20 vs無属性の魔法使い 決着
水中で呼吸が出来ず、声を出すことが出来ないため魔法を使うこともできない。
槍杖ロンゴミニアドを使い召喚した闇の権化もアドルフの極大魔法、"七つの相反する咆哮"によって倒れてしまった。
私も何か出来ればいいのだけれど如何せん常に槍杖から魔力を吸い取られ且アリスとの戦いにて体力も消耗してしまって立つこともままならない。
どうするのですか!?マテウス・・・。
アドルフは闇の権化が動かなくなったことを確認するとようやく自分の傷を魔法で止めた。
「どうだマテウス・・・いい加減諦めたらどうかなぁ・・・。
もうこうなっては打つ手もないはずだ、せめて話くらいは聞かないかなぁ?」
マテウスはもう5分以上水の中にいるが、それほど苦しんでいる様子はない。
だがマテウスが移動するとすぐマテウスを中心にするべく水の塊も動く。
水と言えど魔力から作られた水だから杖槍が吸い取ることが出来る、だがアドルフの周りに周遊している水色の球体が常に水を出し続けているからいたちごっこでしかない。
マテウスは闇の権化が倒れるのを見た後、槍杖を持っていないほうの手に力を込めた。
すると、手が段々と色が赤くなっていき、手の周りの水がボコボコと気泡が出始めた。
原理は分からないが、手から物凄い高温を放っているのだろう。
アドルフはそれを見て追撃を始める。
「この量の水を全部蒸発させるには相当な時間か温度が必要だ、いくら君が丈夫だろうと流石にタダでは済まされないよ。」
そう言いながらも黄色の球体と緑色の球体がマテウスの目の前に寄り、そこから雷と岩の礫がマテウスを襲った。
延々と流れる電気と岩の礫、恐らくこの極大魔法、"七つの相反する咆哮"は一度出してしまえばアドルフの魔力とは別のどこからかからずっと魔力を供給しているんだろう。
マテウスはダメージを受けながらも手の温度を高めている。
さっきまでそれほど揺らいでいなかった水の塊は全体が大きく揺らぎ、軽く蒸気が出始めている、だけど水温が上がるにつれマテウスもきっとダメージを受けるだろう、この方法は諸刃の剣なんだ。
アドルフはこのままではまずいのかと思ったのか、黒い球体と白い球体を呼び寄せそれらもマテウスの前に移動させた。
「光属性は回復魔法が使えるというのだが、この回復は何かを促進させるという効果でその何かは選択出来るんだよねぇ、基本は人間に元々備わっている自然治癒力だったり薬の効果を促進させるんだけど、まぁここまで言えば僕が何を促進させるかは、分かるよねぇ?」
黒い球体、さっき闇の権化を倒した球だ、他の属性とは一線を置くあの残忍な攻撃方法は間違いなく無属性の魔法。
本来補助特化の属性だが、補助魔法の状態付与魔法を鍛えればあの巨体を数秒で倒してしまうほどの威力になる。
そして今アドルフが説明した光属性の特性の回復魔法、この二つが同時に来るということは・・・!
