咲いているガーベラの花。


 私室から出てきたわたしを出迎えた直後、ベルトランは左耳の耳飾りが少し傾いていると直してくれた。たぶんあのときに……。


「お嬢さまがお好きな花です」


「それは私も承知している。花言葉に問題がある」


「『希望』『()らがず前へ』『感謝』だったかと記憶していますが、何か落ち度がございますか?」


「それは桃のガーベラの言葉。赤のガーベラは『愛情』だ」


「申し訳ございません。存じ上げませんでした」


 胡桃(くるみ)色の柔らかそうなくせ毛に澄んだセピアの瞳をした執事は深々と頭をさげる。


 でも知らなかったわけがない。カスティヨン邸へ来る前、わたしに王国(クレーシュ)の花言葉を教えてくれたのはベルトランだったから。


 くりかえされる恒例行事。ベルトランは言い訳を用意しながら、何かしらわたしの髪や服に花をさしてきた。一言命令すればいいだけ。近づかせないようにすればいいだけ。


 でも身分を盾に使えば最後、ベルトランが永遠にはなれていってしまいそうで。わたしはいつも強く拒絶できなかった。


 公爵さまに片腕できつく抱きよせられる。公爵さまは上からわたしをのぞきこんで白銀の眉をほんの少しつりあげた。


「シルフェリア。専属を解任して第一使用人に戻らせなくていいか」

「給仕、通訳、護衛(ごえい)を勤められるのは彼しかいません……」


 ベルトランはつい半年前に専属執事(けん)護衛(ごえい)に昇格したばかり。


「能力には何の不満もない。しかしシルフェリアをいたずらに混乱させるなら話は別だ」


「特別な意図はなく、ただ私が好きだから選んでいるだけです」


「何も考えていないなら、毎朝毎朝遠回しに主張してこないだろう」


「でも……」


 自分でいいかけた言葉に落ちこみそうになる。ベルトランは意味深な行動をとるのに、わたしには何の態度の変化もみせない。


 むしろ専属になる前より距離を置くようになった。


 仕事の一環で親しみやすくふるまっているだけ。わたしに特別な想いなんて持っていない。


「――私は後見人としてあなたに良縁をもとめる責務がある」


 公爵さまはわたしの銀髪をすきながらなだめるようにおっしゃった。初社交界(デビュタント)から半年。婚約を申し出てくださる方は何人かいらっしゃったけれど、公爵さまは全て断っておられた。


「リオネルさま。わたしよりご自身の婚約を優先されてください。夜会でよく公国(チェロ)のローズマリーさまと談笑(だんしょう)していらっしゃるのを見かけます。花言葉に関して話が合うと喜んでおられましたわ」


「姫君のあれはただの世間話だ。シルフェリアより先に伴侶(はんりょ)をむかえるなど考える気にもなれない。第一あなたが気をつかう」


 この話をしている間も、わたしはずっと片腕で抱きしめられたまま。ベルトランは胡桃(くるみ)色の睫毛(まつげ)を伏せて指示を待っている。


 やきもちすら()いてくれない。


「シルフェリア」


 公爵さまがガーベラの花がささっていたあたりをもう一度指でなぞった。


 ベルトランには聞こえないようある言葉を(ささや)いてこられる。


 急に火照(ほて)りがおさまらなくなった顔を見て、やっと笑いかけてくださった。


「朝食にする。ベルトランは給仕にまわるように」


 公爵さまは自席に戻っていかれた。ベルトランが音もなく近よってきて椅子をひき、淡々と銀の茶器で紅茶を入れる。


 子どものころからミルクとカラメルを入れて飲むのが大好きだった南国の紅茶。


 ……ベルトランがわたしのためだけに入れてくれた紅茶。


 本心を知りたくて長身の影を見上げるのに、ベルトランは決して目を合わせてくれなかった。



明日は二話投稿します。

「第二話 シルフェリア①」「第三話 シルフェリア②」です。


明後日以降は一話投稿です。



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