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8 マリーセンカの町

「着いたね、ここが私が自警団として働いている町、マリーセンカだ。」


 やっと着いたのか…俺はどれだけ違う方角を歩いていたんだか…

 マリーセンカは都と呼ぶには小さく、村と呼ぶには大きい、言ってしまえば普通の町だ。

 普通の町だが必要な品物はこの町で事足りるし治安も大して悪くないから俺にとっては最高の町かもしれない。

 普段は昼間しか町へは来たことが無かったから夜の街は俺にとって新鮮だ。

 だけど町は何故かだいぶ明るかった。


「予想以上に町が明るいな、でもそれ以上に人が多いからさっさと人目に付かないところに行ってイブの服装を整えないと自警団の世話になっちまうぞ。」


 この町の治安が悪くないのは自警団がしっかり整っているからというのもあるかもしれない、町の門には必ず1人は警備しているし昼間町の中を歩くと視界の中に3人自警団が入ることもあるくらいなのだから。

 だからこんな破廉恥な姿で街中を歩いていたらすぐに見つかってしまうかもしれない。


「それもそうだね、皆はこの様子だとお金を何も持っていなさそうだしある程度の距離ならイブの雷の魔力を感じ取ることが出来るから私が買ってくるよ。」


 ヴィクトリアが率先して買い出しを引き受けてくれた。

 確かに俺たちは無一文のまま森へ入っていったしイブは見ての通りだし頼るとしたらヴィクトリアしかいないだろう。

 雷の魔力とか言っていたな、魔力というのはその属性によって様々な色や形をしているのかもしれない。俺たちの魔力は一体どんな色や形をしているんだろうな。


「ぼ、僕も行く!町っていうの初めて来たし色々見てみたいんだ。」


 そうか、ルカは町に来るのも初めてだったな。それにこんなに人がいるところも初めて見ただろうしだいぶ興奮しているようだ。


「あぁいいともさ!一緒にイブの服とか町の様子を隅々まで見てみようね!」


 ヴィクトリアも興奮しているようだ。


「じゃあ俺たちは人気がなさそうなところに行ってるよ、ついでに泊まれそうなところも探してきてくれないか?」


 ヴィクトリアとルカはオッケーオッケーと手を挙げながら人ごみの中に消えていった。

 さて、俺たちは人気のないところを探さなくてはいけないが如何せん人が多すぎる。

 人が多いから故に足元が見えづらくなってイブの露出しているところが分かりづらくなっているとはいえ誰かにバレるのも時間の問題だ。


「見てくださいあそこ、露店…でしょうか?今日は何かお祭りをやっているのかもしれないですね。」


 イブが指した方を見ると確かに露店らしき建物が並び建っていた。

 露店ではパイの上にフルーツが載せてあるものや(アップルパイか?)豚を丸ごと焼いて切り崩しているお店もあった。


「言われてみればミルクを売っている時にお祭りがーって言っていた気がするな、おっあの町の広場とか人が踊っているぞ。」


 通り過ぎた人に話を聞いてみるとどうやら今日と明日は収穫祭らしい。野菜を収穫できた無事を祝って露店を出店したり踊りを踊るみたいだ。

 だいぶ大きな祭りだそうで隣町や遠出からくる人もいるそうだ、どおりで昼よりも人が多いわけだ、この町の人口の2倍くらいいるんじゃないだろうか。

 周りを見ると少し町の大通りを外したところに階段があった。


「ここの階段、明かりのおかげで影になっているし上は木材置き場なようだからここで身を隠すとしよう。」


 とにかく座れる場所が欲しかったから階段の最上段辺りに決めた。下段は少し見られるかもしれないという不安があるし木材置き場は湿っていて裸足のイブには居心地が悪いだろう。


「確かにここなら人目を気にしなくて良さそうですね、街中は他の人たちに足を踏まれそうで内心焦りましたがこれでやっと一息付けます…。」


 イブの足を見ると森の中を歩いていたせいで土で汚れていたことは勿論、所々擦り傷があったり皮がむけていたりした。

 あんなに歩いていたんだ、こんなになるのも当然だろう。それなのにイブは辛そうな顔は一切せずに着いて来てくれた。なんで俺は気づかなかったんだろう、ルカのことしか見ていなかった。靴もあげればよかった。今更後悔と罪悪感が波のように押し寄せてくる。


「イブ、俺は…!」


「あっ見てくださいマテウス、お面屋がありますよ!あれはピエロのお面ですかね、ひょっとこのお面に…あの獣みたいなお面はなんですか?」


 話を遮られてしまった。階段の上段ともなると結構大通りの露店が見える、イブが言っているお面屋はあの少し奥にある露店だろうか?

 道化師のお面にひょっとこ、その隣は…


「あぁあれはフォルタのお面だな。」


「フォルタ…とは何ですか?」


 言おうか言わぬか少し戸惑ったがさっきの件の罪悪感もあり言うことにした。


「見た目は完全にオオカミ…と言っても分からないか、頭は一つしかないがさっきのケルベロスみたいな見た目で基本二足歩行をし、しっかりと文明を築いてきた亜人族らしいよ。」


 イブはすごい興味津々で話を聞いている。

 正直フォルタの事について喋るのは今でも少し躊躇している。

 今後俺たちはどうするんだろうか、イブが元の世界に戻るまで一緒にいるのか?それともこの町で魔獣がいなくなるまで移住するのか?あまりルカを人目に曝したくない、だけど町での生活は居場所と金の確保が難しい、だったらイブと一緒に色んなところを歩き回ったほうが安全だ。

 いずれイブにもルカのことを話さなければいけなくなるかもしれないがイブならきっと…


「なぁイブ、少し…お願いを聞いてくれないか?」


 イブは「何でしょう?」というような顔でこちらに顔を傾けている。

 怖い。話すと決意してもやっぱり怖い。俺たちの話をするのが。

 拒絶されたらどうしよう、裏切られたらどうしよう、売られたら…


「マテウス」




「今日はありがとうございました、見ず知らずの私を助けていただいて。異世界転移されて初めてあった人が貴方達でよかったです。昼頃にも言ったと思いますがこの御恩は決して忘れません、何か礼が出来ることならば何でも言って下さい。お役にたてるか分かりませんが貴方がしてくれたように私も貴方達に全力を尽くします。なのでそんな怯えた顔をしないでください…」


 今日初めて会ったばかりの人にこんなお願いをするもんじゃないと思っていたけど、イブなら大丈夫だ。半日だけでわかる、心の奥底からあふれでてくる優しさが。なんでも受け止めてくれる、そんな気がする。気がしてしまう。


「イブ、君はいつも俺の話途中に割り込んでくるな!ははっ!…でもありがとう。楽になった気がするよ。……こんなお願いを聞いてくれるかわからないけど、君が元の世界に戻るまでの間、ルカを見守って欲しいんだ。」


 イブは優しい顔の表情を変えず小さく頷いた。


「ルカは特別な子で、そして大事な、大切な俺の弟だ。俺が不甲斐ないばかりにルカには人とあまり接してやれなかったし世間にも疎いだろう、その手助けをしてやってほしいんだ。」


「えぇ、分かりました。このイブ・マルコ・ハンドレット、今貴方に誓います。ルカをあなたと守り、手助けをすると!」




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