黒い球体の一部が円錐状になってマテウスの体に刺してきた。
マテウスは動きづらい水中の中、なんとかその黒い球体の棘を回避していたが、白い球がまた強い光を放って目くらましをしてきた。
そしてその目くらましによって隙が生まれたマテウスに黒い球体の棘に刺さってしまう。
黒い球体からドクドクと何か液体が流れながら、白い球体が暖かい光を放つ。
今となってはその暖かい光が違う何かを連想するような色に思えてきてしまうな・・・。
例によってマテウスは毒耐性もだいぶあるようだが、鍛え上げられた無属性の魔法と素早さに特化した光属性の魔法によってマテウスの体は少しずつ変色してきている。
そして物理的な攻撃には麻酔でも効いているかのように痛覚が鈍かったけど。毒による内部からの痛みは特に強い訳では無さそうで人並みに痛がっていることが目で見て分かる。
だがマテウスの目は決してさっきと変わることはなかった。
完全に相手を殺すという意志が伝わってくる、憎悪と恨みで出来上がった目をしていた。
アドルフは水、雷、地、光、そして無属性の魔法を同時に放ちながら何かを熱弁している、きっと今でもなおマテウスを説得しようとしているのだろう。
もうどう足掻いても降伏という文字が出てこなさそうなマテウスに。
もうマテウスの体は疾うに動かなくなってもおかしくはない、熱による変色なのか毒による変色なのか分からないほどに赤く、いや所々緑を交えたオレンジ色になっている。
しかしここまで耐えたおかげで、水はもう最初に見た時とは打って変わって水全体が沸騰している。
もう気泡と蒸気でマテウスの姿が確認できなくなってしまった。
流石のアドルフも少し焦っているように見える。
残りの球体、赤と青の内の青の球体をマテウスに寄せ、風魔法らしき魔法を放った。
風魔法は魔法自体が目に見えないため、どのような攻撃か分からないが、目に見えない魔法は全て風魔法と言えるので、あの青い球体は風属性の球体なのだろう。
「マテウス!弟を守りたいのだろう、ならば話を聞くべきだ!世界の脅威から弟を守れる方法を!」
青い球体が放っているのは水の動きからして恐らく刃のような風で相手を切りつける風属性の魔法、"鎌鼬"だろう。
よくそんな魔法を放ちながらその言葉を吐けたものだ。
その言葉を聞いたからなのか急に蒸気の量が増え、そして
熱気と共に大量の蒸気が四方八方に爆散した。
「・・・・・・・・・あぁ・・・確かにお前の言う通りだ・・・ありとあらゆる事象からルカを守ってやりたい。」
水蒸気の中からマテウスの声が聞こえる、少し見えるシルエットから片膝立ちをしているように見える。
どうやら無事・・・ではないだろうが上手く切り抜けたみたいだ。
「おぉ、そうだろう!ならば私の話を聞くべきだねぇ、そして私の・・・」
アドルフが言い終える前にマテウスが話を遮る。
「だからこそ、だからこそだ。まずはお前を殺して、今を、そして未来からも、ルカを俺が守ってやるんだ。」
マテウスの目、さっき見た時と比べて目の曇りが晴れているような気がする。
何か、悩んでいたことが解決したような感じに・・・。
いつもはすぐに傷は癒えていたのに今のマテウスは何故か傷が全然癒えていない、アドルフの毒の影響なのだろうか?
熱を帯びていた手はもう使い物にならないくらいに黒く、まるで煤のようになっており、他の部位も見るに堪えないほどに所々爛れていたりしている。
「マテウス!大丈夫なのですか!?」
マテウスは私の問いかけに対し、私の方を向いて答える。
「あぁ、大丈夫だよ。」
大丈夫なわけがない、外傷はもちろんの事だが、顔は向いていても決して目を私と合わせようとしない。
その目は、今ではなく過去を見ているような・・・。
何か嫌な予感がする。
「この槍杖、ロンゴミニアドっていったっけ?さっき初めて手にしたんだが、その時は貯蔵魔力量、実は空っぽだったんだよ、理由は知らないけどな。」
急に何かを語り始めた。こういう時にそんな発言をするのは何かヤバいことをしでかす前兆だと聞いたことがあります!
「でもお前が色々撃ってくれたり水の中に閉じ込めてくれたりしたおかげでだいぶ魔力が貯まったんだ。」
まさか、槍杖を最初に手にした時動かなかったのは魔力がなかったため攻撃に移ることが出来なかった、だからワザと魔法を撃たせて魔力を貯めるための陽動だったのですか!?
水の中に暫くいたのも魔力を吸うための時間を作ったのかもしれない。
その話を聞いてもアドルフは特に表情一つ変えることはなかった。
「この貯まった魔力が欲しかったんだ、これと俺の一部で、勝利と『交換』が出来る。」
私には何を言っているのか一言も分からないが、この言葉にアドルフが反応した。
「なるほどそうか!君のマナは"等価交換"か!」
「ご名答、じゃあ死ね!魔力とマナの融合奥義、『非合理な冒涜』!!」
マテウスが槍杖を両手で前方に掲げると槍杖の矛先とマテウスの胸の辺りから光の球が飛び出し、そしてその二つの球が融合した。
するとその融合した光の球の中から歯車同士が回っているような音が聞こえ始め、部屋中に重低音が段々と響き渡り始める。
アドルフは恐れ戦いているどころか、マテウスのマナの能力の解明と今目の前に起きていることに目を輝かせている。
「対象は自身の所有物か?その所有物と他の物体を等価交換する能力か!いやマテウスのこれまでの身体能力から察するに物体だけではなく自身のステータスの向上までも交換できるのかもしれないねぇ、素晴らしい、素晴らしいぞ!!!」
・・・そういえばアドルフは研究者だったな、その血が騒ぐというやつなのかもしれない。
歯車の回る音が大きくなるにつれ、光の球が大きくなり、そして非合理な冒涜が少しずつ姿を現してきた。
その姿は私の語彙力では言葉で形容しきれない。
ただ言えることがあるとすれば、その姿は部屋の天井までに届くほどに高く、生き物というよりカラクリのような見た目をしているということだ。
そして、その大型のカラクリは右手を前に差し出すと、その周りからそのカラクリと同じ材質であろう破片がどこからか集まりだし、巨大な剣を生成しだした。
アドルフは今まで見せていなかった表情をこれでもかと作り上げながらも、マテウスへの攻撃で散り散りになっていた七つの球たちを一か所に集め、詠唱を始めた。
「"七つの相反する咆哮"よ、今ここに相対し、輪舞せよ。"唯一無二の光芒"」
七つの球は一斉にそれぞれに対応した属性の魔法を放ち、その魔法が一つの光線となりマテウスを襲った。
まさか、魔法を使って魔法を撃つなんて・・・人が出来る領域を超えている・・・!
魔力の量からして一つの球がその属性の上級魔法並みの威力を放っている、つまり単純に計算して今までアドルフが撃ってきていた魔法の7倍以上の威力があるということだ。
普通に考えてこの魔法を人一人に対して撃つのはオーバーパワーすぎる、軍集団に対して撃っていても、おつりが返ってくるくらいだろう。
だがそんな心配は鼓動が片手で数えられる位の時間で無に帰した。
「薙ぎ払え。」
その一言で5メートルくらい上のマテウスの前方の物が全て無くなった。
何の比喩でもない、すべての物が消えたのだ。
何かが当たって粉砕したとかいうわけでもなく、塵一つ残さず、剣の一振り以外物音一つたてずに。
空は雲一つなく、清々しい風と日光がさっきまで暗かった部屋に広がった。
アドルフが撃った"唯一無二の光芒"は今の薙ぎ払いで七つの球諸共消え去っていた。
直接当たったわけではないが、剣を振った衝撃で魔力が異常な反応をし、空に散り散りになって消えていったのを見た、恐らく他の消えていった物体も似たような感じで消えていったのかもしれない。
ここにいるほぼ全員が今の凄惨に呆気を取られていたが、アドルフだけは違った。
今まで見たことのない事態に興奮をしているのだ。
死を目の前でちらつかせられてもまるで何も問題ないかのように。
「素晴らしい、素晴らしすぎる!もうその言葉しか見い出せない程に!素晴らしい!
もう私に勝ち目はないねぇ、だけどこんな素晴らしい物を見せてもらっただけで今まで生きてきた価値があったという訳だよ!
槍杖ロンゴミニアドについてや今の非合理な冒涜についても研究してみたかったけど、仕方ないねぇ、もう一人の私に任せよう。」
とても清々しい顔で死を悟っていることを言っている、確かにこんなものを見せられたら誰だって勝てる気はしなくなるだろう。
今の言葉に後ろにいたシモンが反応する。
「アドルフ様!何諦めてるんですか!今すぐ逃げるべきです、私が囮になるので逃げて、体勢を立て直し、また挑めばいいんです!」
あまり表情を顔に出さない人だと思っていたが、アドルフに関することは結構情熱的になる人のようだ、どこにそんな魅力があるのかは私には分からないが・・・。
シモンはそのままマテウスに向かって走り出す、いくら圧倒的な力があったとしても今のマテウスには到底かなわないだろう。
「シモン、やめなさい。既にもう何度か試しているんだけどねぇ、魔方陣を張ることすら出来なくなっているんだ。もう勝てないよ。」
「そんな・・・。」
怒りなのか足掻きなのか分からないその激情は、段々と絶望へと変えていく。
もう勝敗は決まった、出来れば不殺にしたいが、もうここまできたら私は止めることが出来ない。
「本来ならば遺言程度聞いてやるところなんだろうが、お前らみたいな下衆の遺言なんざ聞く気にならねぇな、『非合理な冒涜』、目前の奴らを薙ぎは・・・。」
「ちょっとまったあああああああああ!!!!!!!」
マテウスが非合理な冒涜に指示を送りきる寸前にマテウスの後ろから突然励声が飛んできた。
おかしい、マテウスの後ろにはルカと無残にも切り刻まれたロイしかいないはず。
一体誰の声だ・・・?
私もマテウスも後ろの方を振り向いた。
マテウスが作り出した木の壁には、幾つもの剣と上半身だけになったロイが刺さっている。
いや、このロイ、まだ生きている!?
上半身になった今でも息をし、こちらにガンを飛ばしている。
「この子に何もされたくなければ武器を置いてその場から一歩も動くな!!!」
上半身になっただけのロイがマテウスに向かって声を張り上げている。
この子・・・?まさか!?
私はルカの方を見る、そこには心臓が止まるような光景が繰り広げられていた。
「に、兄さん・・・。」
ロイの下半身がルカを雁字搦めにしていたのだ。
ロイに関しては死んだと思い全く気にしていなかった、まさかマテウスとアドルフが争っているときに裏で動いていたとは・・・。
だからアドルフ達はロイが切り刻まれていても特に憤慨したりしなかったのか!
「言っておくが、俺は絶対に死なないからな!!変なことしてきてもこの子は絶対に離さないしその時点でこの子に危害を加えることが確定するからな!!」
マテウスはルカの方を見てじっと止まっている、 表情が明らかに焦っている。
アドルフは状況が変わったことを察し、ロイのマナについて喋り始めた。
「ロイのマナは『不老不死』なんだよねぇ、細切れにされても、消滅させられても、死なずに今の身体に元通りになるんだ。
不老不死という名前だけど正確にはマナが発現した時の状態を維持し続けるという能力でね、身体の動きを魔法とかで完全に止めても本人の意思でいつでも魔法を解除することが出来るのさ、だからまあ、簡単に言うと『無敵』って訳だね。」
マナの能力は多種多様にあると聞きましたが、反則的な能力ばかりじゃないか・・・!
まさかアドルフはこうなることまで予測した上で戦闘をしていたのか?
今までの行動からマテウスはルカのことになると行動が短絡的になることがある、正常な判断が出来ないんだ。
どうかルカに被害を及ぶような危険性がある行動だけはしないようにお願いします・・・!!
だがこの状況、どう突破するべきなんだ?
たとえ私が魔法を使える状況であったとしてもルカに纏わりついているロイの下半身だけを狙うほどの精度を私は持ち合わせていない。
マテウスが何か行動しようものならルカにすぐ被害が及ぶ・・・考えろ、もっと考えろ私!
戦闘力自体はマテウスが圧倒的に勝っているんだ、何かこの状況を突破できる方法がきっとあるはず・・・!
───────ドサッ──
音のした方を見ると、マテウスの両膝が床についており、目がまるで産まれ立てのモンスターのようにブルブルと震えていた。
「俺の・・・負けだ・・・。」
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